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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第四六三話 鬼畜の所業

 ココロちゃんの金棒が勢いよく振り下ろされる。

 迫力満点の風切り音は、さりとてより派手な破砕音に呑み込まれてしまった。

 彼女が砕いたのはボス部屋の壁の一角。その奥に空間を隠した、壊れるように出来た壁。

 即ち、隠し部屋の入り口である。


 修復されるでもなく瓦礫と化した壁だった物。その向こうに見えるは、動き回るのに不自由しない程度の、それなりに広い空間。

 そして、青灰色の鱗を持つスーパーリザードマン。通称『無印くん』のビクリと驚いた表情だった。

 砕けた壁の破片は、雨霰が如く無印くんへと襲いかかり、奴は反射的に腕をクロスしてそれをガードする。

 が、それは私たちにとって絶好の先制攻撃チャンスだった。


 早速その足元には、オルカによる影魔法の脅威が迫り、あっさりとその足首を影帯が捕まえてしまった。

 不吉な感触にギョッとする無印くんだが、もう遅い。アドバンテージは既に私たちにある。

 ココロちゃんとクラウが勇んで飛びかかれば、ようやっと応戦の姿勢を取った奴はそこで異変に気づく。

 影の帯は既に、その足元より無印くんをグルグル巻きにしながら這い上がってきており、気づいた頃には既に下半身が縛り上げられていた。

 慌てる無印くん。襲いかかるココロちゃんとクラウ。

 閃く金棒と聖剣。そして、汚い悲鳴が。


『って待って待って、これじゃ変身する前に秒殺しちゃう!』


 スーパーリザードマン(無印)、想像以上に弱い! ステータスがどうとか以前に、判断力からしてダメだ。未熟!

 こんなに弱いんじゃ、さっきのスーパーリザードマン・ツーの庇護下にあったモンスターだ、なんて言われても信じちゃうぞ。

 ……いや、まさかね。

 もし仮にそうなら、クラウに装備させたあのネックレス、無印くんに見せたらブチギレて、ク◯リンのことかーっ! みたいな展開になる可能性が。いやまさかまさか。

 仮にそうだとしたら悪趣味すぎる。余計なことは考えちゃダメだ。


 なんておかしな想像を巡らせている間に、無印くんはすっかり全身を影に拘束されつくし、黒いミノムシになってその場に倒れてしまった。

 こうなってはもう、まな板の上の鯉である。精々がビチビチと跳ねることしか出来ない。

 え……っと。


『なんか……あっさり無力化できちゃいましたね』

『これは、なんだ、あれか。変身を促すために痛めつける必要があるとか、そういうやつか? 嫌だぞそんな非道なこと!』

『えっと、なんかごめん』

『っていうか私の、このホールド状態の魔術はどうしたらいいんですか?!』

『うーん。ソフィアさんは取り敢えずそのまま待機かな。ちょっと様子を見よう』


 想定外にあっさりと無印くんを無力化し、困惑する皆。かくいう私も困ってしまった。

 ソフィアさんには待機をお願いしたものの、ここからどうしたら良いんだろう?

 クラウの言うように、身動きの取れない相手を寄ってたかってボコボコにするなんて、流石にそんな真似は出来ない。

 かと言って、このまま倒してしまうのもなぁ。


『ミコト、どうする? 一度解放する?』

『むー……舐めプみたいで滅茶苦茶気は進まないけど、それも仕方がないのかなぁ。てか、ホントに変身するかどうかも定かじゃないし』

『ならこのまま倒してしまいますか?』

『発射用意なら出来てますよ』

『いやいや、ソフィアの魔術では核を壊す前にHPを削りきってしまうだろう。オルカ、核の位置は分かるか?』


 クラウの問い掛けに、オルカの目が赤く光った。モンスターの核を見抜くスキルを行使したのだ。

 するとすぐに。

『見えた。胸の真ん中、鳩尾の少し上辺り。大きさは極小、移動はしないタイプみたい』

 流石である。あっという間にモンスターの心臓や脳にも等しい核の位置を見透かしてみせた。

 因みにモンスターにとって、それだけ重要な核である。強いモンスターほど核の大きさは小さく、そして頑丈になっていくらしい。体内をあっちこっち移動するものもあるとか。

 核が小さいということは、やっぱりそれだけ強力なモンスターであったのは間違いない。

 が、突然自室に押し入られ、問答無用で拘束されては強さなんて殆ど関係ないか。哀れ無印くん。


『なら、魔術に手を加えて熱線を細く絞りますよ。それなら体に穴を穿つことくらい容易いですし』

『誤射はやめてくださいよ?』

『失敬な! そんなヘマしませんし!』


 ってことで念話は進んじゃってるんだけど、この流れだと普通にとどめを刺す感じだね。

 私としては舐めプ回避で万々歳なのだけれど、みんなもそれで良いのかな?

 いや、藪蛇になっても何だし余計なことは言うまい。サクッとやっちゃってください先生!


『ではココロさん、狙いが狂わぬようしっかり押さえておいてください』

『了解です』


 ソフィアさんの指示に従い、ビチビチと跳ねる無印くんをギュムッと踏んづけて身動きを封じるココロちゃん。

 そこへ、コツコツと足音を鳴らしながらゆっくり近づいていくソフィアさん。歩きながら魔術の調整を行っているのだろう、その表情は真剣そのものだ。

 そんな二人の様子を、何とも言えない心持ちで見守る私たち。頭の上ではゼノワも、不穏なものを感じて小さく鳴いている。

 まぁ、気持ちは分かる。だってこの感じ、まるで死刑執行のそれを思わせるのだもの。

 影に拘束されたまま必死に叫ぶ無印くん。そんな様子が悲壮感に拍車をかけているように思えた。

 なんか、思ってた展開と全然違うんですけど! ほ、本当にこれで良いんだろうか……?

 ソフィアさんが無印くんに近づくに連れ、オロオロとする私とゼノワ。いや、オルカやクラウも同様だ。ココロちゃんの表情も非常に心許ない。


『えっと……ホ、ホントにやるのか?』

 耐えかねてクラウがその様に念話で問い掛けてきた。

 正に、その時だった。


 GRAAAAAAAA!!

 差し迫る命の危機。突如降り掛かった理不尽。抵抗すら許されぬ不条理。

 それらに晒された無印くんが、とうとうブチギレた。

 心眼に見ゆるは強烈な怒気。

 体を踏んづけていたココロちゃんを跳ね除け、先程にも増してドタバタと暴れ始める無印くん。


『! こ、これは……』

『すごい抵抗……もしかして、始まった?』

『そんなに暴れられては狙いが定まりませんよ』

『変身か、もしくは別の何かか。何れにせよ上等じゃないか、これを待っていたんだ』

『取り敢えずオルカは拘束を維持。ソフィアさんは一旦下がって。他は警戒を厳に!』


 私の指示に従い、各自が構えを取った。

 ソフィアさんはボス部屋まで引き返し、オルカは拘束に一層力を込める。ココロちゃんとクラウは得物をぐっと構え、私はオルカのサポートがてら空間魔法にて、奴の身の周りをがっちり固める。

 すると、さながらコンクリートに生き埋めにされたかのように、一切の身動きが出来なくなった無印くん。

 如何な力持ちでも、僅かすら身じろぎする余地のない拘束を受けては、発揮できる力なんてたかが知れているもの。その上空間自体を固定する魔法である。そもそもが力を入れてどうこうなるようなものではない。

 結果、内部から凄まじい威圧感を感じはするものの、時間でも止まったかのように微動だにしない黒ミノムシ状態の無印くん。

 さて、ここからどうなる?


 定番で言うなら、劇的な変身を遂げて影拘束も空間魔法も派手に吹き飛ばし、威風堂々たる立ち姿で周囲を睥睨して、その威容を皆の目に晒すっていうのがお約束だけど。

 果たしてリアルでそんな絶望的な展開が起こり得るのか……起こってもらっちゃ困るなぁ。

 勝手に妄想して、勝手に背筋を冷たくする私。

 すると不意に、オルカから念話が届いた。

『む。なんか帯の中で蠢いてる気がする……不気味』

 周囲を空間魔法で固めただけあり、どうやら影帯への負荷というのは殆ど掛かっていないらしい。が、帯の内側の感触というのは、オルカにはぼんやりとながら分かるようで。

 そんな彼女の感想がそれである。もしかして、今正に変貌を遂げている最中だったりするのだろうか?

 うー、やだなぁ。恐いなぁ。


 などとおっかなびっくり経過を眺めること暫く。

 空間魔法は音すら通さないため、不気味な静けさが漂う中、不意に私の心眼がそれを検知したのである。

 どうしようもない絶望感。抗い難い死の予感。何かに縋るような、助けを求めるような悲壮感。

 帯の中から、そんな怖気を感じるような強烈な思念が届いたのである。

『な、なんか無印くん、ヤバいことになってるっぽいんだけど、オルカ状況分かる?』

『うん……なんか、ギチギチに詰まってる。多分変身に伴って体が大きくなろうとしてるんだと思う』

 状況をオルカに問えば、返ってきたのはそんな答え。なるほど、ギチギチですか。


『それはつまり、このまま放っておいたら勝手にダメージを負うんじゃないのか……?』

『普通に窒息死もあり得ますよ。呼吸が必要だった場合ですけど』

『あわわ、流石に可哀想ですね……というか、それだとレアドロップ取れませんよ!』


 そうなのだ。もしかするとこのまま放っておくだけで、無印くんが勝手に自滅してくれる可能性が出てきたわけだけれど、その場合ココロちゃんの言うとおり、核を破壊できずレアドロップを狙えないってことになってしまう。

 何せ今の無印くんは、決して壊れない箱の中で膨張を続けているような状態なのだ。

 このままではきっと、大変痛々しいことになってしまうだろう。肉は破裂し骨は砕け、内臓まで損傷しちゃうかも。もし頭部も大きくなるのなら、頭蓋骨がナニして脳みそがアレしちゃうかも……やばいね。そりゃヤバいや。

 すると案の定、黒帯の中からますます強烈な恐怖を感じ、既に大変なダメージを負っていることも伝わってきた。

 形容し難い恐怖である。もしかすると自身では変身を止められないのかも知れない。

 指先どころか、舌先一つすら微動だにすることの出来ないほど窮屈な、見えざる箱の中で。しかし否応なく膨らんでいく自らの身体。止めようとしても止まらず、あっという間に破綻が生じる。

 それでも尚大きくなろうとする体は自壊を始め、痛み、苦しみ、恐怖。そういったものだけが脳裏を蝕むことだろう。

 あまつさえ、視界は黒一色。闇の中での出来事だ。その恐れも一入に違いない。


 流石に可哀想とは、正に。

『……仕方ない。一先ず解放しようか……それかいっそのこと、このまま一気にとどめを刺しちゃう?』

『何れにしても、えげつない所業だな……』

『こうなってしまったものは仕方がない』

『一思いに楽にするか、危険を承知で解き放つか……難しい問題です』

『一番合理的なのは、もう暫くダメージを与えた後解放して、変身を完了しつつも弱った状態のスーパーリザードマンをサクッと仕留めること、ですかね』

『血も涙もないな!!』


 変身中でもお構いなしに襲いかかる。それが私たち鏡花水月だけれど、これはある意味その極みとすら言える暴挙である。

 斯くして私たちは暫し、黒い繭が如き影帯の中で、傍目には沈黙しているようにしか見えない無印くんの姿を眺め続けたのだった。

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