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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第四八三話 謎のラクガキ

 春の気配が少しずつ感じられるようになった昨今。

 天気は程よく晴れて、なかなかの冒険日和である。

 今日からは特殊ダンジョン『百王の塔』の攻略に取り掛かるということで、私たち鏡花水月はレッカやスイレンさんとともに件のダンジョンを訪れていた。

 そう、ワープのスキルで。


「ほ、本当にー、一瞬でー……」

「スイレンってば、何初見みたいなリアクションしてるの? 一昨日体験済みでしょ?」

「うー……」


 一昨日、結局好奇心に負けたスイレンさんは、私たちの抱える秘密について、その一部を聞く、という選択をした。

 結果として彼女は、私の持つ転移スキルについて知ることになり、これが如何にヤバいことかをみんなで寄ってたかって語り聞かせたのである。

 その結果、スイレンさんのみならず私も盛大に胃を痛めることになったわけだが……。

 まったく、誰だ「国家元首の寝首もかき放題です」だなんてとんでもないこと言った人! 頼まれたってそんなことしないって!


 しかしそんな秘密を知ってしまい、すっかり顔を青くしたスイレンさんは、

「こ、国家機密を聞いてしまった気分ですー……」

 だなんて言って、ブルブル震えていた。

 追い打ちをかけるようにイクシスさんが、「実際それと同等か、それ以上の機密だぞ」などと真面目なトーンで言うもんだから、以来ずっとビクビクしたまんまである。


「わ、私は選択を誤ったんでしょうかー……?」

「それはこれからのスイレン次第かな」

「ひぃ、誰か私の口を縫い付けておいてくださいぃ」

「あ、針と糸ならあるよ? 私こう見えて、意外と裁縫とか得意なんだよね!」

「嘘です冗談です、こっち向けないでー!」


 レッカが実に楽しそうである。良い相方が見つかったみたいでよかったよかった。


 さて、何時までもダンジョンの前でワチャワチャ騒いでるわけにも行かないので、早速この趣深い巨大な塔へと足を踏み入れていくわけなのだけれど。

 しかしその前に。


「ヒント探しをしよう。必ずしもダンジョンの中に隠されているとは限らないからね!」

「流石ミコト様です、その発想はありませんでした!」

「しかし言われてみたらそのとおりかも知れないな」

「任せて。くまなく探す」

「ギャゥ!」

「気になるものを見かけたら、即座に情報共有ですね」


 ということで、早速わらわらと散開して塔の周りを調べ始める私たち鏡花水月。

 念話による活動報告なんかで、一応事情を知ってるレッカも一緒になって手伝ってくれたけれど、そんなさなか一人取り残されたスイレンさん。

 凄い表情で皆を見回し、たまらず質問を投げてくる。


「え、ええとー、これは何をなさっているんでしょうー? もしかしてまた国家機密ですかー?」

 彼女が声を掛けたのはクラウだった。イクシスさんの娘ということで、それなりに信用しているらしい。

 逆に私なんかは、得体が知れないからとすっかり怖がられてしまった。

「いや、機密というほどのことでもないが……しかし、そうだな。危険は伴うだろうから、あまり口外するのは良くないかも知れない」

「ひぇー……じゃぁ聞きませんー」


 結局金魚のフンよろしく、レッカの後ろをポテポテとついてまわるスイレンさん。何だあれ、てぇてぇな。

 まぁでもクラウの言うとおり、私が勝手に『真・隠し部屋』と呼ぶそれには、ガーディアンがつきものらしいからね。

 ヒントを頼りに真・隠し部屋を出現させたところで、そのガーディアンにやられる可能性というのは、実のところ決して低くないのだ。

 だってガーディアンってば、普通にボスと比肩するくらいの強さを持ってるからね。少なくとも私たちが出遭ったのは、そういうレベルの恐るべきモンスターだった。

 なので真・隠し部屋の存在は、あまりおおっぴらに吹聴しないほうがいい情報である、というのは私も同感である。

 スイレンさんはすっかり、機密アレルギーを患ってしまっているみたいだけれど。まぁ、元から知らなければ吹聴のしようもないっていうのは真理だものね。処世術としてはきっと間違ってない。


「ちょっと塔の上を見てきますね」

「あ、それなら私も、練習がてら付いていこうかな」


 ソフィアさんが、自慢の翼でふわりと宙へ浮かび上がる。

 私もこの前習得した【飛行】のスキルで、ふよふよとその後を追った。ゼノワはそんな心許ない私の飛びっぷりを嘲笑うように、周りをくるくる飛び回っている。

 そして、それをポケーっと見上げるスイレンさん。

「レッカちゃん、なんかー……あの人たち飛んでますよー?」

「ミコトはともかく、何でソフィアさんまで?!」

 あ、そう言えばレッカも初見だったっけ。

 っていうか、私はスキル訓練のために常時飛行を使っているのだけれど、どうやら気づいていなかったらしい。

 実は某青い猫型ロボットよろしく、先日から常に地面から一センチほど浮かび上がって生活しているのだ。

 おかげでこの前よりはスキルレベルも上がってると思う。


「流石ミコトさんですね、飛行を得てまだ五日ほどだというのに随分と安定しています」

「ゼノワには笑われてるけどね……あと師匠たちにも」

「まぁ飛べるのが当然の方々ですからね」


 ソフィアさんにしてはナイスフォローである。

 それを聞くなりゼノワは、再度私の頭にへばりついた。少しは私の努力を認める気になったのだろうか。

 いや、単純に飽きただけのようである。別にいいけどさ。


 そうこうしている間に高度は随分と上がり、塔の天辺まで登ってきた私たち。

 早速ヒント探しを行うわけだけれど。

「あ」

 とつぶやくソフィアさん。

 こういう時に便利なのが心眼である。彼女が何を見て声を漏らしたのか、パッと察することが出来るのだから。

 塔の屋上、人一人立つのがやっとといったその場所に、何やら彫り込まれた文字を見つけた。

 誰かが残したいたずら書きの類かも知れない。こんな如何にも世界文化遺産に登録されてそうな場所に文字を彫り込むとか、一体いくら罰金を取られるか分かったもんじゃないぞ。

 と一瞬脳裏を過ぎったけれど、果たしてこの世界でそういう決まりがあるのかどうか。

 そも、これが本当にただのラクガキとも限らないのである。


 何故なら掘られていた文字の内容というのが。

「『真なる王への謁見を求む』ですか」

「どういう意味だろう……?」

 意味深なワードである。

 粋がったバカな冒険者が、ダンジョンではなくガワであるこの塔をよじ登って、頂上にこんな文字を刻み込んだって説もあるにはあるけれど。

 しかし真・隠し部屋へ至るためのヒントである可能性だって、否定は出来ない。


 とは言え、ヒントであるにせよ違うにせよ、この一文が何を意味しているのか。

 それを正しく察することが出来なければ、真・隠し部屋へ至る道が早くも途絶える可能性もあるのだ。

「ともかく、下に降りてみんなに相談しようか」

「ええ、そうですね」

「ガウガウ」

 もしかしたら他のメンバーが何か見つけている可能性もある。

 私たちはふわふわと地上まで降下すると、早速皆を集めて上で見つけた落書き? について語ったのだった。


「それがヒントだとすると、どういう意味だ?」

「この塔には『真なる王』が存在している……」

「も、もしかしてそれがガーディアンなのでは?!」

「なるほど、有り得る話ですね」

「ねぇ、塔の外側にヒントがあったっていう事実自体、何かのヒントじゃない?」

「流石レッカ、こういうところではよく気がつくね」

「あ~あ~、聞こえません~」

「ガウ~」


 そんな具合に話し合った結果、程なくして一つの仮説に行き着くことが出来た。

 それは、件の文言が一種の合言葉であるという説だ。


「つまり、塔に入る時、或いはダンジョンに入る時にその言葉を発することで、何かが起こるかも知れないと」

「早速試してみましょう!」

「間違ってたらまた考えれば良いんだよ!」

「れっつご」


 というわけで、なにはともあれ実験してみることに。

 私たちは先ず塔の大きな入口の前に立つと、口を揃えて『真なる王への謁見を求む』と唱え、塔の中へ足を踏み入れた。

 ちなみに皆で唱えるのは、もし唱えた当人にのみ変化が起きる場合、皆とはぐれてしまう可能性があると考慮してのことだ。

 が。

「……何も起きませんねー?」

 というスイレンさんの言うとおり、これといった異変は起こらなかった。

 そうしたら、めげずに次である。

 百王の塔へ挑むには、このロビーにでんと存在する転移魔法陣に乗っかる必要があるわけだけれど。

 この魔法陣に向けて、先程の文言を再度唱えてみる。むしろこっちが本命だし!


『真なる王への謁見を求む』


 さながら何かの儀式、或いはオマジナイみたいだなと思いながらもそう唱え終えると。

 不意に、魔法陣がポワンと赤い光を湛え始めたではないか。

 ぎょっとする一同。

 さりとて同時に確信も得る。

 これは、当たりであると。

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