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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第四九四話 一時の静寂

 スペースゲートの出口は、狙い過たず熱線を吐き出した射出元へ向けて調整してあり。

 結果としてクラウを狙った紫色のビームは、壁に埋まった黒騎士の頭目掛けて送り返されたのである。

 その攻防は、一瞬にも満たぬもの。何せ光の速度でのやり取りである。

 心眼にて攻撃の予兆を察知したればこそ叶った対応であり、反撃だった。

 流石に見てから回避だなんてことが叶う類の攻撃ではない。あわや大惨事になるところだったけれど、対応が間に合って本当に良かった。心眼様様だ。


 一瞬遅れてそのやり取りを認めた皆は、一様にぎょっとして発射元である壁の方を睨んだ。

 そこには、私が送り返した熱線が穿った穴が開いており。

 壁の奥深く、奴の頭部にまで至ったそれはしかし、残念ながらダメージを与えられはしなかったようで。

 やはり紫炎は奴自身に対して痛痒を及ぼさないらしい。道理で自らの紫炎を物ともせず動けるわけだ。


『ミコト様、今のは?!』

 と、直ぐにココロちゃんからの問が投げられ、私は急ぎ返答と注意喚起を行った。

『奴の頭からの攻撃だね。どうやら壁の中にあってなお、こっちを狙ってくるみたい。攻撃には私が対応できると思うけど、みんなも注意はしておいて!』

『壁の中じゃ、手出しできない』

『ソフィアの術が完成するのを待つ他ないな』


 壁の方を十分に警戒しながら、ちらりと黒騎士の身体の方を確認する。

 隔離障壁内部に閉じ込められた奴は、紫炎を爆ぜさせ撒き散らすという攻撃が失敗に終わったと知るなり、障壁を破壊するべく暴れ始めた。

 オルカの拘束は隔離障壁を隔てているためか解けており、ドッタンバッタン好き放題動き回っている。

 しかし私とクラウの二重障壁である。如何に強力な膂力を持っていたとて、安々と破れるようなものではない。

 何より私たちは時間稼ぎが出来ればそれでいいので、一先ずこちらの脅威度はぐっと下がったと見ていいだろう。

 障壁を飛び越して紫炎を放ってくる可能性がないわけじゃないけれど、オルカの拘束が解けたのと同様、恐らくは術の構成が叶わないはずである。

 因みに私が障壁内にスペースゲートを繋げられたりするのは、それが空間魔法の特性であるから、というのが一つと、遠隔魔法の応用であるというのが一つ。要は例外的なものだったりする。


 なので、高い確率で黒騎士の首から下は動きを封じることに成功していると見ていいだろう。

 であれば、優先して警戒するべきは、壁に埋没した奴の頭の方ということになるのだけれど。

 心眼での先読みがあれば、狙撃を恐れる必要もない。勿論それで油断などすれば、良からぬフラグがピコンと立ってしまうので、決して慢心はせず。


『みんな、立ち位置を少し変えようか。壁からの射線を切るように、隔離障壁を回り込んで様子見をしよう』

『なるほどね。隔離障壁をそんなふうに活用するんだ』

『あと、障壁はもうちょっと大きさを狭めて、奴の首から下が満足に暴れられないようにしちゃおう』

『ぬ、抜け目ないですねー』

『まだ隔離障壁の変形には不慣れなのだが……了解だ。何とかやってみよう』


 二重障壁のうち内側を担当しているクラウは、私の指示したとおり移動を開始しながらも、むむむと唸りつつ隔離障壁の大きさをゆっくりと狭め始めた。

『そのまま押し潰すことは出来ないんですかー?』

 だなんてえげつない質問をしてくるスイレンさんだけれど、実際イクシスさんだったらそれも簡単なのだろう。

 しかし。

『すまないが、力不足だ。押し潰す力より、奴が反発する力のほうが断然強いだろう』

『そういうものなんですねー』

『要鍛錬だ。そのうち出来るようになってみせるさ!』

『出来たら出来たでヤバいけどね、それ』

 レッカが苦笑しながらツッコミを入れる。


 と、私たちの動きに感づいた黒騎士の頭部より、二射目三射目の熱線がビシバシと飛んでくる。

 心眼にてその予兆を察知した私は、先程同様スペースゲートにて対処し、これをやり過ごした。

 そうして程なくし、私たちは奴の頭部と現在の立ち位置との間に、二重隔離障壁に囚われた黒騎士の身体を挟むことで、射線を遮ることに成功。

 壁の方からは実に忌々しげな感情が伝わってくる辺り、どうやら打つ手を失ったらしいことが分かる。

 こうやって相手の手札を一個一個封じていけば、如何な強敵と言えど最後には何も出来なくなるものだ。

 それだけ私たちの手札が、多彩で有用かつ強力だからこそ可能なことではあるのだけれどね。

 それこそ、スイレンさんが複雑な感情を抱いてしまうのも納得である。


 ともあれ、これで少しばかりの余裕を得た私たち。

 すると術を練るのに集中するあまり、ろくに身動きが取れず、結果ココロちゃんの小脇に抱えられているソフィアさんが言うのだ。

『今のうちです! 今のうちに【物理無効】を分析して習得して下さい!!』

『ああ、うん。分かったから術の構成に集中して』


 魔術を練るのに全神経を注いでいるのかと思えば、その実どうやら【物理無効】が気になって仕方がないらしいソフィアさん。

 彼女の集中力を安定させるためにも、私は皆に警戒を任せて黒騎士の観察に移ったのだった。

 確かに物理攻撃の一切を無効化出来るようなスキルをモノに出来たなら、それはもうミコト無双の幕開けだろう。

 またチート臭い能力を獲得するのかと思うと、正直気乗りしないのだけれど。

 しかし同時に強力な手札を増やすという意味合いに於いては、強い魅力も感じており。

 ジレンマを覚えながらも、私は奴の魔力をじっくりと解析していった。


 結果。

『うーわ。なにこれ、どうなってんの……ええと……』


 喩えるならそれは、初めてホイッスルボイスを聴いた時の感覚に近いだろうか。或いはヒューマンビートボックスの神業動画を見た時とか。

 要するに「人間にそんな音が出せるの?!」っていう、常識を疑いたくなるようなあの衝撃だ。

 物理無効のスキルは、正にそうした「そんな魔力のカタチが作れたの?!」って言いたくなるほど特異なカタチをしていた。

 なるほど、これは普通に魔力のカタチをこねたところで、辿り着けるはずもないだろう。こうして実物を目の当たりにして、ようやっと到れる発想である。

 正直、ちょっと侮っていた。認めたくはないが、大嫌いな慢心をしていたらしい。

 私に真似できないスキルなんて無い! って思い込んでいたみたいだ。


『模倣出来そうですか? 出来ますよね? ね?』

『……今集中してるから、ソフィアさん黙ってて』

『あ、はい』


 ソフィアさんばかりか、みんなが一斉に静まり返る。

 奇妙な時間だ。ダンジョンボスとの戦闘中に、こんな何とも言えない沈黙が訪れるだなんて。

 私は食い入るように黒騎士を観察し、その複雑怪奇かつ奇妙奇天烈な魔力のカタチを丁寧に模倣していく。

 さながら模写だ。お手本と自分の絵を見比べながら、徐々に徐々にカタチを近づけていく作業。

 本来であったなら、そんなことしてる場合じゃない! って投げ出しているに違いない。今の状況を作れたのは、正に僥倖だった。

 とは言え、隔離障壁の維持と奴の頭より何時飛んで来るとも知れない攻撃にも警戒を割いておかなくちゃならないため、完全集中して模倣に取り掛かれるわけでも無し。

 もし私に並列思考のスキルが無かったなら、挑戦する前から匙を投げていたはずである。


 と、その時。

 壁の方より攻撃の意思を感知。狙いは何と熱線の曲射らしい。まさかそんなことまで出来るっていうのか。

『ええい、煩わしいな!』

 思わず念話にて悪態をポロリしながら、スペースゲートを発動。

 まんまと奴の攻撃への対処を成功させることは出来たけれど、おかげでちまちま模倣していた魔力のカタチは初期化されてしまった。トランプタワーを崩されたような心持ちである。

 イライラしそうになる感情を落ち着け、再度模倣作業に入る。

 みんなからは、何とも居た堪れない気持ちを感じるけれど、こればかりは誰に代わりが務まるものでもなし。流石のクラウだって、光の速さで飛んでくる魔法を無傷で防御できる保証なんて持ち合わせていないだろう。

 それと分かっていればこそ、皆は各々MP回復薬などを服用するなどして、事態が動くその時に備えたのである。今出来ることをやるというその考えは、蓄えた経験からくる彼女らなりの最善手だ。

 ならば私も、最善を尽くすべく踏ん張らねばなるまい。


 一度初期化されても、そこまでの道筋は記憶に残る。

 悪足掻きの如く度々飛んでくる黒騎士ヘッドからの妨害ビームを、その都度進捗の初期化覚悟で処理しつつ、私はせっせと魔力のカタチを加工していった。

 想像を絶する程の多大な集中力を求められる作業だ。

 まして、魔力のカタチをいじる作業は、非常に感覚的なものであり。

 お手本を何かに記録して保存しておけるわけでもない。今ここでしっかり覚えておかなければ、後からの再現なんて絶対ムリ。記憶だけを頼りに名画を複製するようなものだから。

 お手本が目の前にある、今しかチャンスはない。

 幸いだったのは、奴が物理無効を常時発動していることか。これが瞬間的にしか行使されないものであったなら、この様に観察すること自体無理な話だった。

 しかしかと言って、あまりのんびりもしていられない。この作業に掛けられる時間は、ソフィアさんが魔術を練り上げるまでの暇しか残されておらず。


 ひたすらに集中力を研ぎ澄ませ、すっかり余計な情報をシャットアウトし、魔力のカタチを操作し続けること暫く。

 実時間にしてどれだけ経ったか、私にはまるで想像もつかなかったけれど、兎にも角にもようやっと手応えを得るに至ったのである。


『こう……かな!!』


 一瞬、私の張っていた隔離障壁が消滅。魔力のカタチを完全に一個のスキルへ特化させると、どうしようもなくこうなる。

 しかしその結果、私は確かにそれの発動を感じたのである。

 即ち、物理無効スキルの発動を。

 皆も気配でそれを感じたのか、それとも隔離障壁が一枚消えて驚いただけか、ざわめきを顕にした。


 その瞬間だった。これみよがしに渾身の力を内と外から隔離障壁へ叩きつける黒騎士。

「ぐぬぉ?!」

 と、堪らず声を漏らすクラウ。障壁には大きな罅割れが入っており、奴の剣と熱線がそこをどうにか突破してやろうと力を込めている。

 隔離障壁が一枚消えた瞬間にそれを行うのだから、恐るべき反応速度である。

 私は大慌てで隔離障壁を張り直すと、どうにか外からぶつけられていた熱線を遮ることに成功する。

 代わりにまた魔力のカタチは初期化されてしまったけれど、一度完成まで持っていけたのだから、あとは反復練習を繰り返すのみ。

 さりとて、クラウの破壊されかけた障壁は損傷が酷く、奴は大剣の刃をそこへ無理くりねじ込んで、強引に突破しようとしているらしい。


『ごめんクラウ! ヤバそうなら一度解除して張り直して!』

『ぐぬ、了解だ』

『ソフィアさんの方はどう?!』

 クラウは一旦破れかけの隔離障壁を解除し、私が張っている障壁を包むように再度展開し直した。

 これにより私が内側で奴の剣を受け止め、クラウが外側で熱線を受け止めるという役割のトレードが成立。

 そして問題の、魔術を組み上げていたソフィアさんはと言えば。


『発動準備、完了しました。何時でも発射いけます』


 とどめを刺す準備は、どうやら完了したらしい。

 首なしの黒騎士戦は、斯くして最終局面へと移行したのである。

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