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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第四七八話 グラマスの気苦労

「はぁ……つまりイクシスちゃんは今回、この娘たちのダンジョン攻略に一切手を貸していないし、この娘たちの言うことにも一切の誇張はないはずだ、と?」

「なんなら嘘を見分ける魔道具を使ってくれても……あ、ごめん。やっぱ今のナシ」

「?! 何よ、嘘ついてるの?!」

「誇張した報告はしてない。誇張はな」

「…………」


 ズーン、と。

 沈んだ空気を漂わせながら、静かに頭を抱えるクマちゃん。

 彼女に言われたとおり、念話で一報を入れた後イクシスさんを迎えに行くと、既に転移室でスタンバイしていた彼女。

 おかげでちゃっちゃか連れてくることが出来、その証言により私たちの報告内容に信憑性を加えてくれたのである。


 しかしながら解せないのは、クマちゃんのあの様子だ。

 不思議に思い、私は問いかけてみることに。

「どうしたのクマちゃん、私たちなんか悪い事しちゃった……?」

「ミコトちゃん……ううん、違うの。そうじゃなくて」

 彼女は徐に姿勢をもとに戻すと、何故に私たちの報告を受けて頭を抱えているのか、その理由を教えてくれた。

 尤もそれは、然程難しい話ではなく。


「ミコトちゃん、ちょっと想像してみてほしいのだけれど。もしあなたのもとに、年中休みなく困りごとがわんさか寄せられるとして。ヒーヒー言ってる所に偶然、とんでもない助っ人が現れたとしたら、どうする?」

「? そりゃぁ、有り難く力を借りるけど」

「そうよね。じゃぁ、その助っ人の持ってる力がヤバすぎて、そんな人と繋がってると公に知れたら、たちまち大問題になっちゃうとしたら?」

「そりゃ、そんな人とはお近づきにならないほうが良いよ。何事も地道が一番だもの」

「うんうん、そうね。ミコトちゃんのそういう考え方、いいわね」

「へへへ」

「でもね、その助っ人が私のお友達を介して接触してきたとしたらどうかしら?」


 ……あ。

 この助っ人って、私たちのこと言ってる? 言ってるよね?!


「待ってクマちゃん。私たち、そんなつもりでここへ来たわけじゃないんだけど……」

「ええ、分かってる。分かってるの。ミコトちゃんたちは悪くない……悪くないのだけれど」

「ミコトちゃん、多くの人に頼られる人間には、当人にしか分からぬ葛藤があるものさ」

 私の言葉に難しい顔をするクマちゃんと、フォローを入れるイクシスさん。

 そうは言えども、やはりクマちゃんの表情は浮かないもので。

「そ、そうなの……?」

 と私が首を傾げると、答えてくれたのはイクシスさんだった。


「例えばミコトちゃんの転移スキル、これはどう考えても公にしちゃダメな力だが、これから先クマちゃんはそれを持つミコトちゃんの存在を知りながら、知らないふりをして仕事をしていかなくちゃならない」

「!」

「ソレがあれば簡単に解決できるような問題に直面しても、おいそれとミコトちゃんに頼ることは出来ないんだ。何故なら、公に知られると更なる問題が起こるから」

 そっか。言われてみたら、そのとおりである。

 知らぬが仏……とはちょっと違うかも知れないけど、私たちの存在なんて知らないほうが、クマちゃんにとってはきっと楽だったんだろう。

 出来ないことを出来ないと割り切ることと、ホントは出来るけど出来ちゃいけないと口を閉ざすこと。

 後者のストレスたるや、きっと尋常ではないはず。

 クマちゃんはこの先、それを抱えたまま過ごすってことなんだ。


「……そっか。それは悪いことしちゃったね……」

「しかも不義理を果たそうものなら、イクシスちゃんやサーちゃんまでも敵に回しちゃうんだもの。そんなの出来るはずないわ」


 どうやら転移スキルの存在を、私はまだまだ軽視していたらしい。

 長距離移動手段が未発達なこの世界に於いて、転移スキルは夢の技術……いや、夢にすら思わないような次元の話なのだろう。

 転移って概念はある世界だから、そうとも言い切れないかも知れないけど。

 でもそれを個人がポンポン使うっていうのは、やっぱりとんでもないことなんだ。


「なるほど、つまりアレだな。そんな事情に思い至っていて尚、我々をクマ姐さんに紹介した母上が悪い」

「へぁ?! ちょ、クラウ?!」

「そう! そうよ! クラウちゃんもっと言ってあげて頂戴!!」


 ズバリというクラウの言に、意表を突かれたイクシスさんと勢いづくクマちゃん。

 でも、確かに。私たちをここへ寄越したのはイクシスさんだもの。


「ま、待て待て! だって今の冒険者活動は不便が多いって言うから!」

「それはそうです。普通の冒険者を装うには、どうしたってアリバイ工作が必要になりますから。時間が浮きすぎて困るんですよ」

「とんでもない悩みもあったものね……」

 ソフィアさんの言葉に戦慄するクマちゃん。

 でも実際そのとおりだ。

 転移によって、私たちは普通の冒険者とは比較にもならないくらい、短時間での活動が可能となっている。

 が、問題は浮かせた時間をどの様に消費するか、という点にあるのだ。


 例えば浮いた時間で街に繰り出したなら、「ダンジョンに行ってるはずのアイツらを街で見たぞ? 何か不正をしてるんじゃないか?」なんて噂が出かねないし、最悪転移スキルがバレる可能性すらある。

 そのため、私たちは浮いた時間をひっそりこっそり人目につかぬよう過ごさなくちゃならない。

 要するに、これを嫌ったわけである。

 そしてクマちゃんも、どうやらその事には想像が届いたらしく。


「確かに、せっかく時間が余っても行動を制限されるのでは窮屈でしょうね……」

 と、同情したような視線をこちらへ向けてきたのだ。

 けれど。

「だけどそれで冒険者を辞められてしまうと、ギルドとしてはとんでもない損失だわ!! こんな有望すぎるPTを手放すなんて有り得ない!!」

 などと、先程とは真逆のことを言い出したではないか。


「コ、ココロたちの存在を知って悩んでおられたのでは……?」

「う」

「そう言うと思って彼女たちを紹介したんだ。むしろ感謝してほしいくらいだな!」

「ぬぐぐ」

「人の世界は生きにくい」


 オルカのしみじみとした言葉が、やけに重たく響いた。

 ともあれ、クマちゃんとしてはやはり、私たちの存在を知らぬまま手放すより、手元に置いておいたほうがまだマシだ、ということで納得したらしく。

 しかしそれを察したイクシスさんが、改めて口を開く。

「念の為もう一度言っておくが。彼女らを良からぬことに利用されるようなことがあれば、私が許さないからな?」

「はぁ……分かってるわよ」

 項垂れて答えたクマちゃんは、少しの沈黙を挟んだ。

 しかし不意に顔を上げた彼女は、すっくと立ち上がり。そうして私たちへ向けてしかと宣言したのである。


「安心しなさい。この私が、決してミコトちゃんの力を悪用なんてさせないわ。いえ、ミコトちゃんだけじゃない……他の娘たちも、何かしらバクダンを抱えていそうね。上等よ、私がまとめて面倒見てあげるわよ!」


 見事に切られた啖呵に、「おおぉ」と皆から感嘆の声が漏れる。

 それはグランドマスターとしての威厳か、はたまたレジェンズの持つ頼もしさ故か。それとも彼女の人柄故だろうか。

 私たちは一様に、得も言われぬ安心感を覚えたのだった。


 が、それも束の間のこと。

 ビシリと彼女の指がイクシスさんを差す。あ、爪綺麗。


「その代わり、イクシスちゃんにお願いする仕事量はこれまでの比じゃないわよ。覚悟は出来てるんでしょうね?」

「ひぇ……」

「そしてみんなは、イクシスちゃんと協力して仕事に当たってちょうだい。それが特級PT鏡花水月に課す依頼ってことにするわ。勿論報酬もきっちり支払うから安心して。逆にギルドの通常依頼に関しては、なるべく受注を控えてほしいわ」

「り、了解」

「ああそれと、特級危険域に関する情報には報酬を出すわ。なにか面白い発見があったら知らせてちょうだいね」


 つい今しがたまで頭を抱えていたとは思えないほど、しっかりした落とし所を用意してくれたクマちゃん。流石グラマスである。

 なるほど、それなら私たちも活動に不自由しなくて済みそうだ。

 だがここで懸念が一つ。

 私は小さく挙手をし、それをクマちゃんへ質問した。


「大丈夫? それだと、イクシスさんが活躍しすぎて面倒くさいことにならない?」

「…………ふむ」

「如何な勇者様でも、道理に合わない仕事量をこなせば、それを不自然に思う人は少なからず出てくるでしょう」

「イクシス様の公な活動には、リスクが伴うようになっちゃうのです」

「なかなか鋭い指摘ね……そのとおりよ。その点も加味して仕事を振ることにしましょう」


 力を持ち過ぎた勇者が人類に裏切られる、だなんていう展開は、前世の創作でよく見かけた定番の一つだもの。

 間違ってもイクシスさんには、そんな風になって欲しくないからね。クマちゃんの采配には私も注目しておくとしよう。今や他人事じゃないしね。


「というわけで、鏡花水月は特級冒険者PTの資格有りとし、グランドマスターの権限をもって貴女たちの昇級を認めることとするわ。正式な手続きは追って行うとして」

 クマちゃんは一つ微笑むと、テーブル越しにこちらへ手を差し出してきた。

 握手を求められているようだ。

 それを素早く察した皆は、誰からともなくソファより腰を上げ、起立。

 代表して私がクマちゃんのその手を、しかと握り返したのである。


「貴女たちの今後の活躍に期待しているわよ!」


 斯くして私たち鏡花水月は、晴れて特級冒険者PTの仲間入りを果たしたのだった。

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