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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第五二話 帰るまでが遠足

 宝箱の部屋を出て、再び広間へ戻った私達。

 そう言えば地下というだけあって、もしかすると物凄く涼しいのではないかと、ダンジョンに挑む前は身構えていたけれど。しかしこうして五階層まで降りてみても、実際際立って涼しいだとか、寒いだなんてことはなかった。

 強いて言えば、私が魔法で作った氷のせいでちょっと涼しいくらい。

 なんて、戦闘の痕跡を横目に、私はふとマップを確認した。


 第五階層は構造もシンプルで、上の階に比べるととても規模が小さい。が、まだ隅々まで埋めるということは出来ていない。マップに空白が見て取れたのだ。

 ここまでしっかりマップ埋めを頑張ってきたのだから、最後にこれはやっつけておきたい。

 ということで、オルカとココロちゃんに声をかけ、三人で広間をぐるりと一周することにした。私を中心に、半径二百メートルの範囲がマップに登録されていく。なので、本当はわざわざ広間を一周するほどのこともないのだけれど。そこはダンジョン踏破の余韻に浸る意味もあってのこと。


 そんなわけで、他愛ない話をしながらてくてくとだだっ広い空間をぐるりと歩き回ると、不意にそれは起きたのである。


「あっ! マップウィンドウのレベルが上った!」

「「ええっ」」


 マップウィンドウに注目しながら歩いていると、唐突に探知範囲が倍以上に膨らんだことから、今までで一番わかり易いレベルアップだったかも知れない。思わず大きな声が出てしまった。

 つられて驚きを返すオルカとココロちゃん。


「本当ですかミコト様!」

「ダンジョンを歩き回ったのは、無駄じゃなかったってこと?」

「多分そう。この階層のマップが埋まりきった瞬間変化があったから。あ、いやでもそれだと、マップを埋めた特典でこのダンジョン内限定の効果って可能性もあるか……だとしたらレベルアップじゃなかったかも?」


 マップ情報をコンプリートしたことで、このダンジョン内限定で何かしらの制限が解除された、なんて可能性もよくよく考えると有り得る話だなと思い至り、なんだか急にレベルアップの真偽が疑わしくなってしまった。

 もしかすると地上に出たら、探知範囲も元に戻るかも知れない。それはなんだか、上げて落とされたみたいでショックなんですけど。


「それで、どんな変化があったんですか?」

「ええと、まず探知範囲が倍以上に広がったね」

「……それは、ちょっとおかしいと思う。もし本当にこのダンジョン限定の効果がそれなら、意味がないから」

「あ、確かにそうですね。もう探査する必要のない場所で、探知範囲が広がっても仕方ありません」

「言われてみると、確かに……ってことは、やっぱりレベルアップって考えて良いのかな?」

「だと思います」

「おめでとうミコト」


 二人の冷静な分析に納得し、十中八九マップウィンドウの変化はレベルアップによるものであると判った。

 いずれにせよ、ダンジョンから抜け出したならはっきりしたことも分かるだろうし、今は置いておくとして。

 大事なのはレベルアップに際して、何か新しく出来ることが増えたのではないか、という検証である。

 二人には少し待ってもらって、マップウィンドウをいじくってみた結果分かったことがあった。


「あれ、オルカとココロちゃんのマーカーを調べたら、名前が表示されるようになった!」

「名前……つまり、マップ上で確認できるマーカーが何を示しているか、実物を確かめなくても確認できるってこと?」

「これまではオルカ様頼りだった、モンスターの種類判別等もマップで行えるようになった、ということでしょうか」

「ま、また私の役割が……」

「あああごめんって!」


 マップが育つとオルカが凹む。なんだかそんなテンプレートの気配を感じつつ、私とココロちゃんは二人して彼女を宥め、励まし、褒めちぎった。顔が真っ赤になるまで。

「も、もうわかったから……」と、両手で顔を隠したオルカは耳まで赤くなっており、堪らずグッと来てしまった。


「さて、それじゃこのダンジョンにはもう用事もないし、サクッと帰ろうか」

「帰りは最短ルート?」

「だね。脱出用の転移魔法とかあったら最高だったんだけどね」

「そういう魔道具もあるにはあるんですけど、とっても高価ですよ」

「世知辛いなぁ。異世界の沙汰まで金次第か」


 なんて益体もない話をしながら、帰路を辿る道すがら。

 ふと、ああこの壁を壊していければ大幅なショートカットなのにな、なんて私のぼやきを聞き、それなら試してみましょうと壁へ向けてタックルをかましたココロちゃん。

 本来ダンジョンの壁というのはとても頑丈で、たとえ壊してもすぐに再生する特殊な仕様になっているらしいのだが、今回は壊しても修復が起こらなかった。


 私が驚いていると、攻略済みのダンジョンは力を失うため、壁が再生することもないのだとオルカが解説してくれた。ちょっとした豆知識である。

 そうと分かれば話は早い。私達は文字通りの最短距離で、出口へと壁をぶち抜きながら進んで行き、あれよあれよと階層を駆け上っていった。


 そうして、第一階層ダンジョン入り口の縦穴へ戻ってきたのは、何とまだ日も高い時分であった。

 というか考えてみたら、ダンジョン内で時間の感覚も狂っていたため、外に出た時何時頃か、だなんて予想も立たなかったんだけどね。

 なんて考えながら穴の底から空を見上げていると、不意にオルカがこんな事を言いだした。


「そう言えば、アルアノイレがあればこの穴も簡単に出られるんじゃない?」

「む、それもそうだね……よし。やってみようかな」


 折角なので、地のステータスじゃどう足掻いても無理なことを、このダンジョンで新たに得た部分換装でもって実現してみたくなった。

 舞姫を換装スロットのアルアノイレと入れ替え、軽く具合を確かめる。

 人の感覚というのはよく出来ていて、概ね出来そうだと感じたことは結構出来ちゃうもので。逆に無理そうなことは感覚的にそれと分かる。

 まぁ中には、絶対ムリだと思ったけど出来ちゃった! とか、出来ると思ったのに体がついてこなかった、なんてこともあるから、鵜呑みにしてはいけないのだけれど。

 それでも、アルアノイレを装着した途端に、六メートル程はあろうかというこの縦穴を跳躍だけで抜け出せるんじゃないか、という妙な自信が芽生えてきた。

 多分、行ける。


 私はフンフンと数度スクワットを行い、気合を入れて天を仰いだ。

 六メートルと言えば、棒高跳びの世界記録がそれくらいじゃなかったっけ? それを、ただの跳躍で越えようというのだから頭のおかしな話だ。

 でも、アニメなら結構当たり前にみんなやってることだし、異世界なんて日本出身の私にとっては半ば二次元みたいなものだしな。いけるいける。

 なんて、不思議な自信を漲らせて私はぐっと足腰に力を込めた。


「じゃ、いきまーす」

「頑張って」

「ミコト様ならいけますよ!」


 ちょっとしたお遊びと言うか、体力測定みたいなものなのに、妙に応援されてくすぐったい気持ちになる。

 でも、声援を貰って失敗したらかっこ悪いし、ちゃっちゃと成功させよう。

 ふんっ! と、思い切って一気に地面を蹴った。


 すると、いつの間にか私の体は地上を通り過ぎ、更に数メートル上に浮かんでいた。

 ぎょっとしてとっさに穴の底へ視線を向ければ、私が踏み切った床は派手に破損しており、おまけに不可視の爪まで発動したのか、床面に五つ穴が空いている。

 重力に引かれ、私の体はすぐに地上へと降り立った。恐る恐る穴の縁から下を覗き込むと、すぐにオルカとココロちゃんの声が聞こえてきた。


「ミコト。張り切るのはいいけど、スマートじゃない」

「ココロが同じく跳躍すると、床が抜けちゃいそうですね。ミコト様、縄梯子をお願いできますか?」

「な、なんかごめん。すぐ用意するよ」


 アルアノイレを舞姫に戻し、ストレージから取り出した縄梯子を穴の縁に引っ掛けて垂らす。

 すると程なくして、オルカとココロちゃんが昇ってきた。これにて無事、ダンジョン攻略達成である。

 流石に幾らかの感慨を覚え、思わずふぅとため息が出た。


「これにて、このダンジョンへのアタックは完了だね。ええと確か、攻略の終わったダンジョンは数日で消えるんだっけ?」

「ですね。ちなみにその際ダンジョンに残っている人がいれば、強制的に吐き出されることになります」

「けど、中にいるモンスターは、ダンジョン諸共一緒に消えてしまうから心配はいらない」

「それじゃ、あとはギルドに報告すれば一段落ってところか」


 文字通り、帰り着くまでが遠足……ならぬ、ダンジョンアタックというわけだ。

 私は縄梯子を再度ストレージにしまうと、二人を促して帰路を歩み始めた。

 その際マップウィンドウを確認してみると、やはりダンジョン内限定というわけではなかったらしく、しっかり探知範囲は大きく広がっている。推定、半径五百メートルくらいだろうか? その圏内にはモンスターを示す赤のマーカーがチラホラとあり、指で触れたり意識を傾けたりすると名前が表示される。

 ついでに、探知範囲から外れるとマーカーは確認できないのだけれど、一度探知範囲に入れた場所は地図情報としてしっかり記録されており、以前は確認できなかった街の名前が、マップ上に記されるようになっている。これもレベルアップによる効果だろう。


 今回のダンジョン攻略に費やした数日で、得られたものは決して小さくない。

 それはモンスターから得たドロップアイテムや、宝箱から得た品々も勿論そうなのだけれど、成長したスキルや新たな技術。それにダンジョンというものを実際体験できたことは、私にとってとても大きな益であると言えるだろう。

 そんな風に胸の内で振り返りを行いながら、私達はのんびりと街へ向けて歩みを進めるのだった。



 ★



 街門を抜けて大通りを歩く。数えてみると、たかだか三日ぶりの景色だ。なのにほんの少しの懐かしささえ覚えつつある。

 そんなちょっと不思議な気持ちを噛み締めながら、私達は冒険者ギルドへの帰還を果たした。

 時刻はおおよそ午後三時か四時か、そのくらいだろう。ダンジョンを出たのが実はお昼頃だったため、ちょっと時差ボケ気味だ。

 というのも、ダンジョン内で三泊して、今日の朝からボスを倒し、その後一気に階層を駆け上がって脱出してきた、というのが私達の感覚だったため、時刻的にはもしかすると夕方どころか、宵の口を過ぎているのではないかとすら感じていたのだ。

 それがまさか、実際ダンジョンを出てみるとお昼だったなんて。正直、内心面食らったものである。


 ギルド内には時間帯のこともあって人はまばらであり、これならスムーズに素材売却やソフィアさんへの報告も済みそうだと、担当受付嬢である彼女の姿をカウンターの向こうに捜してみると、些かの違和感に気づく。

 なんだか、いつになく空気がピリピリしていると言うか、張り詰めたものを感じた気がして。


「なんだろう、もしかして何かあったのかな?」

「確かに、ちょっと物々しい感じがする」

「話を聞いてみましょう」


 素材の売却は後回しにして、先にソフィアさんに声をかけることにした私達。

 カウンター越しに彼女の姿を見つけ、早速話しかけてみた。普段ならそれ以前に、先にこちらを見つける彼女が何やら書類に集中しており、気づきもしないなんて。

 いよいよもって私は、首を傾げるのだった。

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