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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第五一五話 箱入りミコト

 彼方に見ゆるは時計塔の町。

 見事な丘陵の最中、やや強い風に上着の裾をはためかせながら、早速私は感慨に耽っていた。

 今しがたイクシス邸より、行ってきますの言葉を残し転移してきた私である。

 頭の上ではゼノワもテンション高く鳴いている。


 これより暫くは、おもちゃ屋さんとの行き来以外ではへんてこスキルの使えない生活を送ることになる。

 各種ウィンドウはもとより、念話も通話もストレージすらも。

 必要なものは既にマジックバッグにしまっており、装備を変えるためにはわざわざ着替えなくちゃならない。

 すこぶる不便である。

 だけれど今は、その不便さにワクワクを感じているんだ。

 気分はまるで、今日はじめて異世界へ降り立ったかのよう。気分だけはね。


 雑用は全てコミコトに丸投げしており、実のところはこうしている今もコミコト経由でイクシス邸の様子は分かるし、あちらはスキルを封じているわけでもないため雑用をこなすのに不便の一つもない。

 何ならリリたち蒼穹の地平の移動も、コミコトが担うことになっている。大忙しだ。

 注意するべきは、コミコトの操作と私本体がごっちゃになって、うっかりスキルを封印している事実を忘れないようにすること。

 今の私は、つい先日まで快進撃を続けた、人よりちょっとばかりマスタリースキルに優れただけの新人冒険者。

 いや、やがて私も冒険者活動を始めて一年が経過しようというのだ。いい加減新人の肩書は返上して、『若手』とか名乗っちゃうべきなのかも知れない。


 まぁそれはさておき。

「さて、まずは安全確認だ。周囲にモンスターの気配は……」

 今立っているのはモンスターが徘徊するフィールドの最中である。つまりは、何時エンカウントしたとて不思議ではない。

 いつもならマップを一目見るだけで、安全かどうかなんて一発で判明したものだけれど、今は違う。

 鋭く周囲の気配を探知して、安全を確かめるのが基本となるわけだ。

 とは言え、探知系スキルなら持っているし、これは別に禁止対象スキルではないため、しっかり活用していきたい。


「うん、大丈夫そうだね」

「ギュゥ」

「やぁ、早速不便だ。心眼もオフ状態だし、モンスターの生息圏じゃ油断できないね。よく気をつけないと」


 ゼノワが居てくれてよかった。

 第三者からすると、私が独り言を言っているようにしか見えないだろうけれど、私にしてみれば意思疎通の可能な動物と喋ってるようなものだもの。

 どの道傍目には痛いやつ認定待った無しだろうけれど、主観的には随分と不安を緩和してくれてる気がする。

 一人旅って名目でここに立っている以上、それってどうなのという気がしないでもないけれど。しかしこればかりは何ともかんとも。


「それじゃ、町へ向かいながらおさらいでもしようか。今の持ち物と使えるスキルとかについて」

「ガウガウ」


 というわけで、てくてくと歩き始める私。

 向かう先はリィンベルの町。私が一先ず滞在することになる町だ。

 旅を目的としている以上、あまり長く居るつもりもないけれど。


「所持金、一〇万デール。とりあえず食費や宿泊費で困ることはないけど、装備を買い足すには心許ないね」

「グゥ」

「装備は、Bランク上がりたての冒険者がつけてても不思議じゃない品で揃えてあるよ。冒険者ランクに紐付けて装備をランク付けするとするなら、C+以下って感じかな。武器は片手剣。装備枠は念の為二つ分残してある」


 リュックタイプのマジックバッグには、財布とか着替えとか装備の手入れグッズとか、そういう冒険に必要そうな、冒険者たるもの持っていて当然の品々が一通り。

 しっかり準備した甲斐があり、なかなかどうしてバッチリ設定通りの持ち物ラインナップとなっている。


「それからステータスは、装備で調整してB下位ランクくらいの値に合わせてある」

「ギャゥー」

「そしてスキルだけど、メチャクチャ制限してある。以前の縛り状態なんかよりよっぽどしんどい縛りだもの」


 へんてこスキル各種が使えないのは当然として、多彩な魔法もごっそり禁止。使えるのは水と無属性のマジックアーツスキルが数個。あと、ココロちゃんが頑として譲らなかった治癒系マジックアーツが幾つか。

 完全装着は仕方ないとして、同じく万能マスタリーも有効。ただし剣しか使えない縛り。

 それに伴うアーツスキルは結構豊富にあるため、この辺りが命綱になるかな。

 あとは、気配探知系だとか、罠看破系のスキルなんかの、Bにまで上がるくらいの冒険者なら持ってても不思議じゃない汎用スキルをチラホラと。

 ああ勿論、秘密道具や精霊術なんていうのは以ての外だ。ただの魔道具なら、使用に制限はないけれどね。


「って感じかな……だいぶ心許ないけど、これでどうにかやりくりしなくちゃ。試しにそこら辺のモンスターで訓練とかしてみるべきかな?」

「ギュゥ……」

「え、やめておいたほうが良いって? まぁ、そうだね。もし囲まれるようなことになったらヤバいし、ここらのモンスターに関する情報もない。ってそうだった、情報収集も冒険者の基本だったね」


 危うく余計な危険に突っ込んで行くところだった。

 苦言を呈してくれたゼノワに感謝しつつ、私はエンカウントを避けてリィンベルの町へと足を早めたのである。

 町に着いたら先ず何処へ行こうか、何をするべきか、なんてことに考えを巡らせながら。



 ★



 天気は快晴。時刻は正午を過ぎ、私は既に疲労を覚えていた。

 普段なら重力魔法なりなんなりで、軽くひとっ走りできる距離が、よもやこんなにしんどいとは。時間も掛かった。

 約二時間くらい走って、ようやくたどり着いたリィンベルの町。

 例によって町は壁に囲われており、モンスターと人間との生存圏を隔てている。


 町門を通過し、最初に目についたのはやはり、町の真ん中にしかと聳え立つ時計塔である。

 頂上に大きな時計と鐘を備えた立派な塔だ。こう言っては何だけど、こんな田舎にほど近い町には少々似つかわしくないくらいには立派で、町のシンボルだと言われるのも頷ける。

 一方で町並みの方はと言えば、私からすると異世界情緒あふれる洋風建築が並んでおり、しかし王都や大きな街のそれと比べると、雑多で庶民的な印象があった。

 足元に敷かれている石畳からして、品質の差が窺えるのだから面白いものである。

 でも、こういう所のほうが肩肘張らなくて、過ごしやすいのかも知れない。


「さてと、先ずはギルドだね。それから宿……ああいや、先にお昼ごはんにしようか。もうお昼だものね」

「ギュゥ」

「でも、一人でお店を探して、入って、注文するのか……緊張するなぁ」


 思えば何時だって、そういうのは仲間たちがやってくれていた。

 いつの間にか私も、飲食店に入ることに抵抗なんて感じなくなっていたのだけれど、それってみんなが傍に居てくれたからなんだなぁ。

 早くも仲間たちの有り難みを実感しながらも、私はキョロキョロしながら通りを歩き始めた。

 探すのはお食事どころの看板。

 視線をあっちこっちに走らせれば、自然と他の色んなお店が視界に入り、何だかドキドキしてしまう。

 これだって、普段なら然程気になりもしないのだ。ああ、そういう類のお店ねーって感じでスルーできるのに。

 しかし今は、それらが妙に気になってしまう。フラフラと近寄っていっても、私をたしなめる仲間たちは居ない。


 かと思いきや。

「ガウ」

「あいてっ」

 ゼノワに頭を叩かれた。

 どうやら私をたしなめる存在は健在らしい。

 そう言えば昨日とか今日の朝とか、見えないはずのゼノワへ向かってみんなが「くれぐれもミコトをよろしく」みたいなこと言ってたっけ。

 私はそれを、過保護だなと苦笑して眺めていたのだけれど。

 しかしこうしてみると、案外ゼノワの存在は大きいのかも知れない。ああいや、契約精霊としては勿論メチャクチャ大事な相棒だと思っているけどさ。

 こう、付添人的な意味合いでね。


「いかんいかん、ごはん屋さんを探すんだよね。ええと……」

「グルゥ!」

「ん? お、確かにそれっぽいお店だね。なんかいい匂いもするし、行ってみようか」


 結局ゼノワに導かれる形で選んだお店で、おっかなびっくり昼食を摂った私。

 初めて一人(ゼノワと一緒)でごはん屋さんに入ったせいか、頼んだ料理が一層美味しく感じられた。

 お会計を済ませてお店を出る頃には、何だか一段大人への階段を登った気分である。

 不思議な高揚感を得つつも、同時に妖精師匠たちのことが脳裏を過ぎって、ちょっと怖くもなった。

 こうやって大人になっていくのかなぁ……なんて。


 お店を出る際、頑張って店員さんに冒険者ギルドの場所を訪ねておいたので、次の目的地へのルートもざっくりだが把握できている。

 時計塔へ向かって進んでいけば、やがてギルドを示す看板が目に掛かるとかいう話だった。

 言われたとおり、時計塔の方へと続く通りをてくてく歩く。

 見知らぬ町を、一人ぼっち。

 油断すると、不意に泣きそうになるのは何なんだろうか。寂しいなぁ。

 それだけ仲間たちに依存してた証拠である。


「ギュゥ」

「うん、平気。あ、看板ってあれかな?」


 通りを歩くこと暫く。ギルドへの道を知らせる看板が視界に入り、私はその案内に従って小走りに町中を進んだ。

 何故小走りなのかは、自分でもよく分からない。

 まるで拭えぬ不安に追い立てられるような、不思議な感覚だった。

 目的にしがみついていないと、迷子になってしまいそうな気がしたんだ。


 暫くてってけと足を動かしていると、如何にも冒険者っぽい二〇代くらいの男の人が歩いているのを見つけた。

 多分目的地は一緒なのだろう。それとなくその背を追いかけてみることにする。

 後をつけてると勘違いされやしないかって少しばかり警戒しつつも、それから更に一〇分くらい歩いた。

 緊張してるせいかな、時間が妙に長く感じられた。でも、思い返すと一瞬だった気もする。


 そうして気づけば私たちは、冒険者ギルドの前に立っていた。

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