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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第四〇話 下調べ

 無事にDランク冒険者への昇級を果たしたその日の夜、食卓を囲いながら私は、鏡のダンジョンへ下見に行きたい旨をオルカとココロちゃんに告げた。

 二人から特に反対意見が出ることはなく、しかし懸念は出た。

 他でもない、私の戦力が未だ半端である、という指摘だ。

 換装スロットは未だ完成しておらず、注文した武器が仕上がるまでは時間もかかる。

 それに何より、防具の数が圧倒的に足りていないのだ。


 防具も当然、鉱石だったり、魔物のドロップ品だったりを素材として用いており、そこにプロの技術料だの人件費だのが乗っかるわけだから、とにかく高いのだ。

 装備上限は一六枠あるわけだが、その大半を防具やアクセサリーで埋めるとなると、それはもう沢山お金がかかってしまう。

 それを現状、五スロット分用意しようというのだから、まぁ予算オーバーも甚だしい。保留にせざるを得ないというのが正直なところである。

 そんなわけなので、私の装備はメインにしているバランス型のみ、どうにか一式揃っているだけということになる。それにしたって、昇級を機にグレードアップを狙っているのだから、お金がいくらあっても足りない状態だ。


「確かに装備は心もとないけど、だからって安心できるまでお金を稼いで装備を揃えるぞ! なんて言ったらいつまで経ってもダンジョンに向かえないからね。そのための下見だよ」

「ダンジョンの脅威度を直に感じれば、どの程度の戦力を調えるべきかが見えてくる」

「むぅ……ココロとしては、万全な準備が調うまで、しっかり腰を据えて戦力増強に取り組んでいただいても構わないのですが」

「ココロちゃん。健全な攻略のためには、常に具体的な目標が見えていたほうが良いんだよ。漠然と戦力増強って言っても、モチベーション的に良くないしね」


 よく、大願を成すには、手の届く目標を順に並べ、着実にこなし進んでいくことが大事だと言う。

 目標をクリアし続けた先に、大願の成就を見据えるのだ。

 今回で言うと、最終的な目標を『鬼を何とかすること』だとして、私の実力アップもダンジョンの下見も、それを成すための小さな課題だと捉えてクリアするべきなんだ。

 そんな小さな課題に対して、一々過剰に尻込みしていたのでは果たせる大願も果たせないだろう。


「分かりました。ミコト様がそう仰るのであれば、ココロは全力で万が一が起こらぬよう、万難を排してみせます!」

「ありがとう、頼りにしてるよ」

「お任せください!」


 ということで話は決まり、明日明後日はその準備。出発は三日後となった。

 思えば私は件のダンジョンが何処にあるのかも分かっていないので、明日は調べ物に費やそうと思う。

 そう語ると、それならばギルドの資料室が便利だと二人から情報をもらい、早速明日の予定が決まったのだった。



 ★



 夜中に降った雨は、朝には上がっており、例によって私達は三人揃って曇天の下、ギルドへと足を向けた。

 格好は一応、冒険者の装いをしている。変に普段着だと、浮いてしまいかねないのもあるし、時間が余れば路銀稼ぎがてら、狩りにでも行こうかと思っているので。

 それにしても、依頼を受ける日は勿論のこと、そうではないお休みと決めた日にもしょっちゅう私達はギルドに立ち寄っている。今やすっかり常連として、ジロジロ見られるということもなくなった。

 美少女二人に仮面の怪しいやつという組み合わせは、流石の冒険者界隈でもなかなか目立つんじゃないかと思わなくもないけど。人は慣れる生き物なのだな、と実感してしまう。


「おはようございますミコトさん」

「あ、おはようございますソフィアさん」


 ギルドに着いたはいいけれど、そういえば資料室とやらがどこにあるのか知らないなと、オルカかココロちゃんに訊こうとしたところ、丁度ソフィアさんが通りかかった。

 軽く挨拶を交わした流れで、せっかくだから資料室の場所を尋ねてみることにした。


「珍しいですね、調べ物ですか? もしかしてスキルに関することでしょうか? それならば私が」

「ああいえ、今回はそれとは別件なので」

「そうですか……わかりました。ご案内します」


 あからさまにしょんぼりしたソフィアさんは、淡々とした様子で私達を資料室へと先導してくれた。

 そうしてやって来たのは、すごい蔵書量を誇る、まるで図書館みたいな部屋! などということはなく。

 とは言えすごくしょぼいということもない。幾つか並んだ背の高い本棚には、ぎっしり書物が詰められている。

 どれも、冒険者に役立つような資料だと考えるなら、十分な蔵書量だと思う。

 そもそもこの世界には、普通に紙が存在しているからね。魔道具の技術も、思いがけず発展しているし、本がやたら貴重ということもないのだろう。

 多分、印刷用の魔道具とかあるんじゃないかな。そう言えばこの世界の娯楽本なんてのもあったりするんだろうか? そのうち探してみるのも良いかも知れない。


 並べられた広いテーブルで、資料を読んだり書き物をしたり出来るようになっているらしい。

 あまり広い部屋というわけでもないので、今現在は利用者がいないのは一目見て分かる。これなら気兼ねせずに調べ物ができそうだ。

 などと思っていると、ソフィアさんが簡単な注意事項の説明をしてくれた。

 まず、本の持ち出しは禁止であること。本を汚したり、破損させた場合は賠償金を請求されること。さらに、資料室の使用を制限されること。

 と言ったような、要は良識を持って利用してくださいね、みたいな話だった。私達は頷きを返し、ココロちゃんは自分では本に触れないようにしますと宣言した。

 ココロちゃんはこういう場面では、今まで沢山自重してきたんだろうなと思うと、つい気持ちが急いてしまう。早く彼女を、もっと普通に過ごせるようにしてあげたい、と。

 だが、そのためのステップを踏むべくここへ来たのだ。

 私達はソフィアさんにお礼を言った後、早速本棚へと歩み寄り、目的の本を捜し始めた。


 私達が捜しているのは、まず地図だ。

 鏡のダンジョンが何処にあるのか。移動にどれくらいかかって、どれ程の支度が必要かを調べなくてはならないわけで。

 出発は明後日を予定しているものの、あまりに距離があるというのならそれも見直さなければならない。最悪、遠征ではなく活動拠点を移すことも考えなくてはならないのだ。

 もっともそれは、鏡のダンジョン付近に町なり村なりがあればの話だが。

 その他にも鏡のダンジョンに関する資料があるのなら、出来るだけ多様な情報を集めておきたいところである。


「あ、これ地図じゃないですか?」

「ほんとだ。よし、テーブルで広げてみよう」


 ココロちゃんが見つけた背表紙には、ダンジョン分布図というタイトルが記されていた。

 私は棚からそれを引っ張り出し、二人を伴ってテーブルへ足を向けた。そして目に入るのは、当然のように椅子に腰掛けて本を読みふけっているソフィアさんの姿。口元がニヤけているので、多分スキル関連の資料を見ているのだろう。

 私達はそれには触れず、椅子を引いて腰掛け、テーブルの上でダンジョン分布図を開いた。


 異世界の地図と言えば、出来が良くないというのはよくある話。何せどうしてもアナログ作業になってしまうため、現代地球のそれとは比べるべくもない、というのはまぁ頷ける話なんだけど、しかしこの世界にはスキルや魔道具ってものがある。

 その恩恵かは定かじゃないけれど、想像していたよりはちゃんとした地図が記されていた。

 地図には、ダンジョン名が所々に記されており、場所が一目で分かるようになっている。

 別ページにはダンジョンの紹介が取り上げられていて、私は思いがけず沢山のダンジョンがあちこちに点在しているのだなと驚いてしまった。


 そして問題の、鏡のダンジョンについてだが。

 私達は地図の中から当該の名を見つけると、ここアルカルドからの距離をざっくり計算した。

 地図がある程度アバウトなため、正直正確な距離なんかは分かりかねるのだが、おおよそ歩きで一週間はかかるだろうという事が分かった。


「うーん、結構掛かるものなんだね。正直ちょっと侮っていた」

「クルマもヒコーキもありませんからね」

「バスもデンシャもシンカンセンもない」

「ぐぅ……文明の利器が恋しいよぉ」


 私が生前の話を、聞かれるがままホイホイ語っているものだから、二人ともすっかり変な知識がついてしまったようだ。

 この世界じゃ、大して役にも立たないだろうに。や、でも変に口外されて、ひょんなことから技術革命! なんてことになったら大変か。出来るだけ内輪話ってことで、広めないようにお願いしておかなくてはね。

 まぁそれはそれとして。


「しかしどうしたものだろうね。往復で二週間というのは、なかなか大変なことだよ」

「とりあえず、ダンジョンの紹介ページも見てみよう」

「ですね。なにか有益な情報があるかも知れません」


 ペラペラと本をめくり、鏡のダンジョンについて紹介しているページを見つけた。

 私は未だ、完璧に文字が読めるというわけでもないので、ここは二人に読み上げてもらうことにした。ついでに文字を目で追って勉強だ。

 二人は息を合わせたように、交互に説明文を音読して聞かせてくれた。有り難い。


 そうしてその結果分かったことはと言えば、どうやら鏡のダンジョン近くには滞在できるような町もなく、しかも道中に出没するモンスターも強敵が多いらしい。

 更には、ダンジョン内のモンスターは一層強力で、ダンジョン最奥で鏡の試練を受けるまでの、その過程もひっくるめて、クリアするのが難しい大変な試練である、という紹介がされていた。


 そしてもう一つ。

 その過酷さ故に、ダンジョンへの侵入には冒険者ギルドで制限が設けられており、Cランク以下は非推奨。Dランク以下は進入禁止とされているらしいことが判明した。

 私達の間に重たい沈黙が漂う。


「ヤバい。C以上ってことは、私もう一個ランク上げないと」

「私も非推奨基準に引っかかってる」

「で、でもお二人は、戦力で言えばランク以上のものをお持ちですから、昇級も難しくないはずですよ!」


 ココロちゃんは必死にフォローしようとしてくれるけれど、どうやら私は鏡のダンジョンってものを侮っていたらしい。

 よもや下見以前の問題だとは思いもしなかった。


「ごめんココロちゃん、これは思ったより時間がかかるかも知れない」

「下調べしに来て、正解だった。半端な実力で挑んでたら、大変なことになってたかも」

「鏡の試練は有名ですからね。有名ということは挑む人が多い。挑む人が多いということは、あまり難しくない……と、ココロも誤解していました」


 どんよりと、私達の頭上に雨雲がさした思いだ。

 オルカもココロちゃんもしょんぼりしているけれど、特に問題なのは私だ。

 オルカはCランクと言っても、実質Bランクと言って差し支えない実力を持っているのは、ソフィアさんも認めている事実。そしてココロちゃんはAランク冒険者。

 対して私は、やっとDに上がったばかりときた。制限にも引っかかってるし、完全に足手まといやんけ! これは正直、結構凹むな。下見に行きたいなんて言い出しておいての体たらくだから、尚の事だ。


 とは言え、だからこその下調べでもある。

 私達の実力なら平気っしょ! なんて自惚れること無く、こうして資料を捜したからこそ無茶をやらかさずに済んだと考えることも出来るんだ。


「とりあえず、ごめんね二人とも。本当なら順序が違った。下見どうこうって言う前に、まずここに来るべきだったよ」

「それは、私も気づかなかったから。ミコトだけのせいじゃない」

「そうですミコト様。寧ろ先輩冒険者であるココロこそ、そういうことには敏感であるべきでした……」


 皆が一様に責任を感じ、お通夜のような空気が部屋の一角に漂う。

 う。こういう空気って苦手なんだよ私。


「にゃー! やめやめ、暗くなってても仕方ないよ。ちょっと予定が狂っちゃったけど、実際こうやって情報を捜しに来たからこそ、変なリスクを背負わずに済んだんだ。実害はなかった! それで良しとしよう」

「確かに、それはそう。しっかりとした準備が必要ってことが分かったし、それは収穫だよ」

「そうですね。不足に備えるための事前調査なのですから、これは立派な調査の成果です。ここで得た情報を有意義なものに出来てこその冒険者ですよ!」


 私達がどんよりタイムを終え、改めて話題を今後の予定の事へシフトさせようとしていると、ソフィアさんが不意に読んでいた本をパタンと閉じて、徐にこちらを向いた。

 なんだかぷぅと頬が膨らんでいる。


「なんですか皆さん、担当受付の私を差し置いて、さっきから何の相談ですか。どうして私をほったらかしにするんですか」

「え、だってソフィアさん読書で忙しそうでしたし」

「そこは、何かあればいつでも声をかけて良いんですよっていうアピールでしょうが! 見てくださいこの、私と皆さんとの絶妙な距離感。私の席選びの妙!」

「こ、コミュ障ですか……」


 どうやらソフィアさんは、私達が資料を持って座るであろう席を予測し、予め声をかけやすい位置に腰を下ろし、そっけない様子で本を読んでいたらしい。

 声をかけられるのを今か今かと待っていたとか、良く言えばいじらしいけど、悪く言うと面倒くさい。

 癖が強いよソフィアさん……。


「まぁいいでしょう。お話は聞かせてもらいましたからね」

「当然のように聞き耳立ててたのか……」

「鏡のダンジョンに興味がお有りとのことでしたが、確かにあそこは知名度に反して難易度は非常に高く、俄の冒険者が挑んでは大怪我を負って戻ったり、戻らなかったりする危険な場所です。担当としましては、お勧めしかねます」

「むぅ、そうだったんだ。今回ばかりは素直にソフィアさんに相談しておけば、話が早かったのかも知れませんね」

「そうです! もっと担当受付を信頼してください!」


 結構内輪の問題ではあったし、鏡のダンジョンと言えばスキルを得られる試練が有名なこともあり、思わずソフィアさんへの相談を見合わせていたのだけれど、それはどうやら失敗だったらしい。

 依頼の斡旋だけが受付嬢の仕事ではない、ということか。


「さて、そんな皆さんに、私から一つ提案があるのですが」

「? 提案ですか?」

「そうです。特にミコトさんには、耳寄り情報ですよ」


 例によって無表情ドヤ顔で、勿体ぶってくるソフィアさん。

 私達は一様に、彼女の次の言葉へ、耳と些かの期待を傾けたのだった。

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