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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第五一〇話 次の根回し

 精霊であるゼノワと契約している限り、妖精師匠たちの姿が見えなくなるような事態にはならないんじゃないか。

 私のそんな、暴論とすら取れるような発言を聞き、ざわつく師匠たち。

 楽観的な意見だと眉をしかめる者もあれば、確かにそのとおりかも知れないと表情を明るくする者もあり。

 そうして結局出た結論はと言うと。


「前例のないことだから、ぶっちゃけ分かんない!」


 という、まぁそりゃそうかと言う他無い、尤もなものだった。

 とは言え、一つの可能性としては認めてもらえたようで。

 一先ず一人旅という話にまつわるあれこれは理解してもらったということで、そこからさらに暫し、師匠たちと意見を交わした後。

 ようやっと出た結論というか、落とし所というのは。


「つまり、これまで通り毎晩ちゃんと帰ってくれば、一人旅をしてもいいってことだね?」

「むぅ……まぁ、それなら」

「モチャコは意外と過保護だねー」

「ふふ、まぁ気持ちは分かるけどね。でもミコト、魔道具作りの修行を怠るようなことは許さないわよ?」

「ひぇ……り、了解」


 ということでどうにか話はまとまり、私は鉄格子の中よりようやっと開放されたのだった。

 それにしてもまぁ、こんな所に裏過保護組が存在していようとは。

 今後は師匠たちにもなるべく心配をかけないよう、注意しなくちゃならないだろう。


 ともかく、これでどうにか一人旅に向けての下ごしらえというのは、おおよそ整ったことになるわけだ。

 そうしたら後は、一人旅にあたっての初期装備品選定だとか、ストレージ内の整理だとか、仲間たちとの細かな打ち合わせなんかを行い、具体的な旅立ちの準備を整えなくちゃならない。

 師匠たちとともに地下空間を出て、一見なんでも無いような日常へと帰還する。

 けれどそこには、確かにこれまでとは少し違った空気が流れているような、そんな気配があった。

 それはさながら、家族の一人が長い旅行を控えているような、そんな形容し難い違和感。まぁ、その長い旅行を控えてるのは私なんだけど。


 しかしながら師匠たちの言う通り、今回の試みのせいでうっかり大人の階段を上がろうものなら、本当に師匠たちとお別れすることにもなりかねない。

 その点にはしっかり気をつけなくちゃならない。

 とは言え、どう気をつけていいものかも正直分からない。大人になるって難しいとは聞くけれど、子供のままでいるのもきっと難しいことなんだよね。

 一人旅を経験することで、私にも何かしらの変化が生じるものなんだろうか?

 それを思うと、少し怖くもある。


 だけれど、私の冒険は依然として『自分を知る』って目的が大きいように思う。

 不可解なことの多い私っていう存在。けれど私は、自身の不可解さってものを主観的にしか理解できていない。

 皆の目に私がどう映っているか。今更にはなるけれど、ここらで改めてそれを知るべきだと思うんだ。

 今回の一人旅では、一般的な『当たり前の価値観』を学ぶことで、相対的に自分を省みることが出来るんじゃないかって期待している。

 延いてはそれが、危機管理の見直しや、実感の伴った異常性の自覚に繋がるだろうとも。

 反面、大人に一歩近づいてしまうっていう恐さはあるけれど、その点は切実に精霊との繋がりってものに期待を寄せる他ないだろう。


 ともかく。

 斯くして期待と不安を胸に、私は早速旅の支度へと取り掛かったのだった。



 ★



「ってわけで、結局おもちゃ屋さんには毎日帰ることになったよ」


 イクシス邸にて昼食を摂りつつ仲間たちへそう報告すれば、彼女らはなんだか少しばかり安心したような反応を見せ。

「ミコトが普通に一人で宿に泊まるとか、正直悪い予感しかしなかったから、これは朗報」

「朝目が覚めたら宿が吹き飛んでいた、とか普通にありそうだからな」

「良からぬ輩がミコト様に目をつける、という可能性もあったのです!」

「ちゃんと毎日帰るのであれば、一安心というところですね」

 とかなんとか。


 実を言うと、単身で宿に泊まるって行為自体にちょっぴり憧れがあったのだけれど、どうやら叶いそうにはないみたいだ。

 まぁその分、他の部分で旅を満喫するとしよう。


「それで、みんなの方の準備はどう?」

 私の話題も一区切りついたところで、逆に皆の状況を確認してみる。

 私と違って皆は、命の危険が伴うような戦いを控えているのだ。

 それを思えば、準備にも相応に時間を割くはずである。


「こちらは、ミコトの補助がない状態での活動、というものに感覚を慣らしてからが本番だな」

 と答えたのはクラウで、その表情には少しばかり苦いものが交じっていた。

「念話が使えないっていうのが、想像以上にキツい」

「ですね。ちょっとした連絡を取るのにも一手間掛かるのです」

「マップもストレージもないので、ダンジョンでの立ち回りも大きく変わってきます。先ずは比較的簡単なダンジョンでその辺りも調整しなくてはなりません」


 そう。彼女たちは別に、個人個人で試練に当たるわけではない。

 昨日あれこれ話し合った結果、私を抜いた鏡花水月の面々は、彼女らだけで特級危険域の調査を続行することが決まったのだ。

 調査と特訓の両立、と考えれば確かに効率的かも知れないけれど、転移が使えない状態での特級危険域調査というのは、まぁどう考えても並大抵のことではない。

 だって先ず、補給が受けられないもの。


 村や町まではかなりの距離があり、フィールドを徘徊するモンスターだって強力なものばかり。

 とは言え、一応危険域との境には、チラホラと前線補給基地のような簡易拠点が用意されている。

 これは人類の領土を広げんとする各国やギルドなんかが協力し、特級冒険者や危険域に挑む開拓者なんかを支援する目的の施設である、とのこと。

 ここを拠点にして、危険域の調査やダンジョンの攻略を行うのが一般的な開拓者たちの立ち回りらしいのだけれど。

 何ならこの簡易拠点こそが、新たな集落や村、町へと発展する例もあるそうで。

 なかなかどうして、そういう話を聞くと、試験でダンジョンを一ヶ月以内に落としてこい、なんて言ったクマちゃんの無茶振りっぷりがよく分かる。

 そしてそれに応えてみせた、自分たちの異常さも。


 オルカたちは今回、そんな通常の特級冒険者業を体験することになるわけだ。

 その上で自らの限界に挑み、ステータスを伸ばしていこうというプランらしい。

 懸念されるのは疲労の蓄積だ。身体の疲労は勿論、精神的にもきっとしんどい活動になるはずである。

 私の一人旅なんかと比べたら雲泥の差だ。

 それでこそステータスアップの効率も上がろうというもの、なんて効率厨なセリフなど到底言えようはずもなく。

 私はただただ、皆のことが心配だった。


「はぁぁぁぁ……」

 と、深い溜息をつくのは、私以上に滅入っているイクシスさんである。当然のように同じテーブルを囲っていた。

 彼女がグッタリしているのは、愛娘であるクラウが心配だというのもあるわけだけれど。

「ごめんねイクシスさん、私たちの分の討伐依頼も請け負わせることになっちゃって」

 特級冒険者PTの認定を受けた私たちには、相応に困難な依頼が回ってくることになった。

 しかしあまりに機密の多い私たちの特性を鑑みて、クマちゃんが送ってくるのはシンプルな討伐依頼ばかり。

 さりとて今回の特訓プランを実行するに当たって、どうしたってこれには手が回らなくなるというのが現状である。


 そこで手を上げたのが、イクシスさんだった。

『それは私に任せておけ! ミコトちゃんの転移さえあれば、別にどうということもない!』

 と見栄を張ってくれたのである。

 しかしながら、イクシスさんが転移という移動手段を得たのだと知ったクマちゃんは、以前とは比較にならないほどの仕事をイクシスさんに送りつけてきたらしい。

 それに加えて私たちの仕事を肩代わりするというのだから、大丈夫なはずがないのだ。


「いや、うん、まぁ……このあとクマちゃんに事情を伝えて、仕事を減らすか期限を延長してくれるよう交渉してみるつもりだ」

「勝手に話を進めてるもんね、私たち。クマちゃんがもしダメって言ったら、この計画も根っこからひっくり返さざるを得ないね」

「今回も、どこまで情報を提示して良いか難しい案件になりそうですね」

「正直に『隠しフロア』とか『王龍』なんて言ったら……」

「まぁ普通に考えて、母上を派遣してさっさと王龍を撃破しろ、という流れになりそうだな」

「それは困ります! ココロたちがリベンジするんですから!」


 隠しフロアについては、イクシスさんですら驚くような大発見だ。

 となれば必然、この情報を冒険者ギルドに開示しようものなら、すぐさま調査が行われるのは間違いないだろう。

 しかしながらそうなっては、私たちのリベンジマッチに横槍が入ることになる。

 たとえその結果、王龍の持っている情報を聞き出すことが叶ったとしても、当然納得は行かないはずである。

 やっぱり、王龍には私たちの超えるべき壁として待ち構えていてほしいと。それが正直な気持ちだ。


 なのでクマちゃんには悪いのだけれど、今回も情報を出し渋ることになってしまうだろう。

 とは言っても、鏡花水月は修行期間に入るから仕事を減らしてくれー、だなんて言い分が通るとも思えないけれど。

 果たしてイクシスさんは、どういった交渉術で猶予を引き出そうというのか。

 クラウのママなだけあって、彼女も嘘や誤魔化しの類はメチャクチャ下手くそだしね。

 大丈夫なのだろうか……?


「最悪の場合、私にとっても鍛錬だと思って乗り切るさ。大丈夫大丈夫、あの頃の地獄に比べれば……家に戻って休めるだけで天国みたいなものさ」

 なんてハイライトの消えかかった目で語るイクシスさんである。

 彼女が偶にしてくれる昔語りによれば、恐るべき強敵との連戦に次ぐ連戦。酷い時は安眠は疎か休憩すらろくに取ることも出来ぬまま、死物狂いで剣を振ったとか。

 確かにそれと比べれば、各地を移動しまくってモンスターを狩るなんて、然程の事でもないのかも知れない。

 って、それはダメなやつだ。あまりに過酷な体験が尾を引いて、感覚がバカになってるやつ!


「け、健闘を祈ってるよイクシスさん……」

「っていうかミコトちゃんも一緒に行くんだけどな」

「え」


 考えてみたら当たり前の話である。

 この世界にも一応、遠距離通信用の魔道具は存在しているのだけれど。しかし、通信コストは電話の比ではない。

 このイクシス邸にも一応、緊急用の通信魔道具は置いてあるらしい。が、それが用いられるのは余程の緊急事態の時。

 まして今回のように、ちょっと長話になりそうな用件ともなれば、通信に一体どれだけのコストが掛かるものか。

 魔道具を動かすのは、モンスターが落とす魔石だ。

 当然質が良いものは強力なモンスターからしか取れないし、そうなれば必然値段も高価になる。

 まぁイクシスさんはその点、良質な魔石を腐るほど保有しているから問題ないとしても、相手側はそうも行かない。

 冒険者ギルドなら、それこそ魔石なんて幾らでも保有してそうなものだけど、それでも常用は難しいらしい。私からしたら、むしろどうしてそんなに高く付くのか疑問なのだけれど……。

 それに相手は忙しいクマちゃんである。通信してみたは良いけれど、応対してくれるかどうかは運次第。ダメだった場合、使った魔石が無駄になる。


 であれば、私と一緒に直接王都へ出向くのが一番手っ取り早く確実である、という話。

 斯くして私はイクシスさんとともに、再び王都へ向かうことになったのだった。

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