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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第三八六話 進捗

 イクシスさんによるお仕置きを受けたサラステラさん。

きれいな白目をむき、ピクピクして気絶している彼女に代わって、近接戦闘訓練の成果報告を行う私。

 とは言え、皆の注目が向く中『こんな事が出来るようになったんですよ、すごいでしょ!』だなんて、流石に恥ずかしくて気は進まないのだが。

 しかし骸戦に向けて色々と手伝ってくれてるみんなに、情報共有を怠るわけにもいかないだろう。

 幸い、サラステラさんをうっかり気絶させてしまったイクシスさんが取り繕うように気を回し、質問形式で進捗を確認してくれるようなので、存外ハードルは高くない。


「それでミコトちゃん、サラとはどの程度戦えるようになったんだ? 模擬戦形式でずっとやり合っていたのだろう?」

「そうだね……だけど全然だよ、毎回私が必死になって食らいつけるかどうかってレベルで加減してくれるから、正直強くなってるっていう実感は薄いっていうか……まぁ、大分動けるようになったとは思うけど」


 忍者の修行に、『毎日麻の苗木を跳び越える』というものがある。

 成長の早い麻の苗木を毎日跳び越せば、木が育ちきった頃には凄いジャンプが出来るようになっている、というアレだ。

 私にとってサラステラさんというのは正に麻の苗木のようなもので。

 毎日必死に食らいつきはしたものの、それで自分がどれだけ成長したのかというのが、いまいち客観的に認識できていないという。

 っていうかこの一ヶ月、サラステラさん以外とは近接戦闘してないんじゃないかな……?

 私が直接戦う機会といえば、腕輪育成の時くらいのもので。

 だけれどそれにしたって、私が前衛に出張るまでもなく蒼穹の地平との兼ね合いもあって、後ろに下がってなんやかんやしてるばかりだったし。とどめは白枝で刺してたし。

 そういうわけだから、私は自身の近接戦闘術のレベルというものが、正直よく分かっていない。


「ふむ……ステータス的にはどうだ?」

「それは全然だね。相変わらず、私の素のステータスは戦えない一般人と殆ど変わらないよ」

「ではスキ……」

「スキル面ではどうでしょうかミコトさん! 毎日命の危機を感じるほど扱かれたというのであれば、ミコトさんが何も習得しないはずありませんよね!? ね!?」

「圧が……」


 前のめりになって迫ってくるソフィアさんを、どうにかグイグイと押し戻しながら、しかし質問には応じねばなるまい。

 私はちらりとステータスウィンドウのスキル欄を確認し、仮面の下で眉根にシワを寄せた。

 数が多すぎて、もうぶっちゃけどのスキルが何なのやらさっぱり分からなくなってきている。節操なく覚えすぎたツケというやつだ。

 それに加え、それこそサラステラさんとの模擬戦を経て得たスキルの数々。

 一個一個説明するというのは大変なので、ざっくりと返答することに。


「いろいろ。うん、色々覚えたよ。アーツスキルを中心にポンポコと……」

「詳しく!!」

「ひ、暇のあるときにね」


 今は報告会が優先なので、詳細はまた後ほどというやつである。

 そんな! そこを何とか! と食い下がってくるソフィアさんを、どうにかこうにか追い払っていると、それを尻目にふむと考える様子のイクシスさん。

 そしてこう問うてきた。

「その覚えたスキルというのは、もしや『仮面の化け物から引き継いだ力』と関係のあるものか?」


 その言葉に、私は少しばかり逡巡し、そして頷きを返した。

「多分そうだと思う。初めて使うのに、使い方を体が覚えてる感じがあったし、スキルレベルも最初からやたら高かったもん」

「ほぅ、それはまた奇妙な話だが、これもやはり『骸=ミコトちゃんの遺骸』と考えるなら、辻褄が合うように思えるな」


 通常、スキルというのは習得したからと言って、完璧にその使い方を熟知しているわけではない。

 例えば私の持つ数々のへんてこスキル。これらは未だに、「え、そんなこと出来たの!?」って驚くような側面が隠れていることもあるほどで、まして覚えたての状態なんていうのはちまちま検証なんかを重ね、使い方を確かめていくところから始めるのが普通なのだ。

 それがどういうわけか、サラステラさんと近接格闘訓練を重ねるうちに芽生えたスキルの殆どは、始めからその使い方を細かく理解し、一秒未満の反応が求められるような局面にあっても、的確に運用できてしまうほど馴染んでいるような、そんな不思議な感覚があった。

 正に、覚えたというより『思い出した』という方が的確なように感じられるほどに。


「またミコトが『周回』している説が濃厚になった……」

 と、神妙な面持ちでつぶやいたのは、今日も私の隣に陣取っているオルカである。

 いま一番ホットな説として皆に認識されているのが、私の周回説だ。

 私は既にこの世界で幾度も生を繰り返し、死しては時間を遡って、その都度異なる生き方をしているのだと。それを『周回』と称している。

 仮面の化け物の正体は、いつかの周回で私が残した『骸』であり、それと戦い倒すことで私はその周回で得た力と、思い出を回収、引き継ぐことが出来る……という仮説を元に現在は動いているのだけれど。

 新しく得たスキルを最初から熟知し、手足が如く使いこなせるというのは、この仮説を裏付けているように思えたのである。

 しかしそれはつまり、私がそれだけ何度もこの世界で死んでいる、ということでもあり。

 それを分かっていればこそ、オルカの表情は浮かないものであった。


 そんな、ちょっと暗くなりかけた空気をいち早く察してか、イクシスさんが努めて感心したふうに声を上げた。

「それにしても、サラを相手に毎日戦って無事とは、幾ら手心を加えられていたとしても凄いことだぞ。やはりアレか、例の【自動回避】がそれだけ優秀だということか?」

「ううん。自動回避にはなるべく頼らないように、自力でなんとかしてるよ。だってあれ、私自身思ってもみない方法で避けるし、無駄もあるし。本当に危ない時だけ助けてくれる、保険みたいな位置づけかな」

「じ、自力でサラの動きについて行っている……だと?!」


 ザワッと、また部屋の中がざわつく。

 しかしそれは過大評価なので、私は声を大にして否定した。

「違うから! サラステラさんがちゃんと加減してくれたからこそ、ぎりぎり何とかついて行けてるだけで、全然大したことじゃないから!」

「ふむ……これは、一度ちゃんと実力の程を測ったほうが良さそうだな。ミコトちゃん、後で私と戦ってみるか?」

「い、嫌なんだけど……」

「サラは良いのに、私は嫌なのか……?」

「変なショックの受け方しないで!」


 目の前でシ◯イニングフィ◯ガーなんて見せられて、よし戦ってみようだなんて思わないでしょ!

 私があれだけ苦しめられてるサラステラさんを、一瞬で気絶させたんだよこの人。ちょっと勘弁して欲しい。

 ただ、実力を正しく見極めておくべきというのには賛成なので、折を見て別の形で腕試しでもしてみようとは思う。

 そのための相手探しをしなくちゃね。


「まぁともかく、引き継いだ力に関しては着実に馴染んでいるようだな」

「そうだね」

「うむ。それでは次の報告に移ろうか」


 そう言ってイクシスさんがオレ姉へと目配せすると、彼女は一つ頷きを返し、徐にゴルドウさんとともに席を立った。

 そうしてわざわざマジックボードの前までやって来た二人は、その表情にどこか楽しげな色を滲ませながら、説明を開始したのである。


「それじゃ、私たちからはミコトの専用武器に関する進捗を発表させてもらうよ」

「! 進捗って、オレ姉はまだ修行の最中なんじゃ……」

 私が思わずその様に言葉を漏らすと、オレ姉は一つ苦笑を返し、述べた。

「それはそうなんだけどね。しかしだからって、この間の話を聞いちゃ、何時までも待たせておくわけにはいかないだろ?」

「はっ、よく言うわい。それでワシに泣きついて来おったくせにの」

「な、泣きついてはいないだろ! 師匠こそ、まだ作らんのかまだ作らんのかってずっとソワソワしてたくせに!」

「そ、ソワソワなんてしとらんし!? 言いがかりはやめてほしいんじゃが?!」


 また始まった。お約束の師弟喧嘩である。

 ただ、話が進まないので出来れば後にしてもらいたいのだけれど。

 なんて思っていたのもつかの間、そこへ割って入ったのはチーナさんだった。


「おじいちゃん! オレネもケンカは後にして!」

「う」

「じゃがチーナたん、オレネのアホが……」

「アホって言ったほうがアホなんだよ、おじいちゃん」

「はぅあっ!!」


 ゴルドウさん、撃沈である。

 相変わらず迫力満点なその巨躯を小さく折り曲げ、しゅんとしていじける彼。

 それを尻目に、或いは反面教師としたのか、気を取り直したオレ姉はコホンと咳払いを一つ。


「まぁそんなわけでね。私一人の技量はまだ未熟だけど、それを補うために師匠の手も借りて試作品づくりを始めたんだ。今日はそれを持ってきてある」

「!! そ、そうなの!? ほんとに!? 早く見たいんだけど!!」

「あはは、そう焦りなさんなって。今出すよ」


 そう言って彼女は、資料等をどけて片付けた机の上に、それを並べ始めたのである。

 っていうかPTストレージに入れてあったのか。全然気づかなかった。

 そうして一つ一つ取り出し、机の上に置かれていったそれらは、何というか……。


「これ、パーツ?」

「そうさ。何せこいつを仕上げるには、ミコトによる加工も必要だろう?」

「! そうだね、そうだった!」

「だから試作と言えど、まだ組み上がっちゃいないんだ。とは言え後はミコトが手を入れてくれれば、それで一応形にすることは出来るよ」


 そう。

 かねてより計画していた私専用の最強武器には、オレ姉の鍛冶師としての技術だけでなく、私が師匠たちより学んだコマンドの技術も加える予定だったのである。

 それゆえ確かに、試作と言えど私が携わらないことには完成に持っていけないというのは、考えてみれば当たり前のことだった。

 とは言え、こうざっくりパーツを並べられたところで、どこに何を仕込めばいいのか分からない。

 っていうか、本来こういうのは私とも綿密な相談を交わさねば形に出来ないのではないだろうか。

 オレ姉ではコマンドに出来ること、出来ないことの判別というのはつかないだろうに。

 しかしそれがここまで形になっているということは……。


「ああ、なるほど。それでゴルドウさんか」

「なんだい、相変わらず察しが良いねミコト」


 ちょっとデリケートな話題であるため、直接的な事は口に出さないが、ゴルドウさんは『エルダードワーフ』という何やら凄いドワーフらしく。それはエルフにとってのハイエルフみたいなものだという。

 エルダードワーフは大昔、その技術を戦争の道具にされた経緯があり、故に彼は自身がエルダーであることを伏せているそうだ。

 だから、たとえ仲間や友だちしか居ない場所と言えど、彼が何者であるかという話題には気をつけねばならない。

 まぁでも、オレ姉の師であり、チーナさんのおじいちゃんでもあり、さらに世界を股にかけて名の知られる名工であるという肩書が揃えば、この場で変に浮くようなこともなく。

 現に彼とは初対面のメンバーたちからは、「この人があのゴルドウ氏!?」という驚きと興味の色が見て取れたほどだ。


 そんなゴルドウさんは、エルダーであるがゆえに妖精の技術にも明るかったりする。

 同じことが出来るわけでこそないようだけれど、さりとて出来ることと出来ないことの判断くらいはつくのだろう。

 であるならば、ゴルドウさんと相談することで、私を抜きにしても専用武器が形になっていったというのは納得の行く話だ。

 まぁでも、ゴルドウさんの知っている妖精の技術は、あくまで恐らくは大昔のものだろうから、最新の技術との齟齬と言うか、認識のズレが生じてやいないか、というのが懸念箇所ではあるけれど。

 その辺りは一度すり合わせを行ってみる必要があるだろう。


「なるほどね。それじゃ加工に関してはまた後でやろう。これが見れただけでも十分だよ」

「っと、それもそうさね。なら私たちの報告はここまでだよ。上手く行けば骸戦までに、得物の一本くらいは用意してやれるかも知れないね」

「む。ワシを差し置いて何を締めに掛かっとるんじゃい!」

「師匠がいじけてるからだろ。いいから席に戻るよ」

「ぐぬぬ、ワシの扱い軽すぎんか?! もっと敬わんかの?!」

「はいはい、敬ってるよ、尊敬してる」

「雑ぅ!」


 机の上からパーツをストレージにしまい直し、さっさと捌けていく二人。

 その背を見送りながら、イクシスさんが最後に進捗の報告を求めたのは、アレに関してだった。


「さて、それでは最後に。ミコトちゃん、武器と言えば『精霊降ろしの巫剣』はどうなっただろう?」


 イクシスさんのその言葉に、一瞬ピタリと足を留めたのは、誰あろうゴルドウさんであった。

 心眼はそこに、確かな彼の驚きを見て取ったのである。

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