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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第三八二話 帰れま戦!

 時刻は午後三時を過ぎ、昼の気配も陰りを見せる頃。

 私は午前中の模擬戦に続いて、フィールドで連携訓練がてらモンスター狩りを共に行った蒼穹の地平らと、ようやっとイクシス邸へ戻ってきたところだった。

 すっかりくたびれてフラフラしている彼女らとは対象的に、頭と神経は使えど体力は努めて温存してきた私の足取りは確かである。

 転移室に戻るなり、口数も少なく背を丸くして部屋を出ていく彼女らを見送ったなら、私はマップウィンドウを駆使してサラステラさんを探した。

 すると既に、訓練場にて待機しているらしいことが判明する。

 変に待たせて、また昨日のような地獄のメニューを課せられるのも嫌だったため、私は休憩もろくに取らず早足で彼女のもとへ向かった。

 ワープやテレポートに頼ろうかとも思ったのだけれど、流石に屋敷裏の訓練場へ向かうのにそれはものぐさだろうかと考え、自らの足で向かうことに。


 そうして屋敷の長い廊下を抜け、裏口から外に出ると、駆け足でサラステラさんのもとへと直行したのである。

 午前中はおばあちゃんによるバフ訓練、ならびに蒼穹との連携訓練。

 そしてさっきまでは、綻びの腕輪にモンスターを吸わせるためにフィールドに出ており、そのついでに連携訓練の続き。

 それらを終えて、これから始まるのはサラステラさんによる、近接戦闘訓練である。

 我ながら、朝から晩まで訓練訓練というハードスケジュールではあるが、これも骸と戦うために必要な事なれば、泣き言の一つも言ってはいられない。

 まぁ、昨日は酷い目を見たのだけれど、その甲斐あって【自動回避】のレベルは上昇した。もう勝手に体やスキルが動いて、私の意思にそぐわぬ回避をするようなことはないので、ある意味今日からが近接戦闘訓練の本番であると言えるだろう。

 尤も、完全にオフにしては自動回避の意味がないため、代わりにセーフティーレベルを低く設定したわけだが。これにより、私の対応が間に合わないっていう本気でピンチの場合にのみ発動するような調整が成った。これは当然スキルレベルアップを行ったからこそ可能になった設定であるため、昨日の地獄特訓に耐えた甲斐があるというものだ。でも二度はゴメンである。


 それとちなみに、この後サラステラさんとの特訓が終わったらお風呂入って、晩御飯食べて、おもちゃ屋さんに戻ったら魔道具作りの修行もある。勤勉だ。えらい。

 そう言えば師匠たちに預けた『精霊降ろしの巫剣』はどうなっただろうか。もしかしたら、修行どころじゃなくなっているかも知れないな。

 まぁ、今は考えても仕方のないことか。


 駆け足で訓練場へ赴けば、そこにはマップで確認しておいたとおりサラステラさんの姿が既にあった。

 ただし、それは普段とは異なる姿であったが。

 厄災戦の折に見せた、何だかピカピカしたオーラを纏い、神々しい衣に身を包んだハイパーガチモードのサラステラさんである。

 何事だろうかと、思わず身構える私に、しかし当のサラステラさんは拍子抜けするほどあっけらかんとしており。

 私の姿が目につくなり、ピカピカを解除。通常モードに戻って、タッタカと軽い足取りで近寄ってきた。

 この寒い中、所謂動きやすい格好というやつで平気そうにしている彼女は、相変わらずの防寒要らずなようで。それが少しばかり羨ましい。


「おー、今日はそこそこ時間通りぱわー」

「また昨日みたいにしごかれるのはゴメンだからね……」

「いやいや、昨日は自動回避を何とかする必要があったから、仕方なかったんぱわ。今日からは普通ぱわー」

「むぅ……その普通も恐いんだけど。それより、ピカピカして何してたの?」


 そのように問うてみれば、サラステラさんは「あー」と少しばかり目を泳がせて、コリコリと自身の後頭部を掻きながら言った。

「午前中の模擬戦で、何本か負けたのが悔しかったんぱわ。それでちょっと鍛え直してたぱわ」


 今朝の模擬戦では蒼穹の地平とサラステラさんがバチバチにやり合い、私は蒼穹にバフを掛けることで間接的に参戦し、普段はやらないような連携のとり方というのを経験させてもらったのだけれど。

 その際サラステラさんは、模擬戦という形式上用いる力にも制限があったため、結局三〇戦ほども行った内の数戦に黒星を付けてしまったのである。

 どうやら私の考えていた以上にその事を気にしていたらしい彼女は、一人自己鍛錬に勤しんでいたようだ。


 しかしながらその数本は、蒼穹と私とで必死に作戦を練ったり、殊更調子よく戦術がハマったり、バフ回しが成功したりして、ようやく取れた勝利なのだ。

 それも、サラステラさんがもし制限等なしに戦っていたのでは、そんな勝ちなど拾えるはずもなかった。

 試合には勝ったが、果たして勝負にも勝っていたのかは甚だ何とも言えないところである。っていうか、そこまで必死こいてやっと数本だしね……勝率なんて二割くらいだったし。

 それでも自身を不甲斐なく思い、鍛錬せずにはいられない。そんなストイックさが、サラステラさんをサラステラさんたらしめているのかも知れない。

 見習うべきなのかも。私も鍛錬は好きだしね……過度な運動は好きじゃないけど。


「それじゃミコトちゃん。早速始めちゃって大丈夫ぱわ? ちょっと休憩するぱわ?」

「休憩ってランニングのことだよね……?」

「ランニングとは大げさぱわ。ジョギングぱわ」

「だ、大丈夫なので! 私今日は、殆ど頭とMPしか使ってないから!」

「そうぱわ? 無理は良くないぱわ。空元気じゃないぱわ?」

「大丈夫ぱわ! へーきぱわ!」


 語尾を真似てまで元気アピールをした甲斐もあり、何とか納得してくれたサラステラさん。

 ならばと、早速鍛錬を始める運びとなったのだが。


「それで、今日は何をやるの?」

「あれ、昨日言わなかったぱわ? 兎にも角にもやることは単純。ひたすら私と模擬戦ぱわ!」

「あー……」

「昨日は自動回避っていうイレギュラーがあったから、ちょっと内容を変更しちゃったけど、今日からはバリバリ戦うぱわー!」


 とのこと。

 フンフンと鼻息も荒く、筋肉質な腕をぶんぶん回す彼女。

 一見コミカルに見えるような動作も、サラステラさんがやるといやに迫力があって困る。

 私は早くも帰りたいと騒ぎ始める内なる自分を無理やり黙らせ、詳しいルールや制限等について質問を投げかけた。


「ルールは、殺しちゃダメぱわ。大怪我もなるべくさせちゃダメぱわ。後は、遠距離攻撃禁止ぱわ」

「雑! 雑で恐ろしいこと言ってる!!」

「どっちかが『まいった!』って言ったら仕切り直しぱわ。今日は軽く一〇〇戦くらいしたいぱわー」

「まいった!」

「ミコトちゃん、まだ始まってないぱわー」

「心が、まいった……」


 流石サラステラさん。ルール説明だけで心を折りに来るとか、場数を踏みまくった超人なだけはある……本当に勘弁して欲しい。だって本当にやる気なんだもの、一〇〇戦。


「武器とかは……?」

「最強装備できて欲しいぱわ。あ、もちろん近接用の。あとスキルは自由に使ってくれて構わんぱわー」

「サラステラさんの武器は?」

「私の武器は拳ぱわ。まぁ一通り武器の扱いも出来るけど、やっぱり素手が一番性に合うぱわー」

「そ、そっすか……」


 斯くして、午後三時も半ば。

 私とサラステラさんによる、『まいった!』一〇〇回言うまで帰れま戦! の幕が上がったのだった。



 ★



 一戦目。

 試合開始から僅か一〇秒。

 私は必死に叫んでいた。


「手加減! 手加減どこ行ったの!!」

「必要あるパワ? 私がどれだけ本気を出しても、自動回避が勝手に捌いちゃうパワ。だから問題ないパワ!」

「当たったら即死なんですけど!? 殺しちゃダメなんじゃないの!?」

「当たらなければどうということはないんパワ!」

「それ攻撃しかける側が言うセリフじゃないから!!」


 午前中の試合とは打って変わって、ガチガチにやる気を漲らせたサラステラさんの一挙手一投足は、そのどれもこれもが触れたら即死級の威力を孕む、殺戮マシーンも真っ青な暴れっぷりを見せたのである。

 私は自己バフと素早さ特化装備で、どうにかこうにか辛うじてそれらに対応しているのだけれど、時折自動回避が勝手に発動して、私の捉えられなかった攻撃を見事に避けてくれる。正に命拾いである。

 たまらず全力でクレームを叫んでみるも、余程自動回避の性能を信頼してくれているのか、全く手を緩めてくれる気配がない。

 ので、こうなったら正論パンチを打ち込んでみることに。


「ステータス差で圧倒したって、お互い良い鍛錬にはならないよ!!」

「はっ……それはそうぱわ」


 こと鍛錬に於いては、誰より真面目なサラステラさんである。

 ステータス差で強引に攻撃を浴びせられ、私がそれをどうにかこうにか捌けたとしても、結局の所反撃の隙がないのでは回避訓練にしかならないのだ。

 そもこの鍛錬の趣旨は、仮面の化け物より引き継いだ力を、私に馴染ませることにあるわけで。

 確かに回避訓練も役には立つだろう。

 回避から学べることは多く、自動回避から教えられること、気付かされることもまた沢山ある。

 だけど、それだけでは偏りが出てしまうのもまた事実なのだ。

 避けることだけ上手くなっても、攻撃や反撃に関してはあまり上達しないのだから。


 それはまぁ、確かに回避を行い、相手の動きが見えてくれば反撃を考える余裕くらいは得られるだろう。

 だけど、その反撃を行えるようになるまでに一体どれだけ掛かるか。

 反撃してみたところで、相手がそれにどう対処してくるかというのは、またそこから始まる別の学びとなるのである。

 目指す内容次第では、回避訓練に徹したほうが効率がいいこともあるだろうけれど、今の私にとってはそうじゃない。


 ちゃんと反撃も行って、切り込み、繋ぎ、引き際。そういった色んな要素をまんべんなく吸収してこそ、仮面から引き継いだ力や経験は私の体により早く、深く馴染んでくれるのではないかと。そう思えたのだ。

 そして、それはサラステラさんにとっても納得を覚える意見であったらしく。


「すまんぱわ、ミコトちゃん。本気を出しても平気な相手ってなかなか居ないから、つい楽しくなっちゃったぱわ……先輩が知ったらゲンコツものぱわ……」

 そう言って、プルプル震えるサラステラさん。

 いかにも石頭そうな彼女でも恐れる、イクシスさんのゲンコツ……。

 か、考えただけで背筋が寒くなってしまう。

「だ、大丈夫だよ、告げ口なんてしないよ!」

「そ、そうぱわ? なら、一戦目はミコトちゃんの勝ちでいいぱわ。時として言葉は暴力を制すっていう、有り難い教えを得た気分ぱわ……」

「大袈裟!!」


 ともあれ説得の甲斐あって、以降は私の力に合わせて加減をしてくれるとの言質も取れた。

 何なら熱くなって加減を忘れたら、その時点で反則負けを取るとのルールもねじ込んでおいた。

 そうしてどうにかこうにか、私はサラステラさんとの模擬戦を続けたのである。

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