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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第四七一話 力を合わせて自滅

 ウィンガルの体が膨らむのに伴い、メリメリと肉と骨の軋む生々しい音が響き。

 急激な肉体の変化には相応の苦痛もまた伴うもので。

 奴の発する呻き声が止むのに、おおよそ三〇秒ほどの時間を要した。

 しかしその変貌ぶりからすれば、変化に掛かった時間は僅かと言えるだろう。


 苦痛の終わりと、身体に漲る溢れんばかりの力。

 オルトロスというモンスターへと進化を遂げたそいつは、スゥと息を吸い、さながら産声が如く咆哮を鳴らすのだった。


 けれどそれは明確な、進化を果たしたという合図でもあり。

 それは即ち、私たちが動き出すための合図にも等しかったのである。

 そして次の瞬間には、無防備な奴の四足全てにスーパーオルカの強化された影帯が巻き付いており。

 ぎょっとした時には既に、流れは私たちの手の内にあった。


『デバフで柔らかくする』

 黒宿木を発動した状態で複数のデバフスキルを用い、先ずはオルトロスの防御系ステータスをガッツリ下げる私。

 黒宿木によるデバフは、MNDによる低下値の軽減や成功率の低減をほぼ受け付けない。つまりは発動すればしただけ、奴のステータスを下げることが出来るというわけだ。

 ただ、ダンジョン内でバカスカ精霊術を使用すると、最悪ダンジョン自体が崩壊するというとんでもない事態を招いてしまう。以前、ちょっぴりそういった実験をやったりやらなかったり……。

 精霊とは世界そのもの、なんて言葉があるように、ダンジョン内から精霊力を吸いまくると、ダンジョンという世界を構築できなくなる、とか。多分そういう理屈なんじゃないかと想像してるけど、ハッキリしたことは分からない。


 なので、あまり消費の重いデバフを掛けることは出来ないのだけれど、それでも効果は十分に高い。

 防御力をゴリっと削られたオルトロスは、単にダメージを受けやすくなっただけでなく、その身に傷を負いやすくもなっている。

 これが万全であれば、毛皮なり筋肉なりで刃も打撃も刺突も、きっと魔法でさえもその威力を大きく軽減してしまったことだろう。

 核を狙うにしたって、その身を貫くことも困難だったに違いない。

 だが、防御の下がった今は違う。


 どうにか影帯の拘束から抜け出そうと足掻くオルトロスへ、最初に傷を付けたのはやはりオルカだった。

 影から無数の鋭いトゲが飛び出し、奴の足へ突き刺さったのだ。

 と同時、オルトロスの首元、二本ある首の間が何やら青く光り始めたのである。

 覚えのある光り方だった。核である。

 以前は確か、矢を突き刺すことでモンスターの核を光らせる、というようなことをしていたオルカだったけれど、どうやら矢でなくちゃならないって事はないらしい。傷を与えられればそれで良かったのだろう。

 そして以前と違い、青い光を放つ核。モンスターによって色は違うみたいだ。

 この核を壊しさえすれば、それで方が付く。

 だが。


『多分、こいつの核も硬い』

『了解です。ならば今こそ!』

『合体技だな!』

『待ってました!』

『え、なにそれ?!』

『ミコトも協力してくれ!』

『あ、はい』


 何やら私の知らないところで、面白い試みが為されていたようで。

 その成果として彼女たちは、合体技とやらを完成させていたらしい。

 私は念話にて指示されるままに、連携へ加わることとなったのである。


 クラウが盾を構える。そして、『よし、来い!』と叫ぶなり、何とそこへココロさんが殴りかかったではないか。

 盾を叩いたとは思えない凄まじい音が鳴ったが、何とクラウはノーダメージ。ノックバックすらしない。

 が、それもそのはず。どうやらそうあって然るべき、特殊なスキルを用いているらしいのだ。

 だからソフィアさんも魔術を準備している。ココロさん同様クラウにぶつけるつもりなのだ。


 そして私もまた、おっかなびっくりクラウへ向けてツツガナシによる魔砲を構えているわけだけれど。流石に黒宿木は解除している。精霊力を込めた魔砲じゃ、クラウの特殊なスキルを素通りしちゃうだろうからね。消費も大きいし。

 精霊といえばゼノワも、同じ理由からこの合体技には参加できない。

 しかしその代わりに、彼女にはワガマママウントフラワーを付けてバフフィールドを展開してもらっている。これによりココロさんの打撃も、通常よりずっと重たいものになっていたはずだ。

 ただゼノワ自身はこれと言って何もしていないため、やや物足りなそうにはしているけれど、立派に役立ってくれているのは間違いないのだから、そんな顔しないで欲しい。


 そうだ、折角なのでソフィアさんの前にブーストリングを展開しておく。

 魔術がこれを潜れば、一層その威力は強力になるのだ。

 他方でオルカだが、彼女はオルトロスの拘束に力を入れているため、不参加……というよりは、時間を作るというのが彼女の大事な役割となっている。


『それじゃあ、撃ちますよ』

『こっちも撃つけど、ホントに大丈夫? 吹っ飛ばない?』

『だ、大丈夫なはずだ……多分!』


 心配だなぁ。まぁ撃つけども。

 私とソフィアさんが、意図せず同じタイミングで魔砲と魔術をクラウへ向けて解き放った。

 顔の引き攣ったクラウは、「ひぃ」と情けない声を漏らしながらそれらをしかと盾で受け。


 そうして数秒。魔術と魔砲の残滓が霧散し晴れると、そこには何事も無かったかのように佇むクラウの姿があった。

 ただ一点。

 彼女の携えている聖剣から、とてつもない力が感じられたのだ。先程までには無かった力だ。

 そう。私たちがクラウへ向けてぶつけたエネルギーの全ては、彼女の持つその聖剣へと集約されたのである。

 つまるところそこには、ココロさんの全力パンチと、私の魔砲、ソフィアさんのブーストされた魔術の力が一纏めにされているわけで。


『ソフィアとココロは一応ストレージに入っていてくれ! ミコトは隔離障壁を! オルカは私たちの後ろへ!』


 クラウの指示に従い、ソフィアさん、ココロさんが一も二もなくPTストレージへ避難する。

 オルカはシュバッと私の後ろに現れた、私はクラウが合体技をぶちかます為の隙間だけを空け、オルトロスと私たちを隔てる隔離障壁を展開。

 ゼノワは私の頭に張り付いて、ギュッとフードを握っている。バフフィールドは依然として展開中だ。


『準備いいよ!』

『了解だ! では、行くぞ!!』


 クラウが聖剣に力を込め、大上段に構える。

 すると、爆発するように金色の光を放ち始める聖剣。

 そして。


「はぁぁぁああぁぁあああああ!!」


 急に大声を張り上げ始めたクラウ。え、なになにお約束の気合の掛け声? カッコイイやつじゃん!


「もぉぉぉぉおおおくっそ重いぃぃぃいいいい!!」


 違った。愚痴だった。

 実際、彼女の足元の石畳には、どういうわけかバキバキと罅が広がっており、なんだかとんでもない負荷が掛かっていることは明らかだった。

 ボゴッと、とうとう床が負荷に耐えきれず砕け始める。クラウは歯を食いしばり、目の前のオルトロスを睨みつけている。

 対する奴は、死物狂いで影帯から抜け出そうと暴れているが、既にその全身を影が覆っており、残念ながら抜けられそうにはない。

 そんなオルトロスを再び影の棘が突き刺し、核に光を灯した。


『クラウ、よく狙って』

『がむばる!!』

『大丈夫かなぁ』


 そうしてついに、クラウが金色の剣を叩きつけるように、オルトロスめがけ真っ直ぐ振り下ろしたのである。

 迸る光の奔流。撒き起こる大破壊。っていうか、金ピカに染まる視界。

 私たちはそれを、隔離障壁の向こう側に捉え。


『あ、まずい。これ持たない!』

『え』

『そ、そんなこともあろうかと!』


 ビシビシと障壁に走る罅割れ。オルカの引き攣る顔。

 しかしお疲れ模様のクラウが即座に動いた。

 何と彼女も、私と同じく隔離障壁を展開してみせたのである。

 おかげで、私の障壁が砕け散っても彼女がそれをカバーし、その隙に素早く障壁を張り直すという、隔離障壁の二重展開が叶ったのである。

 これにより、どうにか余波に巻き込まれて大惨事! という自体を避けることが出来たのだ。

 と思いきや、想定外の事態が起こる。

 何と、大破壊はダンジョン内を勢いよく駆け巡り、あろうことか通路をぐるりと一周りして私たちの背後から襲い掛かってきたのである。


 いち早くこれに気づいたオルカの警告により、私たちはとっさにフロアスキップでダンジョンを脱出。ギリギリのところで事なきを得たのだった。

 いつもの癖でワープも使い、イクシス邸にまで戻ってきた私たち。

 出発してまだ一時間と経っていないのに帰ってきてしまうとは。流石にちょっと想定外だった。


 クラウはフラフラとした足取りでベッドに倒れ込むと、そのまま目を閉じスヤァっと安らかな寝息を立て始めたではないか。まさかの即寝である。

 オルカはスーパーオルカから通常モードに戻るなり、ソフィアさんとココロさんをストレージから取り出し、ちゃっちゃかお茶の用意を始める。手際が良い。

 他方で私はと言えば、一先ず失ったMPを裏技にて補充し、ソファへ腰掛けてゼノワを膝の上に載せた。そしてため息を一つ。

 とんでもない体験をしてしまった……。


 ココロさんもすぐに変身を解いてココロちゃんへ戻ると、ソフィアさんと一緒に困惑を顔に浮かべ、そして当然の質問を投げてきたのである。


「えっと、それでどうなったんですか?」

「何故にここへ戻って来ているんでしょう?」


 私とオルカは一つ視線を交わすと、短く経緯を二人へ語って聞かせたのだった。

 尚、ドロップアイテムはちゃんとストレージの中に入っていた。

 あって良かった自動回収……。

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