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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第三八七話 ナマクラ

 イクシスさんより譲り受けたアーティファクト『精霊降ろしの巫剣』。

 一見すると剣としての実用には耐えられそうにない、如何にも歴史的価値の高そうなそれは、さりとて謎のコマンドが複雑に、幾重にも書き込まれており。

 私の目にはその頼りない見た目とは裏腹に、とてつもない代物に見えたのである。

 分かっていることはその名前と、ダンジョン化してしまった古代の神殿だか何だかでイクシスさんが見つけてきたってことくらい。それ以外は謎多き代物であった。


 そんな精霊降ろしの巫剣だが、イクシスさんより譲られてから一月程が経ったわけだけれど。

「何か進展はあったか?」

 と報告会の最後にそう問われ、私が返答を述べようとした、その時であった。

 オレ姉と一緒に自身の席へ戻ろうとしていたゴルドウさんが足を止め、我が耳を疑ったとでも言いたげな顔で唐突にイクシスさんの方へ振り返ったのだ。

 その動揺っぷりは誰の目にも明らかで、特に彼がエルダードワーフであると知っている私たち鏡花水月やチーナさん、それにオレ姉はそれだけで幾らかの察しがついたのである。

 もしかしてこの人、巫剣に関して何か知っているんじゃないか、と。

 しかしそれをこの場で問いただしては、彼がエルダーであることが皆に知られることとなる。

 私にしてみれば、それは別にまずい事というわけでもないのだけれど、当の彼はエルダーバレを嫌っているようなので発言内容は選ぶべきだろう。

 巫剣はイクシスさん秘蔵のアーティファクトであり、その存在を知る者は本当に限られた者だけのはず。

 だから、如何なゴルドウさんでもそれについて情報を持っているというのは、普通に考えてほぼあり得ないようなことなのだ。

 なので、明らかに様子のおかしなゴルドウさんについては、何かしらフォローをするべきかも知れない。


 そんなふうに、気を回そうとしたのに。

「な、何故ここでその名が出る!?」

 と、思わずといった具合に声を漏らしたのは、他でもないゴルドウさん当人であった。これにはチーナさんもオロオロとしてしまう。

 そして彼がエルダーであることまでは知らないイクシスさんは、純粋に首を傾げ、問い返したのだ。

「何? ゴルドウ殿は『精霊降ろしの巫剣』について何か知っているのか?」

「! い、いや、知らんし! ワシ何も知らんし!」

 瞬間、失言に気づいたのか盛大に目を泳がせ、そそくさと自身の席へ戻るゴルドウさん。

 イクシスさんをはじめ、方々からジト目が向くが、彼はそっぽを向いてノーコメントを貫いた。とんだ誤魔化し下手である。

 まぁ誰からも言及するような声は上がらなかったので、そっとしておくとして。


 この場には巫剣に関して初めて聞く、というメンバーもあるため、一先ずは改めてこれまでの経緯をざっくりと説明することに。

 それを語ったのはイクシスさんである。私も補足を交えたりして、情報共有は滞りなく成された。

 尤も、語った内容というのは結構大味で。

 厄災戦の折に交わした口約束から、イクシスさんから何か譲ってもらうことになった私。そこで出てきたのが、秘蔵のアーティファクトである件の巫剣であり、さりとてイクシスさんの鑑定を持ってしても名前くらいしか分からない、謎多き代物であると。

 そうして一月経った今、巫剣について何か分かったか、使いこなせるようになったか、というのが先程投げ掛けられた質問の趣旨である。


 なので私は、改めて頭の中で返答の内容をまとめると、それを述べたのである。

「使いこなせたかって言うと、それはまだだね。だけど判明したことなら幾つかあるよ」

 そう答えると、やはり一番に目を輝かせたのは、武器愛好家であるイクシスさんであった。

 前のめりになって「なに、本当か!? 詳しく聞かせてくれ!」と求めてくるので、私は思わず仰け反り苦笑を返しつつ、その拍子にちらりとゴルドウさんを視線だけで一瞥。

 何やら難しい顔をしている。内心には動揺や困惑、あとゴチャゴチャした感情が見て取れた。

 やはり何か知っているのは間違いないみたいだ。

 後で専用武器のパーツ加工をするときにでも、話を聞いてみることにしよう。

 まぁそれはそれとして、進捗の報告だが。

 

「先ず、精霊降ろしの巫剣には『封印』と思しき加工が施されてた」

「!? 封印……もしや、だから使えなかったのか? 鑑定が機能しなかったのもそのためか?」

「そうかもね」


 私の言葉に、驚きながらも納得を覚えるイクシスさん。

 すると、オルカが率直な疑問を返してくる。

「古すぎて壊れてるとかじゃなくて?」

「それはないよ。状態維持の機能はガッチガチに動いてたから」

「流石は古代の遺産、アーティファクトですね……!」

 と、感心を示したのはココロちゃん。次いで

「封印を施されてなお、機能している効果もあるということか」

 と考察めいたことを言うのはクラウだった。

 流石は私のPTメンバー。彼女らの合いの手があると、スムーズに話が進んで楽だ。


「他に機能している効果というのは何かあるんですか?」

 とソフィアさんが問うので、私は逡巡して返答する。

「主に破損や劣化を無効化するものは機能してるみたいだね。それがあるからこそ、長い時間を経ても経年劣化におかされることもなく、何かしらの要因で破損したりもせず、今も健在なままなんだと思う」

「なるほど。それでサラのやつが乱暴に扱っても問題なかったわけか」

「そうだね。それに自動修復機能も生きてるみたいだし」

「だけど、肝心の名前の由来になってる機能は封じられてるってこと?」

「うん。破損っていうのとは違って、綺麗にそれらを司る部分だけ、仕組みが機能しないように手が加えられてる感じ」

「それで『封印』というわけか……」


 妖精師匠たちと、連日解析作業を進めた結果判明した事実なので、間違いないと思う。

 重要なコマンド部分が、まるで文字化けしているように歪められており、今の状態ではただ丈夫なだけのナマクラでしか無い。

 初めはこの文字化けしたコマンドが、私や師匠たちも知らない未知のコマンドなのかとワクワクしたものだが、どうにもそうではないらしいと分かると、師匠たちはもちろん私でさえ流石に落胆を禁じ得なかった。

 まぁそれでも、封印を解くことが出来たなら、私たちの知らないコマンドなり何なりが隠されている可能性は残っているのだけれどね。

 それに現状ただのナマクラめいた巫剣も、破格なSTR等の上昇補正値を持っている辺り、流石はアーティファクトと言うべきポテンシャルを感じられた。

 と、そこでふと素朴な疑問を投げかけてきた者があった。

 リリたちである。


「っていうかあんた、何でそんなことが分かんのよ?」

「そうだね。毎日フラフラになるまで頑張ってたのに、解析なんて何時やってたの?」

「ミコト様のことですから、未知の解析スキルなんかをお持ちなんですよ、きっと!」

「ありえますね。天使様ですものね」


 質問しておいて、何だか自己完結しそうな勢いである。

 っていうかそう言えば、未だに彼女たちには妖精師匠が云々ということについて、ちゃんと説明してなかったっけ。

 情報漏えいとか、師匠たちに迷惑が及ぶ可能性をなるべく抑えるため、それを知らせる相手に関してはかなり絞っているのだ。それゆえ今に至るまで黙っていたのだけれど。

 しかし思い返すと、私が意識を失っておもちゃ屋さんに居た期間なんか、随分怪しまれたのではないだろうか。

 その辺り、どう説明して彼女たちを誤魔化していたのかに関しては、結局聞きそびれたままになっていた。

 個人的には、彼女らは十分信頼に足ると思うし、師匠たちも『ミコトが信頼している相手になら話しても大丈夫』だなんて言ってはくれているのだけれど。

 さりとてそこはやはり、無断でというのは気が引けるっていうか、ちょっと怖い。

 ので、今回は曖昧にぼかして話を進めることにしておく。

 この中で妖精について知らないのは、蒼穹の四人とレラおばあちゃん……くらいかな?

 レラおばあちゃんに関しては、未だに謎の多い人だし、蒼穹のクオさんはやっぱりちょっと油断ならない強かさを感じる。そして聖女さんは教会関係者だし、明け透けに語るにはリスキーかも知れない。

 無論、信頼はしているのだけれどね。それとこれとは別問題と言うか何と言うか。


「解析スキル……まぁ、そんな感じだよ。だから解析結果もデタラメなんてことはないから、そこは信じてほしいっていうか」

 と返せば、「いまさら疑う意味もない」との返事がもらえ、ほっと一安心。

 いつか彼女らのことをもっとちゃんと知る機会があったなら、その時にでも改めて師匠たちについて話すとしよう。


「それでミコトちゃん、その封印とやらはどうなんだ? 何とかなりそうなのか?」


 と、その様に急き込むように問うてくるのはイクシスさん。

 しかし、その言葉に狼狽えを見せた者が一人。ゴルドウさんである。

 もしかして彼は、この『封印』に関して何か知っているのだろうか?

 まぁそれは後で直接訊ねることにして。質問への返答だが。


「うーん……難しいと思う。っていうか、わざわざ封印してあるものなんだから、解くのは危険なんじゃないかな」

「む。それは、確かにそうかも知れんが……」

「古今東西、封印されたものにはそれを施されるに至った理由があるものだしね。藪蛇はゴメンだもん」

「ヤブヘビ?」

「ココロ知ってます! 『藪をつついて蛇を出す』っていう、ミコト様の故郷のコトワザです!」

「解説ありがとうココロちゃん」

「えへへー」


 相変わらずココロちゃんは、私の前世……いや、周回しているとしたら前世というのも変な話か。まぁ日本の話だ。それに興味津々であり、語って聞かせたことは細かく覚えているのだ。大した記憶力である。

 するとことわざの意味を考え、私の言わんとしていることを察したのか、むむぅと唸るイクシスさん。

 ジレンマである。武器愛好家としては、是非とも精霊降ろしの巫剣が如何な力を秘めたアーティファクトなのか解明してほしいという気持ちがあり、さりとて藪蛇の可能性があるというのも理解できる。

 だからこそ彼女は葛藤し、頭を抱えたのであった。

 司会進行が固まってしまったので、先を促しに掛かる私。


「精霊降ろしの巫剣に関する進捗報告はそんな感じかな。骸戦に用いるのはちょっと難しいと思うよ」

「むぅ……それは何と言うか、残念だな。折角ミコトちゃんの助けになれると思ったのだが……」

「その気持ちだけで十分だよ。解析については今後も継続していくつもりだしね、ひょっとしたら何か進展があるかも知れない」

「そうだな。その時は是非私にも知らせてくれ」

「了解だよ」


 ということで、巫剣に関する話は一段落。

 緊張の面持ちを作っていたゴルドウさんも、なんだかホッとため息をついている。が、やはりまだ難しい表情は解けないようで。

 一体彼は、巫剣について何を知っているのか。早く訊ねてみたいものである。


「さて、報告に関しては一通り出揃ったかな。ならば続いての議題に移りたいと思うが構わないか?」


 気を取り直したイクシスさんがその様に述べれば、それを制止するような声は誰からも上がらず。

 故に彼女はそれを認め、神妙な声音で続きを述べたのである。どうやら、私が修行に励んでいる間行われていた、オルカたちの特訓に関してはまだ詳らかにしてくれないらしい。


「皆も知ってのとおり、例の骸を示す特殊アイコンの表示が、日を追うごとに薄れてきている。このことから、恐らく準備に当てられる時間は然程残されていないことが予測されるわけだが。各成果、及び進捗を聞いた上で、果たして骸戦への備えとしては十分だろうか? 皆の意見を聞かせて欲しい」


 そう。

 かつて戦った仮面の化け物同様、マップ上に突如として出現した特殊アイコンは、『骸』の出現する場所を示すものであると考えられる。

 しかしそれが、この一月の間に少しずつ薄らいできているのだ。

 正直、いつパッと消えてなくなっても不思議ではないし、そうなっては恐らく二度とこのアイコンは出現しないのではないだろうか。そんな気がする。

 実験がてら、このアイコンが出現するトリガーとなったであろうリリへのキャラクター操作も再度試してみたけれど、アイコンの不透明度が回復するようなことはなかった。

 であれば、果たして今日までに揃えた戦力だけで骸に打ち勝てるのか、というのが気になるところなのだが。

 如何せん私たちは、今回の骸が如何程の力を有しているかなんて憶測を述べることしか出来ないわけで。


 蒼穹の面々と旅をした周の私なら、それはもう弱いはずなんて無い、というのが目下の予測ではあるのだけれど、しかし慢心したり不運な事故なんかがあったりして、志半ばで倒れた可能性がないわけでもない。

 何せ、ここはモンスターやダンジョンが当たり前のように存在する世界。どんな事故が起こったとて、何ら不思議ではないのだから。

 が、それは希望的観測というものでもある。やはりものすごい強敵が相手であると想定して、しっかり準備を進めておくに越したことはないはずだ。

 それを踏まえた上で、である。

 私は、私たちは果たして骸に勝つことが出来るのだろうか……?


「手は尽くしているはずよ。実際私たちもバカかめ……ミコトも力は付けている」

「特にミコト様の成長ぶりは、正に飛躍的……いえもはや爆発的ですらありますからね!」

「とは言え、相手は天使様の成れの果て。想定するべき戦力は青天井です」

「そんなこと言いだしたら、どれだけ準備しても足りなくない? ぶつかってみるしか無いと思うけどね」


 今回骸との戦闘に、私以外で唯一直接参加できると思しき蒼穹の地平は、その様に考えを述べた。

 他の人達からは、「それでも、アイコンが消えるギリギリまで準備を怠るべきじゃない」という意見や、「アイコンが消えては元も子もない。精一杯準備はしたんだから、あとはしっかり疲れをとって直ぐにでも決戦に向かうべき」という意見が挙げられた。

 どちらにも一理あるとは思うのだけれど、さてどうしたものか。

 意見は徐々に二分化され、会議は思ったより長引いたのだった。

 しかし結局の所、判断は直接戦闘を行う私と蒼穹のメンバーに委ねられ、結局は今しばらく鍛錬を続けつつ、これまで以上に注意深くアイコンを観察。

 場合によっては、直ぐにでも現地へ向かえるよう備えつつ過ごすことが決まったのである。


 何れにせよ、骸との決戦は近い。

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