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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第五一二話 はいよろこんでぇ!

「はぁ……どうするのよコレ。イクシスちゃんとの最高速での連絡手段を手に入れちゃったわよ……こんなの万が一他にでも知れたら大変よ? どうするのよコレ……」


 なんて、サラステラさんとの念話が一区切りした後、唐突に頭を抱え始めるクマちゃん。

 確かに遠距離通信一つとっても、多大なコストがかかるこの世界。

 しかも携帯電話なんてものはなく、通信用魔道具は当然据置式のものしか無いわけで。

 遠方の相手に連絡を取ろうと思えば、基本は手紙か伝言かというレベルである。


 そこに現れた、念話という異様な通信手段。

 確かに、もしもこれが然るべき権力者の耳にでも入ろうものなら、一体どういう展開が待っているのか。

 具体的に想像するのは難しいけれど、私にとって良からぬ事になるのは間違いないだろう。


「まさかこんなスキルが存在していただなんてね……それも、ミコトちゃんが持っているんだもの。てんこ盛りどころの騒ぎじゃないわ」

「嫁を褒められると気分が良いものですね」

「褒められてるのかなぁ」


 なんてクマちゃんの独り言に茶々を入れつつ、ようやっと話は本題へと戻ってきた。

 そう。私たちがわざわざこの場所へ足を運んだのは他でもない、イクシスさんと鏡花水月に振られた仕事を、どうにか軽減してもらえないかという交渉のためだった。

 事はイクシスさんをもってして『のっぴきならない』と言わしめる事態。

 それ故にどうにか融通を利かせてくれようとしたクマちゃんだったけれど、急にそんなことを言われてもどうにもならない、というのが本音だったわけで。


 そこで名前が挙がったのが、リリたち蒼穹の地平である。

 っていうところで話が脱線したんだけど。


「それでね、クマちゃん。リリたちにはこの念話で連絡が取れるわけなんだけど」

「! そう、それよ。もしかして蒼穹の地平の子たちは、ミコトちゃんの能力について知っていたりするのかしら?」

 話を振ってみれば、早速食いつきを示したクマちゃん。

 そこで真っ先に飛び出した質問は、リリたちが私に関する事情を把握しているのかと問うもので。

「そうだね、知ってるよ。ちょっとばかり変わった縁があってね」

「ふぅん」


 何とも匂わせるような言い回しにはなってしまったけれど、ここで骸がどうとかってことを言い出しても仕方がないと言うか、無闇に広めるような情報でもないため、無難にお茶を濁しておく。

 クマちゃんも、こちらに詳しく語るつもりがないと察したのだろう、言及するでもなく話を前に進めてくれた。

 ぽんと手を打ち、にっこり笑顔を作ると。

「そういう事なら、早速お願いしてみてくれるかしら。あなた達の代わりに仕事を請け負ってくれるように!」


 ズバリ言葉にされると、結構な迷惑を掛けちゃうことになるのだなと再認識させられる。

 そのうち埋め合わせをしなくちゃならないだろう。

 まぁそれはそれとして。

 私は早速蒼穹の地平へと念話を繋げると、事情を話し始めたのだった。



 ★



 ところ変わらず冒険者ギルド本部、グランドマスターの執務室。

 広々とした屋内には、クマちゃんはもとより、私たち鏡花水月にイクシスさん。

 そして、新たに連れてこられた蒼穹の地平の四人が加わっていた。

 リリたちは突然の出来事に、皆揃って顔をヒクつかせている。


「ちょっとミコト! 何よこれ、どういう状況よ?!」

「え、説明したじゃん」

「ふ、不十分です天使様……」

「これもミコト様の思し召し……そういうことですね」

「また面倒事の予感がするよ」


 こうして顔を合わせるのは久々の蒼穹の地平である。

 リーダーである魔法剣士、リリエリリエラは相変わらずプンスカしており。

 聖女さんことクリスティアさんもオロオロしている。

 ココロちゃんと仲良しのアグネムちゃんは、早くも何かを悟ったように順応し始めており。

 斥候役のクオさんは如何にも嫌そうな顔をしていた。


 現在はそんな彼女らを転移で連れてきて、クマちゃんに紹介を終えたところである。

 彼女らも特級PTであるため、一応軽くクマちゃんとは面識があるらしいのだけれど、こうしてガッツリ面と向かうことは初めてのようだ。

 尚、クマちゃんがオネエであるということには、今しがた一頻り衝撃を受けたばかりである。


「なるほどねぇ、あなた達はミコトちゃんの転移スキルについて既に知っているわけね?」

 何時になく鋭い眼光で問いただすクマちゃん。

 これまた何時になく、びしりと背筋を伸ばし答えるリリ。

「は、はい! 成り行きで!」

「へぇ、それはどういった成り行きなのかしら?」

「そ、それは……」


 と、そこへ。

「いいのかクマちゃん。また余計な情報が出てくるかも知れないぞ?」

 などとイクシスさんが口を挟めば、たちまち苦い表情を見せるクマちゃん。

 そっと右手で自身の鳩尾辺りを撫で、コホンと咳払いを一つ。


「いえ、余計なことを訊いたわ。気にしないでちょうだい」

「は、はぁ」

「それで、今回あなた達に来てもらった理由だけれど」


 そう言って語られる、ここまでの大まかな経緯。

 差し出される依頼書の束。

 顔を青くする蒼穹の地平。


「そういうわけだから、あなた達には頑張って欲しいの。お願いできるかしら?」

「……は、はいよろこんでぇ」


 リリは存外、長いものには巻かれるタイプなんだろうか。クマちゃんを前にタジタジである。

 っていうかその分のストレスを眼光に乗せて、思いっきりこっちを睨むの止めてほしいんですけど。

『あんた後で覚えてなさいよ?!』

 ひぇ、念話まで送ってきた。


 ともあれ、一応リリの言質が得られたということで話はまとまり、問題のネックとなっている部分は解消された。

 私たちが特訓期間に入るに当たり、手が回らなくなる分の依頼なんかはリリたちが補ってくれるようだ。

 そうと決まれば話は早い。

「よし話は決まったな。では長居しても悪いし、帰るとするか」

 とイクシスさんが席を立てば、それに倣って他の面々も立ち上がる。


「え、え、もう帰っちゃうの? もう少しなら居てくれても構わないのよ?」

「すまないクマ姐さん。我々も特訓の準備をしなくてはならないのでな」

「何かあればまた念話で連絡をしてくれ! あ、緊急でミコトちゃんを呼び出したいなら、秘密の転移室なんかを用意しておくと便利だぞ!」

「ちょっと、まさか私たちのこと放置して帰ったりしないでしょうね?!」


 なんて賑やかなやり取りの後、さっさとイクシス邸へ引き上げたのだった。

 勿論リリたちは、元いた場所へ送還してある。

 時刻にして一五時過ぎ。なかなか忙しない午後の一幕であった。



 ★



 そんなこんなで、一週間が過ぎた。

 あれこれと準備を行ったり、リリたちに詳しい事情を話したり、一人旅前に思い切り鍛錬したり、オルカたちの慣らし訓練にモンスター役として付き合ってみたり、例の作品の仕上げに入ったりなどなど。

 慌ただしく動いていれば、時間が経つのなんてあっという間で。


 気づけば、出発の朝を迎えていたのである。

 いつもと同じ、だけどいつもとは明らかに違う朝。

 どうしようもない高揚と、同居する不安を胸に感じながら、いつもより少し早く目が覚めてしまった。


 ソワソワした心持ちのまま朝のルーティーンをこなせば、普段より早めにイクシス邸へと飛ぶ私。

 昨夜は宴会だった。

 食堂は優秀な使用人さんたちの手で綺麗に片されているけれど、不思議とその余韻めいた空気感が感じられる気がして。少しだけ、寂寥感を覚える。


 仲間たちは、既に食堂に集まっていた。

 このあと彼女たちを然るべき場所へ送り届けたなら、そこから暫くは顔を合わせる機会もない。念話や通話でのやり取りもない。

 一時の疎遠が待っているのである。まぁ、大きな事件でもあれば別だけれど。

 それを思えば、どうしたって寂しい思いが湧いてきて。うっかり「やっぱり一緒にいようよ!」だなんて口走りそうになってしまう。

 別に、それではダメなんてこともないのだ。切羽詰まっているわけでもなし。


 それでも、別々の場所で頑張ると決めたのは他でもない自分たちだから。

 既にクマちゃんやリリたちにも迷惑を掛けてしまった。勿論イクシスさんにも。

 ここで引き下がる、なんてことは出来ない。

 これは、王龍を超えるための第一歩なのだ。


 私たちは湧き上がる弱音をどうにか押し殺しながら、努めて明るい会話を交わし、朝食のテーブルを囲ったのである。

 次にこうして食卓を囲う時、皆はどんな成長を果たしているのか。

 そんな、少しだけ先の未来を語り合いながら。

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