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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第三七九話 望む自分

 先程の一戦を振り返り、投げかけられたサラステラさんよりの問に、ドヤ顔で答えるクオさん。

 彼女曰く、『空間に状態異常を仕掛けた』とのことだが。


「状態異常の真髄とは、つまるところ『正常を乱し異常を引き起こす』ことにあるのです。そこには生物も非生物も関係ありません。だから、空間にだって状態異常は掛けられるんです」

「言ってることがぶっ飛んでて、ワケワカランぱわ」


 脳筋のサラステラさんにそんなセリフを吐かせるとは、クオさんもやっぱり超越者なんだなぁと。私は机に突っ伏したまま、そんなことを思った。

 すると、そのクオさんが不意に思いがけないことを言い出す。


「いやいや、状態異常について理解を深めていけば、誰だって気付けることですよ。現にミコトは『間接的にならサラステラさんに状態異常を仕掛けられるんじゃない?』って訊いてきましたし」

「あー、試合前の話し合いで仰っていましたね」

「流石のご慧眼です!」

「いやいやいや、それこそミコトちゃんは発想がぶっ飛んでるぱわ。ミコトちゃんを『誰だって』の枠に入れちゃダメぱわ」

「お? ケンカか?」


 流石にそんなことを言われては、黙っていられない。常識人枠代表の私に向かって、何たる言いぐさだろうか。

 相変わらずテーブルに顔を伏せたままではあるが、声だけで威嚇しておく。精一杯の抗議だ。

 が、効果の程はどうやら芳しくなかったようで。


「おばあちゃんも、ミコトちゃんには驚かされちゃったわ。さっきの【リモデリング】の使い方、おばあちゃんでもたくさん練習してやっと出来るようになった技術なのよ? お手本として披露しようと思ったのに、全然教え甲斐がないんだもの」

「そうなんです! 私たちも試合開始直後にすごくびっくりしました!」

「信じられないくらい体がよく動くし、サラステラさんの動きもちゃんと見えたし、頭もすごく冴えて。正直気持ち悪いくらいだったよね……」

「天使様の御加護です。素晴らしくないはずがありません」

「やっぱりミコトちゃんは常人離れしてるぱわ」

「うぐ……」


 皆の言葉に我が意を得たりと、とどめを刺してくるサラステラさん。

 評価してくれるのは嬉しいのだけれど、私は私を常人離れしているだなんて思っていないので、そのように自己評価と乖離したことを言われると非常に複雑な気持ちを覚えてしまう。

 所詮私はただのゲーマーで、たまたま手にしたへんてこスキルとか、変わった能力を出来る範囲で活用しているだけに過ぎないんだ。

 天才的な発想があるわけでもなし、偶然能力に恵まれただけの私は、それらの手札を状況に合わせて切っているに過ぎない。


 だからこそ、私が目指さなくちゃいけないのは能力の利便性に溺れず、それらを上手に使いこなすこと。

 敢えてゲームに例えるなら、上手いプレイングってやつをこそ目指さなくちゃいけない。優秀な手札に任せたゴリ押しプレイなんて、私の性には合わないのだから。

 なのでせっかく評価してくれるのなら、是非そういう部分を見てほしいものだけれど、やっぱり能力の利便性と比較すると、私のプレイングなんていうのはまだまだ見劣りするレベルなのだろう。

 リモデリングに関しては頑張った方だとは思うのだけれど、レラおばあちゃんはあれを心眼のサポート無しでやるというのだから、やっぱり私なんてまだまだなんだ。

 もっと精進しなくては……!


 なんて、皆の盛り上がりとは裏腹に一人反省会をしていると、そろそろ休憩時間も終わり。レラおばあちゃんの促しにより、四戦目の支度が始まった。

 くつろぎセットを片付け、模擬戦の続きをぼちぼち始めようというのだ。

 先程の戦闘では、確かに無事サラステラさんから勝利をもぎ取ったものの、皆相当に無理をしての一戦だった。今の休憩で回復する程度の消耗ではなく。特にリリなんて、明らかに動きがぎこちなかった。

 私も、頭の使い過ぎでまだぼーっとしている。次からは如何に低燃費で無理なく効果的なステータス管理が出来るかを追求していかねばならないだろう。

 時刻はまだ午前一〇時くらい。お昼までは時間がある。

 お昼からは引き続きリリたちと、腕輪を育てるべく野良モンスター狩りを行う予定もあるのだし、如何にこの模擬戦を乗り切るかが重要な課題となるだろう。


 斯くして私たちは、午前中いっぱいサラステラさんを相手に、模擬戦を何戦も繰り返したのだった。



 ★



 ミコトたちがどこかの雪原で模擬戦闘訓練に精を出している頃。

 イクシス邸に於いては、ミコトのPTメンバーである鏡花水月の四人に加え、勇者イクシスが小会議室にて顔を突き合わせ、意見を交換している最中であった。

 難しい顔で、イクシスが口を開く。


「……こう言っては何だが。やはりどう足掻いたところで、ミコトちゃんの成長速度についていくというのは無理だ。もしも私が皆の同世代だったとしても、それは覆らないだろう」

「イ、イクシス様でもですか?」

「それはそうです。信じ難いことですが、ミコトさんは冒険者登録をしてから、未だ一年にも満たないのです。それが今や、彼の蒼穹の地平とすら肩を並べているのですから、成長が早いだとかそういう次元の話では納まりませんよ」

「この先五年、十年後のミコトは、果たしてどんな力を得ているか……」

「だけど、それでも私はミコトの隣に立っていたい」

「ですです! そのためにこうして、みんなで考えを出し合っているんですし!」


 テーブルを囲い、そのように言葉を交わす彼女たち。

 さりとて鏡花水月の面々には、どこか切羽詰まったような雰囲気が漂っており、それだけ彼女たちはミコトと自分たちの間にある『差』が着実に開いていくのを、ひしひしと感じていたのである。

 このままでは遠からず、自分たちは彼女の足手まといになってしまう。彼女に対し、引け目を感じるようになってしまう。

 そんな予感が危機感となり、どうにか現状の打開を図ろうとこうして話し合っているわけだ。


 イクシスからの提案により、彼女から稽古をつけてもらえることにはなった。

 のだが、そのイクシスから問われたのだ。『キミたちは、どう成長したいんだ?』と。

 闇雲に強くなってみたところで、ミコトの成長速度は常軌を逸している。

 いや、彼女の場合は正に特殊で、装備の能力が直接ステータスに作用するという特性上、何なら何の努力もなしに世界最強クラスの力を手にすることすら容易いのである。

 だが、ミコトはそれを良しとはせず。自らの戦闘技術や冒険者としての経験、知識、判断力、それに覚悟。

 そうしたものが伴わずして力だけ持っても仕方がないと、これまで皆で冒険し、手にした品だけを装備するよう拘ってきた。

 しかしそれでも、彼女は既に今手にしている装備の全てを十全に使いこなしているし、自分たちでは思いもしない機転を利かせもする。

 この場の誰の目から見ても、ミコトは『天才』と呼ぶに相応しい潜在能力を秘めていた。

 冒険者活動を通じ、着実に彼女の欲している実力面も身についてきている。

 更には多彩な能力に胡座をかくこともなく、それらを努力によって鍛えようというストイックさまで持ち合わせているものだから、成長が早いというのもある意味順当な結果と言えるだろう。

 そして何より、今回とうとう見つけてしまったのだ。

 ミコト自身の、戦う理由を。成したいことを。


 ミコトの成長は加速している。程なくして、きっと手の届かぬ場所へ行ってしまうだろう。

 そう強く予感するが故に、彼女たちは考えるのだ。

 どうしたら変わらず、あの娘の傍に居られるだろうかと。

 しかしそれは如何にも難問で、なかなか答えを見出だせずにいた。


 あーだこーだと意見を言い合っても、結局はあーでもないこーでもないと、浮かんでは消えていくそれら。

 そうして、とうとう空気も煮詰まり始めた頃だ。

 不意に、オルカが口を開いたのである。こころなしかその目には、強い意志が宿って見えた。


「決めた……。私、ミコトの『器』になる」


 オルカから飛び出したその発言に、意図をはかりかねた他の四人が頭上に疑問符を浮かべる。

 それを察し、オルカは言葉を足した。


「普通に強くなろうとしても、ミコトには追いつけない。だから、普通を捨てる……誰にも真似の出来ない、代えの利かない『キャラクター』に私はなる!」

「「「「!!」」」」


 オルカの決意表明に、いよいよその意味を察した一同。

「それはつまり、ミコトの【キャラクター操作】を前提とした鍛錬を積む、ということか?」

 とクラウが確認すれば、オルカは力強く頷きを返した。


「ふむ……確かに一理あるな。方向性を一点に絞るのならば、その分成長も早いだろう。だがそれでは、随分と歪な成長を遂げることになってしまうぞ?」

「覚悟の上。寧ろそうでなくちゃ、私がミコトの傍に居る意味がない」

「オルカ様、そこまで……いえ、ココロだって!」


 オルカに触発されたのか、はたまた目からウロコでも落ちたか。

 ココロはガタリと勢いよく椅子から立ち上がると、ぐっと拳を握って宣言した。


「ココロも、ココロにしか出来ない『キャラクター』を目指します! ココロはミコト様の矛ですから!」


 すると、クラウとソフィアも視線を交わし、頷きあう。

 そして。


「ならば私はどんな『キャラクター』がいいだろうな? 皆が個性に偏るなら、私は敢えてのオールラウンダーもありだろうか?」

「私の場合は、ハイエルフの魔法という強みがありますからね。魔法が得意なミコトさんにとって、最強の『キャラクター』は私で決まりです」


 そう言ってココロを挑発するソフィア。すると案の定、かちんと来て騒ぎ始めるココロである。

「ミコト様の矛はココロだって言ってるじゃないですか! 年を食って耳が遠くなっちゃってるんですか?!」

「年齢ならあなただって私と大差ないでしょう。それとも見た目同様、頭の中も幼いままなんでしょうか?」

「ぐぬぬ……年齢どころか、胸囲までココロと変わらないハイエルフがなにか言ってますね!」

「あ。あー、ココロさんそれライン超えですよ? 言って良いことと悪いことの見極めも出来ないんですね! これだからお子様は!」


 そうして、いよいよギャーギャーと取っ組み合いを始める鬼とハイエルフ。

 オルカとクラウはため息をつきながらそれを眺めるが、他方でイクシスはオロオロである。


「な、何だ何だ、この二人仲が悪いのか?!」

「いや、じゃれ合っているだけだ。歳が近い分波長と言うか、ノリが噛み合ってしまうのだろう」

「ミコトの見てない所では偶にあること」

「お、おぉ……これではどっちが大人組か分からないな……」


 イクシスのつぶやきが耳に入ったのか、揉みくちゃになってお互いのほっぺたをつねり合っていた二人はピタリと動きを止めると、どちらからともなく離れ、身だしなみを軽く整えてから元の席に腰を落ち着けた。

 そしてさも何事もなかったかのように言うのだ。


「それで、具体的な修行の内容は如何しましょうか?」

「一点特化の鍛錬とは言え、効率の良い内容でなくては意味がありませんからね」


 斯くして、ミコトの知らぬ所で密かに、鏡花水月の新たなステップが一歩踏み出されたのであった。

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