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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第四七七話 達成報告

 時刻は午前一〇時くらい。カラリと晴れた良い天気だ。

 現在私たちは、十日ぶりに王都にある冒険者ギルド本部を訪れていた。

 既に受付は済ませ、今は以前同様待合スペースにて待ちぼうけしているところである。

 因みに今回はイクシスさんからの紹介状などは無い。

 けれどどうやら話は通っていたらしく、受付で追い返されるようなこともなかった。

 ただ、訪ねたからってすぐに会えるような人ではないのだ、グラマスは。

 たとえ顔見知りの仲になったと言っても、私たちは所詮一介の冒険者に過ぎないのだしね。


 さて、今回はどのくらい待たされるのか。

 なんて、相変わらず高級感ゴリゴリの内装を眺めながら、例によってこっそりとした鍛錬に勤しんだり、ゼノワをいじって遊んだりして時間を潰していると。


「鏡花水月の皆様、大変お待たせしました。グランドマスターの元へご案内させていただきます」


 と、存外早くにスタッフのお姉さんが声を掛けてきた。

 私たちはすっくと立ち上がり、丁寧にエスコートしてくれる彼女の後ろをぞろぞろとついて歩いた。

 一度通った道だけれど、やっぱりソワソワしてしまうね。

 何ていうか、私用でお役所の偉い人に会いに行く、みたいな。そんな普通はあり得ないような体験をしてる感じ。気を抜くとつい、「あれ、私なんでこんな所にいるんだっけ?」なんて口走ってしまいそうだ。

 同じく仲間たちも落ち着かない様子。ソフィアさんだけは全く動じてないけども。


 そうして右へ左へ通路を進み、階段を数度上がると、ようやっとたどり着いたグラマスの部屋。即ち、クマちゃんの執務室である。

 お姉さんが扉をノックし、「鏡花水月の皆さまをお連れしました」と声を投げれば、相変わらず渋い声にて「通してくれ」との返事があり。


 斯くして私たちは、十日ぶりに冒険者ギルドグランドマスターたるクマちゃんこと、絶拳のダグマさんとの面会を果たしたのだった。


 案内してくれたお姉さんが、静かに一礼して去っていく。

 丁寧に扉が閉められ、その気配が遠のいていけば、執務机で何やら書き物をしていた強面のクマちゃんが徐に顔を上げ。

 そうして発した第一声は。


「ちょっとぶりね。それで今日はどうしたのかしら?」


 なんて、相変わらずのオネエ口調でふんわりとした質問をしてくる。

 私たちの用件なんて当然分かっているだろうに、どうやら信じ難いようで。

 いっそその内心には、怪訝さのようなものすら存在していた。

 それというのも、当然といえば当然で。


 何せ彼女は私たちに、『一月以内に特級危険域へ赴き、指定したダンジョンを攻略して戻ってこい』という課題を出したのである。

 それが、私たちが特級PTとして認めてもらう条件であると。


 はっきり言って無茶苦茶な話だ。私たちでなければ、移動時間だけであっさり期限を過ぎてしまうような破綻した課題。

 それでも、私が転移スキルを持っていると知っているが故に出した、無茶苦茶な内容の試験である。

 その難度たるや、如何な転移スキルを用いようとも決して容易くはなく、むしろ不可能であるという前提で課されたようですらあった。

 現に、もし期限に間に合わなくとも、攻略報告の内容如何では合格の可能性あり、ということになっていたほどだもの。

 まぁダンジョンなんて、潜ってみなくちゃどれだけ深いかなんて実際分からないしね。当然の措置ではあるし、一月だなんていうのはあくまで目安程度だったのかも知れない。


 けれどそれを、十日である。

 そんなの、途中で問題が発生したため戻ってきた、とか。そういう可能性を予想するのも当然のことだろう。

 ゆえにこそ、「今日はどうしたのかしら?」である。


 だから私たちは率直に用件を伝える。

「指定されたダンジョンの攻略が済んだから、その報告に来たんだよ」

「…………まじ?」

「マジも何も、ダンジョンの場所が分かるとかいう魔道具を介して既に知っていたんじゃないか? 件のダンジョンが攻略されたと」

 クラウがそのようにツッコめば、いよいよ言葉を失うクマちゃん。


 暫しの、妙に重たい沈黙が流れた。

 どうやらクラウの言うとおり、ギルドは件の山小屋の特級ダンジョンがクリアされたことを既に掴んでいるらしい。優秀な魔道具もあったものである。

 だからこそ、今回はそれ程待たされずにここへ通してもらえたのやも知れない。

 つまりクマちゃんは、今日辺り私たちがここを訪れると予想していたはずなのだ。


 それでも、やはりすんなりと信じる気にはなれないらしく。

 何せ私たちが彼女に開示している情報は、私たちの抱える秘密の一部に過ぎないのだ。

 実力面に関しては直接見せてすら居ない。

 だったらいっそのこと、クマちゃんと模擬戦でもすればその懸念も晴らせようものだろうけれど。

 それはそれで、どこまで見せていいのかっていう問題とかあるしな。出来れば避けたいな。


 などと内心ヒヤヒヤしていると、不意に「はぁ……」というため息が聞こえ。

「いいわ、とりあえず座ってちょうだい。報告を聞かせて」

 というクマちゃんの指示に促され、私たちは揃ってソファへと腰掛けたのである。


 そこからはまぁ、六十階層からなるダンジョンの攻略経緯を大まかに報告し、次いで質問に適宜答えるという形であれこれ聞き出されることになった。

 なお、クリア特典は一通り提出して見せてある。見せるだけだ。

 流石に、我々が紹介したダンジョンでの獲得物は、我々に所有権がある!! だなんて言いがかりを付けられることはなかった。我ながらとんでもない杞憂である。


「疑問なのだけど。いくら転移があると言っても、何をどうすればたった十日で広いダンジョンを六〇階層も走りきれるのかしら……? イクシスちゃん並の体力があるの?」

「それはえっと、ほら、こうして」


 魔法くらいなら大丈夫かなと、重力魔法で宙に浮かんでみせる私。

 そのままゼノワと一緒に、暫し部屋の中をぷかぷか泳ぎ回って見せれば、ぽかんと半口を開けた後、徐に頭を抱えるクマちゃんである。


「じ、重力魔法よね……? そんな珍しい魔法まで扱うの?」

「え、うん、まぁ」

「そう……まぁ、そうね。それなら異様な攻略速度も分からないでもないわ……いえ、やっぱり変よ! 重力魔法はMP消費がエグいはずじゃない? そこはどうしてるの? ミコトちゃんのMPってそんなにとんでもないの?!」

「えっと……まぁ、うん。そう。とんでもないの」


 裏技まで教えるのはどうなんだろうと思い、そこはかとなく誤魔化しておく。説明もちょっと面倒くさいし。

 だったらいっそ、膨大なMPを持ってます! ってことにしておいたほうが、話もスムーズに済むというもの。

 クマちゃんは暫し遠い目をすると、それからも幾つかの質問をしてきた。


「モンスターの強さはどうだった? 苦戦したでしょう?」

「ああ、とても良い経験になった」

「特にダンジョンボスは大変でしたね」

「まさかのフロア崩壊」

「恐ろしい相手でした」

「命からがらの脱出だったもんね」

「い、一体何と戦ったらそうなるのよ……」


 困惑するクマちゃん。


「トラップはどうしてたの? 移動が速ければ、それだけ注意も行き渡らなくなると思うのだけれど」

「う、うちには優秀な斥候が居るからね!」

「ふんす」

「目が泳いでるわよ」


 訝しむクマちゃん。


「ギミックで隠された特別な隠し部屋?! 確かに、稀にそういうものを発見したという報告は上がってくるけれど。あなた達よく無事だったわね」

「どういう意味?」

「そういう部屋には決まって、強力なガーディアンが居ると聞くわ。あなた達も出会ったんじゃない?」

「スーパーリザードマンのことですね」

「後はアレもか。オルトロス」

「ちょっとまって、え、何で二体??」

「二つ、その特殊な隠し部屋を見つけたからだよ」

「…………」


 とうとう黙り込むクマちゃん。


 思い返してみると、四〇階層の隠し部屋はどうして出現したんだろう?

 もしかすると知らない内に、何かしらの条件を満たしていたのかも知れない。ヒントを見落とした可能性があるね。

 それにあの部屋を護っていた無印くんって、もしかすると私たちのちょっかいを抜きにしても変身してた可能性があるのかも。

 だって無印くんじゃ、中ボスの下位互換だったろうし。だとすると普通にスーパーリザードマン・スリーに進化する予定だったのかな。

 今となっては確かめようの無いことだけれど。


 ともかく、そんな具合に私たちの報告は終わった。

 最後に。

「特級ダンジョンに挑んでみた感想を聞かせてもらえる?」

 と問うてくるクマちゃん。

 私たちは顔を見合わせると、手短にながら返答した。


「とても、学びの多いダンジョン攻略だったって思うよ」

「きっと私たちは、一歩成長できた」

「ですね。戦利品以上の経験を手に入れられたと思います」

「戦利品も素晴らしかったですしね。ふふふふふ」

「我々鏡花水月にとって、非常に有意義なダンジョン攻略だったのは間違いないな」


 クラウがそう誇らしげに締めるのを聞き、ようやっと小さな笑みを作るクマちゃん。

 そして。


「とりあえず、イクシスちゃんを呼んでちょうだい」


 保護者呼び出しが掛かるのだった。

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