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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第四三九話 屋根に潜むアニマル

 変装と言っても大したことはしない。って言うか人目を避けてるとは言え、流石にうら若き乙女たちを野外で着替えさせるような真似は出来ないだろう。

 あと、完全に正体を秘匿してしまうと、それはそれで話が拗れそうなので。

 そういうわけで、皆で被り物をし、体には適当に長いローブを纏っただけの仮装とすら言えない変身を遂げた私たち。

 因みに被り物は、今しがた手早く作った私のお手製だ。それぞれ動物の頭を模しているのだけれど、変にリアルにしたせいで絵面が気持ち悪いことになっている。

 ただ、地味にコマンドを仕込んでおり、激しく動いてもズレるようなことはなく、視界に不便を感じるようなこともない。呼吸を妨げるようなことだって勿論無い。何なら声に連動して被り物の口が動くようなギミックまで仕込んである。チープな割にそこそこ性能は良いのだ。


 そうしてパパッと変装を終えると、早速具体的な動きについて話し合いが交わされる。

 先ず口を開いたのは、見事なトサカを携えた雄鶏ヘッドのクラウである。

「で、我々はどう動くんだ? いきなり突っ込むのか?」

 うーん。普段は賢い子なのに、こういう荒事を前にすると取り敢えず脳筋になるのは何なのだろうね。

 他の皆もやる気は十分なようで。

「ココロ、何時でもいけますよ!」

「全部倒してしまっても構わないのでしょう?」

「姉さまに危害を加えたこと、後悔させる……!」

 それぞれ、牛さんヘッドのココロちゃん、カエルさんヘッドのソフィアさん、猫さんヘッドのオルカが鼻息荒くコメントを述べる。

 因みに私が被っているのはウサギさんヘッドだ。ゼノワは被り物の上に乗っかっている。ウサギさんヘッド・オン・ゼノワである。


「まぁちょっと落ち着こう。私たちが行うのはどさくさ紛れの介入なんだから、ネルジュさんたちが動き出さないことには手出しできないよ」

 皆へその様に説けば、それもそうかと肩の力を抜いてくれた。

 そう。私たちが争いの引き金となってしまっては、後に要らぬ禍根を残しかねないのだ。たとえフロージアさんを無事に助け出すことに成功したとしても、私たちの軽率な行動が彼女を一層の危険に晒した、なんて言いがかりをつけられないとも限らない。

 なので、フロージアさんやオルカには申し訳ないのだけれど、今しばらくここは傍観の姿勢を取らせてもらおうと思う。


 私たちは透明化の魔法にて姿を隠すと、更に重力魔法にて身軽になり、ひょいと件の誘拐犯たちの潜む屋敷の屋根に飛び乗って様子を窺うことにした。

 透明化を掛けた上に気配を殺そうと努めているので、そうそう誰かに気取られるようなことはない。

 現にネルジュさんやその部下の人たちも、一切こちらには気づいていないようだ。

 そしてそれは、屋敷内に潜む人たちも同じで。


『あ。あー……どうやら中の人たち、ネルジュさんたちの存在に気づいたっぽいね。動きがちょっと活発になってる』

『姉さまは平気?!』

『それは大丈夫。でも、結界の存在には気づかれたね。よってたかって突破しようとしてる。今のところ大丈夫そうだけど』

『…………』


 コミコトから見聞きできる情報を念話にて共有すると、オルカが酷く不安そうに黙る。

『ごめんねオルカ。本当なら今すぐにでも助けに行きたいだろうに……』

 と、謝罪を述べると。

『ううん。下手に動けないのは理解してるから……』

 そう言って焦る気持ちを自ら誤魔化したのだった。


『だが、結界に気づかれたというのは少しまずいんじゃないか? 何者かが妨害を仕掛けていることが、敵に知られてしまったはずだ』

『ですね……もしかするとネルジュ様の耳にも入ってしまうかも』

『フロージアさんを守るためには仕方ないと言っても、確かにそうだね……』

 クラウの指摘に、私は自らの眉根に力が入るのを感じた。

 出所不明の強固な結界や障壁。その存在は、確かに如何にも怪しいだろう。出来れば感づかれる前に事が終われば、それが一番だったのだけれど。流石にそう都合の良い話はないか。


『しかしこのタイミングで結界に気づいたということは、もしやフロージアさんを何処かへ移動させようというつもりなのでしょうか?』

 ソフィアさんがその様に予想を述べれば、皆もふむと逡巡する。

『そうかもですね。ネルジュ様たちが行動を起こす前に、場所を移すつもりなのかも』

『ネルジュ殿たちはまだ動かないのか? このままでは後手に回ることになるぞ』

『あの人はミコトの秘密道具も疑ってた。ここが本当に潜伏場所だとは、まだ信じてない。だから行動が一歩遅い』

『面倒くさい人だなぁ……』


 未だ物陰から屋敷を睨みつつ、あれこれ部下と思しき人たちに指示を出しているネルジュさん。

 私たちが屋敷の上からジト目でそれを眺めていると。

『あ。アレって多分、私たちの監視についてた人だ。見失ったって報告しに戻ったのかな?』

『ネルジュ様凄い顔してますよ。気苦労の絶えない人ですね』

『彼女からしてみたら、我々が敵に与するものである可能性が強くなったわけだからな。とすると、もしやこの場所に導いたことが何かの罠だったのではないか? と疑い始めるのでは……』

『最悪調査もせず帰りかねない……』

『あ、でも待って。裏口から誰かこっそり入っていくね……多分ネルジュさんの部下だ。斥候が得意な人かな?』


 透視のスキルを駆使して、先程から建物の内部をつぶさに観察している私。

 みんなはマップで建物内の様子が分かるし、情報は概ね共有できている。

 私の声に皆が、今しがた屋敷へ侵入した人の反応を、マップを介して注視し始めた。

 ソロリソロリと忍び足で廊下を進んでいる。

 因みに犯人グループが潜んでいるのは、屋敷の地下に当たる部分だ。なかなか広いスペースがあるけれど、そこへ通じる下り階段は隠蔽されてるっぽい。

 果たして斥候の人が見つけられるかどうか……。


 なんて成り行きを窺っていると。

『あっ』

『ん? どうしたミコト?』

『グロムらしき人が、結界を攻撃し始めた。剣でバカスカ斬りつけてくる……』

『だ、大丈夫なの?!』

『あーうん。全然平気。サラステラさんの拳だって防ぐ障壁だもの』

『流石ミコト様です!』

『おや、どうやら余程派手にやっているみたいですね。侵入した方が物音に気づいたようですよ』

 ソフィアさんの言うとおり、ピタリと部下の人の足が止まり、強張った顔で耳を澄ましているのが見えた。

 かと思えば、そそくさと屋敷を出て報告に向かった。

 犯人グループは確認できずとも、十分に不自然な物音を耳にしたのだ。これならネルジュさんも動く気になるだろう。……なってくれ。


 他方で、ムキになって爆炎まで使い始めたグロム氏。そのせいで仲間と揉め始めた様子。

『なんだか盛り上がってきたね。そろそろ動きがありそうだ』

『あ。ネルジュ様が動きましたね……部下の人を何処かへ走らせたようです』

『もしや今更になって応援でも呼んだのか? 本当に無難無難を好むようだな』

『まぁ、下手に突入したところで返り討ちに遭う可能性は高いですからね。何より戦闘にフロージア様を巻き込む可能性がある以上、無茶は出来ないのでしょう』

『……もどかしい』

 オルカがぐっと拳を握りしめる。作戦を提案した私としても、なんだか非常に心苦しい。


 ネルジュさんたちからすると、要人を人質に取られている状態である。

 フロージアさんの身柄が敵の手の内にある以上、迂闊な行動は最悪の事態すら招きかねないわけで。

 一方で誘拐犯グループにしても、外の異変には勘付きつつ、さりとて肝心のフロージアさんが謎の結界に覆われ動かせなくなったとあり、酷く焦っている様子が見て取れる。

 彼女を守る障壁が、想像以上に強固であると気づいた時の彼らのリアクションたるや、なかなかに鬼気迫るものがあり、コミコトからの眺めは格別だった。

 このように俯瞰して見ている分には、なかなかに慌ただしい状況になってきたわけだが……さて。このあと彼らはどう動くのか。そして私たちの出番があるかどうか……。


『なんだか思ったより時間かかりそうだね。ひょっとすると中の人たち、フロージアさんを置いて逃亡したりするんじゃないの?』

『だとすると、私たちの出番は無しですか。せっかく変装までしたのに、骨折り損ですね』

『それならそれでいい。姉さまが無事であることが一番大事』


 すぐにでも戦闘が生じるのではないかと予想していたのに、蓋を開けてみるとコレである。

 暇を持て余した私たちは、屋根の上でボケーッと日向ぼっこを始める始末。まぁ私だけは、これみよがしに鍛錬に時間を費やすわけだけれど。

 そんな最中、不意にクラウが口を開いた。


『そう言えば、ずっと気になっていたんだが……オルカは何故フロージア殿を「姉さま」と呼ぶんだ? ああ勿論、無理に聞き出したいわけではないがな!』

 あろうことか、みんな気になってる質問を突然ぶっこむ彼女。

 動物ヘッドが一斉にクラウの方を向き、無言の『何で今それ訊いちゃうの??』という抗議を送る。

 姿は透明になっているため、見えはしないはず。なれど気配を感じたのだろう。彼女は皆から寄せられる圧に自慢のトサカをヘタらせ、『だ、だって気になったんだもん……』と、小さくぼやいた。


 対して問われたオルカだが。

 暫し黙って、何かを言おうか言うまいかと迷いを見せた後、躊躇いがちに念話を送ってきたのである。


『みんなが知りたいのなら、教えるのは構わない。でも、知らないほうが良いとも思う』


 世の中、ただ知っているというだけで、厄介事に巻き込まれるようなケースは存在する。

 生前観た映画なんかでは、割と見かける話だった。

 うっかり重要機密を知ったばっかりに命を狙われる、とかね。

 オルカが胸の内にとどめているのも、もしかするとそういう類の秘密なのかも知れない。

 まぁ、だとしても。


『私は知りたいな。これでもPTリーダーだし、オルカの親友だし。知らなかったから力になれなかった、なんて言うのは嫌だもん』

『ミコト……』


 もし仮に、知ってしまうと命を狙われるようなやばい情報が飛び出してくるとしても、そもそもオルカと行動を共にしている時点である程度は、命を狙う側の人に疑いを持たれているはずだしね。例の秘密をとっくに聞かされてるんじゃないか、って。

 だったら今更、知ってても知らなくても同じことだろう。それならむしろ知っておいたほうが良い。

 まぁ突飛な例えをしてしまいはしたけれど。でも、それくらいの覚悟はあるつもりだ。


『それならココロだって聞きたいです! 仲間ですもん!』

『む。私だってそうだぞ!』

『オルカさんと一番付き合いの長い私を忘れてもらっては困りますね!』

『みんな……』

『念話だし、チャンネル絞ってるから話が漏れるような心配もないしね。安心して語って欲しいな』


 満場一致でオルカに先を促せば、彼女は意を決し、徐に念話を紡ぎ始めたのである。

 しかしてそれは、想像通りというか、想像以上と言うべきか。

 オルカが伏せるだけのことはある、とんでもない内容だった。


『私は……姉さまの……父親違いの妹なの』

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