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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第五四話 噂のダンジョン

 すっかり日も落ちて、夜空には星の瞬きが散りばめられている。

 反省会を終えた私達はいつものように公衆浴場で汗と疲れを落とし、緩やかな夜風に頬をくすぐられながら宿へと戻った。

 今日はお疲れ様会ということで、晩御飯は外食にしようということになり、身支度を整えると再び宿を出る。

 まぁ外食とは言っても、高級レストランに足を運ぶ、なんてことはなく。

 普段食事を摂るようなお店より、少しグレードが上の食堂を利用しようと言うだけのことなのだが。

 だから冒険者装備というほどの武装はしないまでも、各々最低限の護身用装備は身に着けている。

 食事に向かうのに、装備だなんて物々しい格好はどうなのか、と思わないでもないが、この世界は無闇に丸腰を晒すことこそ危険な場合があるのだ。特に絡まれやすい私達なんかは。


 なので、私なんてほぼ普段の冒険者装備だ。スロットにはいつでも完全武装に切り替えられる用意もある。

 これで、不意のトラブルも大抵対処できるだろう。

 日本ですら、夜道を出歩くのは危ないとされていたほどだ。こんな世界じゃ、いつ何が起こるとも知れないからね。当然の備えである。


「お、このお店かな?」

「そう。ちょっとお高いお店」

「数日ぶりのちゃんとした料理、楽しみですね!」


 言われてみると、なんだかんだで街に戻ってから食事を摂っていなかった。

 私は別にグルメというわけでもなければ、食に対して強い執着があるわけでもない。元日本人らしくそれなりに舌が肥えてはいるけれど、どうしても美味しいものがないと耐えられん! ってこともないわけで。

 なので、数日間の保存食生活を脱したことに喜びはあるけれど、かと言って街に戻ったらすぐ美味しいものを食べなくちゃ! なんて考えにはならなかった。

 というか、死んだ経験と食材ってものに些かのシンパシーを感じてからは、美味しいって感覚に少し複雑な気持ちを抱くようにさえなっているくらいだしね。

 とは言え、マズいものを好むってことでもない。私としては、ちゃんと栄養のあるものが頂けるのならそれに越したことはない。


 お店に入ると、談笑する人の声や、食器の音などが入り乱れての喧騒が耳に届き、次いで店内の様子が目に入った。

 普段利用するような大衆食堂然としたものよりは幾分広く、雰囲気も異なっている。

 強いて言うなら、ファミレスがイメージに近いだろうか。テーブルはそれぞれ仕切りがなされており、周囲に気兼ねせず身内で歓談できるみたいだ。

 魔道具の灯りは店内を明明と照らしており、店の雰囲気が明るいのは存外、こういった視覚的明るさにも起因しているのかも知れないな。

 なんて適当なことを考えていると、すぐに店員さんが空いた席へ案内してくれ、私達は四人がけのテーブル席へ腰を下ろした。


 早速備え付けのメニューを確認してみると、確かにちょっぴりお高い。が、別に眉をしかめるほどでもなく。

 私達は各々、気になる品を注文し、益体もないことを語らって皿が運ばれてくるのを待った。

 しばらくしてテーブルに並べられた料理は、確かに何れもが値段に見合う味だった。店内の賑わい様にも納得である。

 なんて、各々が料理に舌鼓をうっていると、不意に近くの席から話し声が漏れ聞こえてきた。

 普通なら気にも留めないのだけれど、どうにもそれが聞き流せない内容だったため、つい耳に入ってしまう。


「知り合いの冒険者に聞いた話なのですがね。最近見つかったばかりのあのダンジョンには、どうやら恐ろしいモンスターが出るそうですよ」

「ほう、ということは良質の魔石が見込めそうですな。して、具体的には何が出るのですかな?」

「ええ。なんでも、鬼が出るとか」


 一様に、私達は固まった。

 鬼。それは、私達が今最も無視できないモンスターだ。

 ココロちゃんのジョブと同じ名を持つモンスター。この前資料室で調べた結果、鬼がフィールドにポップする地域というのは随分遠方だったはず。

 鏡のダンジョンに挑んでどうにもならないようであれば、ゆくゆくは目指すことになったであろう遥か東の地だ。鬼と言えば和。和といえば東というのは、多くのゲームでそうだったように、この世界においても通じる常識なようで。

 しかしその鬼と、思いがけない形で出会うことができそうである。


「鬼ですか。それは……強敵ですな。下級のものでもCランク冒険者相当の実力を有すると聞きますが、ダンジョンにはどの程度の鬼がポップするので?」

「それが、ダンジョンは発見されて日も浅いようでして。未だ深部まで探索は為されていないようです。中級までは確認されたようですが、それ以上が存在しているかは未知数のようですな」

「しかし中級でも質の良い魔石が期待できましょう。ドロップ品も高値で取引されますからな。成果が上がるのが楽しみですな」


 先程から、近くの席で話している彼らは恐らく、商人かなにかなのだろう。

 冒険者の苦労も知らずにいい気なものだ。とは思うが、そこはそれ。私達が日々身の危険と隣り合わせで戦っているように、商人は商人でお金や商品を賭けて色んなものと戦っている。要は違う戦場で生きているのだ。比べてどうなるものでもない。

 そんなことより、下級鬼でもCランク冒険者相当の力を持つとは。噂話なので鵜呑みには出来ないが、それが本当なら私が立ち入れるかどうかは怪しいところだ。

 でも、進入禁止ではなく、進入非推奨程度の制限ならば、思い切って入ってみるべきだと思う。

 冒険者としての経験や知識を磨くため、オルカとココロちゃんに鍛えてもらうと先ほど決めたばかりなのに、これでは初っ端から少々荒っぽい授業になりそうだが。


「オルカ、ココロちゃん」

「ミコトの言いたいことは、分かってる」

「い、いけませんミコト様! しばらくは知識と経験を蓄えると仰ったではありませんか」

「確かに、そうなんだけど。でも、鏡のダンジョンと違って、きっと鬼のダンジョンは誰かが攻略してしまうと、そのまま消えちゃうよね?」

「う……それは、はい。恐らくは……ですが、ミコト様が赴かれるには少々危険かと!」

「奥まで行けば、でしょ? 浅い階層なら寧ろ、私が二人に鍛えてもらうのに適している場所だと思わない?」

「……それは、そうかも知れませんが」


 どうやらココロちゃんは、自らの問題が切っ掛けで私が無理をしようとしていないか、気がかりに思っているみたいだ。

 本当なら彼女一人でだって、件のダンジョンに乗り込みたいだろうに。それを押し殺してまで。


 確かに私はココロちゃんのためになるのなら、多少の無茶くらい悩むまでもなくやらかすと思う。何せココロちゃんは命の恩人であり、今や大切な仲間だと思っているからね。

 けれど逆に彼女はそんな私を慮って、そうはさせじと苦言を呈するのだ。

 こういうところで、私はどうにも自分の力の無さを嘆いてしまうわけで。


 無力を補うために二人に師事しようとした。その矢先にこの情報だ。

 タイミングが良いのか悪いのか。ともあれ、知識も経験も浅い私だけれど、幸い力だけはある。

 それならば……。


「それじゃぁ、こうしない? PTリーダーの役を、一旦オルカに預かってもらって、私は純粋な戦闘員に回る。それなら経験の浅さも致命的な欠陥にはならないよね?」

「む、無理無理無理! ミコト、私はリーダー向きじゃない!」

「え、うーん……じゃぁココロちゃんは?」

「ココロは、まだ鏡花水月のメンバーですらありませんよ! 鬼の問題が片付くまでは無理です」

「それなら、件のダンジョン攻略中に限定した、臨時PTのリーダーって扱いならどうかな?」

「うっ……ココロは、ずっとソロで冒険をしていたので、PT運用も戦術も何もわからないのです。到底務まるとは思えません。それに、そもそもミコト様を差し置いてココロがリーダー役だなんてあり得ません!」


 むぅ、良い考えだと思ったんだけど。

 確かに、リーダー適性って意味では、スキル構成から見ても私のほうが向いているし、少ないながらも経験者だ。今更ココロちゃんに丸投げしたって、却ってぎこちなくなっては意味がないか。

 とは言え、咄嗟の判断にはそれこそ経験や知識が重要になる。戦闘中に指示を飛ばすとして、無知ゆえに致命的なことを口走らないとも限らないからな。そこはどうしたって未熟な私ではダメなんだ。


「はぁ……ダメか。でもさっきも言ったように、浅い階層での修行という案はどうかな? 下級鬼はCランク冒険者相当だと言うし、それが本当なら私でも対処できると思うんだけど」

「それなら私は、構わないと思う」

「それは……はい。それならばココロも、異存ありません」

「よし、決まりだね」


 私はホッと胸を撫で下ろした。

 ここ最近、頑張ってスキルの育成をし、実際戦闘力だけはついたと思うけれど、その他の部分で確実に足を引っ張っている。それが私の悩みだった。

 だけれど鬼のダンジョンは、ココロちゃんのためにも必ず調査するべき場所だ。この機会を、私のせいで逃すわけには行かないんだ。

 ココロちゃんの助けになると決めた。それなのに、私が絡むことで大事なヒントを取り逃すなんてことがあっては堪らない。

 居ないほうが良かっただなんて、流石に思われたくはないしね。

 或いはもしかすると、一旦ココロちゃんと別行動をしたほうが彼女のためになるのではないかとすら、思わなくもないのだ。

 だけれど、彼女を一人ぼっちにしたくないという思いも強い。

 いろんなジレンマで、なんだか十円ハゲとか出来そうな気分だ。この選択が最善なのかすら自信が持てないでいる。

 でも、決めたからには頑張ろう。少なくとも、ここで頑張らねばきっと後悔すると思うから。

 願わくば、今のように私が選択肢を狭めてしまうことがなくなるように。むしろ、私がいたからこそ選択肢が広がったって思ってもらえるように、ちゃんと実力を身につけたい。

 たくさん勉強しなくちゃな。


 そんなわけで、少し冷めてしまった料理を平らげて、私達は宿へ帰った。

 明日からはまた、新たな目標に向かって邁進することとなる。

 その晩は、ダンジョン攻略の疲れもあってか、夢も見ないほど深く眠ることが出来た。



 ★



 明くる日。

 今日はダンジョン攻略明けということもあって、ギルドでの依頼受注や、件のダンジョンへのアタックは無しだ。急いては事を仕損じる、というやつである。

 その代わり、別途やることは色々ある。

 まず、実戦訓練が出来ないのなら、無知を解消するための勉強をすれば良い。ということで、ギルドの資料室や街の図書館などで、学ぶべきことは山積みだ。時間なんて幾らあっても足りないだろう。


 また、鬼のダンジョンへのアタックへ向けて、買い出しもしておきたい。

 何せストレージに時間停止機能が実装されたからね。新鮮な食材を揃えておけば、現地で料理も出来ちゃう。

 それに伴い、調理道具も揃えておかなくては。そこそこストレージを圧迫しそうではあるが、そこは必要枠だ。甘んじておこう。

 そう言えばオルカが、料理を勉強したいって言ってたっけ。器用な彼女なら、きっと期待に応えてくれるはず。しっかりと応援しておかねば。


 あとは、この前ダンジョンで獲れたドロップ素材の一部を、オレ姉のところに持ち込もうとも思っている。

 というのも先日、彼女との話の中で素材持ち込みが話題に上がったのだ。

「良い素材を持ってくれば、それを材料に武器を作ってやれるぞ」とのこと。しかも格安で。

 何せ装備品の値段は、素材の仕入れ価格が結構な割合を占めていたりするらしいからね。それをまるっと自分たちで用意し、持ち込むのであれば大幅な値引きが可能なのも当然の話だ。

 加えて、オレ姉が勉強してくれるらしく。技術料等も安くしてくれるという話だから、相当なお手頃価格で武器をこしらえてくれるそうだ。

 素材を持ち込んで武器を作ってもらうとか、某狩猟ゲームみたいだな。どうにもワクワクする。


 といった具合に、休養日と言ってもやることは多いわけで。

 とにかく勉強に費やせる時間を少しでも長く確保するべく、朝一番から急ぎ足で買い出しと、オレ姉のお店へ素材を見せに出かけたのだった。

 午前中いっぱいを使ってそれらの用事を済ませると、午後からは日が暮れるまでお勉強である。今回は初めて図書館を利用することにした。


「おぉ、ここが異世界の図書館か……」

「私は寧ろ、ミコトの世界の図書館に興味があるけど」

「まぁまぁ、そのお話はまた今度にして、早速入りましょう」


 訪れたのは石造りの大きな建物。まぁ、この街の建物は大抵石造りなのだけれど、中でも趣ある佇まいで、庭には緑もあしらわれており、全体的に洒落た雰囲気を感じさせる。

 いかにも、文化人が好みそうな空気が漂っており、私のような冒険者が足を踏み入れて良いのだろうかと些か二の足を踏みそうになる。

 が、受付で入館料を取られた時点で大分覚めた。お金を払えば、私達はちゃんとしたお客様だからね。たとえ浮いていたとしても、誰に文句を言われる筋合いもない。


 そんなわけで早速、戦術に関する本やモンスターについて書かれた本、ダンジョンや冒険者、そしてスキルや魔法についての書物などなど、役立ちそうなものは片っ端から集め、オルカとココロちゃんの解説付きでひたすら勉強した。

 知らないことだらけで、正直凄まじい知識量に溺れそうだったのだけれど、しかし頭の出来は幸い悪くないらしく。もしかするとこれもステータスの恩恵なのか、すいすい知識を吸い込むことが出来た。

 ただまぁ、未だに文字の読み書きは少しだけ不自由な点もあり、時々つっかえてはその都度質問を繰り返したものだ。

 とは言えそれも、ちょっとひねった表現に対応できない程度の話で、概ね独力での読書も支障がない程度には学習が実を結んでいる。


 結局閉館時間ギリギリまで粘って、可能な限り知識を頭に詰め込んだ。

 今まで勉強と言えば、寝る前にオルカから分からないことや知らないことを、雑談がてら教えてもらったり、読み書きの勉強を見てもらったりしていた程度なので、正直これほど捗るとは思っていなかった。

 確実に生前の私より、物覚えが良いと思う。一回装備を全部外して、どれくらい勉強が捗るかっていう検証もしてみたいな。一気に阿呆になったら、それはそれで面白そうだ。怖くもあるが。

 っていうかそれ以前に、図書館でいきなり裸になったりしたら、即刻出禁をくらいそうだからやらないけどね。


「思ってたよりミコトは頭が良いみたい。これなら知識面はすぐにでも充実させられそう」

「ですね。まるで砂が水を吸い込むように本の内容を吸収していくので、教え甲斐があって楽しいです。流石ミコト様です!」

「やぁ、まさかゲーム以外の勉強がこんなにすんなり頭に入ってくるとは、私自身驚いているよ。いや、もしかするとそれもこれもどこかゲームっぽい内容が多かったから、覚えが良かったのかも知れないけれど」

「何にしても、次は実戦で沢山経験を積んでもらうことになる」


 本での勉強は、時間を作りつつ今後も継続するとして、明日は早速例のダンジョンへ向かうことになりそうだ。

 昨日まで別のダンジョンに潜っていたというのに、なんとも忙しない話ではある。だが、私のためにも、ココロちゃんのためにも、避けて通ることは出来ないのだ。しっかりと気を引き締めて挑まねばならない。

 図書館からの帰り道、私は今日得た知識をもとに、明日出遭うであろう下級の鬼へと思いを馳せるのだった。

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