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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第五〇三話 燃ゆる瞳

 轟くような風切り音は、迫りくる尻尾よりも僅かばかり遅れて聞こえてきた。

 果たしてそれは、奴の尾が音の壁を超えた証左か、はたまた音に気づいたのが遅れただけか。

 何れにせよ、確実に死の気配は目前にまで迫っていたのである。

 クラウが盾を構える。私はクロノスタシスを既に携えており。

 そして、時間拡張の効果を発動したのである。


 クラウが盾で受けたなら、如何に重い攻撃だろうと跳ね返すことが出来る。

 ただし、彼女が受け止められる衝撃の大きさに、許容限界がないとは明言されていないのだ。もしもということは十分に考えられるし、それ以前の懸念もあった。

 ジャストガードは既に奴に知られてしまっている。であれば、何かしらの対策を打ってくる可能性は少なからず考えられた。

 すると案の定と言うべきか、奴の尾はその軌道を僅かにずらし、盾への衝突を避けるような予兆を見せたのである。

 やはり、何か考えがあるらしい。


 色褪せた世界。時間の流れが一気に緩やかになった光景の中だからこそ、私はそれに気づいた。

 恐るべき速度で迫りくる巨大な尻尾に、否応なく縛られるクラウの意識。

 そんな彼女を睨む奴のその喉元に、膨大な力の塊が生じていたのだ。

 直感した。あれは、ブレスの予兆であると。

 つまり奴は尻尾を囮にし、一気にこちらを龍の息吹でもって消し飛ばしてしまおうという算段なのだろう。

 恐るべきは、予備動作の少なさだ。ブレスといえば本来、もっと発射のために踏ん張ったりするものだが、尾を振るう刹那の時間で発射準備を整えるなど、馬鹿げた話である。

 それに、相変わらず心眼での予測も難しい。囮を使うだなんて搦手を振っておいて尚、狙いが殆ど読めないというのだから筋金入りだ。

 流石のクラウとて、桁外れの力を持つ王龍のブレスとなれば、とてもじゃないが耐えきれるものではないだろう。

 仮に耐えられたとしても、無傷でとはいかないはずだ。


 それを思えば、クロノスタシスで時間を拡張し、奴の狙いを看破できる暇が得られたのは僥倖以外の何物でもない。

 となれば、奴の思惑を全力で阻止せねばなるまい。

 スローの世界に於いても尚、到底ゆっくりとは呼べぬほどの速度で迫ってくる尻尾を前に、私は急ぎクラウ、ゼノワ、そしてレッカを連れて奴の腰の下、尻尾の付け根部分へテレポートした。

 ここならば、流石の王龍でも咄嗟に尻尾でどうにか出来るものではないだろうし、ブレスを吐くにもよろしくない場所である。

 僅かに遅れて自らがテレポートしたことに気づいたクラウらは、一瞬小さな驚きを見せるも、即座に次の行動に移る。


 念話はスロー世界に居ても、正常に稼働している。音声をスロー再生するように、低く間延びした感じにはならない。

 何せパッと思ったことをそのまま思念として飛ばすのが念話である。

 普段よりリアクションまでの間は空きこそすれ、やり取りに大した支障はない。

 だから、クラウよりの声も早速届いているわけで。


『おいどういうことだ! 私が囮になるんじゃなかったのか?!』

 本来であれば彼女を残し、残りのメンバーで逃げ回りながらレッカの振るう大技の準備が整うのを待つ手はずだった。

 ところが急遽一緒に転移したことで、予定がすっ飛んだクラウは必然、小さな手持ち無沙汰に見舞われ、事情の説明を求めてきたわけだ。

 しかし直後、標的を見失った王龍がデタラメにブレスを放ち、大破壊が生じたのを音や衝撃で察したクラウは、『いや、すまん。分かった』と、即座に納得を示した。察しが良くて助かる。


 他方でレッカは更に愛剣を燃え上がらせ、膨大な熱量を着々とその剣身に集約させていた。

 王龍と自身の力の差を把握するには、最高の一撃を叩き込んでこそである。そう思えばこそ、力の入れ様は凄まじく。

 今繰り出せる最高の一太刀を放つべく、とてつもない集中力を発揮するレッカ。

 そして、そんな美しく燃え盛る彼女の剣に、見惚れているのはゼノワである。

 派手なものに目がない彼女は、どうやらその炎が随分とお気に召したらしい。

 或いは、自身の限界に挑もうとするレッカのその姿勢に感化されたのか。


 ともかく、どうにか王龍の攻撃をやり過ごせはしたものの、足を止めている時間なんて一秒たりともありはしない。

 すぐさま奴の頭がぐいんとこちらを振り向き、ブレスの二射目を用意しに掛かったのだ。

 ブレスの威力は凄まじく、尻尾での薙ぎ払いなどとは比べるべくもない威力を誇っている。しかも照射系の攻撃となれば、クラウのジャストガードも当てには出来ないだろう。

 しかしかと言って、皆で一緒に逃げ回っていても仕方がない。


『クラウ、作戦変更! 私と一緒に奴を撹乱しよう!』

 一つ所に留まるのは危険。なれば、ヘイトを集めながら動き回ればいい。

 レッカを離れた位置に置き、ガードにはゼノワをつけておく。

 そしてヘイトの取れるクラウと私で一緒になって、あっちこっち飛び回りながら奴の注意を引きつける作戦だ。

 時間拡張はMPをバカ食いするので一先ず解除すると、クラウからはすぐに了解の返事が来た。


 そうと決まれば即座に実行である。

 レッカを玉座の間の隅っこにテレポートさせ、私たちもまた奴の腹の下へと転移。灯台下暗しというやつだ。

 尤も、そこでヘイトを取るためのスキルを発動しようというのだから、見つかるのはあっという間なのだけれど。


 即座に飛んできたのは蹴りだった。存外足癖の悪いやつである。

 しかしこれには、クラウがジャストガードで対応。

 例によって本気の蹴りとは程遠い、つま先で突く程度の威力。

 それでも私たちにとっては、決してまともにもらうわけには行かない恐るべき殴打だ。なにせサイズ感としては、破城槌をも軽々と上回る大質量の激突である

 けれど見事にこれを盾一つで跳ね返したクラウ。その瞬間、私はテレポートを再発動。

 奴の意識が逸れる場所を狙い、転移を繰り返した。


 だというのに、奴はイラつきを感じるでもなく淡々と対処してくる。

 それは正に、対戦ゲームでCOMを相手にしているような感覚そのままであり。

 奴がただのモンスターだとは、やはりどうしても思えなかった。が、今はどうでもいいことだ。


 如何に王龍のスペックが優れているにせよ、こうして撹乱に徹するのであれば状況を維持できる。

 とは言え、あまりこんなことを続けていたのでは、奴が先にレッカを排除しようという考えに至るのは必然。

 そうさせぬようにと、私とクラウは必死に奴の注意を引き付け、次第にそれは危険度の高い挑発を交えるようになっていった。

 敢えて王龍の目の前を横切ってみたり、攻撃を仕掛けてみたり、目くらましをかましたり。


 そんな具合にヒヤヒヤしながら飛び回り、いよいよ私のMP残量が心許なくなってきた頃。

 ようやっと、待ちかねたその声が届いたのである。


『ごめん二人とも。待たせたね!』


 準備完了を知らせるその一言を機に、状況は大きく動いた。

『行ける?』

『いつでも!』

 やり取りはそれだけ。

 次の瞬間には、その場で愛剣を振りかぶるレッカ。

 その時だ。異変を察知したのだろう、王龍の首がギュルンとレッカの居る方向へ勢いよく向けば、その口腔には既に膨大な魔力が凝縮されており。


 間髪入れず、奴はレッカめがけてブレスを吐き出したのである。

 だが。


 部屋の隅に居たはずのレッカは、王竜の右目にでかでかと映り込んでいて。

 その生々しくも美しい瞳へ向けて、鮮烈な一撃を叩き込んだのである。


「っぜぁあああああ!!」


 大気を揺さぶる掛け声。鮮血のように紅い炎。

 秘めたる熱量は、もはや如何程か想像すら及ばない。

 ただ一つの事実として、彼女の炎は確かに燃やしたのだ。


 王龍の右目を、燃やしたのである。


 しかしそこまでだった。

 痛みに怯んだ奴は、仰け反りついでにレッカを自慢の尾で叩こうとした。

 対してレッカは、何の反応も示さない。

 否。彼女の意識は、ぷっつりと途絶えていたのである。それ程までに、今の一撃にすべてを注いだということなのだろう。


 レッカを確かな脅威と判断した王龍。繰り出したるその尾は、これまでよりずっと確かな攻撃の意思を載せた、強かな一撃だった。

 だからこそ、読みやすかった。


『させんよ!!』


 レッカと尾の間に現れたるは私、クラウ、ゼノワ。

 クラウへは私とゼノワが盛れるだけの防御バフを盛り付け、彼女自身も入念に自己強化を施した上で、尾の一撃を盾で受けた。無論、ジャストガードである。

 だが、攻撃の威力が先程までの比ではない。ジャストガードでも攻撃を受けきれず、僅かな拮抗が生じた。

 足場は空間魔法にて作った透明の床。レッカは既にストレージへ収納済み。


 本来ならもう、去ってもいい局面なのだ。退却するべき場面なのだ。

 しかし、クラウもまた言うのである。

『私も、挑戦してみたい』と。

『加減抜きの、奴の攻撃を受けてみたい』と。

 分かりやすくレッカに感化されてのことだろう。


 それでも、私たちは協力したのだ。彼女の意志を尊重し、チームとしてこれに当たった。

 その結果。


 バヅン!! と、耳をつんざくほどの破裂音。

 弾かれたのは、奴の尾だった。先程までの小さな後退ではなく、勢いよく尻尾が弾き飛ばされ、王龍本体すら姿勢を崩したほどである。

 クラウは、見事王龍の一撃を受けきったのだ。

 しかしそこに喜びはなく、寧ろその顔色は青ざめており。


『くそ、無茶苦茶な奴だ……!』

『撤退するよ!』

『ああ』


 気が済んだらしいクラウは、私の声にすぐさま了承を返し。

 私たちは今度こそ、百王の塔一〇一階層、玉座の間を後にしたのである。

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