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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第四五六話 狂犬乙女

 通路とボス部屋を隔てる、大きな石の扉を潜り抜ける私たち。

 安全策を取るのであれば、以前そうしたように、一度ボスがどのようなものかを調べるのも手だったのだけれど。

 しかし仮にもこれは特級の認定を受ける試験である。あんまりそういう、他の冒険者じゃ真似したくとも出来ないような手段ばかり用いていたのでは、スタンダードに難を抱えた偏向冒険者になってしまうかもしれない。

 それに最悪の場合、逃げる方法は持っているのだし、今回は……というか平時は、ボスの偵察を控える方向で話が決まったのである。


 そんなわけで、一体どんなボス、或いは中ボスが出現するものかとドキドキしながら部屋に入ったところ。

 広いボス部屋の中央に、シュルリと黒い塵が集まり。そして一体の獣を形作っていったのである。

 段々と形を成していくそれは、四つの足に見上げるほどの体躯。

 そして何より特徴的だったのが、三つの頭。

 そう、ケルベロスだ。

 創作物でしかお目にかかったことのない、ファンタジーでお馴染みのモンスターに、興奮を隠しきれない私。


 が、それはそれ、これはこれ。

 私たち鏡花水月のスタイルは、たとえ相手が変身中だろうが、口上を述べている最中だろうが、隙があれば攻め込む。隙を晒したやつが悪い。

 というわけで、出現演出の最中、私たちは誰からともなく、目の色を変えて飛び掛かったのである。息ぴったりだ。


『やれやれやれ今がチャンス!!』

『今のうちに身動き封じよう』

『殴り放題ですヒャッハー!』

『わ、私は正直普通に戦ってみたかったんだがな、安全に勝つためだデストローーーイ!』

『安心してください。あなたのスキルは技能鏡でしっかり看破しておきますからね』


 まだ産声すらあげていないケルベロスを、オルカの影が縛り上げ、無防備な死に体へココロちゃんのえげつない連打が炸裂。クラウも容赦なく首を落としに行くし、私も火力支援として魔法をバカスカと撃ちまくってる。同じくゼノワにも遠慮がない。

 唯一ソフィアさんだけは、技能鏡のスキルで奴の所持しているスキルを読み解くため、攻撃には加わらなかった。

 そうしてあっという間の出来事だ。

 ケルベロスはその形を完成させることも出来ぬままに、塵へ還っていったのである。


「……ふぅ、なかなか強敵だったね」

「思ったより手数がかかった」

「タフな相手でしたね」

「次は真正面からやり合いたいものだ」

「所持スキルも、なかなかのものでしたよ」


 などと、各々が好き勝手を言っていると。

 不意に、少し離れた位置で異変が生じたのである。

 なんと再び、ケルベロスのポップが始まったのだ。

 っていうかよく考えたら、今倒したケルベロスってドロップアイテム落としてないし!

 もしかしてちゃんと形が成るまで待ってから倒さないと、討伐したことにはならない感じ……?


 なんて考えが脳裏を過りつつも。

 私たちは脊髄反射的にポップ中のケルベロスへ再び襲いかかると、今度はソフィアさんも加担してのフルボッコである。あっという間に再び塵に還るケルベロス。

 しかし、今度もドロップは落ちず、自動回収が働いたというわけでも無さそうだ。


「これでもし再出現するようなら、やっぱりフライングはダメってことなのかもね」

「納得行かない」

「あはは……でもそれは、モンスターからしても同じなのかも知れませんね」

「まぁそうなったなら、次こそはまともに相手をしてやろうじゃないか」

「私も賛成です。所持しているスキルをどの様に使いこなすのか、という点にも興味がありますから」


 と、これまた好き勝手なことを私たちが喋っていると、案の定と言うべきか。また少し離れた位置で、モンスターのポップが始まったのである。

 全員が全員、またも反射的に飛び掛かろうとするが、どうにかそれを意思の力で抑え、様子を見る。

 ヤバいね私たち、ケルベロスなんかよりよっぽど狂犬じみてる……でも冒険者だもの、それくらいでいい。元気があってよろしいってやつだ。

 しかし、うーん。もどかしいな……ポップ処理が終了するまで、時間で言えばものの数秒である。

 でも数秒あれば、私たちは余裕で奴を滅ぼすことが出来る。無抵抗だから。

 なのにそんな好機を、みすみす黙って見ていなくちゃならないなんて……。


『あー……ストレスだこれ』

『我慢。我慢。』

『それより、今のうちに戦闘隊形だ。ガッツリやるぞ!』

『ですね。ココロがんばります!』

『ポップが成れば、先程のそれとは比較にならぬ力を宿すことでしょう。皆さん油断しないように』


 素早く基本陣形を組む私たち。

 クラウを先頭に、ココロちゃんがその背へ。オルカはスチャリと天井に着地し、逆さまになって構えている。

 ソフィアさんも構えをとって、魔術を放つために集中力を高めている。ゼノワも臨戦態勢だ。

 そして私も、舞姫を宙に浮かべて準備万端。

『あ、みんなバフは要る?』

 と確認の念話を送ってみれば、まだいいとの返事。

 バフが乗ると、実力以上の力が出てしまうからね。必ずしもそれが良いことかと言うと、経験値的にそうとも言い切れないのだよね。分かる分かる。


 ってことで私たちの視線の先。

 ようやっと黒い塵の収束が収まり、マッチョ犬と比べても随分と大きな、三つ首の黒い犬がそこに顕現したのである。

 特徴的なのは三つの頭、其々に携えし目の色が異なることか。

 左から、青、黄色、赤。まるで信号機である。そして多分、其々が司る属性があったりするんだろうな。

 やっとのことで生まれ落ちたケルベロスは、産声代わりに物騒な咆哮を上げ、私たちを威圧してきた。

 それが、戦闘開始の合図である。


『吠えた! 隙だ! 狙え!!』

 私の号令とともに、皆は奴が未だ吠えている最中にも関わらず襲いかかった。

 否応なく目につくのは、正面から凄まじい勢いで突進してくるクラウの存在だろう。ヘイトを集めるスキルを発動しているらしい。

 六つの瞳が不躾な突撃を仕掛けてくるクラウに反応した、その瞬間である。

 オルカの矢が、天井から奴めがけて撃ち放たれた。狙いは核だ。体よく当たり破壊できれば、ボスと言えど瞬殺である。

 だがしかし、流石というべきかとっさに危険を察知したのだろう。凄まじい反応を見せたケルベロスは、体格に見合わぬ素早さでもって横に飛び、核へのダメージを避けたのである。

 が、無傷というわけには行かなかったらしい。空中にて軌道を曲げたオルカの矢は、深々と奴の肩口へと潜り込み、そして。

 ボンッ、と。籠もった爆発音が傷口から響いたのである。激痛に痙攣を起こすケルベロス。えげつない……。


 そうしている間も時は流れ、隙は拡大し。

 クラウが間合いを詰め、勢いよく斬りかかっていく。

 不利と見たか、バックステップで飛び退くケルベロスだったが、それは予定通りだったのだろう。クラウがスラリと一歩横に避けて道を譲れば、そこから大砲にでも打ち出されたかのように凄まじい勢いで迫るのはココロちゃんだ。

 振りかぶった棍棒が、三つある頭の二番目を思い切り叩いた。

 かに思えた。しかしその直前、

『警戒してください、魔眼です!』

 というソフィアさんの念話で、ココロちゃんはあと一歩の踏み込みを中断。代わりに金棒をそのまま投げつけた。

 結果、ココロちゃんの金棒は半分が火炎にくるまれ、半分が凍りつき、そして全体にバシバシとスパークが走った。

 けれど恐ろしい勢いで投擲された金棒は、二番目の犬頭の右耳をごっそり抉り、ケルベロスの後方へと飛び去っていったのである。

 再び痛みに一瞬動きを鈍らせるケルベロス。その背後では、奥の壁に激突した金棒が凄まじい衝突音を上げている。派手なことだ。


 そんな奴へ向けて再び襲いかかるのは、オルカより放たれた矢。先程の経験から、警戒心を覚えたケルベロスは敏感に反応を示し、それを凄まじい俊敏さで大げさに避けてみせた。

 そこへ。

『もっと私の相手もしてくれよ!!』

 盾を構えて突っ込んでいくクラウ。

 私はそんな彼女の背にテレポートで飛ぶと、念話で一声。

『飛ばすよ』

『応さ!』

 次の瞬間、テレポートにて突然青い瞳の目前へ出現したクラウ。

 盾で思い切りそれを殴りつけると、流れるような動作で隣の黄色へと斬り掛かったのだった。


 ざっくりと深く、真ん中の首へクラウの刃が切込みを入れ。

 悲鳴じみた声を上げながら再度飛び退くケルベロス。

 だが、そんな奴の背に、テレポートにて出現したココロちゃんの踵落としが叩き込まれる。

 背骨を損傷したのだろう。酷く歪な音が鳴り、地面に倒れ伏す奴を、ダメ押しとばかりにオルカの影が拘束し。

 そして。


『お待たせしました。私の出番ですね!』


 どうやらフィニッシャーとしてのポジションに落ち着いたらしいソフィアさんが、嬉々として魔術を発動する。

 ただし、ダンジョン内ではあまり無茶が出来ないため、屋内仕様に調整したものだ。

 生じたるは一陣の風。

 それがヒュルリと駆け抜けると、次の瞬間には決着がついていた。


 細切れである。

 大きなサイコロステーキ状にカットされたケルベロスが、悲鳴の一つすら上げられぬままに黒い塵へと還ったのだ。

 そのあまりの光景に、皆が唖然とし。

 殊更、奴に踵落としを叩き込み、急ぎその場を退いたココロちゃんなんかは、口をパクパクさせ涙目になっていた。


「ああああ、危ないじゃないですかっ! ココロまで巻き込まれるところでした!!」

「失敬な。そんなヘマなどしませんよ。実際床にも壁にも天井にも、切り傷一つ付けてはいないでしょう?」

「結果論です! ソフィアさんのことですから、何時うっかりぽっかりやらかしても不思議じゃないのです!」

「でしたらストレージにでも避難していたら良かったんじゃないですか? そんな機転の一つも利かないから脳筋だというんです」

「あ、なるほどその手が……」

「変なところで素直に感心するのやめてくださいよ……」


 などと、見事ケルベロスの討伐に成功したのも束の間、ギャーギャーと言い合いを始めるココロちゃんとソフィアさんを他所に。

 スッと部屋の奥に突然、次の階層へ続くと思しき階段が出現したのだった。

 どうやら、ケルベロスは本当に中ボスだったらしい。

 私たちはそれを認め、まだ先は長いことを予感したのである。

 とは言え、ダンジョンアタック開始からまだ二日目のこと。私たちの冒険は、まだ始まったばかりってやつだ。

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