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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第五〇九話 家族会議

 殺気立つ妖精師匠たちを落ち着かせるのには、まぁ骨が折れた。

 流石に実際戦闘にまで発展することはなかったけれど、あそこまで一触即発の事態になろうとは予想もしてなかった。

 とは言え、私は依然として檻の中。

 どうにか一人旅云々という話の経緯を説明し、一先ず理解はしてもらえたようではあるけれど。

 それでもまだ、納得はいってないようで。

 出入り口のないケージの中、私は師匠たちより投げかけられる質問に、一個一個丁寧に答えていった。


「本当に出ていく気はないんだね?!」

「無いってば。ここはもはや、私の実家みたいなものだもん」

「悪い人間に攫われたらどうするんだ!」

「ワープで逃げるから大丈夫。そもそも攫われるような原因を作らないよう、仲間たちとたくさん話し合ったし」

「ちゃんと毎晩帰ってくるのよね? ね?」

「それをみんなと話し合いたかったんだけどなぁ……」


 するとそこへ、モチャコがそもそも論を投げてくる。

「っていうかさぁ、仲間たちがそんな大変な修行をしている間、ミコト一人だけフラフラしてていいの? ミコトも腰を落ち着けて頑張るべきなんじゃない?」

「う。」

 見事な正論パンチである。


 それに関しては勿論、仲間たちとの話し合いでも指摘がなされた。

 事は対王龍リベンジに向けた準備である。

 ならば私自身もまた、力を蓄える必要があるというのは間違いない話で。

 にもかかわらず一人旅だなんて、そんな成長効率の悪そうなことをしている場合なのか、と。

 モチャコも的確に、その点へ目をつけたようだ。なかなか鋭いな。


 対する私の答えは、これも仲間たちとの話し合いで既に出たものであり。

「私の場合、ステータスは装備次第で変わるからね。ステータスを鍛える、っていう今回の特訓目的は、私にとってあまり関係がないんだ」

「む。だけど鍛えたら何か新しいスキルとか芽生えるかも知れないじゃん!」

「そ、それはソフィアさんにも言われたけど……」

「だったら!」


 余程私にフラフラしてほしくないのか、ほら見たことかとこれ見よがしに前のめりになるモチャコ。

 そんな彼女をどうにか落ち着かせつつ、私は言葉の続きを語った。


「スキルに関する鍛錬なら、暇があってもなくても常に続けてるよ。こうしてる今だってほら」

 自身の足元を指差し、微妙に床から浮いてることをアピールする私。飛行のスキルである。

 それ以外にも、目に見えないバフだの何だのというスキルを常時展開していたりする。

 するとそれを見たモチャコは。

「そんなのは知ってるよ! アタシが言いたいのは、これを機にもっと大規模にやればいいじゃんってこと! それにスキル以外の鍛錬だって出来るでしょ?!」


 それは確かにそうだ。

 常時行っているコソコソ鍛錬と、それ専用に設けた時間で思い切り鍛錬するっていうんじゃ、その効率は当然大きく異なる。段違いだ。

 ならば皆が頑張っている時間を、そうした本格的な鍛錬にこそ当てるべきだ。モチャコはそう言っているわけである。

 スキル鍛錬以外にも、剣術や体術などのスキルに頼らない武術を学ぶのもいいだろうし、ソフィアさんの魔術を教えてもらう、なんて手も無いわけじゃない。

 或いは精霊術に本腰を入れるのも当然有意義だし、他にも魔道具作りに集中するって選択肢もある。

 それらをほっぽりだして、何故今一人旅なのか。モチャコはそれが解せないらしい。


 なので私は、先ず前提を一つ提示することにした。


「そもそもね、王龍リベンジっていうのは、それほど慌てて行わなくちゃならないような事じゃないんだよ」

「! ……それは、そう、なの……?」

「うん。もしあの隠しフロアが消えちゃうとしても、また攻略し直して出現させればいいだけだし。急いで王龍が持ってる情報を聞き出さなくちゃならない、なんて理由もない。だから私が慌てて強くならなくちゃいけない理由も、実は無いんだよね」


 負けて悔しい! 次は勝つ! そのために今出来ることは何だ?!

 っていうノリで、特訓プランがぶち上がりはしたものの。

 さりとてそれは、大慌てでやらなくちゃならないようなものでもない、というのが実のところである。


「だ、だったらミコトの仲間たちは、なんで命懸けで頑張ってでも強くなろうとしてるのさ! おかしいじゃん!」

「ステータスを伸ばすためには、私と別行動をするのが一番効率が良いんだ。でものんびりそれをやってたら、何時まで経っても鏡花水月としての活動が再開できない。かと言って私と一緒だと、成長が鈍くなって王龍に勝てるのが何時になるかも分からない。だからみんなは、出来る限り急いで強くなろうとしてるんだよ」

「…………」

「私としては、もっと時間を掛けてでも安全に強くなってほしいんだけどね……でもどの道、強くなるためには死力を尽くす必要があるから、危険なことに変わりはないんだけどさ」


 こうして考えると、ステータスを上げて強くなろうっていうのは生半可なことではないんだ。

 それを思えば、多くの人がステータス50にも満たず生涯を終えるっていうのも分かる話である。

 たとえ努力してみたところで、そのまま落命してしまうケースもあるわけだしね。特にこの、モンスターやスキルの溢れる世界ではそう珍しいことでもない。


「対して私はって言うと、特訓は割と何時だって出来るんだよ。それこそ一人旅の合間にだってね」

「で、でも……」

「逆に一人旅こそ、今しか出来ないんじゃないかなって思ってる」


 今回のことでよく分かったように、私が抱えてる秘密については元より、私そのものに関しても、皆はよく気にかけてくれている。

 だから、平時に私が一人で旅に出たい、なんて言ってみたところで、それはまず叶いっこないはずである。っていうかメチャクチャ叱られると思うし。

 そうなると、私がこんなことを言い出せる機会っていうのは、今を逃すと当分回っては来ないはず。

 最悪、死ぬまでソロとは無縁の活動を強いられるかも知れない。

 それに今回にしたって、色々と制約をつけられたし、イクシスさんの仕事の手伝いもしなくちゃいけないしで、完全な一人旅とは言い難いものが既に予想されるわけだけれど。

 それでも、貴重な機会であることに変わりはない。


「…………」

「モチャコ……分かってくれた?」

「…………」


 私の説明に、どうやら一応納得は覚えてくれたらしいモチャコ。

 それでも、その表情は晴れなくて。

 するとその傍らへ、フワリと飛んできたのはトイとユーグだった。

 彼女らは苦笑を浮かべつつ、黙ってしまったモチャコの思いを代弁してくれる。


「モチャコはねー、心配なんだよー。ミコトの目に私たち妖精の姿が見えなくなっちゃうんじゃないかーってー」

「!」

「子供は旅を経て成長し、大人になっていく。大人になったら私たちとは触れ合うことも、お互いの姿を認め合うことすら出来なくなっちゃうものね……」


 旅は人を成長させる、だなんて何処かで聞いた話ではある。

 それは妖精たちの間でも知られているのか、はたまた人間の子供としか交流を持てない妖精だからこそ、ある種偏った認識が根付いてしまっているのか。

 とどのつまり、妖精たちは『子供が旅をすると大人になる』、みたいな迷信めいた認識を持っているようだ。

 そして私が大人になったら、こうして妖精師匠たちと言葉を交わすことも、触れ合うことも出来なくなってしまう。

 モチャコをはじめとした皆は、それを強く懸念しているらしい。

 ……がしかし、そこでふと一つ疑問が浮かぶ。


「あれ、でも私これまでだって、仲間たちと結構旅してるけど」

「? ミコトのはー、旅っていうかー」

「毎日外に遊びに出かけてるようなものじゃなかったの?」

「失敬な!」


 そ、そんな風に思われてたのか! そりゃ確かに、毎日夜になったら帰ってくるけどさ!

 でも私だって結構、頑張って冒険者活動してたんですけど!


「冒険者活動は、一応お仕事みたいなものだしっ」

「はいはいそうね、子供は遊ぶのが仕事だものね」

「!?」


 な、な、な……。


「そんなことよりミコトは、アタシたちのことが見えなくなってもいいっていうの?!」

「そ、そんなこと……」

「どうなの?!」

「あ、はい。えっと……勿論それは嫌だよ。帰る場所を失うようなものだもん」


 問い詰められ、私は率直な気持ちを述べた。

 モチャコをはじめ、師匠たちにとって私はどうやら、我が子のようなものらしい。

 年齢はようやく一歳になろうという私。この世界に親はなく、孤児と言われても否定の出来ないような状態だ。

 そんな私を自分たちの家に住まわせ、魔道具づくりや精霊術まで教えてくれた妖精師匠たち。それになんやかんやと、細かく世話を焼いてくれたりもする。

 一方の私にしたって、モチャコたちは師匠とか友だちとかいう段階をとっくに過ぎた、もっと親しい存在だとは感じていた。それこそ、家族のようなものだ。

 そう考えると、なるほど。モチャコたちがこの世界での親代わりだっていうのも、あながち間違いとは言えないか。


 一人旅に出たなら、そんな家族たちと会えなくなってしまう。

 一時的な別れとかではなく、永遠にお互いを認識できなくなってしまうわけだ。

 そう考えると……うん。想像しただけで泣きそうになる。許容し難いことなのは間違いない。


「だったら一人旅とかやめてよ! 暇なら魔道具作り頑張ればいいじゃん!」

「暇、ではないんだけどな……」


 仮に一人旅が中止になったとしても、他にやることは幾らでもある。集中的に鍛錬を行う、とかさ。

 まぁでも、モチャコが最も懸念している内容は分かった。

 それに対して、私は一つ思いつくことがあり。

 またいつの間にやら頭に乗っかっているゼノワを抱え降ろし、ずいとモチャコたちの前に突き出すと、私は言ったのだ。


「っていうか、もしかしてなんだけどさ。私ゼノワと契約して精霊術師になったわけだし、妖精が見えなくなることって無いんじゃないかなぁ……って思ってるんだけど。違うのかな?」

「……………………」


 どうやら、想定していなかった問いかけだったらしい。

 モチャコばかりか、トイもユーグも他の師匠たちも一斉に黙り、首を傾げると、ザワザワとざわめきが起こったのだった。

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