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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第三七五話 リモデリング

 想像以上に隔絶した力を見せつけたサラステラさんに、秒で敗北を喫した蒼穹の地平。

 サラステラさん曰く、あまり手加減する余裕がなかったとのことだが、私は知ってるんだ。あの人ガチ戦闘モードになると、ピカピカした第二形態になるって……。

 金色の光と格好良い衣を纏って、ファイナルフォームみたいになるんだもの。イクシスさんも同様だったし、多分とんでもないスキルなんだと思う。

 なので、サラステラさんの力量が蒼穹の地平の想定を遥かに超えていたことは間違いなかった。

 すっかり彼女へ敬意と畏怖の入り混じった感情を懐くようになった蒼穹の面々。

 さりとて、これより行われるのはそんなサラステラさんとの二戦目である。気合を入れてもらわねば困るというものだ。

 何せ次の試合には、私もバフ係として参戦するのだから。


 試合前の作戦会議にて。

 早速問われたのは、そのバフについてだった。


「それで、あんたはレラおばあちゃんからどんな術を習ったのよ?」

「『祝福の魔女』直伝のバフ術……天使様の御加護……!」

「きっととんでもないものに違いないよ!」

「内容を聞いておかないと、急に掛けられちゃ戸惑うかもだしね」


 と、目を輝かせる四人へ、私は仮面の下で苦笑しつつその概要を明かしたのである。

 レラおばあちゃんより仕込まれたバフ術は、非常にシンプルかつ強力な効果を持つ代物だった。


 そも、バフと一口に言っても様々で。単純にステータスに上昇補正を齎すものが代表的ではあるが、広義では自身ないし味方に有益となる状態の変化や強化効果等を施す術を、総じて『バフ』と呼んだりする。

 ちなみにその反対が『デバフ』であり、こちらは相手に対して状態異常を付与する術や、能力を低下させる術等のことを指して言う。

 先日私がレラおばあちゃんより教えてもらったバフは、そんな中にあって基礎的であり、且つ異彩を放つものだった。

 平たく言えばそれは、一般的なバフと変わりなくステータスに補正をかけるタイプの魔法である。

 けれど同時に、一風変わったものでもあり。


「魔法の名前は【リモデリング】。このバフを掛けた相手には、効果時間中フリーのステータスポイントが付与されるんだ。ポイントの割り振りは術者が任意で行うことが出来るから、要は私の好きなように術を受けた相手のステータスを調整できるってわけだね」

「ス、ステータスを自在に調整……!?」

「それってまさか、自由に下げることが出来たりも……?!」

「アグネムちゃん鋭いね。そのとおり、付与したポイントと同じ数だけステータス値をマイナスすることも出来るよ。そうすることで引いた分のポイントは付与ポイントに加算されるから、これもまた好きな項目に振り分けることが出来る。まぁ、敢えて振り分けずに放置することも可能だけど」

「バフと見せかけて、実はデバフにもなる……とんでもない魔法だね」

「正に天使様の御業です……!!」

「いやいや、レラおばあちゃんに教えてもらった魔法だから」


 これを上手く行使することが出来たなら、例えば魔法特化の紙装甲魔法使いを、一時的にガッチガチの物理防御つよつよマンに作り変えることが可能だったり。或いはINT以外のステータス値から能力値を引っ張ってきて、INTに集中させるなんていう極振り化も実現できてしまう。

 まぁとは言え、リモデリング初心者の私は、まだまだ付与できるポイントが少ないため、イジれる幅も高が知れてはいるのだけれど。


「あと許可さえもらえるなら、私の場合ステータスウィンドウを通して仲間のステータスを数字で確認できるから、より細かな調整が可能なんだけど」

「あ、あんたそんなことまで出来たの!?」

「勿論、許可もなく勝手に他人の能力を覗いたりなんてしてないから、その点は心配しないでほしいんだけど……へんな疑心を与えちゃったならごめん」

「私は見てもらって平気ですよ! ミコト様に見られるのは、何だか緊張しちゃいますけど……」

「私も構いません。いえ、寧ろ是非ご覧になってください天使様!」

「まぁ、それが戦力アップの足しになるのなら好きにしてよ」

「わ、私も別にいいわよ……。見られて恥ずかしいような鍛え方はしていないもの」


 ということで、許可も得られたため早速彼女らの能力値を確認させてもらったのだけれど。

 確かに、みんな何かしらの能力が100の大台に乗っている。彼女らが超越者の集まりだということは話に聞いて知っていたけれど、こうして数字を目の当たりにしてみると圧巻である。

 数字は嘘をつかないと言うが、同時に数字を鵜呑みにしすぎる危険性も私はよく理解している。

 そも数字で構成されたのがデジタルゲームってもので、その中でも信じられないようなハプニングエピソードなんていうのは、ネットを漁れば幾らだって見つかったものだ。例えばベタなところで、ジャイアントキリングとかね。

 高い能力値があれば絶対に勝てる、なんてことはないのだ。ゲームでも、勿論現実でも。

 とは言え、ゲーマーゆえにこそ強い数字には無条件に迫力を感じたりもするわけで。

 一頻り感嘆の声を漏らした私は、コホンと咳払いを一つ。横道に逸れそうな思考を正して。


「それじゃ、どの能力にポイントを振り分けようか? 希望とかあったら参考までに聞いておきたいんだけど」

「む。そうね……っていうか、急にステータスが上下するとか言われても、いまいち具合が分からないのよね」

「一先ずサラステラさんのスピードに対応できないのが一番まずいから、AGIに振ってもらえば良くない?」

「それは確かに……先攻で動き出したはずが、気づけば後手後手でしたからね」

「ミコト様、お願いできますか?」

「了解だよ。あとはまぁ、状況を見ながら微調整するつもりだけど、心眼で見てるから戦闘中でも要望があったら、それを強く思うだけで伝わるんで。違和感や不利を感じたら、適宜そうやって教えてくれると大丈夫かなと」

「強く願えば天使様がそれを聞き届けてくださり、私たちのステータスに手を加えてくださる……!!」

「それってもう、人間業じゃなくない? まぁ、今更か」


 クオさんの達観したような一言を聞き流しながら、もう幾つか細かなやり取りをして、模擬戦前の作戦会議はお開きとなった。

 そうして彼女らは緊張の面持ちで踵を返すと、やはり先程の一戦目を引きずってか、重たい足取りで歩き出したのであった。

 それから程なくして、既にスタンバイを済ませているサラステラさんと対峙するよう、二〇メートルほど間を空けて構えに入る蒼穹の四人。

 私はその背後、全体を望める安全な位置に陣取ると、彼女ら四人分のステータスウィンドウを展開し、アレヤコレヤと忙しなく脳内シミュレーションを繰り返していた。


 打ち合わせ通り、ポイントの割り振りは敏捷性を司るAGIを中心に行いつつ、残りを状況に合わせ動かし、出来るだけ彼女らが戦いやすいようサポートするつもりではいるのだが。

 しかし如何せん、私はバフを駆使した戦闘の経験が浅い。精々が生前のゲームか、鏡花水月の仲間たちに協力してもらって、お試しがてら練習をした程度の運用経験ゆえ、果たして初めて使う相手にうまく適応できるものかと、内心バクバクである。


 しかしそんな私の胸中など、誰に慮られる筈もなく、いよいよ双方のスタンバイは済み。

 あとは二戦目開始を知らせる合図を待つばかりという、一層緊張の張り詰める瞬間を迎えたのであった。

 レラおばあちゃんに叱られ、若干凹んでいるサラステラさんは、さりとて威風堂々たる佇まいを見せている。どうやらデバフは何とか免れたらしい。

 対するリリたちは、その背からも強い緊張や警戒心が見て取れ、一戦目よりなお気を引き締めて各々が身構えている。

 そうして双方の睨み合いも程々に、いよいよ二戦目開始を告げる合図が……。


 …………。


 鳴らなかった。一〇秒待っても、二〇秒待っても。

 緊張に耐えかねたのか、痺れを切らしてザワザワし始める蒼穹の四人。

 そして私は静かに思い至る。

「あ、もしかして今回も私が試合開始の合図出す感じだった?」


 そう言えば一戦目の時は、私が合図の花火を打ち上げたのだったっけ。

 二戦目はレラおばあちゃんがやってくれるのかと勝手に思い込んでいたため、変な空気になってしまった。お願いし忘れた私の落ち度だ。

 私は皆にヘコヘコ謝りながら、私よりなお離れた位置から全体を眺めているおばあちゃんへ、開始の合図をお願いした。仕切り直しである。

 おばあちゃんからは快い返事が返ってきたので、皆改めて構えをとった。

 しょうもないハプニングは、しかし幸い凝り固まりつつあった蒼穹の気持ちを程よくほぐしてくれたようで。

 皆の準備が整ったのを認めたレラおばあちゃんは、ポンと手の平に火球を浮かべると、それを打ち上げ花火よろしく空高くに放ったのである。


 ルール上、バフを掛けるのは試合が開始されてからである。したがって私は、その瞬間を逃さぬよう意識を集中し。

 そして、火球が爆ぜたと同時にリモデリングを発動したのだった。

 皆のAGIにポイントを適度に振り、余った分はSTRないしINTに振り分けておいた。


 他方で試合の方は、先程と同様先攻を取ったのはリリたちで。

 一戦目で、生半可な攻撃はサラステラさんに通用しないことが分かっているため、今回は様子見や牽制の類が飛ぶことはなかった。

 その代わり、聖女さんはより念入りな防御バフを。アグネムちゃんも負荷軽減の魔法を。

 そして更に、此度はクオさんまでもがバフを行使してみせた。

 彼女のそれは、所謂『ポジティブな効果を齎す状態異常』というやつで。

 これにより、皆のステータスが軒並み上昇したのが、ステータスウィンドウを介して確認できた。

 だが、先程使わなかったことからも、何かしら使用にはリスクが有ると推察できる。

 反動があるとか、使用自体に制限があるとか。

 なんにしても、これで彼女らの状態は大きく強化されており、先程よりも善戦に期待が持てることは間違いない。

 その証拠に、唯一攻撃に打って出たリリの魔法は、先ほど見せたそれよりも余程凄まじかった。


 っていうか、彼女の奥の手であるはずの【魔創剣】が既に発動されており、その一振りから放たれた恐るべき冷気は、流石のサラステラさんも回避を選ぶほどの脅威度を孕んでいた。先程の魔法剣などより余程強力な一撃であることは、傍目にも明らかであった。

 もしも私なんかがアレを向けられたなら、きっと直撃を避けようとも、その余波だけで全身を凍結させられるに違いない。

 その点サラステラさんは、余波の影響も特に無く、容易く回避を成功させたものだから驚きだ。余波はモロに受けているくせに、涼しい顔をしている彼女を『本当に人間なのか?』と疑いたくなる気持ちもよく分かる。


 そうして鋭くステップを踏んだサラステラさんは、直後またもその姿をブレさせた。

 先程のそれ同様、超速の接近をしようというのだ。

 が、今度はリリもその動きに反応できたようで。懐に潜ろうとしたサラステラさんへ、魔創剣を一振り。

 魔創剣は魔法そのもので剣身を形作った、魔法剣士の奥義とも言えるスキルだ。

 剣身は超高出力の魔法で編まれており、直接触れようものなら如何なサラステラさんとて無事では済まないだろう。

 それを裏付けるように、リリの振るった魔創剣の軌跡を彼女は避け、凶悪なその余波すら警戒して飛び退いたのである。同じ余波でも、剣本体より間近のそれは威力が大きく異なるらしい。

 それにしても、やはりバフというのは偉大である。早くも一戦目とは状況が大きく異なってきているのだから。

 やはりバッファーという存在は、この世界に於いても重要な役割を担うものなのだと、強く実感する。

 とは言え、ここに居るのはいずれもがとんでもない術の使い手ばかりなので、そんな彼女らの操るバフが例外的に強力であるという可能性もあるのだけれど。

 どうであれ、それらを盛ったことで確かに、蒼穹はサラステラさんの動きを捉えつつあるのだ。

 一旦退いたサラステラさんへは、果敢にアグネムちゃんが突っ込んでいく。サラステラさんの退避を見越した、良い距離の詰め方である。


 この模擬戦の勝敗は、どちらか一方が敗北を認めるか、審判がジャッジを下すことで決する。

 先程の一戦は、おとなしく自分たちの負けを認めた蒼穹の地平の敗北だった。何せ、もしもサラステラさんがその気だったなら、頭に手を置かれた時点で聖女さんとクオさんの首から上は原型を留めてはいないだろうから。

 そう思えば、彼女らが恐るべき実力差に身を強張らせるのも已むからぬことではないだろうか。

 しかし今は、そんなサラステラさんの動きに辛うじてながら対応できるようになった上、人数でも勝っている蒼穹は有利とすら言える状況だろう。

 アグネムちゃんの突撃を皮切りに、上手くやれば一気に流れを掴むことも叶うかも。

 と、その様に優勢の気配を垣間見たのだけれど。


「ぱ!」


 突如、サラステラさんが鳴いたのだ。そうして発せられたそれは、音と言うより衝撃と呼ぶべきものだった。

 それだけで、何と彼女の目の前に物理的な音の壁が起こり、アグネムちゃんは否応なくたたらを踏まされてしまったのである。どうやらスキルの一種らしいが、音圧が確かな脅威となるとは、なんという使い勝手の良さだろうか。

 そして、隙が出来たのなら状況は容易くひっくり返ってしまう。

 十分な警戒を伴う急停止だろうと、その上から軽く叩き伏せることが可能なサラステラさんを前にしては、死に体に等しいわけで。

 しかしそこへ、すかさずリリのカバーが入った。元は突っ込むアグネムちゃんに便乗した一撃の予定だったのだろうが、状況を見てとっさにインターセプトへ切り替えたらしい。

 更には、聖女さんからも光魔法の白き光線が伸び、即席のクロスファイアをサラステラさんへ浴びせかけたのである。

 リリから放たれた赤き熱線と、聖女さんの白き光。


 だが驚くべきは、それらに見事対応してみせたサラステラさんの反応速度である。

 正しく光の速さで迫った二つの魔法を、しかし彼女は軽やかなバックステップで避けたのだ。数多の経験や勘の成せる技か、はたまた彼女らの動きをきっちり把握していたからこそ可能だったのか。

 なんにせよ、それは見事な回避行動だった。


 だけれど、それを見越していた者が一人あった。

 彼女は正しくサラステラさんの飛び退いた先に、気配を殺し先回りしており。

 そして、逆手に構えた二本の短剣でもって、サラステラさんへと襲い掛かったのである。

 彼女のことだ。きっとその刃には、何かしらの状態異常付与効果が仕込まれているに違いない。

 背後より迫るクオさんに、果たしてサラステラさんは……。

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