第四六七話 私のものです
少しの緊張と、大きな期待が寄せられる中。
ワクワクドキドキしながら鑑定スキルを行使した私は、その結果に仮面の下で目を丸くした。
すると私の驚きを敏感に察した皆が、早く結果を教えろと催促してくる。
ので、焦らすでもなく私は鑑定で判明した内容を皆に告げたのである。
「アイテム名は『黒竜の飾翼』。アクセサリー系の装備アイテムだね。宿ってる特殊能力は……『空中飛行』と、【ドラゴンブレス】ってスキルが装備中に限り使えるようになるみたい」
「「「「!!」」」」
ざわっ。
絵に描いたようなざわめきである。皆の視線は私の抱えている一対の黒い翼、黒竜の飾翼へとガッチリと固定され、ゴクリと生唾を飲み込む。
余程興味津々なのだろう。
しかし、そんな中にあって一層強く興味を示した者があった。
無論、スキルが絡んだらこの人が黙っちゃいない。
スゥッと綺麗な挙手をするソフィアさん。
皆の注目が向くなり、えらく通る声で彼女が発言する。
「私のものです」
潔いほどに遠慮のない、所有権の主張であった。
一拍。
「いやいやいやいやまてまてまて、まずは話し合うべきだ。そうだろう? 私も欲しい」
「ココロも空飛びたいです! ココロもブレス吐きたいです!」
「なら私はさっきのレアドロップの方に一票入れておく」
「ココロさんはココロ号でたまに飛んでるじゃないですか! クラウさんは中ボスのドロップ二つとも所有権貰ってますよね? オルカさんは辞退したので、結果私のものです!!」
「何故私はナチュラルに省かれるのか……」
空を自由に飛びたい、というのはやはり人類みんなの夢なのだ。
そして、それを可能にするアイテムが今、私たちの目の前にある。
ならば当然、揉めるよね。
黒竜の飾翼の所有権をめぐり、ギャーギャーワーワーと、それはそれは揉めた。
私は重力魔法で飛べるからと除け者にされたし、オルカはちゃっかり超トカゲ4の落としたレアドロップに狙いを絞ったため、争奪戦には加わらなかった。
結果、ココロちゃん、クラウ、ソフィアさんの三人による熾烈な争いが勃発し。
「ココロちゃんはこの前、巨大化出来る王冠あげたでしょ。クラウはソフィアさんの言うとおり、ケルベロスの盾と超トカゲの首飾り貰ったんだし、今回はソフィアさんに譲ったら?」
埒が明かなそうだったんで、私からその様に提案してみたところ、存外聞く耳を持ってくれたらしい。
しかしなんとも不満げなココロちゃんとクラウ。あとソフィアさんのドヤ顔にちょっぴりイラッとしたので、言葉を足しておく。
「でも空を飛ぶだなんて如何にも便利そうな力、ソフィアさんに独占させておくのもアレだし、必要に応じて他のみんなにも使わせるべきだと思うよ。私も興味あるし」
「うぐ……わ、分かりました……」
「うむ、まぁそういうことなら」
「ココロも異存ありません!」
ってことで、どうにか丸く収めることが出来た。
しかし、そうと決まれば早速試してみたいと言い出す彼女たちである。
それはとりあえずイクシス邸へ引き上げてからってことにして、私たちは例によってフロアスキップやワープを駆使し、イクシス邸転移室へ舞い戻ったのだった。
先ほど休憩に戻って以来、時間にしてみると三〇分そこらで戻ってきたわけだけれど、想像以上の強敵との戦闘で消耗したのだから仕方がない。
命大事に! を基本として活動している私たちだからね。これでいいのだ。
転移室に戻るなり、黒竜の飾翼を握ってドタバタと部屋を出ていく三人。その後姿たるや、休み時間にドッジボールをしに行く男子が如し。
そんな彼女らへ。
「レアドロップはいいの? テストするんなら、後でまとめてやったほうが良くない?」
と声を掛けてみたところ、面白いようにピタリと三人揃ってその足を止め。
パタンと扉を閉じると、しずしずと適当な場所に腰を落ち着けたのである。
すると。
「何か面白そうな気配を感じたんだが!」
ガチャッと、今閉じられたばかりの扉が再び勢いよく開き、姿を見せたのはイクシスさんだった。どうやら彼女のワクワクセンサーに引っかかったらしい。
隠し立てするようなことでもないため、ただいまおかえりのやり取りをサラリと交わすと、簡単に経緯を説明。
ならば是非自分も立ち会いたいということで、イクシスさんも交えてレアドロップの所持者決めと性能テストが行われることに。
空いている椅子にスチャッと腰掛けるイクシスさん。
そんな彼女の様子を横目に、私は早速スーパーリザードマン・フォーの核を砕き入手したレアドロップをPTストレージより取り出し、テッテレーっと高らかに掲げてみせた。
「これが、スーパーリザードマン・フォーより入手した、『黒繭のマフラー』だよ!」
おお~という歓声とともに、皆の視線が私が掲げたそれへ集中する。
名前のとおり、それはマフラーだった。トカゲにかけて言うなら、襟巻きと言ったほうが良いだろうか。マフラーだけどね。
色は光さえ呑み込んでしまいそうな真っ黒。サイズは長く、ロングマフラーと言うにもまだ長い。
たなびくマフラーってかっこいいよね……その点このマフラーには可能性を感じている。中二心が疼き出す。
まぁそれはともかくとして。
ちゃっちゃとそれを綺麗に畳むと、テーブルの上にすっと置く。そして。
「イクシスさん、鑑定よろしく」
「任せてくれ!」
自分でやるには、また魔力調律の必要があって手間なので、ここはイクシスさんに丸投げ。
すると二つ返事で請け負ってくれた彼女は、早速前のめりになってマフラーを凝視し始めたのである。
結果はすぐに出た。もとより鑑定スキルは使用に時間の掛かるようなものでもないしね。
皆がワクワクしてイクシスさんの説明を待つ中、当の彼女は一人で「ほぉ、これは……!」などと感心している。
「そういうのいいから! 早く教えてくれ!」
とクラウが急かせば、彼女はすまんすまんと苦笑を返して咳払いを一つ。
「えー、それではこの『黒繭のマフラー』に関する鑑定結果だが。先ずは、非常に高い防御力を秘めていることが分かった。何とDEFとMNDに驚きの……+200が付く!」
テンション高く、そんなことを言うイクシスさん。
だけど、私たちはいまいち彼女の言った言葉がうまく呑み込めずに、首を傾げた。
え? なんて言ったの今? にひゃく? にひゃくってなんだっけ? こんにゃくの仲間か何かだっけ?
「それで次に特殊能力だが」
「いや待って待って待って! え? ごめん。聞き間違えかな? +200って言ったの? 言ってないよね?」
さっさと話を進めようとするイクシスさんを制止し、改めて問いただす。
どうやら困惑しているのは私だけでないらしく、皆も真剣な表情でイクシスさんの返事を待った。
するとそれは呆気なく、
「え、言ったけど。ちゃんと聞いてなかったのか?」
などと認められ、逆に困惑される有様である。
皆で盛大に頭を抱えた。
だって仕方ないだろう。装備にそんな補正値が付いてるだなんて、鏡花水月史上前例の無いことである。
厄災戦で得た戦利品だって、まだおとなしい性能のものだった。
それがまさかの+200……えぇ? じゃぁなに? もし私がそれを装備した場合、たったそれだけで最大ステータスが200をオーバーするってこと? うそじゃん。
まぁ戦闘スタイル的に、DEFとMNDじゃあんまり私と相性良くないけどさ。
それにしたって、あまりに破格。私を含め、皆が我が耳を疑うのも仕方がないだろう。
「こ、こんな布一枚に、そんな防御性能が……」
「一体全体どうしてそんな事に……」
「余程オルカさんの影帯が恐ろしかったのでしょうね……」
「私のせい……?」
三点リーダー祭りである。鏡花水月が困惑し浮足立つ中、その反応を楽しむようにイクシスさんがさらなる爆弾を投げ込んでくる。
「でだな、これの持つ特殊能力だが」
皆の注意が再度集まったのを認め、彼女は言うのだ。
「一つ目は『拡縮』。マフラーのサイズを好きに変えられるという能力だな」
サイズを自在に変えられる、か。ってことは首周りだけじゃなく、全身をガードすることも出来るってこと? それならアクセサリーっていうか、もはや防具じゃん。
まして、自分どころか他者を護るのにも使えそうだね。
「二つ目は『操布』。マフラーを意のままに操ることが出来るらしい」
「!!」
い、意のままに操れる!? じゃぁ何か! 風もないのにマフラーをたなびかせることが出来るってことか!!
そうでなくとも、使い道はめちゃくちゃ広いよ。それこそ繭みたいに全身を覆ったりも出来そうだし。もしかしたら拘束にも使えるかも。
破格の防御性能に加えてそれって、どう考えてもとんでもないよね……?
「三つ目は」
「!? ま、まだあるの?」
「ああ。しかもこれがまたとんでもない」
皆がゴクリと喉を鳴らす。
しこたま色んなアイテム、特に武器を鑑定し目の肥えまくったイクシスさんが、とんでもないだなんて言うんだ。否が応でも期待は膨らもうというもの。
私たちの様子を満足気にチラリと眺めた彼女は、少しだけ溜めを作ってその内容を明かしたのだった。
「黒繭のマフラーが持つ、三つ目の特殊能力。それは、アイテム名からも想像できる通り……『羽化』だ」
あわわ、昨日書き忘れてました。
誤字報告、適用させていただきました! 感謝ぁ!




