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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第五三話 選択する力

 ダンジョン攻略を終えて、三日ぶりにギルドへ顔を出してみると、なんだか微妙にピリピリとした空気を感じた私達。

 カウンターの向こうではスタッフたちが、いつもよりこころなしかトーンの低い声音でやり取りをしているのが散見でき、どうにも不穏なものを感じてしまう。

 ともあれ話を聞いてみようと、担当受付嬢のソフィアさんに声をかけるも、どことなく彼女も普段より真剣に仕事へ取り組んでいるようで。これはいよいよ何かあったなと私達は確信を得たのであった。


「今戻りました、ソフィアさん」

「ああ、おかえりなさい皆さん。お怪我等はありませんでしたか?」

「はい。問題なく」

「それは何よりです」

「ところで、何かあったんですか? 妙に忙しそうにしていますけど」

「ええ。実は……」


 ソフィアさんの話によると、どうやら新しく発見されたダンジョンが想定を超える難度だったらしく、調査に派遣した冒険者が遺体として戻ってきたらしい。

 まぁこう言っては何だが、冒険者が命を落とすこと自体は仕事柄たまにあることだ。

 しかしギルドとしては、そういう危険なダンジョンに対しては積極的な情報収集や、腕の良い冒険者の選抜、斡旋が急務となってくる。そのため現在、スタッフたちはソフィアさん自身も含め、てんやわんやしているらしい。

 何せ、下手な人間を送ろうものなら無駄死にさせかねないため、人選は普段以上に失敗できないのだ。情報を可能な限り集めたり、そもそも情報を集めるための人員を確保したりと。ギルドの仕事も大変なのだなぁと思い知ることになった。


「いいですかミコトさん。とても危険なので、決して近づいてはいけませんよ」

「あの、もしかしてですけど……それってこの前提案してもらった二つのダンジョンの内、未確認だっていうBダンジョンの話だったりします?」

「う……はい。仰る通りです。ミコトさんたちがAダンジョンを選んだことに、内心ホッとしたのはここだけの話ですよ」

「なるほど……一歩間違えたら私達、というか主に私が落命していた可能性があったと」

「そのような選択肢を提示したこと、申し開きの言葉もありません。すみませんでした」

「ああいえ、それはまぁいいんですけど。選択一つが人を殺す世界なんだなって……」


 もしも私達がBダンジョンを選択していたなら、私達の代わりにそこの調査へ赴いた人達は死なずに済んだのだろうか。

 それは考えたって詮無いことだと分かってはいるのだけれど、やはりどうにもモヤモヤしたものを感じてしまう。

 たった一つの選択が、自身の命どころか、他人の命運さえ左右しかねないんだ。それを今、ようやっと理解した。

 今回私は、自身の安全のために他人を犠牲にしたと。そう曲解出来てしまうような選択をしたのだ。

 勿論それは結果論でしかないし、捻くれた物の見方だと分かってはいるけれど。それでも、些かの因果めいたものは感じる。


「ミコトさん。あなたも、命を落とした彼らも、同じ冒険者です。落命のリスクは誰しもが踏まえた上で依頼に当たっている。ですから変に背負うような考え方はしないでくださいね。冒険者とは、選択する生き物なのですから」

「……はい。お気遣いありがとうございます」


 ダンジョンクリアの高揚感も何処へやら。

 私はなんだか沈んでしまった気持ちを抱え、オルカとココロちゃんに心配されながら買取カウンターの方へと足を向けた。

 するといつもの買取おじさんが気さくに声をかけてくれる。私は努めて気分を切り替え、買い取ってもらいたい素材の話を始めた。


 今回は数日間の成果ということで、ストレージ内には相当数の素材がスタックされている。

 ちなみに売却に際し、予めその内容はメモを控えてある。ギルドを疑うわけではないけれど、万が一数が多いからとちょろまかされては堪らないので。

 例によって奥の倉庫へと通され、ここへ出してくれと指示された場所は、しかし果たしてスペースが足りるか怪しい小広い程度の一角だった。

 まぁ、なるようになるだろうということでとりあえず、種類ごとに分け、都度数を数えてもらいつつ、順次素材をストレージから全て吐き出していった。

 おじさんは額に手を当て、天を仰ぐ。深い溜め息が哀愁を誘い、それから疲れた声で査定には時間がかかるから、支払いは明日以降になると説明された。

 おじさんはいつも、素材の細かな質を見極めて、適切な値段をつけてくれる。

 ということは、これは大忙しになってしまうだろう。ちょっと悪いことをしてしまっただろうか。


 ともあれ私達は了承し、よろしくお願いしますと軽く頭を下げておいた。

 軽口がてら、メモは控えているからちょろまかさないでくださいねと言ったら、普通に怒られた。ジョークなのに……。


 その後私達はギルドを後にし、宿へと帰る。その際ギルドのロビーは混み始めており、スタッフはこれからが忙しい時間帯だろうなと、頑張る彼女らに内心でエールを送っておいた。

 帰り道を辿る最中も、仕事帰りの帰宅ラッシュじみた人の流れが見て取れて、一日の終りを予感させる光景がなんだか妙に沁みた。

 少しずつ夕焼けの赤に染まっていく景色の中を、私達もまたゆっくりと歩く。

 数日がかりのダンジョン攻略を済ませ、正直体は重たい。心身ともに疲れが溜まってしまったみたいだ。


 宿に帰り着くなり、私は自分のベッドに倒れ込み、ようやく人心地つくことができた。

 遅れてオルカの小さなため息も聞こえてきた。ホッと一息、といったところだろうか。

 少しして、自室に荷物を置いてきたココロちゃんが部屋を訪れた。各々がベッドや椅子でくつろぎ、そしてポツポツと振り返りを行う。


「今回のダンジョン攻略、疲れこそしたけれど、結局危ない場面は一度もなかったね」

「確かにそうかも。私達が挑むには、レベルの低いダンジョンだった」

「ですけど、ミコト様はダンジョン初挑戦だったわけですし、それもあってのソフィアさんの差配だったのでしょう」

「実際、提示された選択肢から選び取ったのは私達だしね」


 私はそう言って、もしもう一つのBダンジョンの方を選んでいたらと考え、つい黙ってしまう。

 ソフィアさん曰く、危険度も未知数であるため、軽い調査だけでも報酬が出るという話だった。

 それなのに死人が出たのだ。その冒険者達がなにか無茶をして失敗したのか、それとも軽い調査にも拘わらず命を落とすような危険な場所だったのか。

 そもそも、落命した人達がどの程度の冒険者だったのかさえ私達は知らない。ここでいくら思考を巡らせたところで、何ら意味を成すことはないのだろう。


「ミコト、変に責任を感じちゃダメ、だよ?」

「冒険者は自己責任。選択も行動も、失敗さえも。それは当事者たる冒険者だけに許された権利なのです」

「そう、だね。私達が選んだように、落命した彼らもまた選び、行動した結果なんだ。私が何かを思うのはお門違いってことか……」


 理屈は分かる。けれど、だからといってぱっとモヤモヤした気持ちを払拭できるわけでもない。

 今後の選択は、どんな些細なことであれもっとしっかり考えて選ぼうと。そんな教訓を得るために、代価となったのは他人の命。

 やっぱりヘビィな世界だよ。

 しかしとは言え、いつまでも引きずってもいられない。空気を悪くしてしまうばかりだし。

 私は無理にでも明るめの声を作り、別の話題を切り出した。


「それはそれとして。ちょっと思ったことがあるんだけど」

「ん、なに?」

「またなにか、おかしなことを始めるのですか?」

「いつだって私は真面目だよ! ……えっとね、今回のダンジョンアタックを体験してみて、ちょっと考えたんだ。私、今のままじゃダメかもなって」


 首をかしげるオルカとココロちゃんに、私は今回感じたことを語る。


 私は、強くならなくちゃならない。ココロちゃんのためにも、私自身のためにも。

 ダンジョンに挑んだのは、そのための一歩という意味合いも大きかった。そして実際、得るものも多かったと思う。

 ダンジョンというものを知る、いい機会になった。知識も増えた。それにスキルも育ったし、魔法も新たに覚えた。

 普通に考えると、とても大きな成果だと思う。


 けれど、同時に違和感も覚えたんだ。

 私の警戒心は度々空回って、尽くが杞憂に終わってしまった。

 それは今回に限った話でもなく、ドレッドノート戦以来、ちゃんとダメージを負ったことなんて無かったように思う。

 精々が防具に損傷を受けた程度だし、それにしたって已むからぬ事情があってのことだった。

 とある依頼で、子供を庇ったときにモンスターの攻撃を捌きそこねたのだ。

 しかしそれだって大したことはなかったし、流石に思ってしまうのだ。


 もしかして、私の力はランクに見合っていないのではないか、と。


 自惚れるつもりはないし、この世界で無闇に危険な橋を渡りたくもない。そして目立つのも困る。

 だから私は、冒険者ランクを上げることに消極的だった。ランクが上がればそれだけリスクも注目度も上がってしまうと考えたから。

 けれど、こんな実力に見合わない狩りばかりをやっていたのでは、いつまで経ってもココロちゃんの助けになんてなれないんじゃないか。私にはもっと、出来ることもやるべきこともあるんじゃないか、と。そんな考えが浮かんできたのだ。

 それを二人に伝えた。意見を聞きたくて。


「確かに、私もミコトの実力でDランクはないと思う。でも、それでミコトが無理をするのは違うとも思う」

「ココロも、可能な限りミコト様にはリスクを背負ってほしくありません。確かにミコト様はすごい能力をお持ちで、成長速度も異常です。ですが、その反面知識も経験もまだまだ身につけ始めたばかり。冒険者になって一月と少し。それ以前は実戦の経験どころか、戦う必要すらなかったと仰るではありませんか」

「う……まぁ、そうだけど」

「冒険者は、力だけあってもダメ。経験は普通、短期間で身につくようなものじゃない」

「そうです。一つの選択が自身はおろか、他人の命運すら決めてしまう世界だと、ミコト様はそう学ばれたのですよね? ならば選択に必要なものとは何でしょう?」

「……経験と、知識」

「その通り。ミコトには、それが足りていない」


 う、ぐぬぅ……全く言い返す言葉が出てこない。

 確かに、私の実力は自惚れではなく、Dランクの域を出ていると思う。

 だけれど冒険者にとって重要なのは、選択を誤ることのないよう、確かな判断力を持つことだ。それを今日、痛いほど思い知ったばかりじゃないか。

 私はこれでも一応、PTのリーダーを任されている。それが知識も経験も浅く、仲間を危険に誘うような選択をしていたのでは話にならない。

 だから、オルカやココロちゃんの言い分はざっくりと私の胸を抉った。めちゃくちゃ突き刺さった。


 しかし、それでもだ。

 能力ばかりが先んじて育ち、それでも肝心の中身が伴っておらず足踏みを余儀なくされる現状に、どうしようもないチグハグさを感じてしまうんだ。


「私の素直な気持ちとしては、出来るだけ早くランクを上げたいって思った。ランクを上げて、もっとレベルの高い場所で狩りをしたいって」

「ふむ……そういうことなら、鍛えるしか無いね。スキルじゃなくて、もっと冒険者としての基礎的なところを」

「日本風に言うと、『急がば回れ』……でしたっけ? 足りないものがあるのなら、補うための努力をすればいいだけの話ですよ、ミコト様。そのためのお力添えとあらば、どうかこのココロにも協力させてください!」


 鏡のダンジョンへの挑戦は、Dランクの私には許されなかった。

 けれど今回のダンジョンアタックで、恐らく私の戦闘力はDランクに収まらないことが分かった。

 なのに、私はこの世界に来てほんの一ヶ月半ほど。モンスターとの戦闘なんて、こっちに来て初めて体験した。だから当然、知識も経験も圧倒的に不足している。

 冒険者は時として、自分たちは勿論のこと、他人の命を左右するような選択を迫られることがある。

 ランクが上がれば、きっとより重要な選択を委ねられる場面も増えることだろう。未熟な私には、多分務まらない。

 だから現状、力があるからと言って、軽はずみにランクを上げることは危険なんだ。

 だから鍛えると。足りないのなら足せば良い。教養を身につけ、経験を積めば、正しい判断を下すことが出来るようになるというのは、なるほど納得の行く話じゃないか。


 ゲームなら一足飛びにすっ飛ばせそうな話だけれど、やっぱりこの世界はゲームのようであっても、現実であるということらしい。ステータスが足りても、仮に試験に受かったとしても、真の意味での資格を得るには実力が必要だなんて。

 私はふぅと一つ息をつくと、オルカとココロちゃんに向けて頭を下げた。


「私にはどうやら、冒険者として不足しているものが沢山あるみたいだ。ココロちゃんの力になるためにも、それらは埋めていかなくちゃならない。だから二人とも、この通り。私をどうか、鍛えて欲しい。お願いします」

「うん。ミコトを立派な冒険者にしてみせる」

「はい! ココロも、頑張って指導させていただきます!」


 急遽始まった反省会らしきものは、私の行き過ぎた戦力と未熟な実力のチグハグさを浮き彫りにし、今後はオルカとココロちゃんから指導を受けるということで話がまとまった。

 以前私は、オルカのような立派な冒険者になることを目標にした。しかしどうやら、勘違いをしていたらしい。

 力だけあっても立派な冒険者にはなれないのだと、それを思い知ったのである。


 初のダンジョンアタックは、斯くして私に新たな指針を定めさせたのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ステータスやスキルだけではなく経験も含んだ強さに拘ると、リアリティーが出ますね。
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