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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第四五一話 クマちゃん

 冒険者ギルド本部、グランドマスター執務室にて。

 彼、じゃなく、彼女の口より発せられた毎度おなじみの謎質問「アナタニンゲンデスカ」により、そこはかとなく場が何とも言えない空気に包まれる中。

「えっと、一応そのつもりですけど……」

 と、困惑しながら返事をすると、見かねたクラウが間に入ってくれた。


「クマ姐さん、私から紹介させてくれ。彼女はミコトと言ってな、私が籍を置いているPT、鏡花水月のリーダーなんだ」

「んま!! そう、この子がミコトちゃんなの! 一応資料には目を通したけれど、また随分と奇妙な仲間と巡り合ったようねぇ……流石はイクシスちゃんとカグナちゃんの子供ね!!」

 嬉しそうにくねくねするグラマス姐さん。

 流れで、クラウは一通り鏡花水月のメンバー紹介を行っていった。

「他のメンバーも紹介するぞ。先ず彼女はオルカ、うちの斥候担当だ。次にココロ、抜群の火力を持った前衛だな。そしてソフィアは言わずと知れた強力な魔法の使い手だ。あと私はタンク兼アタッカーを担っている」

 名を呼ばれた者から順に会釈をし、簡単ながら紹介を済ませた。

 続けざまに。


「そしてこちらが、グランドマスターことダグマ姐さん。『絶拳のダグマ』という通り名で知られた、以前は母上たちと肩を並べて戦ったこともある凄い人なんだ」

 その様に私たちへ、ダグマさんのことを紹介してくれるクラウ。

 これを受け、ダグマさんはモデルさながらにビシッと決まったポージングを披露すると、渋みと色気の溶け合ったようなやたら良い声で名乗ってくれた。

「そう、私がここでグランドマスターを務めているダグマよ。親しみを込めて『クマちゃん』って呼んでほしいわ!」

 なるほど、クマちゃんか。覚えたぞ。他のみんなは顔を引き攣らせているけれど、ここは敢えて乗っかるのが結局一番ラクなのだ。


「よろしくお願いします、クマちゃん!」

「あらミコトちゃん、素直なのね! そういう娘は好きよ!」

「私もクマちゃんが見た目通りの人じゃなくてホッとしました」

「あらやだ! この格好渋くて素敵じゃない? 私の理想の男性像なのよ?」

「!! 何だかクマちゃんにはシンパシーを感じる……」

「そうなの? うふふ、それなら私たち仲良くなれそうね。もっと気安く話してくれて構わないわよ?」

「ほんと? ありがとうクマちゃん。ならお言葉に甘えさせてもらうよ」

「ふふふ、本当に素直な娘ね」


 クマちゃんは、所謂オネエだ。しかし彼女はそれを自覚した上で、理想の男性像を自らの姿で再現している。

 謂うなれば、ハイレベルなオネエだ……或いは変態なのかも知れない。

 だが、その開き直りっぷりには正直感服した。

 私なんて、自ら理想の嫁の姿を造形し、気づけばその体で現在を過ごしているっていうのに、今はそれを誇るでもなく仮面で隠している有様。

 とは言え、理想の容姿を追求し、作り上げるというその姿勢には共通の理念を感じた。

 クマちゃんは、話せる人だ。そう確信を覚えたのだ。


 しかし、完全に乗り遅れたオルカたちはと言えば、ぽかんと口を半開きにして呆気にとられている。最初からアクセルを踏みすぎたかも知れない。

 するとクマちゃんもそれを察してか、ポムと手をたたき、私たちにソファへ腰掛けるよう促してきたのである。

 テーブルを挟み、向かいへ上品に腰掛けるクマちゃん。

 しかし流石は冒険者ギルドがトップの部屋。五人で腰掛けても窮屈にならない、やたら広いソファが置かれていた。座り心地も申し分ない。

「少し待っていてね。すぐにお茶とお菓子が来るから」

 というクマちゃんの言うとおり、それから間もなくして部屋の扉がノックされ、スタッフのお姉さんが人数分の紅茶とケーキを手際よくテーブルに並べ、一礼して去っていった。

 早速クマちゃんに促され、それらを頂くことに。……んまい。

 あまり食には頓着しない私たちだけれど、皆の強張った顔がほぐれるくらいには、大変美味でした。


 そんな私たちの様子を満足気に眺めていたクマちゃんは、ふと質問を切り出してくる。

「そう言えばミコトちゃんは、PTでどんな役割を担っているのかしら?」

 問われ、顔を上げたのはクラウだった。

「ああ、そう言えばまだリーダーとしか説明していなかったな。ミコトは……うーん。一言で言うなら、『何でも出来る』だな」

「? 何でも?」

「ああ。何でもだ」

 キョトンとしたクマちゃんは、その視線を他のメンバーへと向けた。

 すると、発言を求められたように感じたのか、ようやっと皆が口を開く。


「はい、ミコト様は万能です! ミコト様に不可能なことなどありません!」

「だけどミコト一人じゃ危なっかしい。だから私たちが居る」

「ミコトさんは私の嫁です」


 ココロちゃん、オルカ、ソフィアさんの言に、しかしいまいち理解しかねたのだろう。

 その視線は私へと向いた。

「ミコトちゃん、そうなの?」

「うーん……いや、流石に何でもは出来ないよ。私に出来るのは、やろうと思ったことだけ」

「それって、やろうと思えば何でも出来るってことかしら?」

「ううん。それでもままならない事だってやっぱりあるよ。人より選択肢が多いっていうのは、確かにそうかも知れないけど」

「ふぅん……なら、ミコトちゃんのPTでの役割はオールラウンダーってことね?」

「まぁ、そうだね」


 ふんふんと頷いたクマちゃんとは、それから暫く他愛のないやり取りを交わし、皆で談笑してようやっと場の空気もほぐれてきた。

 それを待っていたかのように、クマちゃんは行儀よく揃えた自らの膝に手を置き、スッと真面目な表情を作ったのである。

 緩んだ空気が、また引き締まった。しかし先程までの、相手を知らぬが故の警戒感とは違った、これから大事な話をするぞという緊張感が部屋を静かに満たす。


「さて、それじゃぁそろそろ本題に入らせてもらうわね。イクシスちゃんからの紹介状……いえ、推薦状。確かに読ませてもらったわ」

 言われ、ゴクリと固唾を飲む私たち。

 そうさ、ここを訪れたのは特級PTの認定を受けるため。あと、出来れば良い感じに私たちの活動に協力してもらうため。

 現状の私たちは、依頼一つこなすのにも面倒な隠蔽工作を重ねて、スキルのことを隠すよう努めながら活動している。正直窮屈だ。

 出来ればイクシスさんの友人だというグラマスに便宜を図ってもらい、今後の活動がしやすくなればという思惑を懐きやって来たのである。

 それが成るかどうかは、ここからの交渉次第ということ。否が応でも緊張感は高まるだろう。

 しかしその推薦状には、一体何が書いてあったのだろうか。流石に勝手に読むわけにも行かず、チェックも出来ぬままここまで来てしまったけれど……。


 そこで、不意にクマちゃんが言う。

「それで、推薦状にはイクシスちゃんが直接話をすると書いてあったのだけれど、これってどういうことかしら? ミコトちゃんに言えば、取り計らってくれるという話だけど」

「え。き、聞いてないんですけど……」

「母上め……」

 私とクラウが同時に頭を抱える。他の面々も苦笑を浮かべ、クマちゃんだけが不思議そうに首を傾げた。

 が、まぁ要するに、イクシスさんとクマちゃんが直接話せる状態を作りなさいよと、そういうことだろう。

 そう言えば確か、グラマスには能力の一部を見せることになるだろう、みたいな話をしてたっけ。こういうことか……。

 しかし一応、それを実行する前に。


「クマちゃん」

「なぁに?」

 彼女の顔をまっすぐに見据え、私は問うた。

「これから、ちょっとスキルを使うけど良いかな?」

「ふむ。そのスキルで、イクシスちゃんとお話できるようになるってことね? なら、構わないわよ」

 快い返事に、私は一つ安堵し。しかしもう一点。

「ありがと。それとこれから見せるスキルについては、他言しないでほしいんだ。イクシスさんからもその話は出ると思うんだけど」

 彼女の視線が、ちらりとクラウへ移った。

 クラウは静かに頷いてみせ、クマちゃんはそれを認めて短く逡巡。そして。

「まぁ、いいわよ。一体何を見せてくれるのかしら?」


 心眼に、嘘の気配は感じられなかった。ペテンの気配も。

 私は小さく息をつき、それならばと静かに席を立つ。

「ありがとう。それじゃ、ちょっとだけ席を外すね」

「? もしかして、これからイクシスちゃんを迎えに行くということ?」

「うん、そう。すぐに戻るから」


 そう言って、私は意を決しワープを発動したのである。

 一瞬にして視界がグラマスの部屋から、見慣れたイクシス邸の転移室へと移り変わる。

 はぁと、小さく息をついた私は、早速念話にて当のイクシスさんへと声を掛けた。

『イクシスさん。迎えに来たよ』

『! おお、思ったより早かったのだな。相わかった、今転移室へ向かうから少し待っていてくれ』

『了解』


 こんな事なら転移前に声を掛けるべきだったかと、少しばかり段取りの悪さを自覚しながらも待つこと一分ほど。

 扉の向こうにパタパタと足音が響き、直ぐにガチャリと扉が開かれた。軽く身だしなみを整えたイクシスさんがそこから入ってくる。

「待たせたな!」

 開口一番そう述べたイクシスさんは、パタンと扉を締めて私へ歩み寄ると、さぁ行こうかと手を差し出してきた。

 私はその手を取りながら、ジト目でイクシスさんに問う。

「はじめからワープの存在を教えるつもりだったの?」

「うん? いや、ミコトちゃんならワープ以外にも取れる選択肢はあったろう。しかし敢えてワープを選んだということは、キミも彼女を気に入ったってことじゃないか?」

「むぅ……まぁ、悪い人ではなさそうだけどね」

「ああ。彼女は信用に足る人物だよ。万一何か問題が起きるようなら、その時は責任を持って全力でミコトちゃんの味方をすると約束するから、へそを曲げないでくれ」


 真摯な意志。軽く言っているようで、心眼はそこに何ら誇張を検知しなかった。

「まぁ、イクシスさんがそこまで言うのなら、別にいいけどさ」

 私は再度小さく息をつき、それから彼女とともにワープにてグラマスの部屋へ舞い戻ったのである。


 瞬間、ビクリと肩を震わすクマちゃん。目を見開いてこちらをまじまじと見ている。

 流石はグランドマスターと言うべきか、その内心には実に様々な考えや興味、感情などがすごい勢いで飛び交っているようだ。

 そしてその目は私から、傍らに立つイクシスさんへと向けられ。

「イ、イクシスちゃん……本物……?」

「お前が私を見紛うのか? クマちゃん」

 その短いやり取りだけで、浮かせかけた腰を深々とソファに預け、彼女は静かに天井を仰いだのだった。


「どうやら、想像していた以上に大変な娘を紹介されちゃったみたいね……」


 渋いおっさんの声で、クマちゃんはそう呟いたのである。

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