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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第四七五話 フロア崩壊

 それにしても、双頭竜のステータスは尋常ではなかった。

 ゼノワの放つ光の白線がズビシと奴の胸部に突き刺さる。

 彼女が精霊力により紡いだ魔法は、竜の鱗による威力減衰効果を受けない。それ故少なくないダメージを叩き出しているはずなのだ。

 にも拘らず、未だ奴に堪えた様子はない。

 まだまだ元気ハツラツとしており、二つの頭で周囲を睨んでは雷のブレスを撒き散らす有様。その勢いは衰える気配すら感じさせず。

 あまつさえ、とうとうその背に携えた翼を羽ばたかせ、やたらと高い天井をいいことに飛び上がってみせたのである。


『ミコトさん、ほら飛びましたよ! アレが【飛行】のスキルです! 真似してほら早く真似して!!』

 などと、戦闘中でもお構いなしにはしゃぐソフィアさんに急かされ、自分の魔力のカタチをせっせとイジったところ。


『あ。出来た……。しかもこれ特殊スキルじゃないんだね』

『ええ?! ということはなんですか、人は空を飛ぶ可能性を秘めているということですか?!』

『でもレベルが低いせいで、全然使い物にならないや』

『そこはお得意の鍛錬でなんとかするんですよ!』

『そういう話は後回しにしてくれ、今は戦闘に集中だ!』


 クラウの苦言を受け、改めて現状を俯瞰してみる。

 空中に浮かび上がり、頭上から雷を撒き散らすようになった双頭竜の脅威たるや、まぁべらぼうに厄介で。

 ただでさえ近接戦の出来ない面倒な相手だったのに、いよいよ手の届かぬ位置取りまで許してしまった。

 高い位置から一方的に雷を浴びせかけるのが奴の常套手段であることは、今の状況からして明らかだろう。

 対してこちらの攻撃手段はと言えば、一応全員が遠距離攻撃の術を持っている。

 が、竜の鱗に阻まれ、ゼノワのそれ以外は大した意味を成さない。


 ココロちゃんの炎と氷は怪力を火力へ変換して繰り出すため、その高い出力により無理くりダメージを叩き出してはいるようだけれど。しかし奴の耐久力と比較すれば、与えられるダメージは決して多くない。

 クラウの魔法は牽制程度にしかなっておらず、ソフィアさんはここぞという時に備えて魔術を温存中。

 ゼノワは安定してダメージを稼いではいるけれど、致命傷を与えるには程遠い。

 私はプランA中サポートに徹する構えだし。

 そんな中、地味なれど大きな活躍をしていたのはオルカの影魔法だった。


 竜の鱗は魔法の威力を減衰させる。

 けれど彼女の影帯は、攻撃ではなく拘束に秀でた魔法であるため、その減衰率は攻撃魔法に比べて低いらしい。

 これを利用し、彼女は影帯をぬるりと鱗の下へ侵入させていった。

 そして、ザクザクと表皮に直接突き刺さる影槍たち。幸い飛んでいる双頭竜が天井に近かったことで、死角から気取られることなく影帯を伸ばすことが出来たようだ。

 下方からの魔法攻撃が、天井に影を作ったからこそ成った攻撃とも言えるだろう。


 思いがけない痛みに奴は悲鳴を上げながら空中にてもんどり打つと、そのまま姿勢を崩し床へ落下してきた。

 凄まじい衝突音と衝撃が駆け抜けていく。が、それに怯む者は誰もいない

『好機です。総攻撃を仕掛けて下さい! オルカさんは影帯を奴の体内へ。クラウさんは双頭へ【アクアリウム】を!』

 ソフィアさんの指示に従い、皆が一斉に動き出す。

 オルカの影は一度体内に侵食したが最後、体の内側に存在する影という影を支配し、喉や肺、お腹の中をずたずたにすることが出来る。

 しかも同じ体内でも肉体の内側ではなく、口からお尻の穴といった、あくまで外界との連続性が保たれた空間であるため、MNDによる抵抗を受けにくいとかなんとか。

 つまり、如何な竜でもこれには大ダメージを避けられないはずである。


 一方でクラウは、アクアリウムという魔法を素早く発射。

 打ち出されたのは巨大な水の玉。それらは見事二つの頭にそれぞれ直撃し、奴の頭部をゴボリと水球の内に閉じ込めたのである。

 アクアリウムとは水魔法の一種であり、その効果はまぁえげつなくも合理的な内容となっている。

 対象の頭部を水球に閉じ込めて、窒息を狙うというとんでもない攻撃魔法なのだ。相手のサイズにもよるけれど、消費も軽いため使い勝手も良い。

 が、その禁じ手じみた内容から、好んで使用する術者は少ない。

 何せ水だから掴めもせず、抜け出すのも容易ではないのだ。

 まぁ幾つか難点もあるけれど、当たれば厄介であることは間違いない。

 尤もそれは、呼吸を必要とする生物を対象にした場合は、という話だが。


 双頭竜は、ゆらりと揺らめく水の中より、ちょっかいを仕掛けてきたクラウをギロリと睨みつけた。

 どうやら然程空気に困っているようには見えない。そんなことよりゼノワやココロちゃんによる地道なダメージのほうが、余程直近の脅威足り得るらしい。塵も積もればなんとやら。如何にタフな双頭竜でも、このまま攻撃を受け続けては危ういと感じているのだろう。


 しかし、その時だった。

 突如ビクッと双頭竜の身体が、不自然な痙攣を見せたのである。

 何事かと思えば、体表を走る稲妻が頭部のアクアリウムに接触しているではないか。

 強烈な電気を帯びた水は、奴の口内より体内へと入り。

 そして、自らの内側を自らの雷で焼いたのである。

 どうやら体の外はともかく、内側は然程電撃に強くないらしい。ソフィアさんの見事な機転による痛打であった。


『ほほぉ、考えたねソフィアさん』

『ミコトさんの悪知恵に影響されちゃったみたいです』

『こっちも準備出来た。仕掛ける』


 直後、激しくのたうち回り、激痛に悲鳴を上げ始める双頭竜。

 オルカが影より突き出させた無数の槍や棘が、一斉に奴の内側を破壊し始めたのだ。その苦痛は想像を絶するだろう。

 そして痛みに口を開けば、口内へは水とともに電撃が流れ込み、さらなる苦悶を受けることになる。

 体の外からダメージが通らないのであれば、内側から破壊する。

 確かに私もそういう攻略法はよくやるけどさ、実際人がそれを実行するところを見ると、結構引いちゃうね……。


 そしてこの状況、既に詰みである。

 奴は痛みに我を忘れのたうち回り、デタラメに雷撃を振りまくけれど。しかしそれが却って自らを強烈に痛めつけている。

 加えてオルカの影から逃れる様子も無い。オルカも逃すつもりはサラサラ無いみたいだし。

 ココロちゃんもゼノワも畳み掛けるつもりで攻撃を加速させている。

 そして。


『苦しみを長引かせては、また進化や形態変化を促しかねません。一気に決めましょう、クラウさん』

『ああ、【ブレイブ・ロア】でとどめを刺す! オルカ、核の位置を教えてくれ! それと拘束も頼む!』

『了解』

『ならココロは、今のうちに変身です!』

『私も魔砲で支援するよ。ゼノワは奴への攻撃を継続ね』

『ギャウ!』


 双頭竜戦も大詰めである。

 オルカの影帯が奴を幾重にも縛り付け、その巨体を床の上に縫い付けた。と同時、二つある頭のうち右のそれが金色の輝きを放ち始める。

 オルカのスキルにより、奴の核が物体を透過する光を放っているのだ。頭部、脳みそが収まってそうな部分だ。そこに奴の核が隠されているらしい。


 準備は瞬く間に整った。見事な手際である。

 クラウがスキルを発動し盾を構えれば、そこへココロさんに変身した彼女の凄まじい拳が先ず叩き込まれ。次に私の魔砲がツツガナシより放たれ。最後にブーストリングで出力を上げたソフィアさんの魔術が吸い込まれていった。


「ぬぐぅおぉぉおおおおお!!」

 と、大層重そうにしながら、膨大な光を蓄えた聖剣を振りかざし、双頭竜の右の頭へ狙いを絞るクラウ。

 そして。

「と、ど、め、だぁぁああああ!!」


 振り下ろされる光の剣。

 氾濫する極光の大津波。

 齎される大破壊は柱の尽くをへし折り、あわや崩落待ったなしと言った大惨事を予感させた。

 私たちはそれに巻き込まれぬよう、急ぎ避難を敢行。

 大急ぎで部屋の隅っこまで走ると、クラウとの隔離障壁二重展開にてほとぼりが冷めるのを待った。


「す、凄まじい光景です……」

「今回もオーバーキルですね」

「あ、ドロップアイテムをストレージ内に確認。ボス討伐は成功みたい」

「おお……やったな……!」

「キュゥ!」

「それは良いんだけど、これ中ボスじゃなかった場合ヤバくない? ダンジョンの自己修復機能途切れちゃうんじゃ……」


 私の示した懸念に、皆が顔を引き攣らせて黙り込む。

 次いで。


「……下り階段の出現、確認できない。代わりに特典部屋らしき空間の出現を確認」

「やっばっ!」


 判断は迅速だった。

 隔離障壁を遠隔で展開、特典部屋の扉前をガード。

 テレポートにて皆でそちらへ転移し、クラウとの二重隔離障壁にて特典部屋の保護を行った。

 私はともかく、ブレイブ・ロアを撃ったせいでメチャクチャに疲労している彼女は、MP回復薬を呷りながら光の奔流が収まるのを待った。のだが。


「あわわ、天井が崩れてきますよ!」

「本当に崩落が始まってしまったみたいです」

「急いで特典部屋のアイテムを回収。離脱しよう」

「な、何でこんなことに……」

「私抜きでも十分メチャクチャだってことだね」

「ガウガウ」


 斯くして、大慌てで特典部屋へ突入したオルカたちの手により、攻略達成の感慨もろくに感じる間もなく宝箱は開かれ、部屋の中に散らばったアイテムごとPTストレージ内へまるっと収納。

 その後はさっさと自分たちもストレージ内へ入ると、最後に残った私はふと思い至り五七階層へフロアスキップで寄り道。

 その後無事、イクシス邸転移室へと帰還を果たしたのだった。


 最後の最後になって大変な目に遭いこそしたけれど、これでようやっと特級ダンジョンクリアである。

 そしてそれは同時に、特級PT認定試験のクリア条件を満たしたことをも意味しており。

 私たちは帰り着いた転移室にて、噛みしめるようにその喜びを分かち合ったのだった。

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