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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第四四二話 ぽんこつネルジュさん

 死屍累々。

 私たちの前には、フロージアさんの誘拐を実行した悪党どもの死体……じゃない、肢体が力なく転がっていた。

 酷いもので、ソフィアさんお得意の【閃断】により初手で全員のアキレス腱が切断され、オルカの黒い矢にて四肢欠損の恐怖を植え付け、とどめにココロちゃんとクラウの手で一人一人丁寧に首を絞め、意識を刈り取っていったのだ。

 グロムとやらの爆炎が、苦し紛れにクラウを襲った時は正直ヒヤッとしたけど、彼女の防御系スキルは的確にそれをシャットアウト。見事無傷でやり過ごしたようだ。


 斯くして総勢一六人にも及ぶ誘拐犯グループは、全員が白目を剥き、泡を吹いて気絶するに至ったわけだ。

 ネルジュさんが敗北したと言うからどんなもんかと警戒してみれば、全然大したことなかったね。

 というか、やはり戦いっていうのは実力を出させないことが肝要なんだよ。それを改めて実感した。

 そういう意味では、ソフィアさんの初手アキレス腱チョンパはファインプレーだったと言えるだろう。

 一六人分の両足。その腱だけをピンポイントで断つだなんて、やっぱり特級は伊達じゃないってことか。

 なんて、結局出番のなかった私がボケーッと惨憺たる様を眺めていると。


『それでミコト、この後はどうするの?』

 と、念話にてオルカが問いかけてきた。

 万が一彼らのうち誰かに意識が残っており、声を聞かれては面倒くさい事になりかねないので、基本的にやり取りは念話で行っている。

 しかし、ふむ。この後か。

『適当に拘束して、後は知らんぷりで良いんじゃない? 多分、屋敷に突入したネルジュさんたちが、地下通路をたどってここに来るだろうし』

 そのように考えを述べてみたところ、ソフィアさんから懸念の声が上がった。

『あの方に果たして隠し通路が見つけられるでしょうか……?』

『まぁ、大丈夫なんじゃないか? 折角攫ったフロージア嬢を残して犯人グループが消えたんだ。抜け道の存在を疑うのは自然な流れだろう。となれば、隠し通路を見つけるのも時間の問題だ』

『ミコト様、屋敷の様子はいかがですか?』

『んーとねー……あ、ようやく突入して来そうだ。結界を解除して、フロージアさんが救出されるのを見届けたらコミコトを回収するよ』


 そのように段取りを整えると、後は迅速に行動するのみ。

 しかしまぁ、正直気乗りはしない。

 何せばっちいことに、いい大人が複数人お漏らししていたのだ。勘弁願いたい。

 けれど文句を言っても仕方がないので、私たちは皆で手分けして、彼ら全員を適当なロープにて後ろ手に拘束。汚物には極力触れぬよう細心の注意をもって取り掛かった。

 ついでなので、皆の頭に麻袋を被せて、首元を軽く紐で縛り固定しておく。

 こうしておけば、仮に誰かが意識を取り戻したとて、とっさには状況が分からず迂闊な行動が出来ないだろう。

 まぁ、足が使い物にならないのだから、逃亡される恐れはあまりないと思うのだけれど。


 そんなこんなでちゃっちゃか処理を施した私たちは、一応周囲に人の気配がないことを再度確認した後、再びスゥッと透明化の魔法にて姿を消したのだった。

 その後、念の為ネルジュさんたちがここへ至るまでこっそり見張っていたのだけれど、存外早くに発見は成され。

 大層驚いた様子の彼女らは、なかなかに良いリアクションを見せてくれた。

 私たちはその反応に満足すると、今度こそその場を後にしたのだった。

 尚、勿論フロージアさんの身柄は無事に保護され、コミコトも滞りなく回収することが出来た。

 作戦成功である。



 ★



 翌日。

 普段どおりのルーティーンをおもちゃ屋さんにてこなした私が、ぼちぼち皆の泊まっている宿へ移動しようかと考えていると。

 不意に念話にて、『ミコト、急いで来て。ネルジュさんがまた訪ねてきた』との知らせが届き。

 私はげんなりしながらも、直ぐに宿へと転移したのである。


 そして現在。

 私が合流したのを認めた皆は、部屋の外へ向けて「入っていいですよ」と入出許可の言を投げた。

 するとそれに応じ、「失礼します」という些か硬い女性の声が返ると、静かに部屋の扉が開いたのである。

 入ってきたのは勿論ネルジュさんであり、今日は食堂ではなく直接この部屋で話をするらしい。

 まぁ十中八九昨日の件についてのお話だろうから、確かに外でするわけにも行かないだろう。

 それにしても、昨日の今日で一体何だというのだろうか。

 協力に対するお礼とかなら、何もこんな朝早くから来なくたっていいだろうに。

 だとすると、もしやフロージアさんに何か……いや、だとしたらそれこそここに足を運ぶ道理もないか。

 などと予想をあれこれ巡らせていると。

 しずしずと強張った表情で入室してきたネルジュさんが、唐突に私たちの前で深々と頭を下げたではないか。


 思いがけない彼女の行動に、虚を突かれた私たち。

 心眼で見た限り、そこには深い謝意が込められているように見える。

 彼女はそれを裏付けるように、口を開いた。


「お陰様でフロージア様を無事奪還、保護することが出来ました! 皆様のご協力には、感謝の言葉も御座いません!!」

 彼女らしからぬ大声で、そのように感謝をぶつけてくるネルジュさん。

 困惑する私たち。昨日の態度から一変して、随分と律儀なことじゃないか。

 なんて思ったのも束の間。

 彼女はそこから流れるような動きで、すっと床の上にうつ伏せになると、そのまま綺麗な直立不動の姿勢を作ったのである。要は『気をつけ』だ。

 一体この人は何をしているのだろうかと、私が仮面の下で困惑を顔に浮かべていると。

『多分、彼女なりの最敬礼』

 と、オルカが念話で教えてくれた。まじか。

「及び!! 皆様にしこたま失礼な態度をとってしまったこと、ここに深謝申し上げます!!」

 まじだった。


 本当に、どういう風の吹き回しなのかと私たちが反応に困っていると。

 何を思ったのかネルジュさんは、謎の姿勢を崩すこともなく、つらつらと言い訳と言うか、身の上話を始めたではないか。

 要約すると、曰く。

 エリートの家系に生まれた彼女は、しかしそれを鼻にかけるでもなく、むしろ家格を貶めることのなきようにと行き過ぎるほどに実直な性格に育ったと。

 ところがそれが災いし、過去に手酷い裏切りに遭ったことがあるらしい。

 以来、何でもかんでも疑って掛かる様になってしまったそうで、フロージアさんの護衛を任されるようになってからは一層、強い責任感も相まって警戒心が跳ね上がったそうな。

 ところが、警戒していて尚やらかしてしまった、今回の大失態である。フロージアさんを攫われ、あまつさえ彼女の捜索及び救出作戦には、その警戒心が思い切り裏目に出るという酷い有様。

 ネルジュさんは大いにへこたれ、反省し、昨夜は一睡も出来なかったそうな。

 幸い昨日あの後すぐに目を覚ましたらしいフロージアさんからは、気に病まぬよう言われたらしいのだけれど、気に病むなという命令を遂行できなかったことで、さらに気に病んだ彼女。

 このままではダメだと考えた末、ここへ足を運んだらしい。

 因みにフロージアさんは今、宿で休んでもらっているそうだ。勿論警備も護衛の人員もてんこ盛りである。

 けれどそれでも心配なので、早く帰りたくて仕方がないとまで明け透けに暴露するネルジュさん。何なんだこの人……。

 私たちが半ば呆れながら話を聞き終えると、最後に彼女は爆弾を吐き出したのである。


「本当に、皆様には幾ら感謝してもし切れません! 皆様のご協力無くば、間違いなく我々は犯人グループをまんまと取り逃がしていたに違いありませんから……!! 皆様が奴らを無力化して下さったればこそ、事なきを得ることが叶ったのです。本当に感謝の念に絶えません!!」


 ……んん??

 この人なんで、さも私たちが犯人グループを鎮圧したって断定してるんだろう?

 極力証拠は残さないように立ち回ったし、それでも一応私たちかも知れないって匂わせるような状況証拠はあるだろうけど、確証には程遠いはず。

 なのに、ネルジュさんは何を根拠にそんなことを言うのか。

 まぁ、ともかく。

 私はちらりとクラウへアイコンタクトを送る。

 果たして意図は正しく伝わり。相変わらずうつ伏せのネルジュさんへ向けて、クラウが待ったを掛けた。


「いや待ってくれ、無力化とはナンのはなシダ? ワレワレニハナンラココロアタリガナイゾ!」

 あっ。誤魔化し下手が出た!

 私は急ぎソフィアさんへ熱烈アイコンタクト!

 ツーと言えばカー。すぐさま意図を汲んだ彼女は、直ちにクラウのフォローに回った。

「その通りです。私たちは貴女に帰るよう言われた後、適当に街をぶらついておりました。故に仰っている意味が分かりかねるのですが」

 ソフィアさんがツンとそのように言ってのけると、ようやっとうつ伏せの状態から顔だけ上げてみせるネルジュさん。

 しかしその表情は、心底不思議そうにキョトンとしており。この上なく低いその姿勢ゆえ、自然と上目遣いになって言葉を返してくるのだ。

「何をご謙遜なさっているのですか? 昨日急ぎ貴女方『鏡花水月』について調べさせていただきました。特級冒険者を有する新進気鋭のPTだそうですね。そして貴女がソフィア様でしょう? 彼らの足の腱を断ったのは貴女の得意とする特殊魔法によるものです。加えてAランクの方が二人もいらっしゃったなら、如何なグロムとて為す術も無かったに違いありませんね。いやぁ、御見逸れ致しました!!」


 だからなんでこの人、確信したような物言いをするんだ……まぁ正解なんだけどさ。

 昨日はあれほど疑って掛かってきたのに、今度は心許ない根拠で手柄を押し付けて来る。新手の掌返しだろうか。

「どのような証拠があってそう仰っているのかは知りませんが、誤解です。身に覚えがありませんね」

「グロムの強さは私が身を以て体験しています。アレをああも見事に無力化してみせたのです。鏡花水月、素晴らしい実力をお持ちのようだ……!!」

「無視ですか?!」

 ソフィアさんが珍しくツッコんでる。


 って言うか、なんだか段々分かってきたぞ。

 ネルジュさん……さては、ポンでコツな人なのでは……?

 何せ目を輝かせながらそのように賞賛の言葉をくれる彼女には、何ら悪意や害意、はたまた企みの色が一切見られないのである。

 あるのはただ、純粋な謝意と憧れ。

 グロムのあの可哀想な姿を見て、余程強い衝撃を受けたのだろう。


 さしずめそこで、犯人グループの中に私たちの姿がないことに気づいたのだろう。私たちへの強い警戒心と疑いは、その瞬間に裏返ったのだ。過剰な疑い、失礼な態度をとってしまったことから来る罪悪感を、とびきりの起爆剤にして。

 グロムらが拘束されている現場を見て最初に浮かんだ疑問は当然、彼らを無力化した者の正体が誰なのか、ということだろう。きっとそこで私たちの姿が脳裏を過り、急ぎ鏡花水月について調べたんだ。

 そして、彼女の中で強烈に結びついてしまった。私たちが犯人グループを無力化した功労者であると確信したんだ。

 証拠もないのにそう確信してしまう辺りが、ネルジュさんの思い込みの激しさである。


『鏡花水月は犯人グループの中に居なかった。犯行とは無関係だった? 寧ろ捜索に協力してくれた! グロムらを無力化出来る戦力を鏡花水月は有している。それにこの事件にこうも都合よく関わるような実力者が彼女らをおいて他に居るだろうか? いいや居ない! つまりグロムらを無力化したのは鏡花水月! はい名推理!!』


 流れとしてはこんな感じなんじゃないかな。色々とツッコみどころは多いはずなんだけどね。フロージアさんが放置された経緯とか、どうして隠し通路の出口に都合よく居合わせたのかとか。

 でもそれらの不自然が見えなくなるくらいには、ひどく思い込んでいるらしい。私たちが今回のMVPで間違いない、と。

 その結果今のネルジュさんは、もはや盲信とすら呼べる状態に見えた。幾ら否定してみたところで、まるで聞く耳を持ってくれない。

 どうやら『行き過ぎた実直さ』とやらが、おかしな方向に働いてしまっているようだ。

 何にせよ迷惑な話である。迷惑っていうか、困った人と言うべきか。

 もしここで私たちが功績を認めてしまうと、今は曖昧になっている辻褄の合わない部分が、じんわり浮き彫りになってくるはず。それはまずいのだ。

 ここでネルジュさんをハッキリと誤魔化すには、もはやダミーの人員でも見繕ってくる他ない。功績を肩代わりしてくれるような人を。偶然この街に居合わせた、グロムを倒せるだけの実力を持ち、それでいて犯人グループを拘束して黙って去って行きそうな、キザで都合のいい人材を。

 けれど困ったことに当てがない。てかそんな人、そうそう居るはずもない。だから言葉を尽くすしか否定のしようがないわけだ。


 その後も延々と、私たちが寄ってたかって知らぬ存ぜぬを貫いてみたところで、しかし彼女の思い込みが揺らぐことは無かった。

 手を変え品を変え、あらゆる角度から私たちは無関係ですよと説明してみたのだけれど、結局ネルジュさんが折れることは最後まで無かったのである。


「ふふふなるほど理解しました。どうやら余程謙虚な方たちのようですね。しかしこのネルジュ、鏡花水月の名前をしかと心に刻みつけました。今後何かの折には指名依頼などを出させていただくやも知れません。その際は出来る限り好条件での契約となるよう取り計らわせて頂きますれば、何卒お力添えの程を」

「嫌です困りますお受けできません」

「でしたらばむしろ、私でお力になれることがあったなら何なりとお声掛け下さい! 必ずや期待にお応えしてみせますので!!」

「結構です間に合ってます我々のことは忘れてもらって構いませんので」


 ネルジュさんとソフィアさんによるバチバチのやり取りはそれからも暫し続いたけれど、結局のところ思い込みの極端に激しいらしいネルジュさんには、何を言ったところで意味を成さなかったようだ。

 これは、思いがけず面倒の種が撒かれてしまったのかも知れない。

 言うだけ言ってスッキリしたのか、「正式なお礼はまた後日改めまして」と不吉な言葉を最後に残し、心做しか足取りも軽く帰っていったのである。

「正式なお礼なんて要りませんってば!!」と皆で思い切り拒否したのだけれど、果たして彼女の耳に、或いは脳にそれが届いたかどうか。

 私たちは酷くげんなりした心持ちになり、そっとある決心をしたのだ。


 さっさとこの街を出るしか無い、と。

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