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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第四六六話 反省と宝箱

 バチバチと、青白いスパークが気まぐれに踊る。余韻と言うにはいささか物騒なそれは、今しがた私がソフィアさんにキャラクター操作を行い発動した、強化された熱線の痕跡に他ならない。

 正直、隔離障壁で自身を守っていなければ、その余波だけで焼き殺されていたであろうほどの凄絶な火力だった。仲間たちをストレージに避難させておいて大正解だった……。

 熱線がボス部屋の壁を焼いて穿った横穴は、まったくもって果が見えず。興味本位でマップを確認してみれば、延々と続くトンネルはサーチ外にまで飛び出していた。つまり約直径一二キロを超える穴だってことだ。

 しかしよく出来たもので、流石はダンジョンの壁。少ししたらその穴もシュルシュルと塞がっていき、程なくして何事もなかったように元通りになるのだろう。

 いつもより修復が遅いのは、それだけ規模が大きいからに違いない。


 ともあれ、無事に討伐は済んだ。超トカゲ4の反応は、マップ上にも存在しておらず、気配も感じない。

 後は、上がりに上がった部屋の温度を冷ましてやれば、仲間たちをストレージから呼び戻しても大丈夫だろう。

 ちゃっちゃか熱魔法で気温を適温に戻し、その後ソフィアさんから離脱した私はオルカ、ココロちゃん、クラウをストレージから出す。

 ストレージ内は時間が停止しているため、まだ戦闘終盤のテンションだった彼女たちは、決着がついたことを認めるまで些か物騒な気配を纏っていたけれど、それと分かるなり脱力。

 ココロちゃんに至っては、ココロさんモードから通常ココロちゃんへ戻るため、身長がしゅるしゅると縮む。奇妙な光景である。


「ふぅ、何とか無事に倒せたね。みんなお疲れ様」

 キャラクター操作の反動から、軽度の倦怠感を覚えながらもその様に皆を労えば、彼女らも幾らか消耗した様子で声を返してきた。

「ミコトもお疲れ様。怪我はない?」

「流石に今回は肝が冷えたな。私一人だったら、正直勝てたか分からない相手だった」

「ですが、ミコト様も交えた今回の連携、すっごくすっごかったです!」

「はわわわぁ……ミコトさんと一緒に撃った魔術、気持ちよかったです……」

「ガゥ……!」


 恍惚としてるソフィアさんは置いておくとして。

 心配性のオルカにペタペタ体を触れられながら、クラウの言葉を反芻する。

 確かに彼女の言う通り、私一人でも苦戦は免れないような相手だった。

 出番がなかったゼノワは、いつの間にか頭に引っ付いて不満げにベシベシ叩いてくるけど、正直彼女の手を借りずに済んだことには、少なからず安堵を覚えている。

 だって、超トカゲ4ことスーパーリザードマン・フォーは私たちのエゴが生み出したモンスターだから。

 そんな奴と戦うのにゼノワの力をガッツリ借りるというのは、流石に恥知らずというものである。

 だから自分たちの手で決着を付けられたことには、安堵とともに後味の悪さというか、気まずさを否応なく感じてもいる。


 すると、オルカが私の顔を覗き込んでくる。その表情は何だか心配そうで。

「ミコト、どうかした? ちょっと元気ないみたい」

 などと言うものだから、急に慌て始めるのはココロちゃんである。

 私は二人に問題ないことをアピールし、正直に内心を吐露することにした。


「反省してるんだ。せっかく必殺技まで編み出したって言うのに、結局レアドロップを狙うために無印くんを酷い目に遭わせちゃったなって。やるならやるで、最初からもっと正々堂々戦えば良かったって」


 私の言葉に、場の空気が静かに強張る。

 恍惚としていたソフィアさんも、流石に表情を引き締めた。

 そして私の言に、最初に反応を還したのも彼女だった。


「仰ることは分かります。ですが、戦力の未知数な相手に真正面から向かう危険性は軽んじるべきではありません。ましてここは特級ダンジョンで、実際スーパーリザードマン・フォーは中ボスを遥かに上回る戦力を有していたのですから」


 そう。それも分かる話だ。故にこそ私たちは、奇襲上等隙あらば変身中でも襲いかかる、というスタンスでやって来たのだから。

 しかし今回ばかりは、勝手が違った。

「今回は、変身を促してレアドロップを狙った。そのやり方が間違ってたんだと思う」

 とはオルカの意見だ。これには皆が頷きを返す。


「奇襲を仕掛けるのであれば、故意に戦いを長引かせるような真似をしてはいけなかったのだ。変身を促すのであれば、それこそ真正面から挑む覚悟が必要だったわけだな」

「ただ勝利する以上のことを求めるなら、相応の戦い方が求められる……我武者羅にモンスターを倒すことだけに集中してきた今までは、思いもしなかった考え方なのです。ココロこれでもシスターなのに……」

「あらゆるものを利用して勝利を掴むのが冒険者です。しかしだからこそ、犯してはならないルールの線引きはしっかりと意識するべきなのかも知れませんね」


 私だけでなく、皆も今回の戦闘には思うところがあったらしい。

 スーパーリザードマン・フォーには本当に残酷なことをしてしまった……黒い塵に還った彼は、きっと世界のどこかで生まれ直すのだろうけど、それでも私たちが彼の生を終わらせたことには違いない。

 冒険者の中には、モンスターなんてどうせリポップするんだから気にするようなことじゃない、なんて言う人も居るのだろうけれど。しかし私は、そんなふうに割り切りたくないんだ。

 なにせ、私自身が既に死を実際経験しているからね。どうしたって人よりちょっぴり、その辺りのことは深く考えちゃう。

 モンスターを狩ることと冒険者としての活動は、どうしたって切っても切れないことだけれど、それゆえにこそ誠実でなくちゃならないんだ。

 もしかすると、それに意味なんて無いのかも知れない。私たちがマナーだ礼儀だ矜持だなんてこだわりを持ったところで、実際命を奪われる側にしたら、そりゃぁ自己満足にしか見えないだろう。

 けれど。たとえそれが私たちの自己満足に過ぎなくとも、きっと冒険者活動を続けていく上で必要な考え方なんだと思う。

 知らず識らずに溜まっていく、戦うことへのストレス。それと上手く付き合っていくためにも、きっと。


「よし。それじゃぁちょっと方針を変更しようか。今後は、奇襲をかける時はなるべく速やかに決着をつける! こちらの都合で戦闘を長引かせる場合は、モラルを欠くような戦い方はしない! ってことでいい?」


 私の確認に、皆はすんなりと同意を示してくれた。

「奇襲の掛けようがないダンジョンボスや、奇襲が失敗した場合はどうするのだ?」

 とはクラウの質問である。

「これまで通りでいいと思う」

「つまり、威嚇で吠えたり勿体つけて変身し始めたりしたら、遠慮なく襲い掛かろうってことだね」

「敵を前にして、隙を見せるほうが悪いんです。『自業自得』でしたか? それですよ」

「ココロだって、鬼の力を使う時は隙を見せないように配慮してますもん!」

「戦闘中私たちが余計な声を出さないのだって、隙を極力晒さないためだもんね。それを怠る相手には、遠慮なんて要らないと思うよ」

「お、おぉぅ、容赦がないな。だが私も同意見だ」


 そんな具合に、ガッツリと正面から対峙した敵が見せたあからさまな隙になら、それが如何なものであっても容赦なく付け込んでいくスタイルは今後も変わらず、ということで話はまとまった。

 話が真面目で退屈だったのか、頭の上ではゼノワがあくびをしている。

 すると、話に区切りがついたのを認め、オルカがぽんと手を打った。皆の注意を集め、口を開く。


「取り敢えず、休憩したい。今の戦闘は結構大変だったし、ミコトとソフィア、それにココロもスキルの反動があるだろうから」


 その言葉に皆で同調し、私たちは再びイクシス邸へ引き上げることにしたのである。

 流石にキャラクター操作やココロさんモードの反動を引きずったまま、ダンジョン攻略の続きを行うのはリスキーであるとして、今日の攻略はここまでという話になった。

 ので。

「帰る前に、宝箱を確認しましょう!」

 と言うココロちゃんの言葉に促され、私たちの視線は静かに隠し部屋の最奥へと向いた。

 すると思い出したかのように、「そう言えば今回、スーパーリザードマン・フォーは何をドロップしたんだ?」とクラウが質問してきたけれど、それに関しては帰ってからのお楽しみということで一旦保留にしておいた。


 そうしてワクワクしながら、早速皆で宝箱の前に立つと、代表して私がその蓋を開くことに。

 何度経験しても、やはり宝箱を開けるこの瞬間というのは緊張する。どうせダンジョンボスを倒せば、ダンジョン中の宝箱からアイテムが特典部屋へ送られるため、こうしてダンジョンクリア特典以外の箱を開ける機会というのは、意外なほど少ないのだ。私たちの場合は特に。

 無印くんが護っていただけあって、なんだか妙に豪奢な作りの箱である。そのことも、ドキドキワクワクを加速させる一因となっていた。


 しかし不意に、一つの考えが頭を過ぎった。

 疑問である。宝箱の中身とは直接的に関係のない、言ってしまえば雑念のようなもの。

 そうは思えど一度気になり始めると、どうにも意識が削がれてしまう。

 大きくて豪奢な箱の蓋に手を掛けたまま、ピタリと動きを止める私。

「ミコトさん、どうかしましたか?」

 とソフィアさんが問うので、私は頭に浮かんだ疑問をそのまま口に出してみることに。


「ちょっと思ったんだけどさ。こういう、強力なモンスターが護ってそうな宝箱の中身っていうのも、他の宝箱と同様に特典部屋に送られるものなのかな? もしかしてスルーされてる、なんてこと無い?」


 皆の表情がスッと固まった。

 一拍を置き、考え始める面々。


「言われてみたら、確かに……」

「あ、以前ダンジョンクリア後に帰り道で隠し部屋を見つけたことがあるぞ。宝箱は空だったな。だが、モンスターが護っているような部屋ではなかったから、何とも言えないな……」

「もしこういう得難い宝箱が、特典部屋に送られるアイテムの対象外だとすると、今まで結構勿体ないことしてたかも知れないってことですよね?!」

「ふむ……それでしたら今回は、特典部屋で得られるアイテムの数と、ダンジョン内の宝箱の数を照らし合わせて確認してみましょう。マップスキルがあるからこそ可能な調査ですが、事実確認が可能なはずです」

「だけどさ、もし『特定の条件をクリアしないと出現しない隠し部屋』がここの他にも存在するとしたら?」

「その場合は、やっぱり特典部屋には送られないと思う」


 ……なんてことだ。

 ダンジョンの宝箱は取り尽くす派の私が、これまで幾つもの宝物をみすみす取り逃してきた……だと?!

 ズーンと一気にテンションが下がった。はぁ……つらい。

 今まで取り逃した宝箱の中身を思うと、無性に惜しいことをした気分になってくる。たとえその中身が二束三文にしかならないアイテムだったとしても、未開封の宝箱には夢と希望が詰まってるものなんだよ。シュレディンガーの猫と一緒! いや、一緒ではないけども!

 兎にも角にも、このやり場のない気持ちをどうしたらいいんだ。あー……あーあー……もしかしたら伝説の剣とか入ってたかも知れないのになぁ……はぁ。取り逃しちゃったのかぁ。


「なんかミコトが分かりやすく凹んでる」

「気づかないほうが幸せだったこともある、ということだな」

「おいたわしやミコト様……」

「そんなことより早く宝箱開けてください」


 そういうとこドライだよねソフィアさん。

 急かされ、ガッカリとワクワクの入り混じった複雑な心境のまま、私はよいしょと宝箱の蓋を開いたのである。

 中を覗いてみる。するとそこには……。


「ほぅ、翼……ですかね?」

 と、私より先にコメントを述べたのはソフィアさんだった。いつの間にか私の隣で箱を覗き込んでいる。

 次いで他の皆も宝箱へ殺到する。勢いに押され、私は端っこに追いやられてしまった。

 オルカの横から一緒になって再度箱の中身を確認すれば、確かにソフィアさんの言った通りの謎アイテムが収納されていたのである。


 それは、一対の翼だった。

 鳥のそれではない。コウモリのともちょっと違う……多分、ドラゴンのものだ。

 とはいえサイズ感は実物よりずっと小さく、さながらコスプレアイテムとして人間が背中に背負える程度の大きさだろうか。

 鱗は黒灰色で、翼膜は白に近い灰色。なかなか中二心を刺激するアイテムである。

 ゼノワも頭の上ではしゃいでいる。そう言えばゼノワの翼にちょっと似てるね。色は違うけど。

 が、それはそれとして。


「これって、どういう用途のアイテムなんでしょう?」

「武器という感じではなさそうだな」

「乾燥させて薬の材料にする?」

「ミコトさん、鑑定の出番です」

「あ、はい」


 一先ず箱の中から一対の翼を手に取ると、私は魔力調律にて鑑定スキルを強化。

 早速謎の翼を精査し始めたのだった。

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