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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第四九二話 壁の中にいる

 ココロさんの金棒が、ダンジョンボスたる白騎士の頭を盛大に吹き飛ばし。

 未だオルカの拘束により身動きを封じられている奴へ、前衛組と私、それにゼノワが一斉に襲い掛かった。

 フルボッコタイムの始まりである。


 とは言え、皆の攻撃が好き放題に通るかと言えば、そうではない。

 奴の体を覆うのは、異様な強度を誇る全身甲冑。

 頭がすっ飛んだことにより、現在はその首元だけが狙い目だが、当然全員の攻撃がそこに殺到したのではフレンドリーファイアの温床となるだろう。

 ノーダメージでの勝利を目指しておいて、それはあまりに間抜けな結末である。

 なので勢い付きつつも皆は冷静で、念話の上では既に意見交換がなされていた。


『ココロは鎧を引っ剥がしにかかります!』

『ならば私は首元からの攻撃だな』

『私も紅蓮剣をぶっ刺すよ!』

『なら私とゼノワで魔法を叩き込もう。いっぺんにみんなで掛かると危ないから、順番にね』


 というわけで、早速鎧へ掴みかかったココロさん。

 テレポートにてクラウやレッカより先に騎士の首元へ辿り着いた私は、ゼノワと息を合わせて鎧の中へと攻撃魔法を叩き込む。その際ココロさんへの警告も忘れない。

『危ないから注意してね!』

『あわわ、了解ですっ』

 ベリっと力任せに肩当てを引っ剥がしながら、急ぎ小さく飛び退くココロさん。

 それを認め、私とゼノワの魔法が発動。

 用いたのは相性の良い、水刃と雷撃である。

 私の放った水の刃が、鎧の中身をメタメタに切り裂き。同時にゼノワの雷撃がのたうつ蛇が如く暴れ狂い、容赦なく騎士を焼き焦がした。


『ひ、ひぇぇー』

 と、今なお音楽を奏でながらも、念話で悲鳴を上げるスイレンさん。

 その傍らでソフィアさんは、何気に閃断をバカスカと打ち込んでいるらしく、鎧の中身は大惨事である。

 オルカの影で拘束されてはいるが、ビクビクガタガタと、これには大きく痙攣する白騎士。

 頭がついていたなら、もしかすると絶叫していたかも知れない。或いはあまりの衝撃に声を失っていたか。


 とそこへ、聖剣に蒼き聖光と金色の灼輝を纏わせたクラウ、それに愛剣へ凄まじい紅蓮の炎を纏わせたレッカが駆けてきて、私とゼノワは直ぐに席を譲ることに。

 先に仕掛けたのはレッカだった。

 膨大な熱量を孕んだ愛剣を、一切の躊躇なく鎧の中へ突き込み。そこから気合一発。

「せぁ!」

 という掛け声を切っ掛けに、紅蓮がレッカの剣を離れ、鎧の中に滞留。

 急ぎ剣を引き抜いたレッカは、一目散に踵を返し飛び退いた。

 その際、『爆発するから気をつけて!』と、警告を発するものだから、私もクラウもココロちゃんも、ついでに安全なはずのゼノワですら大慌てである。

 バッとその場から離れたなら、その瞬間鎧の中で紅蓮が一気に膨れ上がった。

 首元をはじめ、鎧の隙間より一斉に吹き出す恐るべき火炎。スイレンさんがまた悲鳴を上げ、それ以上に距離の近かった私たちは肝を冷やす。

 なんて技だろうか。ここに来てこんなものを披露してくるとは。レッカ、流石である。


『今ので拘束が解けた』

 とは、オルカによる申告だった。影魔法の弱点は、やはり光なのだ。

 体の内側から影で拘束するのがオルカの影縛りだが、体内まで真っ赤な光で染め上げたレッカの一撃は、そんな影縛りごと吹き飛ばしてしまったらしい。


『ならば、一気に私がとどめを刺そう!』

 一瞬吹き出した豪炎は、さりとて長く持続するものではなかったらしい。むしろ、瞬く間に敵を炭化させるような技なのだろう。

 現在はチロチロと、蛇の舌が如く炎の残滓を鎧の中から覗かせる程度。

 そこへ、無遠慮に聖剣を撃ち込んだのがクラウである。

 迸る蒼と金色はまばゆく、いよいよ奴の核を破壊する気満々で一撃を叩き込んだらしい。


『す、すごいですー! 聖剣の蒼、それにその金色の光はー!』

 と、勇者の冒険譚にも明るいスイレンさんが念話ではしゃぎ、自然と曲調も一気に盛り上がりを見せている。

 それをBGMに、クラウの放った膨大な光は鎧を盛大に二色の輝きで染め上げたのだった。


 目を覆いたくなるほどの閃光が収まるまで、たっぷり数秒を要し。

 さりとて遮光の魔法にてしかと経過を眺めていた私たちは、自然とその表情を険しくしていた。

 無理もないだろう。だって……。


『バカな……塵に変わらない、だと?!』

『どんだけ頑丈なんだコイツ!』

『まさか核は頭の方にあった?』

『あ、頭は壁に深くめり込んでますよ!』

『っていうか、壁が修復したせいで埋もれてる』


 オルカの言葉に、ココロさんが兜をホームランして破壊した壁の一部を見る。

 確かに、ダンジョンの自己修復機能によって、破壊の痕跡すら残っていない。

 あの中に、核を内包した頭が埋没してしまっているのだとすると、なかなか厄介な状況である。


『とりあえずオルカ、鎧内に核が無いか確かめてみて!』

『分かった』


 オルカの影が、鎧の中へ再侵入。ダメージを与えることで騎士の核を輝かせる。

 すると。

『確かに、壁の中に光がありますね』

『ぬぇああ! ココロの失態ですぅ! 今掘り出します!!』

 懸念したとおり、壁の中へ埋没していたらしいモンスターコア。

 破壊するには、一先ず頑丈で凄まじい自己修復機能を持つダンジョンの壁を崩し、修復前に奴の頭を摘出する必要がある。なかなか骨だ。

 しかもフロアの構造上、ボス部屋の周りにはぐるっと通路がある。そのためか、このボス部屋の壁は通常のそれよりずっと強固に出来ているようだ。そうでなければ、奴の兜は埋没どころか、壁を突き抜けていたに違いないのだから。

 だとすると、摘出作業は想像以上に困難だろう。

 ならば……。


『……いや、こうなったらこのままHPを削りきってしまおう。レアドロップは残念だけど、今回は諦めるとして』

『む。まぁ、そうだな。今回何より優先するべきは無傷での勝利。頭が壁の中にあるというのは、むしろチャンスとすら言えるだろう』

『私も異存無いよ。そうと決まれば攻撃続行だね!』

『ガウガウ!』

『うぅ、すみません……ならばココロも、炎氷の篭手でお手伝いします!』


 というわけで、核の破壊はこの際諦め、このままHPを削り切るという方針で話はまとまった。

 こういう時こそ絶大な効果を発揮するのが、私の必殺技であるところの『餞の徒花』。

 対象の最大HPを強制的に半分にしてしまうという効果を持ち、残りHPが半分を切った相手ならそのまま即死させることが出来る。

 正に今の状況にはぴったりな技なれど、何分精霊術を用いることになる。

 スイレンさんの見ている前で披露して良いものかは悩むところだが。

 しかし、戦闘中の躊躇いは命取り。何よりこれ以上白騎士を苦しめるのも心苦しい。こんな酷い目に遭ってまでまだ生きているというのは、もはや拷問どころの話ではないだろう。


『……よし。徒花を使う』


 念話にてそう告げれば、スイレンさん以外の皆が一瞬驚きを示し。

 しかし、すぐに空気は一変。皆の表情にこれまでにない独特な真剣味が宿った。

『へ、な、なんですかー? 徒花ー?? それって一体ー……』

 一人変化についていけず混乱するスイレンさんへは、レッカが簡単に説明を述べる。

 彼女も直接見たことこそ無いものの、その概要に関しては聞き及んでいるのだ。

 レッカが説明してくれている間に、早速準備に入る私。

 換装にて専用装備に着替え、黒宿木を発動しようとした。


 が、その時だった。

『ミコト、様子がおかしい!』

 オルカが慌てた様子で警告を発すれば、直後急激に変化は生じたのである。


 白を基調としていた騎士の鎧。

 焼け焦げ、今や随分と傷だらけになってしまったそれだが、そこに異変が起こったのだ。

 まるでシミがじわじわと広がるように。或いは火が布を焼き焦がすように。

 白い鎧がゾリゾリと、手足の先より黒と紫に変色し、瞬く間に全身が禍々しいその色に侵されていったのである。

 ばかりか、損傷は黒紫の侵食に伴い完全に修復され、更にはフォルムすら大きく変化してみせた。

 さながら聖騎士から闇騎士へ。禍々しさを感じさせる攻撃的な形状は、見る者全てを威圧するようだ。


 しかし、私たちがそんな変化を前に立ち尽くすはずもない。

『やばい、第二形態だ! 総員攻撃!!』

 指示を飛ばせば反応は速く、皆が皆持ち前の高火力技にて一斉に、変色していく騎士へ向けて攻撃を集中させた。

 私も取り急ぎ徒花の準備を整え、放った。

 光魔法により紡いだエフェクトが舞い、息を呑むほどに美しい光景を紡ぎ出す中。

 さりとて。


『く……ごめん。間に合わなかったみたい』


 首なしの黒騎士は、光の花びらが舞い散る中、オルカの拘束すら振り払ってのっそりと立ち上がったのである。

 強烈な威圧感。鮮烈な敵意。

 大剣の柄を握る手に、ギチギチと凄まじい力が込められる。


『来るぞ!』

『みんなストレージへ!!』

 予兆は明白。クラウの鋭い警告が飛び、嫌な予感から私は皆へストレージへの退避を指示した。

 反応は素早く、クラウとゼノワ以外の皆が自らを収納。戸惑いを見せたスイレンさんは、近くに居たソフィアさんが自らもろともストレージ内へ入り避難を済ませた。

 そして残った私とゼノワは、サッとクラウの後ろへ。


『踏ん張れクラウ!』『ガウガウ!』

『任せろ!!』


 首なしの黒騎士が、ゆらりと大剣を振りかぶっていた。

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