第四九六話 クロたんシスたん
皆で奮戦した結果、どうにか全員ノーダメージにてダンジョンボスを撃破するという、難度の高いクリア条件を達成することが叶った。
その結果、突如として出現した上り階段。
一〇〇階層しか無いはずの百王の塔。にもかかわらず現れた、一〇一階層へ至るための不可思議な階段だ。
これを出現させるべく頑張ってきたとは言え、否応なく警戒はする。
なので、先に特典部屋の方を見てみようということになり、私たちは揃ってボス部屋奥に出現した扉を開け、その中へと足を踏み入れたのだった。
「ふぁああ~! お宝の山ですよー!」
最初にそう声を弾ませたのは、スイレンさんである。
次いでレッカも目を輝かせながら言葉を漏らす。
「やっぱり一〇〇階層分ともなるとすごいね。本当に山みたいに積み上がってるじゃん!」
そう言ってスイレンさんと二人、早速それらを物色しに掛かった。
彼女らの言うとおり、特典部屋の中にはどっさりとアイテムが積み上げられていた。
部屋の中央には豪華な宝箱が一つ。それを『コ』の字状に囲うように、壁際に雑に置かれているのが多様なアイテムたちだ。
全て、ここに至るまでに回収しそびれた、ダンジョン内の全宝箱より転送されてきた品々である。
それも、最終的には特級ダンジョンクラスの脅威度に至った程の、もう一つの百王の塔がもたらした品とあれば、質の高い物も多く含まれており。
スイレンさんもレッカも、子供のようにはしゃぎながら発掘作業に勤しんでいる。
そんな二人の後ろ姿を生暖かく見守っていると。
はっ! と急に我に返ったスイレンさんが慌ててこちらへ向き直り、とても気恥ずかしそうに謝罪し始めた。
「す、すみませんー。浮かれてつい、はしゃいでしまいましたー」
するとレッカも釣られるように振り返るけれど、彼女はマイペースなようで。
「え、スイレン何謝ってんの? お宝を前にはしゃぐのはあたり前のことだよ。それより宝箱! 宝箱開けようよ!」
レッカに急かされ、少々出鼻をくじかれ気味だった鏡花水月組も気を改めると、誰からともなく部屋の奥へ徒歩を進め。
そうして皆で豪奢な宝箱を囲うと、代表して私がその蓋をよいしょと開いたのである。
途端に、皆から「おおお~!」という興奮の声が上がり。
箱の中を覗き見れば、そこには箱同様如何にも高価そうな品々が収まっていたのである。
さて、となればここからは、楽しい楽しい戦利品の分配タイムだ。
一先ず箱より取り出したるそれらを、私の鑑定にて品定めし。それらが持つ力について一個一個解析……しようとしたところ。
『なぁ、もしかして百王の塔の攻略に成功したのではないか? っていうか今丁度、特典部屋を漁っている最中だったりしないか? すっごく強い武器をゲットしてたりするんじゃないか!?』
と、恐ろしいほどドンピシャなタイミングで、武器愛好家の勇者様から念話が届き。
クラウがため息交じりにそのとおりだと認めれば、
『今すぐ私もそちらへ行くから!!』
と言い出して聞かないのだった。
迎えに行くのも面倒なので、ストレージ経由で来てもらうことに。スイレンさんもストレージ内は経験済みだしね、今更だ。勿論口止めはするけど。
そうしてものの数秒後。
「ふぅぉおおおお!! 百王の塔にこれほどの品々が?! やはり通常のそれとは段違いだな!! ええい、こんなことなら私も攻略に参加するんだった!!」
「やめてくれ母上。それだと勇者無双じゃないか」
「ひぃ、ど、どうやって現れたんですかー?!」
「そんなことより分配! 早く分配しよう!」
「それじゃイクシスさん、鑑定結果とか教えてくれる?」
「おお、任せてくれ!」
何だか先程以上に賑やかになってしまった。流石イクシスさんである。
そこからは、時間にして一時間以上。皆でわいわいと話し合いながら、誰がどのアイテムを手にするのか、小さな争奪戦などを交えながらも、どうにか決定したのだった。
その結果、スイレンさんは新たな楽器を手にし、レッカは鎧を選んだ。
オルカは靴を。ココロちゃんは首飾りを。クラウはピアスを。ソフィアさんは杖を。
そして私には、お約束の仮面が。あとゼノワにはなんと、宝剣が与えられた。
心底羨ましそうにしているイクシスさんだけれど、そこは分別を弁えているらしい。一緒に攻略したならともかく、今回は部外者だったものね。分前は精々が、鑑定への謝礼くらいか。
その他にも、宝箱にはまだアイテムが入っていた。
スキルオーブだ。それも、【限界突破】である。
これに関しては、最初レッカにどうだろうかという話が出たのだけれど、
「私がそれを必要とするのは、まだまだ先のことだから」
ということで遠慮したのだ。
ではどうするかとなったところで、候補に挙がったのはスイレンさんと、ココロちゃん、それと私である。
しかしスイレンさんは、レッカと同じ理由で辞退。
ココロちゃんも要らないと言ったのだけれど、しかしそこで念話でのやり取りが急遽行われた。鏡花水月チャンネルでの念話だ。
『ココロちゃんは確かに、現状既にステータス100の壁を超えてるけど、でもそれってもしかすると……』
『そうですね。単純にココロさんの限界が100ではない、というだけの話かもしれません』
『! な、なるほど……その発想はありませんでした!』
『いつか頭打ちが来るかも』
『それを見越して、今のうちに突破しておくのは有りだぞ!』
ということで、結果として今回の限界突破はココロちゃんが使用することとなったのである。
これで鏡花水月内だと、私だけが限界突破のスキルを持っていないことになる。
もしかすると魔力のカタチをこね回すことで、自力で覚えることが出来るのかも知れないけれど、可能なら私もそのうちスキルオーブを入手して、真っ当な手段で習得したいものだ。
尤も、私の素のステータスが100に至ることなんて、果たしてあるのかどうかって感じだけど。
当分必要に迫られるようなことは無さそうである。
そうしたら後は、部屋の端っこに積まれたアイテムをざっくり物色し、ストレージにズモッとぶち込んで。
それから。
「あ、そうだ。レアドロップをどうするか決めなくちゃね」
ってことで、ストレージよりそれを取り出したのである。
そう、黒騎士の核を砕いたことにより発生した強力なアイテム。
ストレージの自動回収により、あわやソフィアさんの魔術の巻き添えで消滅しそうなところを無事に保護した、とびきりの戦利品だ。
スイレンさん辺りは、てっきり消滅したと勘違いしていたらしく、これまた盛大に驚いていた。
そうして、ストレージ内より皆の前に取り出してみせたのは、神秘的な雰囲気を纏う二本一対の剣だった。
白と黒の美しき剣。
はぁはぁ、と興奮し始めるイクシスさん。
「な、何だこの素敵な可愛子ちゃんは!! 一体どんなボスがドロップしたんだ!? こうしては居られない、早速鑑定させてもらうぞ!! ふほほぉっ!!」
大喜びで剣を手に取り、舐め回すように眺め始めるイクシスさん。
ぶつぶつと何やら語りかけているし、剣を触れるその手つきもなんか気持ち悪いしで、みんな普通にドン引きである。
心做しか白黒の剣も、イクシスさんに触れられるのを嫌がっているように見えるのだから不思議なものだ。
そんなこんなで暫く、イクシスさんの奇行を皆で眺めていると、ようやっと剣との語らいが終わったらしく。
「ふんふん、なるほどなぁ。そうかそうか」
「どう? 鑑定終わった?」
「ああ、バッチリだぞ!」
そのようにニコニコしながら返事をし、早速鑑定結果を語り始めた。
そうして明らかとなった白黒剣のスペックは、私たちの想像を上回るものだったのである。
「名を『境界剣クロノスタシス』。クロたんとシスたんの可愛い双子ちゃんだぞ!」
「そういうのいいから」
「それで能力面だが、宿している特殊能力がすごいんだ!」
「ほぅ、どういうものなのだ?」
「ああ、実はだな! なんとなんと、『体感時間の拡張』が出来るらしい! つまりは、同じ一秒でも他者が感じるそれよりも長く感じることが出来る、という能力だな!」
曰く、時間の狭間を泳ぐ能力。
境界の上を征くための力。それを宿す剣だから、境界剣。
てっきり白黒つける系の能力かと思ったら、全然違うんだね。
「もっとこう、白い剣で斬ったらこうなって、黒い剣で斬ったらああなる! みたいなお約束のやつはないの?」
「ミコトちゃん、そういうのを先入観っていうんだぞ。この子たちはそういうんじゃないのだそうだ」
「つまり、斬ることとは無関係に発動できる能力……」
「確かにそれは珍しいですね!」
「黒騎士がそれを落とした理由については、ちょっと謎だがな」
「何にせよ、その剣があれば人よりすばしっこく動けるってことだよね?」
「す、すごい剣なのは間違いありませんよー!」
「しかし剣ですか。私では残念ながら使いこなせそうにありませんね」
そう。凄い剣だということはよく分かったけれど、これを持つのが誰になるのかというのは、また議論の必要があるだろう。
しかし剣である。それも二本一対の双剣。
ツインダガーならオルカの出番だけれど、これはそういう類のものでもない。
っていうか私たち鏡花水月には、ズバリ双剣士! っていう人はいない。
レッカも片手剣や長剣は扱うけど、双剣となると話が異なるみたいだし、スイレンさんも楽器しか扱わないようだし。
強いて言うなら、万能マスタリー持ちの私や、大抵の武器をそつなく操れるというイクシスさんなら上手く活用できるのだろうけれど。
しかし私には舞姫とかツツガナシとか、強力な武器が既に手元にあるしね。持て余す未来しか見えない。
かと言ってイクシスさんに渡すのも違うし。
よもや、使い手が居なくて困るという異例の事態に陥ってしまうとは。
必死に挙手して、私が引き取るアピールをするイクシスさんを無視しながら、皆で暫し話し合った結果。
「ええい、そんな物はミコトさんに持たせておけば良いんですよ! そんなことよりいい加減に、【物理無効】の再現と反復練習に取り掛かって下さい!!」
と、いよいよ我慢の限界を迎えたソフィアさんの一言により、クロたんとシスたんは私が預かることになったのである。
果たして出番があるのかどうか。折角だし、活躍させてあげたくはあるのだけれど……どうだろうなぁ。




