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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第五一六話 一人でできるミコト

 冒険者ギルドの外観は、所謂チェーン店とは違い、各支部で異なっていることが多い。

 基本的にはちゃんとした、役所めいた雰囲気のある施設なのだけれど、所によっては酒場を兼ねていたりする場所もあるらしいし。

 特に辺境付近なんかは、間に合せで設置した冒険者ギルド支部が、そのままの形で引き継がれている例もあるとかで、そういう所こそ酒場とギルドが合体したような雑然とした感じになりがちなのだそうだ。


 で、このリィンベル支部はどうかと言うと。

 どうやら酒場と兼業ってほどではないにせよ、その空気感は役所のそれとは遠いもののように感じられた。

 飲食スペースではガッツリお酒も出してそうな雰囲気がある。

 こういう場所は、できるだけ夜には近づくべきじゃないな。気をつけねば。


 とは言え時刻はやがて午後二時を回ろうという頃。

 冒険者ギルドを訪れる人なんていうのは、朝や夕方に比べると数える程度だ。

 ただここの場合、お昼はお昼でご飯を食べに訪れる人なんかも居るのかも知れないけど。

 実際私が遠巻きに追いかけてきたお兄さんなんかは、ギルドに入るなり飲食スペースの方へと一直線である。

 ともあれ、だとしても昼食ラッシュの時間帯も過ぎた頃だ。案の定ギルド内は人影も割と少なく、眠くなるようなまったりとした静けさが漂っていた。


 仲間も居ないのにギルドを訪れたのなんて、果たして何時ぶりだろうか。何だかやたら緊張してしまう。

 私はドギマギしつつも、努めて平常心を装い受付カウンターへと進んでいった。

 すごく今更なんだけど、何て言って話しかけたら良いんだろう。用件、そう、用件をちゃんと考えておかないと。

 ああ、受付嬢のお姉さん、私に気づいて待ち構えてる。どうしよう、Uターンして帰るか。出直しちゃおうか。

 いやいや、ギルド初心者でもあるまいし、そんなことでどうする私! 頑張れ! ゼノワ、励ましてくれ!

 ベシッと脳天に衝撃が走る。私のへっぴり腰を見かねて、活を入れてくれたようだ。有り難い。


「冒険者ギルドへようこそ!」

「あひゃぃ!」


 出た! お決まりの挨拶による先制パンチだ!

 そして反射的に、変な声も出た。完全に私が緊張してるってバレたよね、これ。お姉さん苦笑いしてるし。

 お、落ち着かねば。大丈夫、これでも私Bランクだし! 堂々としてれば良いんだ。

 取り繕うように咳払いをすると、改めてカウンター越しにお姉さんへ向き直る。


「えっと、私、今日この町にやってきたばかりの冒険者なんですけど」

「なるほど。でしたらご依頼の斡旋をお求めでしょうか?」

「ああいえ、それはまた明日お願いします。今日は散策がてらご挨拶に伺っただけなのでっ」

「かしこまりました。では、冒険者証および冒険の書はお持ちですか?」

「ぼぼ、冒険の書?!」


 なにそれ初めて聞くんですけど! っていうか、冒険の書って言ったらアレじゃん!

 その昔、古の勇者たちを阿鼻叫喚の渦中に叩き落とした、偶に消えるとかいう……。

「ああ、失礼しました。『引き継ぎノート』や『担当書』など、地方によって呼ばれ方は異なるのですが……」

「なるほど、引き継ぎノートのことでしたか」

「ええ、それです。お持ちでしょうか?」

「あー……」


 そう言えば、アレってどうしたんだっけ?

 今はストレージの中……いや、グランリィスのシトラスさんに預けたような気も……。

 っていうか何れにしても、私個人用のノートじゃないし、持ってないっていうのが正直なところだ。

 とりあえず無難な回答をしておこうか。


「実は、紛失してしまいまして……」

「あらら、そうでしたか。では冒険者証はお持ちですか?」

「はい、それなら」

 私は背負っていたリュックを胸に抱えて、その中から冒険者の証であるそれを取り出し、カウンターの上に置いた。

 すると。


「! え、あ、Bランクの方だったんですね!」

「ひぇっ、え、ああ、はい。一応は」

「失礼しました、てっきり新人さんとばかり……」

「あ、あはは……」


 お姉さんの声に、他のスタッフさんは疎か、ロビーに居た他の人たちもこちらへ関心を寄せてくる。

 え、何さ。やっぱり私ってそんなにBランクには見えない……? っていうかお姉さん声大きい!

 彼女もどうやら、自身の失態に気づいたらしい。僅かにほっぺたを赤くして咳払いをすると、一応冒険者証が偽造品ではないか、専用の魔道具にかけてから返してくれた。


「ミコトさんですね、改めて歓迎します。リィンベル支部へようこそ。あ、お宿の方はもうお決まりですか? もしまだのようであれば、お勧めの宿をご案内できますが」

「あ、はい、お願いします」

「かしこまりました。では──」


 ってことで、早速要望を訊ねられたあと、希望に沿った宿を紹介してもらった。

 しかもわざわざ簡単な地図まで描いてくれたし。このお姉さん、なかなかテキパキしていらっしゃる。

 ちなみに宿は『微睡みの風見鶏亭』という所らしい。

 そんな具合にちゃっちゃとやり取りは進み、用件も済んだのでお暇しようとしたところ。


「ミコトさんは暫くこの町で活動されるご予定でしょうか?」

 との質問をされた。

 逡巡する。一人旅なので、あまり長らくここに留まるつもりもないのだけれど、かと言って多少はこの町で活動に慣れたり、路銀も稼がなくちゃならない。

 なので。

「まぁ、そうですね。少しの間ですけど」

「でしたら、担当はこのミトラが務めさせていただいてもよろしいですか?」

「担当……まぁ、そうですね。そうしてもらえると助かります」


 担当受付嬢さんがついてくれれば、こちらの実力やその日の調子なんかに合わせて、適した依頼を斡旋してくれたりする。

 短い付き合いにはなるだろうけど、担当してくれるというのなら断る理由もない。

「かしこまりました。では改めまして、ミトラと申します。宜しくお願いしますね、ミコトさん」

「ど、どうも」

 朗らかに微笑むミトラさん。

 その愛想の良さが、なんだか少しだけ不気味に思えた。いや、ちょっと意識が過敏になってるだけかも知れないけどさ。

 こんな時心眼を使えたなら、ここまでおっかなびっくりすることもないのに。

 うーん……不便だ。


 ともあれ、用事も済んだのでギルドをあとにした私。

 次に訪れるのは明日の朝である。っていうか、そうだ……。

 移動に転移が使えないんじゃ、ほんとに朝早くから依頼を受けに来ないと、受けた仕事を一日でこなせないことも十分あり得るんじゃん!

 場合によっては泊りがけの依頼とかも普通にあるだろうし、野宿とかの可能性も……いや、だとしてもおもちゃ屋さんには帰るわけだけど。

 しかし転移が使えないってことは、それだけ移動にメチャクチャ時間がかかるってことだ。

 分かってはいたことだけど、さっき町まで二時間も掛かったことを考えると、想像してたより大変なのかも。

 それにご飯、町の中にいる時はいいけど、外に出たら自分でなんとかしなくちゃ。

 一応保存食の類はある程度マジックバッグに入れておいたけど、食料面にももっと気を使ってお店を覗いておいたほうが良いかも。足りなくなったら買い足す必要もあるわけだし。

 っていうか町の中に居ても、朝昼晩自分でなんとかする必要があるんだよね。イクシス邸に食べに行くわけには行かないんだし。

 アレか、実家を出て一人暮らしをするっていうのはもしかして、こういう感じに近いんだろうか。


「はぁ……どうしよう。結構大変なことばっかりだ……」

「ギャゥ」

「分かってたことでしょうって? そりゃそうだけどさ、考えが甘かったっていうか。想像以上に周りの人や自分のスキルに助けられてたんだなって、改めて気づいたっていうか」

「グル」

「気が早い、ね。確かに、本番は明日からだものね。頑張らないと……」


 一先ず、ミトラさんに教えてもらった宿屋へ向かう私。

 昼下がりの見知らぬ町。さりとて少しは慣れてきたのか、はたまた待ち受ける苦労にげんなりしたせいか、先程よりかは落ち着いて歩むことが出来た。

 通りに並ぶお店を眺めても、興味より先に『自分に必要かどうか』を考えるようになった。この短時間の内に、ガラリと価値観が変わってしまった気分だ。

 すっごく今更だけど、生きていくって大変なんだなぁ。


 ワクワクとした気持ちはすっかりしょぼくれて、不安ばかりが大きな顔をする。

 とは言えやるべきことが分かっているのなら、行動する他ないのだ。

 まるで寄る辺を求めるような心持ちで、私は足早に宿を探した。

 もらった地図は、マップスキルの代わりと言うにはあまりに心許なかったけれど、それでも問題なく辿り着けてしまった辺り、地図というのはよく出来たものなんだなと妙な感心を覚えたのだった。


 紹介してもらった微睡みの風見鶏亭は、流石に女性専用宿ではなく、普通に男性客も利用するところだった。

 っていうか、女性専用宿というもののほうが珍しいのであって、そういう場所しか選ばないっていうほうが異常なことなんだけどね。

 実際この町には、女性専用宿っていうのは存在しないらしいし。


 それにしても、一人で宿にチェックイン。これまた緊張する。

 実際は、宿泊するでもなくおもちゃ屋さんに帰るわけだから、もっと他人事のようなつもりで考えてもいいのかも知れないけどさ。

 だけど部屋を借りる以上、泊まろうと思えば泊まれるってことだ。

 その事実に、何だか無性にソワソワした。


 宿泊費は、一泊当たり五六〇〇デール。なかなか良いお値段するじゃないか……でも朝晩のご飯付きらしいので、良心価格だったりするのかな?

 うーん、相場がいまいち分からん。こういうところでも私、仲間たちに甘やかされていたんだな……。

 でも事実として、何もせずこの宿で一〇日も過ごしたなら、私の所持金(一〇万デール)が半分以下になるってことだ。

 一日当たり、少なくともこの五六〇〇デール以上を稼がないことには、私の生活は破綻をきたすわけである。

 やばいよやばいよ……大丈夫なの? Bランク冒険者ってそんなに稼げるものなの?

 ああ、胃が痛くなってきた。


 夜はまだかな。早くおもちゃ屋さんに帰りたいでござる。

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