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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第四五三話 課題

 腕を組み、目を閉じて、暫し熟考したクマちゃん。

 何とも張り詰めたような空気が漂う中、すぅすぅと寝息をたてるゼノワと、筋トレを始めるサラステラさん。

 しかしそんな時間も長くは続かず。

 不意に瞼を開いたクマちゃんの顔には、何かしらの決意が見て取れた。

 そうしてついに、彼女が口を開く。


「決めたわ。良いでしょう、私の権限で鏡花水月が窮屈しないよう取り計らってあげる」

「! ホントに?!」

 クマちゃんの言葉に、私たちの顔には自ずと喜色が浮かぶ。

 そりゃまぁ、わざわざイクシスさんに出張ってもらった上、成り行きでサラステラさんまで顔を貸してくれたのだ。

 クマちゃんが譲歩してくれるのも、こう言っては何だけど、然程意外な話でもない。

 けれどやはり、冒険者ギルドと言えば鉄の掟で成り立っているような組織だもの。

 その業務柄、どうしたってわんぱくな人たちが集まるギルドには、極力おかしな前例というのは作るべきじゃないはず。何時誰が力ずくでごね始めるとも知れないからね。

 だって言うのに、クマちゃんはそれを譲歩してまで便宜を図ってくれるというのだ。それは当然驚くべきことである。


「だけど勘違いしないでね。強引に無理を通す以上、ギルド側からも交換条件を出すことになるわ」

「! 交換条件……?」

 不穏なワードだ。確かに無理もない話だが、一体何を要求されるというのか。

「ふむ。クマ姐さん、その内容とは?」

 クラウが深刻げな表情でそう問うと、クマちゃんも真剣な表情で私たちを見据え、言った。


「それはこれから考えるの」

「…………」


 とんだ肩透かしである。昔の漫画なら、派手にずっこけてるところだ。

 しかし私たちはと言えば、各々ため息を一つ。ジト目でクマちゃんへ抗議の視線を向けるにとどまった。

 でも、確かに前例のない話ならそれも道理か。

「例えばどういうものを考えてるの?」

 と試しに私が問うてみれば、彼女は「そうねぇ……」と短い顎髭を撫でながら逡巡し。


「例えばベターなところで、ノルマを課させてもらうというのはどうかしら? 転移があれば、あなた達はより多くの特級討伐依頼をこなせるはずでしょう? そのフットワークの軽さを活かして、存分に活躍してほしいわ」

「なるほど……度合いにもよるけど、そのくらいなら大丈夫そうだね」

「そうですね。流石に限度は弁えていただきたい所ですが」

 クマちゃんの挙げた例に、小さな安堵を覚えつつも、そこは流石ソフィアさん。きっちり釘も刺しておく。

 それを受け、クマちゃんはにっこり笑って「勿論よ。流石にイクシスちゃんに振るほどの……」と、何かを言いかける。

 そしてハッとしたように。


「そう言えばイクシスちゃん、最近やたらと仕事が速いわよね?」

 と、これまた鋭い指摘を披露したのである。

 ギクリと分かりやすく肩をすくめたイクシスさんは、盛大に目を泳がせ。

「な、何のことかにゃ?」

 などと素っ惚ける。それは噛んだのか、それとも狙ったあざとさか。是非問い質したいところだ。

 まぁ何れにしても、クマちゃんは確信しているようなので言い逃れは出来ないだろう。

 そして更には。


「でもそれだと不思議ね。ミコトちゃんは行ったことのない場所には転移できないって話だったじゃない? だけど、イクシスちゃんにお願いした討伐のお仕事は、大陸各地を転々とするものだった。つまりそれが意味するところは……」

 ゴクリ、と。無意識に固唾を飲み込む。

 イクシスさんに至っては、ダラダラとギャグ漫画ばりに冷や汗を流しており。

 そしてずばり、クマちゃんは私へそれを指摘したのである。


「ミコトちゃん、あなた……転移スキル以外にも、高速移動の手段を持っているわね!」

 ひぃ! 何でバレたし!!

「サ、ササササァナンノコトヤラ??」

 必死にそう誤魔化してみるも、ダメだ。完全に確信していらっしゃる。

 その視線が仲間たちへ向けば、ソフィアさんを除いて皆似たようなリアクションである。

 それを見て、流石に呆れたらしいクマちゃん。


「はぁ……あなたたちねぇ。もうちょっと本音が顔に出ないよう頑張ったほうが良いわよ?」

「わ、私仮面つけてるもん……」

「ミコトちゃんに至っては仮面の上からでも表情が丸分かりよ。寧ろどうやってるのそれ?」

「知らないよ!」


 仮面越しに表情がバレる。ミコト七不思議の一つである。

 って言うか、盲点だった。そうか、イクシスさんに特級依頼を斡旋してるのも、考えてみたら当然冒険者ギルドじゃないか。

 それならグランドマスターであるクマちゃんが、その進捗を知ってることくらい簡単に予想できること。

 迂闊だった……っていうかイクシスさんめ、もうちょっと間を置いて完了報告をするとか、そういう小細工をしてくれれば良いものを……なんて、そりゃ言いがかりだね。いかんいかん。

 などと私が自身を戒めていると。

『ミコトちゃんすまん!! 私が迂闊だったっ!!』

 と、念話でイクシスさんが謝ってきた。

 まぁ、バレてしまったのでは仕方がない。イクシスさんには『ドンマイ、私もそこまでは気が回らなかったし仕方ないよ』と返しつつ、クマちゃんに向き直る。


「そんなことより。それで私たちは特級PTにしてもらえるってことでいいのかな?」

 こういう時は、さっさと話題を切り替えるに限る。

 ズバッと本題へ話を戻した私に、クマちゃんはサラッと答えた。

「ええ、それは勿論。ただし、テストに合格したらの話だけどね」


 出た。昇級にはテストがつきものだって言うのはお約束だものね。別に今更そこで驚きはしない。

 他のみんなも、これにはリアクションが薄かった。

「それは、どういった内容なのでしょう……?」

 おっかなびっくりココロちゃんがその様に問えば、再び顎に指を当て、短く逡巡したクマちゃん。


「そうねぇ……なら、期限内に特級危険域内のダンジョンを一つ攻略して、私の所にクリア特典を見せに来るっていうのはどうかしら?」


 曰く、ダンジョンの特典部屋から出たアイテムというのを見分ける魔道具があるらしい。

 そこに加えてアイテムの性能を鑑定すれば、どんなグレードのダンジョンから獲得したアイテムかは簡単に推測できるとのこと。

 そして危険域のダンジョンともなれば、当然その難度は凄まじく。得られるアイテムも当然、他とは一線を画す強力なものになることは間違いなく。

 更には、ギルドにはダンジョンの位置を把握するための魔道具も揃っているらしいし、クリアが成されればその観点からも確認が取れると。


「あなたたち鏡花水月に、特級PT足り得る力が本当に備わっているのか。先ずはそれを示してみせて頂戴」

「なるほど……それで、その期限っていうのは? それにどのダンジョンを攻略すればいいの?」

「そうねぇ、ダンジョンの指定に関してはこの後行うとして、期限は……二ヶ月、いえ三ヶ月ね」

「……え」


 さ、三ヶ月……?

 ダンジョン一つ落としてくるのに、三ヶ月……。

 あ、イクシスさんがプルプルしてる。サラステラさんに至っては、スクワットしながら吹き出した。

 クマちゃんが怪訝そうに二人を見るが、そんな彼女へ私は問う。


「さ、三ヶ月後に成果を提出すればいいの?」

「勿論早い分には全然構わないわ。あ、分かってるとは思うけどズルはダメよ?」

「しないしない! 何せうちには、曲がったことが大嫌いなクラウが居るからね」

「安心してくれクマ姐さん。我々はそんな卑怯な真似など……あー、うーん。戦闘以外で卑怯な真似はしない!」

「戦闘ではするのね?!」

「命懸けだからな!」


 クラウの裏表のない言葉に苦笑するクマ姐さん。

 しかし一応信頼はしてくれたらしい。イクシスさんたちの反応にはまだ困惑しているようだけれど。

 でもそうか。現地への転移とか高速移動の手段を有していると知っていて尚、そんなに猶予を貰えるんだ。

 それはつまり、そのダンジョンがそれ程強力だってこともそうだけれど、多分普通の冒険者は潜るのにも引き返すのにも相応に時間が掛かるし、危険性だって当然伴う。

 それを思えば三ヶ月も分からないじゃない。

 そして、クマちゃんは私が、ダンジョン内でも使える転移スキルを持ってるなんて知らないからこそ、それだけ時間が掛かると判断したんだろう。

 あとは、そう。単純に私たちの実力面が不明だから。そういった面も鑑みてのテストというわけだ。

 もしここで、私たちダンジョンを一瞬で出入りできるんだよ、なんて暴露したら、もっと期限を縮められちゃうんだろうな。

 あ、でも、寧ろその方が良いのかな? だってそうじゃないと、攻略が早すぎて疑われる、なんてことにもなりかねないし……。

 一応念話でみんなにも相談してみるか。


 で、相談してみたところ。


『確かに、それはあるかもな』

『では【フロアスキップ】に関してもお伝えするということで』

『どこまで明かして良いのか、難しい問題』

『クマちゃん様にも、グランドマスターという立場がお有りですからね』

『悲しいけど、そのとおりぱわ。必要以上にミコトちゃんのことを教えちゃうと、ダーちゃんも誰かに報告せざるを得なくなっちゃうかも知れんぱわ』

『まったく面倒な話だな。まぁそれでも、クマちゃんが信用に足る人物であることは間違いないはずだ』

『だね、私もそう思うよ』


 イクシスさんは仲間思いだから、もしかすると身内贔屓みたいなものがあるのかも知れないけど、しかし実際心眼にも嫌な反応は感じ取れないのだ。

 警戒するべきだとしたら、それは寧ろこのやり取りなんかが記録されていたり、盗み見られている可能性のほうだろうけれど。

 しかしその点も抜かりはない。十分に警戒はしており、その上で問題ないと判断している。

 それでもし、私の警戒を掻い潜っているのだとしたら、それはもう相手が一枚も二枚も上手だったとして、負けを認める他ないだろう。


 とまぁ、そういうわけで。

「因みにクマちゃん。私、ダンジョンを一瞬で出入りできる別の転移スキルも持ってるんだ……」

「…………ぇぇ??」

 彼女は暫し目を丸くして、静かに首を傾げたのだった。

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