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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第四六〇話 餞

 オルカの影に捕まり、足を止めてしまった超トカゲことスーパーリザードマン・ツー。

 影の侵食は瞬く間に進み、あっという間にその全身を覆うことになる。

 そうなれば、如何な超トカゲでも抜け出すことは能わず。一方的に攻撃を受け続けることになるだろう。

 そうなるのだと、私たちの誰もが確信していた。


 ところが、奴は驚くべき行動に出たのである。

 影に捕まった自らの右足を、手刀にて切断。無理矢理に拘束から抜け出したのだ。

 心眼にて、その瞬間の凄まじい覚悟を目の当たりにした私は、衝撃を受けずには居られなかった。


 負けたくない、死にたくない、目の前の敵を蹴散らしたい。

 けれどこの影に侵されては、それは叶わず殺される。

 ならばどうするか。足を切り捨ててしまうしか無い。

 おどろおどろしいものでこそあれ、そこには信じ難いほどの合理主義があり。

 斯くして本当に、それは成されたのである。一瞬の躊躇いすらもなく。


 きっと私には、奴と同じことは出来ない。出来たとしても、必ず躊躇いを覚えるに違いない。だって痛いのやだもん。それどころか、今後一生片足を失ったまま過ごすと考えれば、どうしたって躊躇うに決まってる。

 それを奴は、あっさりと切り捨てた。

 これが、特級ダンジョンのボス……攻撃、防御、速さに加え、その判断力も恐ろしく優れている。

 敵ながら天晴とは、正にこのことだ。


 が。


『追撃!!』

 一瞬呆けそうになる皆へ、半ば無意識の内に念話でそう叫んでいた。

 きっと誰よりも今の光景に唖然としたのは、他でもない心眼にてその内面すら目の当たりにした私だったろうに。

 それでも叫んだのはきっと、骸の経験が私の中に息づいているからなのだろう。

 驚きに狼狽える感情と、合理性の明確な乖離。自身の中に、今確かにそれを感じた。

 冒険者になって一年足らず。流石にそんな歴戦の武人が如き真似が出来ようはずもない。それほどの経験値が、まだ私の中にはないから。

 だけれど事実、それが出来たのは他でもない。

 その経験値を蓄えた骸を、私が取り込んだからである。よもや、こういう形でも『引き継ぎ』の効果が現れるとは思ってもみなかったけれど。


 ともかく。

 私の念話に反応した皆は、足を切り落とし飛び退った超トカゲへ、遅れるでもなく飛び掛かったのである。

 前後をクラウとココロちゃんに挟まれた超トカゲは、横へと跳んだ。

 直後、尻尾にて床を叩いて踏ん張り、追い縋ってくるクラウとココロちゃんへカウンターを仕掛ける。激痛に苛まれているであろうに、恐るべき判断力と胆力である。

 が、反転した奴の背を狙うのは私だ。テレポートにてがら空きの背へ掴みかかり。

 そうして触れた瞬間、思い切り腕輪による分解を発動。

 結果、一瞬にして頑強な鱗とびっしり詰まった筋肉の幾らかが、粒子状になって飛び散った。即座に腕輪が吸収する。

 しかしそこまでだった。直ぐに尻尾が襲い掛かってきたため、私は退避を余儀なくされ。

 超トカゲの憎々しげな意識がこちらを向くが、そんな奴へはクラウとココロちゃんによる息の合った攻撃が畳み掛けられた。痛みに悶える暇すら与えてやらない。


 他方で影による拘束が失敗に終わってしまったオルカも、すぐさま次の行動に出ていた。

 彼女が得意とするのは、ヘイト管理である。それは即ち、誰より自身への警戒度調整が巧いということでもあり。

 自身の片足を奪う原因を作ったのが、オルカの術であるということは理解している超トカゲ。

 それ故にこそ、奴は視界の端で常に彼女の動向に注意を払っている。

 もしもオルカが怪しい行動の一つでも取れば、警戒を強めざるを得ない状態に陥っているのである。

 それはつまるところ、既に彼女の術中に嵌っているも同然であった。

 戦闘とは、純粋な武力でのみ構成されるものではない。心理戦もまた、時には勝負の結果を大きく左右する要因足り得るのである。

 オルカはそれが巧い。


『フェイントを入れる』

 一言、念話にてオルカがその様に予告した次の瞬間、奴の足元にある影が僅かなゆらぎを見せた。

 超トカゲはこれに対し、敏感に反応。残った左足で床を蹴りつけると、鋭くその場を飛び退いたのである。

 そこへ、私の伸ばした白枝と、ゼノワによる精霊魔法が襲いかかり、浮いた体で逃れる術のなかった超トカゲは直撃を受けることとなった。

 が、ダメージこそあれ、その頑強さは尋常ではなく。

 私たちの攻撃に晒されて尚、奴は左足でしかと着地し、厳しい表情でこちらを睨みつけたのだった。

 その戦意には、未だ一切の陰りもない。

 むしろ、痛々しく傷ついたその姿に、私の方こそ気が滅入りそうである。


『そろそろ決着を付けたいね』

『おまかせを。今魔術の準備が整いました』

『なら、奴の動きを止める。【静寂の魔眼】で行く』

『因みに今回はどんな魔術なんです?』

『熱線を放ちます。近くにいると巻き込まれますので、気をつけてくださいね』

『知らねば突っ込んでいたところだったぞ……』


 念話による一瞬のやり取りは済み、無言のままに私たちは次の行動に出た。

 これまで沈黙していたソフィアさんが動く。紡がれた特殊な魔力の流れから、爆発的に増大する魔法の気配。次いで如何にもヤバいエフェクトが輝き始めた。

 無論警戒を強め、阻止するべく動こうとする超トカゲだったが、その前に立ち塞がるはクラウとココロちゃん。

 一瞬表情を更に歪めた奴は、しかしすぐさま弾かれたように背後を振り向いた。

 私がテレポートにてその背へ襲い掛かったのを、今度は先程より速く察知したらしい。

 私に触れられると、分解される。それを理解した超トカゲは、迎撃するでもなく再び飛び退ることを選択。


 その時だった。

 飛び退いたことで、奴は見つけたのである。私の背に隠れていた、オルカの姿を。

 そして、その双眸がバチリと彼女の瞳を捉える。


 三秒。

 静寂の魔眼は、発動中目を合わせた相手を、三秒間完全に停止させる力を持つ。

 行動は勿論のこと、思考さえも。

 さながらそれは、安眠している状態に等しい。

 ただし、同じ対象への効果は、一日に一度だけしか発現しないという制限があり、使用に際するMPの消費もなかなかに重たいらしいので、使い所は慎重に選ぶ必要があるわけだが。

 今は正に、絶好のタイミングであると言えた。


『掛かった!』

『撃ちます。射線を空けてください』

『ひえっ』


 クラウとココロちゃんが慌てて退き、私とオルカも念の為その場から退いた。

 直後。


 超トカゲを丸々と呑み込む程に太い光の柱が、私たちの前を横切っていったのである。

 赤くて白いそれは、膨大な熱量を内包したままに七秒間ほども横たわっており。

 私もオルカ、クラウやココロちゃんも、退避が不十分だったと即座に理解。慌てて大げさなほどにその場を離れたのである。

『あぢっ! あぢぢっ!』

 とは、果たして誰の悲鳴だったか。わざわざ念話に乗っけてしまう辺り、余程だったのだろう。


 こんなものを防御するでもなく、無防備なままに浴びたのだ。如何な超トカゲとて一溜まりもないはずである。

 ようやっと熱線が消えた時。

 果たして超トカゲの立っていたその場所には、奴の姿など一欠片すらも残っては居らず。

 さりとて、皆の視線が集まったのはその先、熱線がぶつかり空いた壁の大穴である。

 熱線が消え去ったことにより、たちまち修復の始まった深い深いその穴。

 そこから、唐突に一つの影が転がり出てきたのだ。


 全身を爛れさせ、もうもうと煙を上げるそれの正体は、決まっている。

 超トカゲだ。呆れたことに、あの熱線を浴びて尚塵に還らなかったらしい。寧ろその惨状を見るに、死にそびれた、と言ったほうが余程しっくり来る。

 地獄のような苦しみを、今正に覚えていることだろう。

 全身に負った過剰な火傷。残りのHPも果たしてどの程度残っているものか。

 身動ぎするだけで恐ろしい痛みが全身を駆け、大気に触れるだけでも辛かろう。


 それでも、私たちを睨むその瞳に、未だ消えぬ敵意は果たして怒りや憎しみから来るものか、はたまたモンスターの性だというのか。

 何れにせよ、これ以上彼は苦しむべきじゃない。


『私がとどめを刺すよ』


 皆に一言、その様に念話を飛ばすと、私は静かに換装にてとある装備を身に着けた。

 それは、さながら喪服を思わせる黒一色の装備。普段にもましての黒。

 携えるのはツツガナシ。

 長杖の柄先でコンと床を叩けば、たちまちそれは始まった。

 超トカゲを中心とした床がふわりと白く輝き始め、時折浮かび上がる光の粒は、空へ向かって落ちる雪のようですらあった。

 幻想的な光景の中、私は静かに精霊術を発動する。

 ゼノワの力を借りないそれは、独力で成す宿木。身内の間では『黒宿木』と呼ぶ、特殊な強化状態である。

 これにより、いよいよ私の姿は肌以外の全てが黒へ染まり。白い紙の上にたった一雫落とされたインクのようだ、とはソフィアさんの言だったか。


 そんな私へ、否応なく意識を向ける超トカゲ。

 その敵意が消えることはないが、それでもこの光景は、彼にとっても現実離れして見えているようだ。

 ならば後は、手を下すだけである。


「痛い思いをさせてごめんね。ここまでにしよう」


 私はツツガナシの柄先にて、再度床を叩いた。

 異様に耳当たりのいい高音が鳴り、瞬間、白一色に染まっていた足元から無数の花弁が舞い上がった。

 夢幻のような、幻想的な光景。

 その中で私は。


「必殺」


 しかとスーパーリザードマン・ツーを見据え、彼を送るその技の名を唱えたのである。


「【餞の徒花】」

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