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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第四三五話 青天の霹靂

「ええ?! も、もう帰ってしまうのかミコトちゃん!? もう少しゆっくりしていっても……そ、そうだ、食事がまだだろう? お風呂にも入っていってくれ!」


 そんな具合にイクシスさんに引き止められた私は、寂しがりな彼女に絆され、いつもより早い夕飯とお湯をいただくのだった。

 ただ、銀色の杯を早く調べたいという思いが強かったため、普段より駆け足でそれらを済ませてしまった。

 すると尚も食い下がり、もうちょっとゆっくりしていっても……と寂しげなイクシスさん。

 仕方がないので、私はクラウへ念話にて連絡。

 イクシスさんが寂しがっていることを伝え、話し相手を肩代わりしてもらうことに。


 斯くしてイクシス邸を後にし、ゼノワと共におもちゃ屋さんへ戻ったのが夜の七時半。

 いつもより早いと言っても、流石にお店は閉まっている時間なので、変に気兼ねすることなく裏口から入ると。

「あれ、ミコト今日は早かったね」

 と、早速私に気づいたモチャコが声を掛けてきた。

 丁度いいので私は彼女に、ちょっと見てほしい物があるのだと告げ、連れ立って作業部屋へと入っていった。

 そうして作業机に向かうと、同じくいつもどおり机の上に立ったモチャコへ、それをストレージより取り出して見せたのである。


「これ、モチャコから見てどう思う?」

 彼女の前に出現させたるは、くすんだ銀色の杯。

 もしかすると磨けば綺麗になるのかも知れないけれど、今はただの小汚い杯に過ぎない。

 現にモチャコも、ガラクタ臭漂う眼の前のそれに、何とも怪訝な表情を浮かべ。

「どうって、これが何なのさ……?」

 さりとて私がわざわざ見せてきたものだからと、一応まじまじと観察し、暫し色んな角度から眺めてみたり触ってみたりして、じっくり確かめた後。

 あっさり、こう言ったのだ。


「どうもこうもないよ。何てこともないただの、人間用の古い杯だね」

「えぇ……」


 私は何とも言えない心持ちになって、一応これがどういうものかをモチャコに語ってみた。

 人間がオーパーツと呼ぶ、出自不明の奇妙なアイテムである可能性が高い、ということを。

「それで、妖精師匠たちなら何か知らないかなって思ったんだけど……モチャコには心当たりが無いみたいだね」

「期待に添えなくてゴメンだけど、まぁそうだね。アタシにはいっそガラクタのようにすら見えるよ」

「散々な言い様だね……」

「ホントのことだから仕方ないじゃん」

 モチャコは再度目を凝らして杯を眺めるも、やはり特別な力を感じるようなことはなかったらしく。

 結局程なくして興味も失せたのか、

「一応他の子たちにも訊いてみたら? なにか知ってる子がいるかも知れないし」

 と、匙を投げてしまったのである。まぁ助言をくれる辺り優しいんだけどさ。


 言われたとおり、私はそれから師匠たちを次々に当たっては、銀色の杯について何か知らないかと問うて回ったのだけれど。

 さりとて一向に有益な情報は得られぬまま。

 気づけばおもちゃ屋さんに暮らす妖精全員に質問し、撃沈していたのである。

 よもや、何の成果も得られないとは……。


 すると、机に向かって項垂れる私に向かい、モチャコが言うのだ。

「そんなことよりミコト、精霊降ろしの巫剣から見つかった新しいコマンドの習得方法、ミコトも一緒に考えてよ! いま一番ホットな話題なんだよ! ミコトそういうの得意でしょ?」

「えー……まぁいいけど」

 私にはイマイチ縁の薄い話だが、いちゲーマーとしてはやっぱり心ときめくものがあるのだ。『習得条件探し』という作業には。


 結局師匠たちが眠気に負けるまで、一緒になって新たなコマンドを覚えるための方法についてあれこれ案を考え、皆が寝た後一人で杯を詳しく調べるべく机に向かったのだった。

 今日分かったことはと言えば、どうやら私以外にはこの杯、何でもないただの骨董品に見えるらしいってことだ。

 それでもフロージアさんの審美眼に引っかかった辺り、ただのガラクタではないのだろう。

 実際私も、不思議な力は感じているのだ。

 魔力を通せば、それが複雑怪奇な変化を遂げる、ということまでは判明した。

 けれどそれ以上のことが分からない。


 結局私は延々と、時間も忘れてあーでもないこーでもないと杯を調べ続け、ゼノワはいつの間にか頭にへばりついたまま寝こけていた。

 これが本当に『隠しコマンド』と関係しているかは、はっきり言って分からない。

 けれど大きな謎を内包していることは間違いないように思う。

 なんとしても、私がそれを解き明かすのだ。

 気分はさながら考古学者……とは違うか。どっちかって言うとオカルト研究家の分野かも知れない。

 何せオーパーツの謎に挑んでるわけだしね。


 私の孤独な戦いは、深夜遅くにまで及んだのだった。



 ★



 ぱっと、目が覚めた。

 見慣れた天井だ。さりとて、ベッドに入った覚えもないのにベッドで目を覚ますという、何とも不思議な感覚。多分オートプレイのスキルが働いた結果だろう。

 因みにゼノワは、妖精師匠たち同様オートプレイの働いている私、通称『ヨルミコト』を怖がって、寝室にまでは入ってこない。

 宙にプカプカ浮かんだまま眠る彼女は、寝床にまったく拘りがないのである。なのでもしかすると、今も作業部屋で寝てるのかも。


 時計を確認する。いつもどおりの時間だった。

 ただ、夜更ししたのでいつもより頭がぼんやりしている。

 私は眠い目を擦ると、いつもより幾らか重たい体をベッドから引きずり出し、今日も今日とて朝の支度に取り掛かるのだった。


 師匠たちは寝るのが早い。

 遅くても一一時にはみんな眠気に蹂躙されるため、相対的に起きてくる時間も早く。

 私が自身の作業机に向かう頃には、当然のように皆活動を始めており。

 案の定プカプカ浮かんで熟睡しているゼノワを指で突っついてみると、「クァ?」と可愛らしくも間抜けな声を上げて目覚め、気怠げに私の頭にへばりついてくる。完全に定位置化してしまったみたいだ。

 杯に関してはストレージにしまってあり、机に向かったなら一先ずいつもどおりの朝練と、そのあとゼノワのご飯である。

 ご飯とは言うが、精霊は食事をしない。幼竜の姿として見えてはいるけれど、厳密には実体という実体はないらしいし、契約者である私のイメージを投影しているだけに過ぎないわけだ。

 なのでご飯というのは、とどのつまり私が生成する精霊力をゼノワに与えることを指している。


 お世話の甲斐もあってか、今や一端の精霊として十分なほどに育ったゼノワ。

 私がどうこうせずとも、一応自力で精霊力を蓄える術は既に得ている。

 ところが相変わらず謎の多い彼女は、他の精霊にとっての『居心地のいい場所』というのが分からないらしい。

 火の精霊なら暑い場所や火山など。水の精霊なら水辺など、といった具合に、精霊によって精霊力を得やすい環境というのは異なるのだが、ゼノワの場合はそれが不明。なので放っておくと、他の精霊に比べて成長に難が出てしまうようだ。

 しかしどうしてだか、私が与える精霊力を吸収すると、やたらとすくすく育つのである。

 理屈は不明だが、名前に込めた意味が作用してのことなのか、はたまた別の要因があってのことか……。

 ともあれ、私がお世話をするとゼノワはすくすく育つ。

 ゼノワがすくすく育つと、私も助かる。

 というわけで、今やゼノワの育成は私の日課の一部となっていた。

 おもちゃ屋さん備え付けの転移扉を潜り、今日も今日とて遠方へ赴くと、早速日光や大気、大地や植物、水、その他諸々からちょびっとずつ精霊力を分けて貰い、それを私自身と最も相性の良い波長に統一調整。

 これをゼノワに与えてやるのが、彼女の食事となる。


「それそれ、たんとおあがり」

「キュルゥ♪」


 ご機嫌である。ういやつめ。

 そんな具合に暫しゼノワと戯れていた時のことだ。

 唐突に、それは訪れたのである。


『ミコト、ごめん。ちょっと緊急事態』


 そんな念話が、オルカより届いたのだ。

 急なことに、流石にびっくりした私は、若干ドギマギしつつそれに応答を返す。

『な、なになに、緊急事態?! ドラゴンでも襲来した??』

『いや、そのくらいならまぁ、私たちだけでも対処できると思うぞ』

『流石に種類にもよりますけどね』

 マジか。ココロちゃんのコメントが、妙に信憑性を醸し出してて恐いんですけど。

 っていうか。

『え。じゃぁドラゴンよりヤバい何かってこと?!』

『ヤバいと言うか、厄介と言うべきでしょうね……ともかくミコトさん、一度合流をお願いできますか?』

『お、おっふ……了解。すぐ行くよ』


 おはようの一言すら交わさず、突如告げられたトラブルの発生。

 詳細は不明なれど、なんだか嫌な予感がする。

「はぁ……厄介事かぁ」

「グァ?」

 よく状況の分かっていなそうなゼノワの頭を一撫でし、小さく天を仰ぐ。

 いい天気だ。今日訪れているのは何処かの湖畔である。鳥の鳴き声が爽やかな、とても気持ちのいい場所。何なら木陰でお昼寝でもしたくなるような、素敵な所なのに。

 私は急に立ち込めた愁い事に肩を重くし、ゼノワを頭に乗っけると、観念してワープを発動したのだった。


 昨日ぶりの宿の部屋。

 するとそこには、硬い表情の皆が居り。私が現れるのを見るなり、すっくとオルカがベッドから立ち上がった。

 そして開口一番言うのだ。


「ミコト……姉さまが、何者かに攫われたって」

「……え……えぇ……??」


 一瞬、言われた意味を掴みかね、間抜けな声が漏れてしまった。

 フロージアさん……つまり公爵さん家の娘さんが、誘拐された……?

 普通に大事件じゃん!

 私はワンテンポ遅れて取り乱し始めると、早速皆に詳しい情報を求めるのだった。

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