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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第四五話 死蔵の足具

 空は程よく晴れ、午前中ののどかな空気の中を、私達はダンジョンへ向けて歩いた。

 マップには既にダンジョンの位置も記されているし、最短距離での移動となる。

 二度目ともなれば緊張はなく、やはり未知か既知かの違いはとても大きいらしい。精神的な負担が随分と軽く思える。


 そうして程なく、私達はこれと言ったトラブルに見舞われるでもなく、目的のダンジョンへと辿り着いたのである。

 手際よく縄梯子を取り出して設置すると、スルスルと穴の中に降りていく。

 陽光の当たらぬ地下は、やはり気持ち涼しいが、寒いと言うほどではない。そう言えばもっと地下深くに潜ると、すごく寒かったりするんだろうか? それともダンジョンだからそんなことはない、みたいな感じだろうか? わからん。

 まぁ、そのうち分かることだろう。


 三人とも縄梯子を降りきった後、回収するかどうかは少し議論した。

 前回はつけっぱなしで進んでしまったけれど、今回は泊まり込みだ。もし私達が潜っている間に、誰かがここを通りかかって、穴に降りてくる可能性もあるし、或いはいたずらで梯子を落とされる可能性だって。

 とは言え、穴は深い。ざっと六メートル以上はあるんじゃないかと思う。付け直すのも結構大変だろう。


「ココロなら、多分思い切り跳べば普通に上がれますよ」

「私も、壁を蹴ればいける」

「ぐぬぅ、私の現ステータスじゃ、どうだろう。微妙なラインだな」


 とは言え、三人中二人が縄梯子を使わずとも上がれるっていうんだ。それなら回収しておいてもいいかな。

 というわけで、上から垂れ下がり、まだ長さに余裕のある縄梯子をストレージにぱっと収納。

 そうしていよいよダンジョン探索に取り掛かろうという、その前に。


「ちょっと待ってね。今のうちに、これを装備しておこうかと思って」

「! それは……」

「例のやつですね!」


 ストレージから取り出し、代わりに舞姫を一本収納。せかせかと両足に取り付けたそれは、かつて死闘を演じる羽目になったドレッドノートというモンスターよりドロップした、足具である。

 黒に近い紫色のそれは、材質のよく分からぬ軽くて丈夫な逸品。光沢は抑えられており、獣の足をモチーフにしたスタイリッシュなデザインに仕上げられている。

 アイテムウィンドウで確認した名前は、『紫獣装 アルアノイレ』という中二心をゴリゴリに刺激する響きだった。意味は知らないが、多分この世界の言葉だろうね。


 今の今までストレージの肥やしにしていた理由は、幾つかあるんだ。

 まずはじめに、こんな物を人前で着けていたら、私がドレッドノートを倒したってバレる可能性があること。

 注目されるというのが、軽いトラウマになっているからね。実際もう、あんな騒ぎはごめんだし……。

 まぁけど、それなら人前で着けなければいいだけの話ではある。

 なのに死蔵していたのは、そのあんまりな性能こそが問題だからだ。


「ミコト、いいの? ここのモンスター相手だと、明らかに過剰戦力だけど」

「こんなの着けて戦っても、碌な経験にならんわー! っと仰って、以前ストレージにしまい込んでましたよね」


 そう。強力すぎるのだ。

 これまたアイテムストレージで調べた情報によると、アルアノイレを装備することで私のステータスに加算される数値は

『HP+120 STR+40 VIT+35 AGI+35』

 という、頭のおかしい性能である。何度も言うけど、ステータス値がどれか一つでも50に達すれば、冒険者としては一流と呼ばれるほどの高数値なのだ。

 それが何さ、装備一つでSTRが40アップ? バ、バカじゃないの!?

 そこにその他の値が乗るわけだから、私が全裸にこれ一つ装備しただけで一流冒険者になれちゃうねって言う。

 更にだよ。それだけならまだしも、この足具には特殊能力まで付いているときた。

 特殊能力というのは、特定の装備を身に着けている時、限定で発動できるスキル、みたいなものだね。


 アルアノイレに付いている特殊能力の内容はというと、まず【自己再生】だ。ドレッドノートを象徴するような、驚くべき自己治癒力が身につくというもの。

 ところが私の【完全装着】とのシナジー効果により、何と私の体ばかりか、装備している品の全てが自己修復してしまうというとんでも機能を発揮してしまうことを確認済みである。

 もしかすると同じ理屈で、回復薬なんかで装備が治ったりするのかな? なんて、新しい可能性にも気づいてしまった。


 そしてもう一つ。これまた奴を象徴する、その鋭い爪。それをモチーフにした能力で、蹴り技を放つと追撃で不可視の巨爪が五本、対象に襲いかかるという強力な能力だ。

 単純に蹴りの届かぬ間合いの相手にも、意表を突く飛び道具として仕掛けることも出来るし、追撃なので蹴りから発生まで僅かなタイムラグがある。それを活かすように連続蹴りを見舞うと、足技と見えない爪が入り乱れた猛攻が実現する。ずっと私のターンだ。


 まぁでも、もし普通の人が使うのなら、そこまで壊れ性能ってこともないとは思うんだ。

 特殊効果は確かに強力だけど、所詮ただの足具だし。装備というのは元来、ステータスに直接影響するものではない。攻撃に用いるなら、その装備を直接ぶつけてダメージを与える際に、STRによる威力補正が乗るものだし、防御の際も防具で防いだ際、VITが働いてダメージを軽減する、といった仕様らしいんだ。

 だから、アルアノイレを普通の人が身に着けても、戦闘スタイルを蹴り技主体に変更しない限りは、そこまで極端な恩恵は得られないだろう。

 それを思えば、特異種からのレアドロップに相応しい強力な装備でこそあれ、壊れ性能という程ではないだろう。


 でも、私に持たせるにはヤバすぎた。切り札と言うにも大人気ない力を引き出してしまうのだ。オンラインRPGで例えるなら、初心者が上級者の力を借りて狩りを行うようなものだ。つまりはパワーレベリングに近い感覚だね。

 それだと、経験値は入っても技術は伸びない。なにより、それではスキルを鍛えるのに悪影響が出る気がしたんだ。

 なので、恐々としながら封印しておいたわけだ。が。


「今回はまぁ、可能ならボス討伐も視野に入れたいからね。この前散策したとは言え、まだまだ不慣れなダンジョンで不測の事態がないとも限らないし、いざその時に使い慣れないせいで実力を発揮できないのも拙い。だから今のうちに、ちょっと慣らしておこうと思って」

「なるほど。確かに、一気にステータスが上がると変化に戸惑うと思う。慣らしておくのは大切だね」

「大きすぎる力のコントロールが大変なのは、ココロもよく理解しています」

「まぁ、マスタリーのおかげでそこまででもないんだけどね。とりあえず一階層はこれで様子見をしようと思うよ。これを着けた状態で、狭いダンジョン内での動きも確認しておきたいし」


 とまぁそんな具合に、過剰戦力を携えて私達はダンジョン探索を開始したのである。


 マップウィンドウには既に、前回歩き回ったおかげでほぼほぼ全容が明らかとなった、ダンジョン内の詳細な地図が表示されており、まずは残りの空白を埋めるところから始めることにした。

 ゲームによっては、マップを埋めることで特典がもらえる、なんてものも稀にあるからね。もしそれが何らかのスキル取得条件や、マップウィンドウの経験値に影響するのであれば、面倒でも是非やっておいたほうが良いだろう。

 特にマップウィンドウの利便性は身をもって体感しているからね。それが強化される可能性があるというのであれば、是非もない。勿論オルカとココロちゃんの合意も得てのことではある。


「ミコト様、なんだか前回より足取りが軽いですね」

「慣れのせい? それとも、やっぱり足具のおかげ?」

「どっちもかな。でも、あんまりいいことじゃないね。油断しそうで恐いよ」

「そういう意味では、諸刃の剣かも知れない」


 ステータスが爆発的に上がっている実感っていうのは、実際ある。その気で地面を蹴れば、体は羽のように軽い。

 マスタリーと私の感覚に、確かな齟齬を感じている。何かに体の挙動を矯正され、意図に反する加減を行っている実感が先程から常にある。すごい違和感だ。

 もし万能マスタリーというスキルがなければ、私は今頃ダンジョンの壁に勢い余って突進していたかも知れない。しかも何度も。

 それだけ、ステータスの急激な変化というのは御しにくいものであり、不便を伴うものなんだ。

 それを思うと、ココロちゃんの苦労も忍ばれるというもの。

 私はマスタリーに感謝しつつ、寧ろ一層気を引き締めて通路を歩むのだった。


 そうするとやがて、最初の獲物が姿を現した。スケルトンである。しかも三体。

 しばらくぶりにアルアノイレの具合を確かめるべく、私は軽く二人に手を上げて任せてくれるよう合図すると、一歩前に出た。

 と、次の瞬間には真ん中にいたスケルトンのコアを、突き抜くような蹴りでぶち抜いており、直後不可視の爪が残り二体のスケルトンを刺し崩した。

 弾けるように宙を舞い、くるくると勢いのまま散乱する骨は、小さなものから塵に変わっていく。その光景が、やけにスローモーションめいて感じられた。


 スケルトンのコアは、丁度心臓の位置に浮かんでいる濁った宝石のような石で、比較的簡単に狙うことが出来る。

 万能マスタリーの思し召しか、狙い違わず不可視の爪は的確に他二体のスケルトンそれぞれのコアを、見事突き砕いたのだった。

 文字通りの、瞬殺である。


「ミ、ミコト様……格好いいです!」

「ココロ、信じられる? あれでDランク冒険者だって」

「ギルドのシステムは、重大な欠陥を抱えていると言わざるを得ませんね!」


 何やら二人が後ろで適当なことを言っているが、ギルドにはちゃんと飛び級システムとやらもあるらしい。私が目立つのを避けたいがために、それを嫌っているだけの話だ。

 それを分かった上での軽口なので、冒険者ジョークというやつかも知れない。


 それにしても、やっぱりこりゃダメだ。あまりに性能がちぐはぐすぎて、バカになってしまいそうである。

 粉々になって地面に飛び散り、黒い塵になっていく骨を見下ろして溜め息を零す。確かに思い描いた通りの動きは出来たが、まるで自分がそれを行ったのだという実感が伴わない。さながらオルカの体を操作してる時みたいな、何処か他人事のような気がしてしまう。

 ステータスの急激な変化を、マスタリーの力で強引に操っているとよく感じる、特殊な違和感だ。

 それこそ、アクションゲームのキャラクターを操作しているような、そんな感じがしてくる。


「はぁ……やっぱり、これを自分の力として扱うには経験が足りないな」

「そうなのですか? ココロには、文句の付け所が見つかりませんでしたけれど。あ、勿論ココロがミコト様に文句を言うなどということはあり得ませんが!」

「確かに、動き自体に問題はないのかも知れないけど、自分で戦っているんだっていう実感が上手く伴わないんだ。だから、危機感が薄まってしまう」

「『スキルに使われている』って言葉を聞いたことがある。スキルの力と自分の実力の境目を見失って、変に増長してる人を窘める時に使われる言葉」

「そう、そんな感じかな」


 そもそもが、元普通の女子高生だった私が、冒険者としてモンスターと戦えているのはスキルの力があってこそだ。

 だけど、ステータスがきちんと自分の実力に噛み合ってさえいれば、たとえスキルの力を用いた成果であっても、ちゃんと自分の能力で成したんだっていう実感を得ることが出来る。それは手応えみたいな感覚由来のものだから、いまいち形容はしにくいんだけどさ。

 でも、今みたいにステータスだけが先行して、私の実力っていうか、感覚っていうか、そういう『私の身の丈はこの程度』っていう認識と、実際のステータスとの間に生じた齟齬が、どうにも実感ってものを損なわせてしまっているんだと思う。

 私が指示して誰かが果たした成果を、まるっと献上されたような。そんな感覚……って言えばいいのかな。よくわかんないけど。


「これを当たり前だって認識してしまうと、多分色々感覚が狂っちゃう気がするんだよね。だからコレは、常用していい装備ではないと思う。少なくとも、私の『身の丈』がこの装備に見合うようになるまでは、ね」

「それなら当面は、ここぞという時に使う切り札にしておくべき」

「だねー」

「ミコト様、それはもしかして、ココロも同じなのでしょうか? 身の丈が合えば、ココロも力を使いこなせるようになれるのでしょうか?」

「んー……。ココロちゃんのステータスは、場合によって大きく変動するっていう不可解な仕様になっているからね。似てる部分もあるとは思うけど、私と同じだとは言えない、かな」

「そう、ですか……」


 私の答えを聞いて、一瞬しょんぼりと肩を落としてしまうココロちゃんだけれど、空気が重くなったのを察してかすぐに明るい苦笑を作ってみせた。

 彼女は彼女なりに、未だ鬼を何とかする方法を探し続けているんだ。

 それを思うと、こんなダンジョンで躓いてる場合じゃないと思えてくる。もっとココロちゃんの力になれるよう、頑張らねば。


 その後探索はすこぶる順調に進み、私達は一先ずマップの空白を埋めることを目標に第一階層を歩き回った。

 途中幾つかの宝箱を見つけはしたが、半分くらいは既に開けられていた。残念だが致し方ない。


 途中小休憩を何度か挟みつつ、私達はようやっと第一階層のマップを埋めきることに成功した。

 勿論、第二階層へ降りる階段というのも見つけてある。

 現在は、下へ降りる前にしっかり休憩しておこうということで、階段前の小部屋にてくつろいでいる最中である。


「やっぱり時間わかんないと、もやもやするなぁ」

「ミコト。ニホン人っていうのはちょっと時間に縛られ過ぎだと思う」

「そうですよミコト様。時間に従って動くのではなく、体や心の具合と向き合いながら、行動指針というものは定めていくものだとココロは思います」

「グ、グゥの音も出ないっす」


 私が日本出身だと知っている二人は、なかなか耳の痛い意見をズバッと口にする時がある。

 私ももう少し、この世界に染まったほうが良いのだろうね。自身の調子に正直になって、適度に自らを労らねば良いパフォーマンスは発揮できない。冒険者にとってそれは結構ガチ目の死活問題だから、この世界の人は日本人よりずっと自分自身と仲良しなんだろう。


「それでミコトは、その足具を装備したまま行くの?」

「あー、どうしようかな。とりあえず一階層はずっと着けてきたけど、慣らしとしては十分だしね。ダンジョン内での運用方法も見えてきたことだし。あとは二階層で少し様子を見て、敵の強さがどれくらい上がるのかを確認してから、脱着の判断はするよ」

「そうですね。ダンジョンによっては、階層毎に物凄くモンスターが強くなる場合もあります。階層によるモンスターの能力差というものを確かめてから判断する、というのはとても賢明だとココロも思います!」


 第一階層は、アルアノイレのおかげで何ら苦労せず突破出来てしまった。でも、第二階層で唐突にモンスターが強力になる、という可能性もあるにはあるわけで。

 その場合、もしここでアルアノイレを外してしまっていると、思わぬ苦戦を強いられてしまうかも知れない。

 アルアノイレは甘え! とも思うのだけれど、楽をするのと安全を確保するのを混同してはいけないとも思う。

 なるべくならこの装備に頼りたくはないが、ちゃんと私の実力で第二階層も対応可能かと調べ、確認してみないことには見切り発車になってしまう。


 ということで、私はアルアノイレを装備したまま第二階層へ降りることを決めたのだった。

 前回は未到達の第二階層。今回のダンジョンアタックは、実質ここからが本番である。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「途中幾つかの宝箱を見つけはしたが、半分くらいは既に開けられていた。残念だが致し方ない。」 見つけた宝箱の半分も中身があったということでしょう。残念かな?反対に運がいいと思うよ。まだ、半分…
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