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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第四三四話 銀色の杯

 一見それは、他の骨董品と比較して何が際立っているわけでもない、単なる杯に見えた。

 用いられている材質も何かしらの金属でこそあれ、見たこともないような珍しい物、なんてこともなく。

 ガラクタと言われればガラクタで、しかし歴史的価値があるのだと言われたら、それはそれで納得を覚えるだろうけれど。さりとてだからどうと言うほどのこともない。

 ぱっと見ただけでは何ら琴線に触れない、くすんだ銀色をした普通の古い杯。

 最初に懐いた雑感はそんなものだった。


 ところがどうだ。

 詳しく観察すればするほど、それが如何に奇妙な品であるかが分かってくる。

 恐らく他の人の目には、何ら異彩を放っては見えないと思う。

 むしろこれをオーパーツだなんて呼んで、特殊なものと理解できた人が、一体何を基準にそう判断したのか。そこが気になるくらいには、ごく当たり前の杯なのだ。

 しかし、これにコマンドが書かれていやしないかと目を凝らしてみると、奇妙な点に気づくことが出来る。


 先ず結論として、コマンドらしきものは書き込まれていなかった。

 少なくとも、私が理解できるようなものは何も。

 だけれどその割に、この杯は微量ながら大気中から魔力を引き寄せ、自己保存のためにそれを行使して見えたのだ。

 それはコマンドでいう、自動修復等の機能に似ており、コマンドとはまた異なる技術でそれに近い効果を得ているように思える。


 そこで試しに杯へ魔力を通してみたところ、これまた奇妙なことが起きたのだ。

 流した魔力のカタチが、複雑怪奇な変化を遂げ、そのくせこれという何らかの事象を引き起こすでもなく、魔力はそのまま霧散してしまったのである。

 さっぱり訳が分からない。

 分からないけれど、分からないってことがこの杯の特異性を際立たせているように思えてならなかったのだ。


 そのように私が首を傾げていると、私の様子から何かを察したのだろう。皆の視線と意識もまた、この杯へと集まっており。

 思わずと言った様子で、オルカが問うてきた。

「ミコト、もしかして……?」

 私はその声に顔を上げると、少しばかりの逡巡を挟み。

「うん……まだ確信を持って言えるわけじゃないんだけど、この杯、明らかにおかしなアイテムではあるね」

 と、率直な返答を返した。

 加えて現状分かっていることをざっくりと説明するけれど、コマンド等は専門外である彼女らにとっては何となく普通じゃないことは理解できる、くらいの認識だろう。今はそれで十分だ。


「ということはまさか、本当にオーパーツかも知れないってことですよね?!」

「流石審美眼の効果です! よもや本当に引き当てていたとは……それを予想して動いたオルカさんの判断も素晴らしい!」

「ミコトの役に立てたのなら良かった」

「オルカしか勝たん!」

「ともかく、一度母上に鑑定してもらうのが良いだろう。高レベルの鑑定スキル持ちは伊達じゃないはずだからな」


 クラウの勧めに従い、私は逸る気持ちを抑えて席を立った。

 因みに他の骨董品も一通り調べてはみたけれど、それらは特におかしな点もない、こう評するのも何だけど『ただの骨董品』でしか無かった。

 なので私はその銀の杯だけを手にし、オルカに問うたのである。

「ごめんオルカ、これ詳しく調べたいんだけど……いいかな?」

 すると彼女は不思議そうに小首をかしげ。

「そんなの当たり前。そのために譲ってもらったんだから……というか、スキルオーブと卵の代わりに得た物なんだし、それはPTのもの。そして私個人としては、ミコトに持っていてもらいたい」

 そのように、さも当然の如く言うものだから、思わず面食らってしまう私。いや、言いたいことは分かるんだけどさ。

 でもフロージアさんから貰ったものなのだし、オルカにとっては特別な思い入れもあるんじゃないかと思ったのだけれど。

 しかしそんな私の心配を他所に、オルカのその言には皆もこくこくと頷き同意を示したのである。

「我々が持っていても、役立てられるとは思えないしな」

「ですです。価値の分かるミコト様にこそ持っていてほしいです!」

「その代わり、なにか分かったら優先的に教えて下さいね」


 皆の有り難い声に私は強く頷いて返すと、頭の上のゼノワに急かされながら、私はお礼を述べてすぐさまイクシス邸へとワープしたのだった。

 我ながら落ち着きのないことである。いや、フットワークが軽いと言えば聞こえが良いか。そういうことにしておこう。



 ★



 時刻はおおよそ午後六時過ぎといったところ。夕食を摂るには少し早い頃だろうか。

 イクシス邸の転移室に飛んだ私は、肌寒さに一瞬驚き、思わず身を縮こまらせた。

 予定ではエルドナの宿からおもちゃ屋さんに直接帰るつもりだったため、今日はこの部屋の利用はないものと使用人さんたちも思っていたのだろう。実際予定外の行動だしね。

 そのため暖房魔道具も動いておらず、いつもの居心地いい転移室とはまったく違ったもの寂しさを覚えた。

 そんな部屋をさっさと飛び出し、私は廊下を歩きつつマップにてイクシスさんの居場所を確認。

 どうやら食堂に居るらしい。早めの夕食だろうか? それにしても一人ぼっちだな……そう言えば今は使用人さんとイクシスさんしかこの屋敷には居ないのか。

 まぁでも、以前まではそれが当たり前だったのだし、存外久しぶりの一人を満喫していたりして。だとしたらお邪魔しちゃってちょっと心苦しいな。


 なんて予め恐縮を覚えつつ、てってけと慣れた調子で食堂へ入ってみると。

「……………………ぐすん」

 イクシスさんが小べそをかきながら、小さくなってもそもそ食事を摂っていた。

 いつものハキハキした姿は何処へやら。

 しかしそこは腐っても勇者。私の気配に感づくと、バッとこちらを振り向いたのである。

 かと思えば。


「う、うわぁぁん!」

「イクシスさん?!」


 ひしっと抱きつかれてしまった。一瞬ぎょっとしたが、一応おおよその察しはついている。

 つい先日までは、対骸戦に備えて賑やかだったイクシス邸。

 しかしそれが急にみんな居なくなり、あまつさえ今日は娘のクラウさえ留守。

 いきなり一人ぼっちを感じたイクシスさんは、その寂しさに甚く苛まれたのだろう。

 一人を楽しんでいる、という予想は完全に外れてしまったようだ。


「おーよしよし、寂しかったね。それなら念話でも通話でも送ってくれたら良かったのに」

「うぅ、だって、せっかくの息抜きに水を差したら悪いと思ったんだ……」

「気遣いが出来て偉いね。流石クラウのママだね」

「うぅ……ぐす。流石にちょっと恥ずかしくなってきたぞ……」


 しばらくイクシスさんを慰めていると、ようやっと調子を取り戻したのか、顔を赤くして私から離れるイクシスさん。

 そうして彼女は些か所在なさげに視線を泳がせると、思い出したかのように問うてきたのである。

「って言うか、どうしたんだミコトちゃん? 今日は戻らないんじゃなかったか? クラウも一緒だったりするのか?」

「あー……ごめん、クラウは宿だよ」

「そ、そうか……それなら急用か何かか? 念話ではなく直接戻ってきたということは、もしやオークションで何か見つけたとか?」

「お。さすがイクシスさん、察しが良くて助かるよ。まぁオークションってわけじゃないんだけどね……」


 私はざっくりと今日の出来事をイクシスさんに説明しつつ、徐に銀色の杯を取り出したのである。

 立ち話もあれなので、テーブルを挟んだ彼女の向かいに腰掛けている私。

 イクシスさんは杯を受け取るなり、早速首を傾げた。

「ふむ。それでこの杯がその骨董品の中に紛れていたと」

「うん。で、私が見た限りどうにも様子がおかしいから、イクシスさんに鑑定してもらえないかなって思って持ってきたんだ。よかったらお願いできるかな? 出来れば無料で」

「おいおい、今更そんな野暮なことを言わないでくれ。ミコトちゃんから鑑定でお金を取ったりはしないさ。……仕事はたまに手伝ってもらうかもだけど」

「強かだね! まぁいいけど」


 なんて軽口を交わしながらも、早速手にとった杯に向けて真剣な眼差しを向けるイクシスさん。

 そして今、静かに鑑定のスキルが行使された。

 直後である。


「んん……?」

「? イクシスさん、どうかした?」

「むぅ……何なのだろうな、これは。アイテムの名前らしきものはいつもどおり頭に浮かんでくるのだが、どういうわけかそれが理解できない……」


 眉根をぐいと寄せ、怪訝そうな顔をするイクシスさん。

 同時に驚きの感情も得ているようで、興味深げにまじまじと杯を色んな角度から観察している。

「因みにイクシスさんは、これまでオーパーツを鑑定した経験とかってあるの?」

「ん? いや、流石にないな。武器じゃないから興味もなかったし」

「ああ、そう」

 つまり、銀色の杯が所謂オーパーツと称されるものなのか否かは、明確に判断できないということだ。

 が、正直それはさしたる問題ではない。

 私たちが真に求めているのは、オーパーツと呼ばれるアイテムではなく、もしかしたらそこに関係しているかも知れないっていう『隠しコマンド』なのだ。

 そしてこの杯には、私も未だ知らない謎技術が用いられているっぽい。

 なればその時点で、もっと詳しく調べてみるだけの価値をそこに認めることが出来るのだ。


「イクシスさん、それオーパーツだと思う?」

 念の為、一応そのように問い掛けてみれば。

「少なくとも、ただの魔道具でないのは確かだな。それに普通のアーティファクトとも違うのだろう。なら……そういうことなんじゃないか?」

「だね。いやまさか、こんなにすぐ手元にやってくるなんて……」

 消去法めいてはいるけれど、そもそも何をもってしてオーパーツと呼ばれているか、なんて確かな基準を私は知らないし、イクシスさんも口ぶりから察するに詳しくは知らないのだろう。

 それでも銀色の杯を、オーパーツである、と判断するには十分な状況証拠のように思えた。

 というわけで。


「おめでとうミコトちゃん。オーパーツゲットだな!」

「いまいちすごい物が手に入ったっていう実感はないけどね……一応、ありがとう」


 私はイクシスさんから返してもらった銀色の杯に改めて目を落とすと、何とも形容し難い感情を得たのであった。

 取り敢えずこのあとは、おもちゃ屋さんに戻って師匠たちと相談だ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「オーパーツ」探し、さしもの“掘り出し物”探しみたいでワクワクしますね。 [気になる点] セリフ「オルカしか勝たん!」は意図したとおりの内容でしょうか。
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