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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第四五九話 超と書いてスーパー!

 モンスターと相対する一戦一戦の重みを、以前よりもズッシリと感じるようになりながらも、寧ろそれ故に小さな経験の一片すらも無駄にしてなるものかと、真剣に取り組むようになった。

 結果、なんだか以前より多くのことを学べるようになった気がする。やはり覚悟や心持ちというのは軽んじちゃダメなんだ。寧ろそれこそが、この特級認定試験に於いて得た、最大の学びと言えるかも知れない。

 まぁ、まだまだ終わった気になるには早いのだけれどね。


 昨日同様に攻略を進めた結果、私たちは現在四〇階層にまで足を進めていた。ダンジョン探索五日目、時刻はまだ正午前である。

 攻略は順調なれど、私の心境の変化はどうやら皆にとっても刺激になったようで、昨日以上に皆ここまでの戦闘には手応えを感じたらしい。

 へんてこスキルの恩恵は、彼女たちも受けていたからね。もしかすると知らず識らずの内に、戦いへの心構えってものを鈍らせてしまっていたのかも知れない。だとしたら悪いことをしてしまった。

 けれど、どうやら皆も皆なりに思うところがあったのだろう。

 彼女らの表情からは、昨日とは一味違った頼もしさが感じられたのである。

 心做しか、私と行動をともにしているゼノワも、少しばかり大人びた気がしないでもないような……。

「ギャウギャウ!」

 あぁ、うん。気のせいだった。


「さて、やってきました四〇階層。でもここって……」

 マップを見ながら、皆へその様に話題を振れば、オルカがこくりと頷き続きを述べてくれた。

「ボスフロア。このダンジョン二つ目の」

「また中ボスでしょうか? それとも今度こそダンジョンボス?」

「どうでしょうね。どちらだとしても不思議ではありません。四〇階層ともなれば相当に深い階層ですし、道中のモンスターもなかなかに手強かったので」

 ふむと、改めてマップに目を落としボス部屋を眺めてみる。モンスターの反応が無いことから、恐らく二〇階層の時みたいに、部屋への侵入者を検知してからポップするタイプなんだろう。

 ポップの瞬間フルボッコにしたら、またやり直しをくらうのだろうか。二の舞を演じないようにしないと。

「まぁいずれにせよ、倒してみれば分かることだ。階段が出れば中ボス、特典部屋が出ればダンジョンボスってことだな」

 などと、大雑把なことを言うのはクラウ。ココロちゃんと並んで、鏡花水月の二大脳筋である。

 でもまぁ、間違ってはいない。


「取り敢えず、ボスに挑む前に休憩だね。ちょっと早いけどお昼にしよう。もし調子悪い人とかいるなら、無理せず明日以降に回してもいいし」

 と提案を投げれば、幸い不調を訴える者は一人も居なかったし、心眼で見ても無理している様子はない。ヒーラーのココロちゃんも頷きを見せてくれたことで、問題はないと確信できた。

 ならば、昼食とお昼休みである。

 早速くつろぎセットを取り出しお昼の用意をする私たち。一度イクシス邸に帰っても良かったのだけれど、それだと気持ちが途切れてしまうかも知れない、という声を受けてこの場でのランチとなった。


 午前中の活動報告を皆で交えながら、ワイワイとテーブルを囲む私たち。

 思えばいつの間にか、座る席もなんとなく定まってきたし、各メンバー専用の食器というのも、名前が書いてあるわけでもないのに把握している。

 こういう時間は、どこに居たって何となく落ち着くな。



 ★



 昼食も済み、軽い食休みも挟んで支度を整えた私たちは、早速ボス部屋の前へとやって来ていた。

 二〇階層の時と、特に目立った違いはない。ので。

「んじゃ、行こうか。ポップが始まっても殴りかからないようにね」

 と一声掛け、程よい緊張感を感じながら私たちはボス部屋の扉を押し開け、足を踏み入れたのだった。


 石造りの広い空間。太い柱が等間隔に並ぶ部屋を中央へ向けて歩めば、唐突にそれは始まったのである。

 何かしらのモンスターがポップしようとしている。黒い塵がどこからともなく湧いては、一つ所に集まり。そうして何者かの形を成していく。

 大きさは、そうだな……リザードマンより一回り大きいくらいか。私の倍くらいありそうだ。全長で言うならもっとだ。

 形は人型に近い。やたらムキムキゴツゴツとしていて迫力のある筋肉が目につくけど、それよりも特徴的なのはその太く長い尻尾。爬虫類系モンスターによく見られる強力な武器である。

 そうしてようやっとポップが終わりの気配を見せ、その全容が顕になると、誰かが小さく呟いた。

「リザードマン……?」


 そう。その姿は確かに、午前中何度も遭遇したリザードマンとよく似ていた。

 ただし奴の色はそれらと異なっており、燃えるような赤をしているけれど。リザードマンたちは、おおよそくすんだ暗い青灰色をしていたもの。

 それに体の作りも違う。

 リザードマンたちはもっと、前傾姿勢の二足歩行だった。腕も、どっちかと言えばまだ『前足』と呼んだほうがしっくりきそうな感じがあったし、もう何百年かしたら人間の形に近づくのかな、って感じのフォルムだった。

 だけれど、目の前のコイツはどうだ。


 人型なのだ。身長は三メートルにも迫るほど大きくはあるけれど、その体型はしっかりと人の形をしている。尻尾はあるけどさ。

 背筋はしゃんと伸び、腕は長くがっしりしている。足も同様で、しっかりと床を踏みしめているし。

 かと思えば鱗も健在で、恐らく普通のリザードマンよりずっと強固なのだろう。あと腹筋もバキバキに割れてる。何かこう、リザードマンとボディービルダーをかけ合わせたような、そんな気持ち悪さがあった。

 因みに顔面はトカゲである。

 爬虫類独特の大きな瞳で、ギョロリとこちらを睥睨する奴。


『あれは恐らく、『スーパーリザードマン・ツー』ですね。気をつけてください、強敵です』

 その様に念話を飛ばしてきたのは、我らが生き字引のソフィアさん。っていうかツーってなんだ。ワンも存在してるってこと? スリーは?! っていうかレトロゲームのタイトルみたいな名前だし。スーパーって!

 まぁでも、ソフィアさんが強敵だっていうのなら、きっとその通りなのだろう。

 私たちは素早く戦闘態勢に入った。

 するとスーパーリザードマン・ツー……長い! 超トカゲでいいや。奴も敵意を漲らせ、空気をビリビリと震わすほどの咆哮を上げたのである。遮音の魔法で閉じ込めたけど。


 しかしそれが癪に障ったのだろう。ギロリと、その不気味で威圧的な目が私を睨みつけ。

 次の瞬間には、私の目前で拳を構えていた。

 コイツ、疾いっ!

 でも!


 拳が打ち出される直前に、私はその射線上、それも奴の手元へ強固な障壁を配置した。

 結果、十分に力の入らなかった拳は障壁に阻まれ、僅かに予期せぬ姿勢を強いられた超トカゲ。

 さりとてそこからの切り返しは素早く、次の狙いは尻尾。薙ぎ払う気だ。

 が、これに反応したのはオルカだった。奴の足元の影が僅かに動く。

 しかしその瞬間だ。奴は攻撃を中断すると、素早くその場を飛び退いたのである。

 結果、オルカの術は失敗に終わった。ばかりか、天井で気配を隠していた彼女へ、あろうことか飛び退いた勢いそのままに襲い掛かったのである。

 鋭い尻尾の叩きつけがオルカへ迫る。が、素早さなら鏡花水月内でも図抜けた彼女だ。回避は危なげなく成功し、お返しにと影の帯が鋭く超トカゲへと伸びた。

 厚さという概念を有していないかのように、影の帯はひたすらに鋭利だ。生半可な硬度の相手では、容易く切断してしまうほどに。


 故に、驚いた。

 奴はその身に帯の鋭い突きを受けながらも、傷の一つすら受けなかったのだから。

 想像以上の硬度。当然狙いは関節内側などの、比較的柔らかな部分だった。にもかかわらずの結果である。

『! 厄介……』

 オルカの悔しがる声が念話にて届く。

 それに、奴の叩いた天井がいとも容易く砕けたことから分かるように、その攻撃力も尋常ではない。


『なるほど確かに、これは強敵みたいだね』

 速く、硬く、力もある。シンプルに強い相手だ。サラステラさんみたいなものである。

 そしてこういう相手こそが、非常に厄介なのだ。

 何かに特化したやつだったら、そこに対策を打ってやればいい。長所が転じて弱点になるから。

 だけれどこういう、高いレベルで均整の取れたやつっていうのは、どんな手を打ってもおおよそ対応できてしまう。面倒くさい相手だ。


 でも裏を返せば、それってつまり。

 どんな手段で相対してもいい相手、ってことになる。下手に相性で有利不利が左右されるよりも、余程戦いやすい相手ってことだ。

 ぶっちゃけ鏡花水月は、とんがった能力の持ち主揃いなので、こういう普通に強いやつって苦手と言うか、それこそ相性があまり良くないのだけれど。それでも、正攻法が使えないってわけでもない。


『真っ当に我々の実力が試される、というわけだな』

『正面からの殴り合いなら、ココロの得意分野です!』

『おーけー。なら今回はココロちゃんとクラウが主役だ。サポートは任せて!』

『私は魔術の仕込みをしておきます』

『拘束に集中する』


 念話にて役割分担は決まり、直ちに行動を開始する私たち。

 今の短い攻防で、見せた手札は三枚。

 行動阻害の障壁と、拘束を狙った影魔法、それに切断特化の影の帯。

 帯に関しては、残念ながら奴の鱗が硬すぎて通りそうにはないが、行動阻害と拘束は警戒の対象として認識された。心眼でもそれは確認済みである。

 ならば、それを囮に隙を作るもよし、行動を誘導するもよし、勿論ヒットさせるもよし。

 これらを駆使し、ココロちゃんとクラウが立ち回りやすいように追い込んでやるとしよう。


 オルカの帯を無傷でやり過ごし、ズシンと着地する超トカゲ。

 そこを狙い突っ込んでいくのはココロちゃんだ。

 が、ギョロリと奴の目が怪しく動いた。心眼はその狙いを看破し、私の背筋に冷たいものが走る。

 金棒を振りかぶり、一瞬無防備を晒した腹部。そこへ超トカゲの尾が、刺突を仕掛けたのである。

 ボッ、という空気を爆ぜさせたような音が僅かに遅れて耳に届く。まともに受けては、きっとココロちゃんの腹に大穴が空いていたことだろう。


 けれど、そうはならなかった。

 こちら側が起こしたアクションは二つ。

 一つはクラウによるインターセプト。ココロちゃんを狙った刺突は、彼女の盾により阻まれたのである。

 そしてもう一つ。狙われた当のココロちゃんだが、彼女は私が一瞬ストレージにしまった後、超トカゲの背後へリリースした。

 つまりは、がら空きの背中にココロちゃんの殴打が叩き込まれるわけである。

 流石の超トカゲも、クラウの防御までは想定できても、背後からのそれは予想の範疇に収めきれなかったらしい。

 そうして。


 響く破砕音。砕ける鱗。痛みと衝撃、それに何より驚きに歪む超トカゲの表情。完全に奴の虚を突けた証左だった。

『ここ!!』

 流れを掴むチャンスである。

 反射的に飛び退こうとする超トカゲの挙動を、ピンポイントに発生させた障壁で妨害。

 怯んだその隙に、今度こそオルカの影が奴の足を捕らえ、その動きを封じた。

 いよいよ焦る超トカゲ。


 優勢は今、確かな傾きを見せた。

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― 新着の感想 ―
[一言] スーパーリザードマンツーってスーパーサイヤ人みたいだな。 ブルーとかゴッドとかでるのかしら?
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