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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第四八九話 駆け上がる

 ココロちゃんの金棒が、風切り音と言うにはあまりに物騒な音を響かせ。

 次の瞬間には、二〇階層のフロアボスであるスパイダーブルは黒い塵へ。

 PTストレージの中には、自動回収によりレアドロップアイテムが追加されたのだった。


 そんな戦闘の一部始終を目の当たりにしたレッカとスイレンさん。

 ついでに私の頭の上で、結局出番のなかったゼノワが、それぞれにわかりやすいリアクションを取ってみせる。

 ゼノワは不満を顕にし、私の頭をべしべし叩くし。

 レッカは興奮した様子でこちらへ駆け寄ってくる。

 そしてスイレンさんは、静かに天を仰いだ。


 ともあれ、念の為言葉を交わすのは次の階へ上がってからにしようということになり、私たちはそそくさと移動したのである。

 そうして二一階層に上がるなり、レッカが開口一番、

「すっごかったね!!」

 という、ストレートな称賛をくれたのだった。

 まぁ、殆ど出番のなかった私からすると、その言葉をどうキャッチしていいか迷うところであり、仮面の下にはつい苦笑が浮かんでしまったのだけれど。


 そのまま勢い任せに、アレが良かった、ココがヤバかったと、感想を述べるレッカ。

 皆が面映そうにする中、未だ目を点にしているスイレンさんが視界に入り、私はそっと声を掛けた。

「スイレンさん大丈夫? もしかして疲れた?」

 思えば二〇階層、数多くの戦闘を繰り返しながら駆け足で登ってきたのだ。そりゃ疲れも出るだろう。

 まぁ、彼女が放心している理由くらい察しはつくのだけれど。まして心眼持ちの私だし。

 とは言え、「私たちの戦いが凄すぎてごめんね!」だなんて慢心濃度の高そうなセリフ、言えようはずもない。実際実戦っていうのは、何が起こっても不思議じゃないものだからね。得られた勝利はいつだって、皆が油断なく取り組んだ結果であり、おかしなトラブルが起こらなかったお陰である。

 なので、無難に疲労の具合を訊ねてみたのだけれど。


「あ、ああいえー、平気ですー」

 声を掛けられ、ビクリと我に返るスイレンさん。取り繕ったような笑みを顔に浮かべてはいるが、浮足立っている様子。

「ほんと? ボーッとしてたみたいだけど」

「えっと、そのー。ちょっと驚いちゃっただけですー」

 そう言って彼女は、ちらりと視線をオルカたちの方へ向けた。

 そしてため息を一つ。


「皆さんはー、ソフィアさんが特級、クラウさんとココロさんがAランク、そしてミコトさんとオルカさんがBランク、でしたよねー?」

「うん」

「ごめんなさい、正直侮ってましたー……ミコトさんの異常性は分かっていたつもりでしたがー、まさか鏡花水月メンバー全員があんなー……」


 スゥっと、また遠い目をするスイレンさん。

「私も一応Aランクを名乗らせてもらっているのでー、力の程も近しいのかなってー、勝手にそう勘違いしてたんですー。それが、それがー……」

「あー……ええと」

 なかなかショックだったらしい。

 まぁ彼女らは秘めたポテンシャルも尋常じゃないけれど、身につけてる装備もヤバいしね。持ってるスキルも。

 だからスイレンさんが驚くのもまぁ、無理からぬ事だとは思う。

 彼女は援護要員として様々なPTと行動を共にしてきたらしいし、その過程で色んな人の戦いを目の当たりにしてきたのだろう。

 だからこそ、この反応なのだ。

 それだけ、今の鏡花水月は異様な力を有しているということか。


 私は一つ逡巡し、スイレンさんへ語りかけた。

「考えてもみてほしいんだけどさ。冒険者の活動って、その殆どが移動時間に費やされるって思わない?」

「? それは、はいー。そのとおりですけどー」

「うん。私たちの場合、ソレが掛からない。だから人より多くの実戦を経験できる」

「!!」

「しかもイクシスさんと懇意にさせてもらっているからね、時々指導を受けたりもするんだ」

「そ、そんなの! 強くならないはずがないですよー!」

「うんうん。まぁそういうことだよ。だから私たちは異常ではないんだ。ちゃんと努力して、ちゃんと強くなった。そこだけは理解しておいてほしいかな」


 私の説明は功を奏し、納得した様子で深く何度も頷いたスイレンさん。

 そして出た言葉が。

「よく分かりましたー。異常なのはミコトさんだけ、ということですねー!」

「分かってない! それ分かってないから! 私も努力してるから!」

「わかりましたわかりました~」


 あしらわれてしまった。

 努力、してるもん。

 まぁいいけどさ。


 ゼノワがよしよしと、頭を撫でてくれる。ありがとうなぁ。

 スイレンさんは調子を取り戻し、レッカのところへテッテケと寄っていっては、早速皆へどんな修行をしたのかと質問を投げ始めた。取材だろうか。

 それから暫し、ここがダンジョンの中であることすら忘れ、皆は談笑に花を咲かせたのだった。


 時刻は夕方。二〇階層を突破したということでキリも良く。

 一頻り話し込んだ後、今日のところは引き上げようという話になった。攻略の続きはまた明日である。

 するとスイレンさんがいささか不安げに、

「あの、本当にダンジョンの中から一瞬で出られるんですかー? ダンジョン泊はしないんですかー……?」

 と質問してくるので、私はふむと考える。


「出ることは出来ると思うけど、問題があるとするなら次に入る時かな。この『もう一つの百王の塔』にちゃんと入れるのか」

「む、言われてみれば確かにそうですね。下手をすると、次回は通常の百王の塔に行きかねませんものね」


 私の述べた懸念に、即座に理解を示したのはソフィアさんで。

 するとレッカが、

「なら実験すれば良くない?」

 と、えらくシンプルな提案を述べたのである。

 まぁでも、実際そのとおりではある。分からないなら試せば良いのだ。


「確かにそうだね。それじゃとりあえず、先ずは私だけで外に出て、んでここに戻って来れるか試してみるよ」

「ん。ミコト、気をつけて」

「うん、じゃぁ行ってくる」


 言うなり、フロアスキップを発動。

 私の視界は瞬く間に切り替わり、次の瞬間には百王の塔の入場用転移魔法陣を眺めていたのである。

 無事ダンジョンからの脱出には成功したようだ。念の為併用している透明化などの隠密系魔法も、幸い周囲に人の気配がないため無駄打ちに終わったらしい。

 それらを確認した上で、改めて魔法陣を観察してみる。

 未だ赤い光を湛えており、この様子ならアナザーに再入場することは可能そうだ。

 むしろ通常の百王の塔にこそ入れないのではないだろうか。


 もしこの事が他の冒険者達に知られると、騒動になりかねない。百王の塔に起きた謎の異変! とか言って。

 新たな懸念事項である。とは言え、どうにかする手立てがあるわけでも無し。

 それより今は、皆の元へ戻れるかどうかを試さねばならない。

 私は再度フロアスキップを発動すると、二一階層入り口へと転移したのだった。



 ★



 もう一つの百王の塔攻略開始から、早くも六日が経過。

 私たちは今、なんと一〇〇階層に来ている。

 一日二〇階層攻略というハードスケジュールをこなし、ついでに一〇階層ごとに見つけたフロアボスの特殊な攻略条件を全て満たしながら、せっせと駆け抜けた九九階層。

 思えば長かったような、短かったような。

 モンスターの強さも、何時頃からかすっかり特級ダンジョンレベルにまで上がっており、レッカやスイレンさんはヒーヒー言いっぱなしである。

 それでも拾った装備で能力の底上げをしたり、多くの戦闘を経験したことで幾らか実力が増したりして、どうにか頑張っている。


 スイレンさんの場合は後衛での支援が戦闘スタイルであることも幸いしたのだろう。上手くヘイトをぼかすことで、怪我らしい怪我もなく、その役割をしっかり全うしてくれている。

 逆にレッカはちょっと危なっかしい。力負けする場面が増え、怪我を負うことも少なからずあり。

 内心メチャクチャヒヤヒヤしたけど、幸いココロちゃんっていう優秀なヒーラーが居るので大事に至ることはない。

 偶にある鏡花水月での戦闘に於いてはプランBの出番もないまま、結局ここまで乗り越えて来ることが出来た。


 そして六日目の今日。

 最終一〇〇階層、ダンジョンボスへと挑む時がやって来たわけである。

 朝から塔へ乗り込んだ私たちは、既にボス部屋以外の探索も済ませており。


「まさか、ダンジョンボスにも攻略条件を出してくるとはね」


 そう。なんと一〇〇階層、他のダンジョン同様ボス部屋と、そこへ続く一本道くらいしか存在しないこのフロアにも、例のヒントが隠されていたのである。

 他のダンジョンと違い、一本道はぐるりとフロアを囲うように一周しており、ボス部屋はフロアの中央に存在していた。

 ヒントを見つけたのは、そんな通路の途中である。壁の隅っこにちょこんと彫られていた文字列。

 書かれていたその内容はと言うと。


『一切の手傷を負うこと無く撃破せよ』


 という、ここに来てとんでもなくベタであり、困難な条件が提示されたのだった。

 とどのつまりそれは『ノーダメージクリア』ということなのだから。

 対するは間違いなく特級クラスの強力なボス。それを相手にとなれば、厳しい戦闘になることは間違いない。

 さて、どうなるか。決戦は目前だ。

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