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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第四三二話 贈り物

 フロージアさんは何と貴族も貴族、公爵さんちの三女であることが判明した。

 って言うか、知らなかったのは私だけっていう。そりゃこれだけ騒いでもお店の人に注意されないわけだ。

 でも注意されないからって、お店で騒いじゃダメなんだぞ。私はよい子だから真似しないようにしなくちゃ。

 まぁそれはともかく。

 フロージアさんにスキルオーブをプレゼントしたいというオルカ。

 しかし公爵家の人に貸しを作るような真似をするのは、正直よろしくない。下手をすると面倒なことになりかねない。触らぬ神に何とやらである。

 なら一体どうするべきか……。

 念話会議にて、皆でそのように悩んでみた所。

 結局行き着いた答えはシンプルで。


『やっぱり、フロージアさんと親しいオルカからのプレゼント、ってことで押し通すしか無いと思うよ』

『ですね。親しい相手からの贈り物に代償を払うだなんて、それは野暮ですもん』

『だとすると、雰囲気作りが肝要だな』

『あくまでプレゼントであって、取引の類ではないということをしっかりアピールしていきましょう』

『みんな、相談に乗ってくれてありがとう』

『めったに我儘を言わないオルカからの相談だもの、お安い御用だよ』


 というわけで、一応話は纏まりを見せ。

 そうと決まれば早速作戦開始である。

 と思った矢先。


「? ど、どうしましたの? 皆さん急に黙られて……」

 そう言って酷く不安げにしているフロージアさん。

 しまった。いくら念話でのやり取りが、通常の会話に比べて短時間で可能だとしても、流石にやりすぎた。

 時間にしてどれくらいだろうか。一〇秒か、三〇秒か、はたまたそれ以上か。ともかく私たちは唐突に口をつぐみ、念話に集中してしまったのである。その間フロージアさんを放置してしまったのは、失策と言わざるを得ない。

 ネルジュさんの顔も凄みを増してるし、これはまずい。


「申し訳ありません、フロージア様。実はテイムのスキルオーブに関して、一つ心当たりがありまして」

 と述べたのはソフィアさんだ。

 するとそれを耳にするなり、またもガタッと席を立つフロージアさん。よく立つ人だなぁ。

 彼女は飛びかからんばかりに前のめりになると、「それは本当ですの?! 是非お聞かせくださいまし!! 情報の対価をお求めなら、お好きな額を仰っていただいて構いませんわ!」などと勢い任せに口走り、またネルジュさんを困らせたのである。

 だが、ソフィアさんはゆっくりと首を横に振ると、こう続けたのだ。

「対価などは不要です。詳しい話は、そちらのオルカさんからどうぞ」


 促されたフロージアさんは、すごい勢いでギュリンと首を回し、愛しのオルカをロックオン。

 席に座り直すと、体ごとオルカと向かい合って、ゴクリと生唾を飲み。そして徐に口を開いたのである。

「オルカ……本当に、テイムのスキルオーブについて情報を持っていますの……?」

 顔が近い。鼻先が触れ合わんほど接近して、そのように問うフロージアさん。

 オルカは気圧されながらも、徐に自らの鞄を開けてゴソゴソと漁り始めた。

 期待を込めてその所作を眺めるフロージアさん。

 その後ろでは、胡乱げなネルジュさんが警戒態勢だ。まぁ付き人で護衛も兼ねているなんて、そんなの主の代わりに疑って掛かるのがお仕事みたいなものだしね。仕方ない。仕方ないとは言え、あまり良い気はしないけど。


 そうしてまもなく。

 オルカは肩掛けの、その小さめの鞄より、折りたたまれた布製のバッグを取り出したのである。

「? もしかしてそれは、マジックバッグですの?」

 とフロージアさんが問えば、コクリと頷いたオルカが「うん」と短く返事。

 マジックバッグが現れたとなれば、いよいよ中から何が飛び出すかも分からない。

 本格的に警戒を顕にしたネルジュさんは、「お嬢様、失礼します」と一言短く述べると、フロージアさんの手を引いて席を立ち、彼女をその背に庇ったのである。

 そして険のある言葉でオルカに問いかけた。

「何をするつもりですか」と。


 しかし対するオルカは、少し淋しげな顔をしながらも、「姉さまに渡したいものがあるだけ。バッグからそれを取り出したいんだけど……いい?」と、ネルジュさんをしかと見据えて確認したのである。

 暫しの間。重たい沈黙。ネルジュさんからは如何にも剣呑な空気と怪訝な心が見て取れた。

 しかしそんな沈黙を破ったのは、やはりと言うべきかフロージアさんだった。


 ガッと、背後よりネルジュさんの両耳をつまむと、思い切り左右に引っ張ったのである。

「ネールージュー!!」と、如何にも怒気を孕んだ声音を吐く彼女は、先程までのご機嫌が嘘のように不愉快さを顕にしていた。

「い、いだだだ! 痛いですお嬢様!」

 よもや主を振り払うような真似が出来ようはずもなく、しかもまだオルカへの警戒を解いていないネルジュさんは、非力なフロージアさんによる精一杯の抗議に、涙目になって「おやめください! 痛いです! いだだだ!」と、声だけで抵抗。

 しかしフロージアさんの攻撃は止まず。

「オルカに対して何なんですのその態度は! っていうか邪魔をしないで! そこをおどきなさい!!」

 と、ガチギレトーンで怒鳴りつけたのである。

 が、ネルジュさんも引くわけにはいかず。

「なりませんお嬢様! 何と仰られようと、素性の不確かな者を信用するわけには!」

 そう言ってフロージアさんを背に庇い続けた。

 真面目な人だ。確かにもしオルカが暗殺者とかだった場合、どう考えてもヤバいシチュエーションだものね。

 まぁ仮にオルカがその気だったとしたら、今頃はとっくにフロージアさんは屍に変わっているだろうから、ネルジュさんの頑張りは空回りなのだけれど。


 そんな二人のやり取りを他所に、オルカはさっさとマジックバッグよりそれを取り出していた。

 スキルオーブと、モンスターの卵である。


「「……っ!?」」


 流石に、それを目の当たりにした瞬間フロージアさんは疎か、ネルジュさんまで目を大きく見開き、口をつぐんでしまった。

 その驚きが余程であることや、まさかという思いも私の心眼にはバッチリ見えている。

 ちなみにオルカが今持っているマジックバッグは、今しがた私がストレージ内で操作し、そこに件のスキルオーブと、それを入手した際一緒に置かれていた卵を詰めて、彼女の鞄内部に送り込んだものである。

 なのでフロージアさんたちにはさながら、オルカがマジックバッグに入れて元からそれらの品を持ち歩いていたように映ったはずだ。私のストレージになど気づくはずもない。

 案の定そうした小細工に思い至る気配すらなく、フロージアさんはおずおずとオルカへ向けて訊ねたのである。


「オルカ……もしかして、これって……」

「そう。テイムのスキルオーブ。あと、一緒に手に入れたモンスターの卵」

「っ!!」


 今度こそネルジュさんを押しのけたフロージアさんは、おずおずとオルカの隣に腰を下ろし。

 そして目を輝かせながらスキルオーブと卵を食い入るように見つめたのである。

 そんな彼女へ向けて、オルカは言うのだ。


「姉さまに受け取ってほしい。ずっと、姉さまにはお礼がしたかったの……嫌われ者だった私に良くしてくれたのは、姉さまだけだったから」

「……リコリス……」

「ちがう。私はオルカ。鏡花水月のオルカ」

「! ……そうでしたわね。ありがとう、オルカ」


 フロージアさんは静かに、しかし強くオルカを抱き寄せ。かと思えば感極まって「ぅぇえええええ」と子供のように泣き始めた。

 そんな彼女の頭を愛おしそうに撫でながら、オルカは困惑してオロオロしているネルジュさんへ言う。


「心配だろうから、これは一応ちゃんと鑑定にかけて。誓って偽物なんかじゃないけど、念の為」

「……は、はい……」


 バツが悪そうにそう返事した彼女は、居た堪れなくなったのかついっと目を逸らしてしまう。

 そして、店中の視線がこちらへ向いていることにようやっと気づき、あわあわしながら「見世物ではありませんよ!」と威嚇したのだった。

 慌てて皆がそっぽを向く。

 まぁ、あれだけ騒いだのだから自業自得ではあるのだが。


 そんな彼女を他所に、一頻り泣いたフロージアさんはズビッと鼻をすすりながら、オルカへ向けて言うのである。

「お返しを……何かお返しをしたいですわ」と。

 しかしオルカは静かに首を横に振ると、優しい正論パンチを繰り出した。

「お返しをもらったら、お返しのお返しをしなくちゃいけなくなる。何も要らないから、ただ素直に受け取って欲しい」


 オルカにそう諭されたフロージアさんだったが、しかし。

「いいえ、そういうわけには行きませんわ!」

 と、再び声を張り上げたのである。やはり一筋縄では行かない人だ。

「せめてもの気持ちとして、有り金全部を渡しますわ!」

 などととんでもないことを言い始めたではないか。

 流石に慌てたオルカは、どうしたものかとテンパり始め。一先ずブンブンと首を左右に振って、要らないアピールをする。頑張れオルカ!


「姉さま。私はもう、ゼアロゴスと関わりを持ちたくない。お金をもらったら、まったくの無関係で居られなくなる。仲間にも迷惑がかかる……」

「! そ、そうですわね……むむぅ……なら、代わりになにか渡せるものがあるかしら……?」

 ちらりとフロージアさんがネルジュさんへ視線を投げれば、素早く意図を察した彼女はササッと、携えていたマジックバッグをフロージアさんへ差し出した。

 恐らく本来の持ち主はフロージアさんなのだろう。ネルジュさんは付き人ゆえ、主の荷物を預かっていたわけだ。


 バッグに手を突っ込み、むむむと唸り始めるフロージアさん。

 その反応を見るに、どうやらあまり価値ある品は入っていないようだ。それを裏付けるように、ブツブツと独りごちる彼女。

「困りましたわ……お返しに相応しい品が無いですの。精々が、さっきのお店で購入した骨董品くらいですわ……」

 するとオルカは首を傾げ、問うた。

「姉さま、骨董品を集めてるの?」


 キラリと、フロージアさんの瞳が怪しく輝く。

 その眼光たるや、私には確かに覚えがあった。ソフィアさんやイクシスさんが、趣味嗜好について語る時のそれとそっくりだったのだ。

 ネルジュさんもギョッとしているし、これは地雷なのでは……。

 と、思ったのだけれど。


「ふっふっふ。オルカ、私はロマンをこよなく愛す女ですの!」

「うん、知ってる」

「骨董にはロマンが詰まってますの!」

「お嬢様がお買い求めになるのは、決まって鑑定もろくにされていないような、怪しい品ばかりですけどね」

「おバカ! ネルジュおバカ! なんにも分かっていませんわ! そこが良いんですの!!」


 ぐ。どうしよう、それ分かるんですけど。私もロマンを愛する者なれば、フロージアさんの言うことが理解できてしまうんですけど!

 なんて私が密かに悶えていると、不意にオルカと目が合った。

 すると彼女は何を思ったのか、ふむと一瞬顎に手を当てた後、フロージアさんへ言うのである。


「ちなみに、どんなものを買ったの?」

 まさかの反応だったのだろう。オルカの食いつきに、くわっとテンションを上げたフロージアさんは、早速マジックバッグに手を突っ込んで、食器の並ぶテーブルの上によく分からない古い品を積み上げ始めたのである。

 これにはネルジュさんばかりか、他のみんなも困惑。

 それらを尻目にフロージアさんは、嬉々として品物の解説を始めてしまった。やっぱり長くなるやつじゃないですか!


 そして、そこからたっぷり三〇分以上。

 フロージアさんの熱い骨董解説は続き、オルカは文句を言うでもなくこくこくと頷き相槌を打っていた。

 しかし折を見て、ようやっと口を挟んだのである。

「姉さま、そろそろお店の迷惑になる」

「はっ! そ、そうですわね……わたくしとしたことが、つい夢中になってお話してしまいましたわ」

 オルカの言だからなのか、素直にそう反省した彼女は、こほんと咳払いを一つ。

 そうしてようやっと本題を思い出したのか、また難しい顔をし始めた。


「そうでしたわ、オルカに渡すお返し……」

「……姉さま。それなら、この骨董品はどう?」

「!」


 オルカが指したのは、テーブルの上に並んだ、一見ガラクタでしか無いやたらと古い品々。

 なるほど、どうやらオルカはそれを落としどころとして選んだらしい。

 お金でなく、フロージアさんが趣味で集めている品であれば、それを誰とやり取りしたとて然程目立つようなこともないはずだ。ましてそれらはつい先程買い求めた、縁の薄い品々。

 なればそれが原因で公爵家と関わり合いになるような事態も、きっと避けることが出来るだろう。


「へ……? いえ、でも……」

「だめ……?」

「そ、そんな事はありませんわ! でもでも、スキルオーブはもしお金に変えようと思えば……」

「姉さま。それは無粋」

「! そ、そうでしたわね」

「スキルオーブと卵は、私からの気持ち。せめてもの恩返しだから、本当ならお返しなんて要らないの」

「オルカ……」

「それでも姉さまの気が収まらないのなら、この骨董品がいい。姉さまだと思って大事にするから」

「っ……!!」


 決まりである。

 斯くしてオルカは、スキルオーブとモンスターの卵をフロージアさんに贈り、代わりによく分からない骨董品の数々を自らのマジックバッグへ収納したのだった。

 フロージアさんも、改めてオルカや私たちにも礼を言いながら、受け取った品を自身のマジックバッグへ大事そうにしまい込んだのである。


 時刻はいつの間にやら午後四時を過ぎ、夕の気配が迫ってきていた。

 飲食のお代はサラッとネルジュさんが出してくれたらしく、何なら迷惑料も込で多く渡したのだろう。会計を担当した店員さんが目を丸くして驚いていた。

 そうして私たちは揃って、名も知らぬ喫茶店を後にしたのだった。

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