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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第五〇八話 寝泊まりについて

 一夜明け、早朝。

 昨夜の話し合いにて、一人旅を行い仲間たちと暫し距離を取ることが決まった私。

 今日はそれに向けての準備を行う予定だ。


 今やすっかり馴染んだおもちゃ屋さんのふかふかベッドで目を覚まし、朝の身支度を整えたなら作業部屋へ。

 未だに欠かさずせっせと続けている、魔道具作りの修行。

 実は最近、ちょっと手の込んだ作品に取り掛かっており、その製作作業が一つの楽しみとなっていた。

 今朝も試行錯誤しながら部品を作ったり組み込んだり失敗したりを繰り返し、師匠たちのアドバイスなんかももらって、難しくも楽しみながら製作作業に従事した。


 その後はゼノワのご飯やりと、精霊術の訓練だ。

 精霊の力は、あんまりホイホイ気軽に使って良いようなものではない、と思っているので、仲間たちの前で披露する機会こそ少ないけれど、実は毎朝しっかり訓練はしているのだ。

 こちらもモチャコたちの指導の元、新技を教えてもらったり、基本を磨いたりと、努力を欠かしてはいない。おかげで毎朝結構忙しいわけだけれど。


 そうしたら次は、イクシス邸へ飛んで朝ごはん。

 食堂にて仲間たちと顔を合わせれば、一見普段どおりの彼女たち。

 けれどその内心は何処かソワソワしていて、空気感も少しだけぎこちないものを感じた。おはようの挨拶に返ってくる声にも、努めて普段どおりにしようという意識が働いているようだ。

 しかし無理もない。昨日は、結構大事な決定をしたのだから。

 ステータスを効率よく伸ばすための特訓は、命に関わるような厳しいものとなる。

 皆は近日中に、それに挑むことになるわけだし、今日から早速その準備が始まるのだ。

 それに私の一人旅のこともあるし、それらを思えば普段どおりに、というのはやっぱり難しいのだろう。


 ともあれ、取り敢えずいつものようにオルカの隣へ腰掛けると、早速皆の話に加わる私。

 するとそこで交わされる会話の内容というのもまた、やはりと言うべきか特訓に関するもので。

 特にバトルジャンキーの気があるクラウなんかは、意気込みを嬉々として語っていた。

 その隣に座るイクシスさんの表情は、何とも形容し難いものだったけれど。


「勝ち目の薄い相手に挑んで、無理やり勝ちをもぎ取る。ああ、血が滾って仕方がないな……!」

「ママは心配でたまらないぞ……」

「ミコトの共有してくれてるスキルも、暫くは使えなくなる」

「慣れるまで時間が掛かりそうですね……」

「私はそれだけで生きた心地がしません……」


 オルカたちの特訓に際し、私の能力共有はストップすることが決定している。

 勿論PTストレージなどもその対象であるため、彼女たちはいざとなった時の離脱が不可能になるわけだ。

 逃げ道はなく、殺るか殺られるかの戦いを強いられることになる。

 PTストレージ内にはみんなの私物なんかも結構入っているので、それらの整理ができ次第共有化を切る手はずとなっている。

 マップも念話も使えず、通話も遮断。

 緊急用に、一応秘密道具の通信機くらいは持たせるつもりだけれど、既に心配で仕方がない。

 私よりもみんなの身が無事であるよう祈るばかりである。

 っていうか既に、ソフィアさんがグッタリしているけれど。


「嫁との絆が断たれるようなものです……はぁ……」

「ある意味ミコト様のスキルに誰より依存していたのはソフィアさんですからね。これを機にミコト様の偉大さと有り難みを噛みしめるが良いのです」

「! なるほど、離れて過ごした時間が愛を育む、というやつですね。ココロさんにしては良いことを言うじゃないですか!」

「そういう意味で言ったわけじゃないんですけど……これを機にミコト様をお嫁さんだなんて妄言を改めるべきだと」

「どうしましょう、私なんだかドキドキしてきましたよミコトさん!」

「知らないよ!」

「聞いちゃいないのです……」


 まぁ、ソフィアさんなら大丈夫か。

 なんて話をあれこれしていると、不意に話題は私の方へと向き。

「そう言えばミコト、寝泊まりに関しては決まったのか?」

 という問が投げられたのである。


「ううん、それについてはこのあと師匠たちと相談する感じかな」

 それは、一人旅に際する私の寝場所についての話だ。

 これまで私は、おもちゃ屋さんに設けられた自分用の寝室で夜を過ごし、今朝のようにルーティーンをこなして冒険者活動を行ってきたわけだけれど。

 しかしながら一人旅をそんな調子で行っていいのか、というのが昨日の話し合いで話題に上ったのである。

 あ、ちなみにスイレンさんも居たため、私は実家通いで活動を行っている、みたいな設定がでっち上げられた。

 そのスイレンさんは話し合いの後、レッカと一緒にグランリィスの宿屋へ戻っていったけれど。


 おもちゃ屋さんからの通いで一人旅をする。

 確かに、それってどうなんだろうという思いもあるのだけれど、しかし寝ている間の自身のことを思うと、そこらの宿で外泊するっていうのは結構なリスクになりかねないんだ。

 私が危険って言うより、宿が危険っていう意味で。

 それに魔道具作りの修行もあるし、ゼノワのご飯や精霊術の訓練もある。

 頑張ればまぁ、都合をつけることも出来るだろうけれど、そこら辺はやはり師匠たちに一度事情を話した上で相談して決めるべきだろう。


「一人旅のせいで、ミコトの鍛錬が疎かになったら意味がない」

 とはオルカの言。

 それはたしかにそのとおりだし、私もそう思う。

 っていうか、この私が鍛錬を疎かにするだなんていうのは、あっちゃいけないことなんだ。

 なので、これを引き合いに出されると私はめっぽう弱い。

「まぁ、うまい落とし所を探ってみるよ」


 そんな具合に、私は朝食を終えてイクシス邸を後にした。

 普段ならこのあと何かしらの活動に移っていくわけだけれど、今日は師匠たちと話をするためにおもちゃ屋さんへUターンである。

 はてさて、モチャコたちは私の一人旅について、どんなコメントをするのやら。



 ★



 おもちゃ屋さんがお店を開くタイミングは、結構気まぐれだったりする。

 基本的には日中に開いており、長い日は日没近くまで開店していることも。

 かと思えば唐突にお休みすることもあり、そもそもお店自体が転移するものだから、お客さんである子供からすると本当に摩訶不思議なお店である。

 お店と言いながら、妖精たちは対価を求めないしね。

 そういう意味じゃ、お店と言うよりボランティア活動に近いのかも知れない。


 まぁともかく、そういうわけで日中のおもちゃ屋さんには子供が屯している可能性があるわけだ。

 なので転移による帰宅にも注意が必要で。

 私は透明化の魔法や気配遮断などを用いた上で、おもちゃ屋さんの裏手へ飛ぶと、子供の気配がないのを確かめてから裏口より中に入った。

 魔法を解除し作業部屋まで行けば、その道すがら、普段は出かけている時間に私が戻ってきたせいか、驚いた顔の妖精師匠たちとチラホラすれ違った。


 そうして作業部屋でも、案の定目を丸くしたモチャコに迎えられ。

「あれミコト、何さ今日はずいぶん早いんだね。友だちとケンカでもした?」

 などと首を傾げ問うてくる。

 半分冗談のような質問に、ふと私のいたずら心が働き。

 ニヤついたモチャコへ向けて、私ははっきりと言ったのだ。


「私、ちょっと一人旅に出てくるから」


 瞬間、固まるモチャコ。宣言を聞いていた他の師匠たちも同様だった。

 まるで時間が止まってしまったかのような数拍が過ぎ去り、不意にモチャコが何かを言わんと口をパクパク。

 しかし流石に冗談だと思ったのだろう。大きなため息をついた彼女は、

「もぅ、変な嘘つかないでよ。ミコトに一人旅なんて出来るわけ無いじゃん」

 なんて言って、ケラケラと笑い飛ばしてくる。

 が、しかし。

「ううん、嘘でも冗談でもなくて。みんなと昨日話し合って決めた、ちゃんとした予定だから」

 と真面目な顔で訂正すれば、いよいよ顔を真っ青にするモチャコ。


 かと思えば、

「ふ……ふ……っ」

「ふ?」


「ふん縛れぇぇぇ!! ミコトを取り押さえろぉぉぉ!!」


 その小さな体から、どうやってそんな声量を出しているのか。

 おもちゃ屋さん中に響き渡ったその声に応じ、作業部屋へ雪崩込んでくる妖精師匠たち。

 かと思えば、あっという間にロープでぐるぐる巻きにされる私。

 ただのロープではない。妖精師匠たちお手製のすごいロープだ。

 もとより抵抗するつもりもないけれど、仮に私が全力で抵抗を試みたところで、きっと抜け出すことはかなわないのだろう。

 何せ師匠たちは、禁断の『スキルを封じる魔道具』なんてものまで実用化しているくらいだから。


 そんなわけで、あれよあれよと拘束された私は、おもちゃ屋さん地下の真っ白な部屋に連行され、即席で作られた檻の中に放り込まれてしまった。

 ちなみにおもちゃ屋さんの地下とは言うけれど、多分厳密には何処かに転移したか、或いは謎の空間拡張技術で作られた部屋だ。

 普段は技術実験などに用いられている、とても頑丈な巨大な空間である。


 そんな広々とした白い部屋の中、黒い鉄格子に囲われた私。

 檻の外側には師匠たちが居り、ぐるりと周囲を囲うよう展開している。

 何時になく目が怖いんですけど。


 すると、突然の展開にろくなリアクションも出来ずにいる私へ向けて、モチャコが哀しげに話しかけてきた。

「もしかしたら、いつかこんな日が来るんじゃないかって思ってたんだ……」

「え、うん。え……?」

「子供はいつか、巣立って大人になるものだって。だからミコトもやがて、私たちの元から巣立って居なくなっちゃうんじゃないかって……」

「あ、あー……そういう……」

「だけど!!」


 スン、と。

 気づけば師匠たちの背後に現れ、こちらを見下ろす作業用の人形たち。勿論師匠たち謹製の人形だ。

 普段はおもちゃ作りのための資材採集などを担うも、実は戦闘もこなせるヤバいやつらである。

 以前ソフィアさんとの力比べに負けて以来、更に改良を重ねられ、今では多分特級危険域のモンスターですらも、まったく相手にならないんじゃないだろうか。

 それに師匠たちからも、何だったら精霊術まで使ってきそうな程の本気を感じる。

 そんな皆を前に内心で恐々としている私へ、モチャコは叫んだのだ。


「ミコトを巣立たせたりなんてしない! ミコトは、アタシたちみんなの子供だもん!!」

「えぇ……??」


 えっと……その発想はなかった。

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