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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第四六一話 徒花のカラクリ

 舞い散るは、光の白い花弁。

 広いボス部屋の床一面を覆い尽くさんばかりに広がった、足元の白光はしかし、不意にその端から風に吹き散らされる砂のように、粒子となって空気に溶けては消えていき。

 そうして泡沫の夢のような光景が過ぎ去れば、寒々しいボス部屋の景色がいつの間にやら戻ってきており。


 そこには既に、スーパーリザードマン・ツーの姿形などは、どこにも存在しては居なかったのである。

 代わりに残ったのは、奴のドロップアイテムと思しき品だけだった。

 私の繰り出したる必殺技は、どうやら滞りなく彼を黒い塵へと還したらしい。


【餞の徒花】


 それは、強制的に対象のHPを0にする、恐るべき必殺技である。

 ぶっちゃけたことを言うなら、床が白くなったのも、舞い上がった花びらも、全ては光魔法によるもの。こう言っては身も蓋もないが、ただの演出である。

 ただし、その演出こそがこの必殺技に於いて最もこだわるべきポイントだと私は考えている。

 だって技の名にしたように、これは『餞』なのだから。

 戦いを終え、消えゆく相手へ贈る餞別。せめてもの手向けだ。

 超トカゲも、今の光景を気に入ってくれたならいいのだけれど。人とモンスターの感性が近しいとも限らないし、結局は自己満足の偽善なのかも知れない。

 それでも、生殺与奪や殺し方を選ぶのは勝者だ。それが勝者の権利だ。

 もしも仮に超トカゲが、散るときは凄絶な痛みと苦しみの中で逝きたかった、なんて筋金入りの武人か、はたまた超級のマゾヒストだったとしても、戦いに臨んだのなら死に方など選ぶべくもないだろう。

 私の独り善がりだったとしても、徒花は私の選んだ殺し方なのである。クレームは受け付けられない。

 だからせめて、今の光景を気に入ってくれたならと。一方的にそう願うだけである。


 それはそうと、肝心の『対象のHPを0にする』というその仕組なのだが……。


 なんて、徒花に関するおさらいをしていると、不意にパチパチと拍手の音が二人分聞こえてきた。

 視線を向けてみれば、手を叩いていたのはココロちゃんとソフィアさん。

 ソフィアさんの方は、スキルに大喜びしているのだろう。目をキラキラさせている。

 そしてココロちゃんに至っては、涙を流していた。さりとてそこに言葉はなく。

 彼女もあれでいてシスターなのだ。生き物の生き死にに関しては、人よりも深く考えるのだろう。その観点から、今の光景には何かしら心を揺さぶられたようである。


「いやぁ、どーもどーも」

 なんだか少し面映くなって、私がそんな砕けた返事をすれば、頭の上ではゼノワも無邪気にキャッキャとはしゃいでいる。光魔法がお気に召したらしい。

 見送るための必殺技として開発したものゆえ、ウケても素直に喜べはしないのだけれど。とは言え一応は、頑張って演出を考えた甲斐もあったようだ。

 と、一先ず戦闘も終わったということで、黒宿木を解除し通常モードに戻る私。

 すると、「あーっ!」っという声が響き。


「もう解いちゃうんですか?! もっとよく観察させてくださいよ、その黒宿木とやら! とってもとっても興味津々なんですから!!」

「はいはい、また今度ね。ダンジョン内ってあんまり精霊力生成できないから、無駄に維持はしたくないんだよ」


 騒ぎ出したのは案の定ソフィアさんで、私が通常モードに戻ったのをひどく残念がってみせたのである。

 しかし今述べたように、どういうわけかダンジョン内は精霊力の生成というのが外に比べて行い難い。

 無理に行おうものなら、もしかするとダンジョン自体に良からぬ影響が出ないとも限らないのだ。

 なので、ソフィアさんに観察されるためだけに宿木の発動をする、ということは出来ない。あと単純に面倒くさい。絶対長くなるし。


「それにしても、やはり凄まじいものですね、精霊力由来の魔法というのは。よもや『対象の最大HPを半減させる』だなんて強力なデバフを、レジストされずに掛けてしまえるんですから」


 そう。【餞の徒花】の最も重要な仕掛けは、正にそこにある。

 ソフィアさんの言うように、徒花に用いているスキルは、光魔法を除くと単なるデバフに過ぎない。まぁ、滅茶苦茶強力なものであることは確かだけれど、普通に使ったのでは当然のようにレジストされる類のスキルである。ましてボスが相手ではなおのことだ。

 MP消費も激しいため、使用リスクもかなり高い。正にロマン砲と表すべきスキルとなっている。

 ところが精霊力を用いて行使した場合、レジスト効果を無視してしまうため、大体のデバフスキルが普通に効いてしまうのだ。

 加えてMP程にコストが重くならない点も大きい。

 まぁ流石に、即死魔法だとかそういう類のものはまた事情が異なるのか、普通に抵抗されてしまうのだけれど。

 さりとて『対象の最大HPを半減させる』というデバフ効果は問題なく通ってしまうようで。

 そしてこの効果こそが、『対象のHPを強制的に0にする』という徒花の効果を成り立たせる肝となっていた。


 仕掛けは存外単純である。

 戦っている相手のHPを普通に半分以下まで削りきった状態で、無理やり最大HPを半減させた場合どうなるか、という話だ。

 普通なら、HPの上限が下がるだけなので致命的な何かが起こるわけではない。無論、HPが空になるようなことにはならない。

 が、私がレラおばあちゃんから教えてもらったこの術には、恐ろしい効果があったのだ。

 それというのが、『対象のHPを最大値の半分、現存HPごと消滅させる』という効果である。

 HPバーで例えると分かりやすいだろうか。削るのはバーの上半分ではなく、下半分。

 即ち、残っているHPもろともにHP最大値を半分消し飛ばすのがこの魔法の効果というわけだ。


 そして更に注目するべきは、これが攻撃魔法ではなく、あくまでデバフであるという点。

 HPにダメージを与えているわけではなく、『減少』させているという、似ているようで全く別の判定である、ということ。

 具体的に何が違うのかと言えば、それは単純明快。

 ダメージと異なり、減少の効果には『苦痛が伴わない』のである。


 とどのつまり、HPを半分まで削った状態で徒花を仕掛けると、対象は痛みも苦しみも感じず、静かにHPを空にされて死に至るわけだ。

 ただし注意点として、精霊術が無視できるのはあくまで、スキル由来のレジスト力のみ。

 デバフのメカニズムというのは、未だに私もよく分かっていない部分が多いため、あまり細かなことは分からないのだけれど。

 しかしどうやら、MNDというステータス値には、精霊魔法にすらある程度耐えうる能力値がカウントされているようだ。

 デバフの種類にもよるみたいだけど、徒花のようなHPに大きく影響するようなデバフというのは、どうやら強く抵抗されやすいらしい。

 なので、ボスや特殊モンスターのように元々強靭な抵抗力を備えた相手なら、HPの半分と言わずかなり弱らせておかないと、デバフが普通に失敗する可能性があるわけで。

 まぁとは言え、ツツガナシを用いて発動した徒花をレジストする相手なんて、恐らくイクシスさんたちレジェンドクラスか、骸くらいのものだろうけれどね。


 とまぁ、これが徒花のカラクリである。

 弱った相手なら、必殺技の名に違わず、確実に逝かせることが出来る技となっている。

 宿木を扱える、私だけのとっておきだ。

 まぁレラおばあちゃんなら、宿木なんて無くても同じことができそうだけどさ……。


 ともあれ、ボスであるスーパーリザードマン・ツーは倒れ、ボス攻略は成った。

 さて、ダンジョンに何かしらの変化があるはずだが。

 と皆で周囲を見回していたところ、不意にボス部屋の奥にそれが現れたのである。


「む。下りの階段……だな」

「ですね。ということは、今のボスも中ボスだったということですか」

「まじかー。ここまで二〇階層おきにボスが居たから、次は六〇階層? 滅茶苦茶深いねこのダンジョン」

「流石特級。一筋縄じゃいかない」

「進む前に、一旦休憩を入れましょうか。少々MPを使いましたから」


 ソフィアさんの提案により、主不在となったボスフロアにて休んでいくことに。

 時刻はまだ午後一時を回ったばかり。引き上げるには早い時間だ。

「クラウ様、お怪我はありませんでしたか?」

「ん? ああ、火傷を少々な。ソフィアの熱線に鎧が熱されてしまって……」

 ジトッと、ココロちゃんがソフィアさんを見る。ついっと目を逸らすソフィアさん。

 しかしまぁ、今回は事前に発射予告もあったため、誰が悪いわけでもない。なのでココロちゃんも食って掛かりはせず、ちゃっちゃとクラウの治療を始めたのだった。


 すると不意に、オルカが「え」と小さな声を漏らし。

 どうかしたの? と問うまでもなく、彼女はこう言ったのだ。

「みんな、ちょっとマップを確認してみて」


 言われて皆が虚空へ視線を走らせる。各々目前に浮かんだ、自身にしか見えないマップウィンドウを眺めているのだ。

 かくいう私も皆同様に、素早く今居るこの階層のマップを改めてみたわけだけれど。

 そこに、不自然な点を一箇所見つけることが出来た。恐らくオルカが知らせたかったのはコレのことだろう。

 皆もそれを認めたようで、一様に怪訝そうな表情を作ると考えを口に出した。


「これは……隠し部屋ですね」

「最初にこのフロアのマップを確認したときには、こんなの無かったはずです!」

「ああ、間違いない。ということはボスの討伐をきっかけに出現した、ということだろうか?」

「マップがなかったら多分、気づかなかった」

「っていうか隠し部屋の中……モンスターの反応があるね」


 私を含め、皆がマップ上に捉えたそれはボス部屋の一角、壁を一枚挟んだ向こう側に突如として出現した、謎の空間の存在であった。

 恐らくは隠し部屋なのだろう。ボスを倒して出現する部屋と言えば、ボスフロアの特典部屋くらいのものだと思っていたのだけれど、こういう事もあるんだね。

 てか、何かの条件を満たすことで出現する、特殊な隠し部屋……みたいなものって、もしかすると他にもあったりするんだろうか?

 もし条件が複雑だったなら、きっと見つけるのは相当難しいだろうし、何より隠し部屋だもの。マップもなしに発見するのは困難を極めるはず。

 その上見つけられたとしても、何かしらの条件を達成したおかげで出現したものなのか、それとも元からそこにあったものか、なんていうのは普通の冒険者には判断がつかないだろう。

 つまり、隠し部屋が出現するって情報は、もしかするとすごく貴重なものなのでは……?


 まぁ、単純にこのフロアが滅茶苦茶特殊だった、というだけの話かも知れないし、ボスフロア以外じゃ起こり得ない現象って可能性も否定できないんだけど。

 その辺りは、また別の階層で気に掛けながら探索を行ってみるのが良いだろう。

 なにはともあれ、今は目の前の隠し部屋である。


「ボスフロアにボスとは異なるモンスターの反応、ですか。怪しいですね」

「もしかして、隠しボス……みたいな奴かも?」

「隠しボス! 何だその胸躍る響きは!」

「そっか、そういうのが実在するかも知れないんだ……」


 それこそゲームでは然程珍しい話でもなかった。

 隠し部屋どころか、隠しダンジョンや裏ステージ、隠しボスに裏ボス。

 それらがこの世界に無いなんて、言い切れようはずもない。

 そして隠しボスと言えば、往々にして珍しいアイテムをドロップしたり、何かしらの特典をくれたりするものだ。

 これは……期待がむくむくと膨らんじゃうな!

 ただし注意すべきは、隠しボスの脅威度が未知数であるという点だ。藪蛇にだってなりかねない。


「ミコトさん、透視のスキルをお願いできますか?」

「ん、お、そうだね。ちょっと見てみよう」


 ソフィアさんに促され、透視を発動。

 隠し部屋とボス部屋とを隔てる、破壊可能と思しき壁を透かして眺めてみると。

「あ」

 果たしてそこにはマップに記されていたとおり、一体のモンスターが鎮座していたのである。

 その姿たるや……。

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