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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第三七話 拡張

 オレ姉の店で注文をしたその日の夜。例によってお風呂で身綺麗にした後、食堂で晩御飯を済ませて部屋でくつろいでいる中、私は嬉々として換装の高速ローテーション作業をこなしていた。


「どう? 外見的に違いが分かる?」

「うーん。よく見ると、なんだかチラチラしてて変な感じはするけど、ぱっと見じゃわからない」

「そうですね。違和感は少し感じますけど、ココロもこれなら大丈夫だと思います」

「よし! これなら外でも練習できそうだね。練習の時は武器だけストレージにしまうようにしようっと」


 オレ姉のアドバイスに従い、安物の仮面と長いローブを三つ全てのスロットに登録し、そして現在の服の上から同様のものを身に着けた上で、ローテーションを回したわけだ。

 結果は上々で、傍目からもどうやら換装による装備切り替えに際し、大きな違和感は感じないらしい。

 何せローブは、内に着込んだ服や装備をまるっと隠してくれるから、どのスロットに切り替えてもローブ内は変化していようと、ガワは同じように見えるというわけだ。


 ちなみに、スロットの仕様上同一の装備をプリセットのように複数スロットに登録する、ということは出来ない。

 スロットはデータを登録しているわけではなく、今身に着けているものを物理的に収納し、同時にスロット内にしまわれていたものを身につけるという仕組みなので、要はロッカーみたいなものなのだ。

 だから、ローブをわざわざ四着用意したのも已むからぬことだった。


 とは言えその甲斐あって、これで場所を選ぶこと無く換装の訓練が出来る。

 調子に乗った私は、とうとう一秒間に七度の換装ができるようになった。一秒毎に七変化である。ちょっとした特技として自慢できそうだ。

 なんて思ってたら、不意にスロットが二つほど拡張されて、勢い余った私はまたも素っ裸になる。


「あっ」

「……ミコト、なんでまた脱いだの?」

「まさか趣味ですか、ミコト様」

「違うから! そんな目で見ないで!」


 私は慌てて、換装のスキルレベルが上がったことを二人に告げた。

 そりゃ、それだけ切り替えまくっていればそうなって当然だと頷く二人。寧ろ、ストレージの成長こそ遅く感じるとの感想が返ってきた。

 確かにそれは私も思っていたが、それだけ便利スキルだというのは確かだし、換装と比べても普通に考えて使用頻度は高くて然るべきだ。なら、レベルアップに必要な経験値が高く設定されているのも頷けようというもの。


 なんて、考えながらも訓練を継続していたら、これまたレベルアップしたみたいで。太めにしたアイテムウィンドウのアイテム上限数が、更に倍の六四枠に拡張されていることが分かった。これでかなり使い勝手が良くなった。

 私が全裸のまま二人にそれを知らせると、いいからまずは服を着なさいと叱られてしまった。


「それにしてもすごいですねミコト様、トントン拍子じゃないですか!」

「流石、寝てる間も訓練を続けているだけのことはある。こんなに早くスキルレベルが上る人なんて、他にいないと思う」

「えへへぇ、そうかなー?」


 おだてられ、思わず口元がだらしなく緩む。目尻が下がる。

 それはそうと、一気にレベルアップしたから拡張機能なんかの検証が大変だな。


「検証に関しては明日にしようか。外はもう真っ暗だしね」

「それがいい。ソフィアも勝手に色々調べると、またうるさいと思う」

「しかしオレネさんのところに行ったその日に、スロットが増えてしまうとは。二度手間になってしまいますね」

「余ったスロットは、しばらくの間普段着用に使えばいいと思う」

「あ、そのことなんだけど。私一つ、やってみたい戦闘スタイルがあるんだよね」


 オレ姉のお店で熱く語り合った私達だけれど、私には一つ胸に秘めたまま保留にしている、憧れのスタイルがあった。

 正直未だ一切使い方等がわからないため、武器を注文する以前の問題として黙っていたのだけれど。


「私、魔法を使ってみたいんだ!」

「なるほど」

「そうなんですか? ミコト様はてっきり、物理戦闘を得意としておられるのだと思っていました」

「否定はしないけど、生前の世界には魔法って存在自体、絵空事だったからさ。どうしても憧れは強いんだよ」

「魔道具もないの?」

「ないね。代わりに家電がある」

「ミコトさまの世界のお話、ココロは大好きですよ!」


 私にとって魔法が空想妄想の類であったように、この世界の人達はきっと電化製品を絵空事、あるいは妄言として捉えるのかも知れない。

 ココロちゃんは素直に、それこそ私が魔法に思いを馳せたように、電化製品について前のめりになって聞いてくれるけれど、私の転生話を信じない人にとってはきっと、こじらせた頭のおかしい奴って風に感じられるんじゃないだろうか。

 まぁ、その話は一旦置いておくとして。


「それで、自分なりに魔法を使うためにはどうしたらいいか、とか調べたり考えたり、あれこれ試したりしているんだけど、どうにも要領を得なくてね。これを機に、魔法が使える人からアドバイスなんか貰えたらって思ってるんだけど」

「はい! そういうことでしたらココロでもお力になれるかも知れません!」

「あ。そう言えばココロちゃんは魔法が使えるんだっけ?」

「はい! ミコト様にお仕えする、シスターですから!」


 なんでも、シスターや神官、僧侶に巫女など神に仕える職を選んだ人たちは、ジョブに拘わらず聖魔法に精通することが多いらしい。資質次第では治癒魔法を得ることもあるとか。

 その点ココロちゃんは、どちらもしっかり使いこなせるらしい。


「ちなみに私は、魔法は覚えてない。なんでも出来るオルカの名折れ……」

「ちょ、落ち込まなくていいから! それなら私と一緒に勉強しよ? ね!」

「ミコト……うん。頑張る!」


 多才さが売りのオルカでも、魔法までは覚えていない。その事を地味に気にしていたらしく、私は軽い地雷を踏んづけてしまったらしい。

 オルカを励ましつつ、今後はスキル訓練に加えて魔法の鍛錬も行うことを決めたのだった。

 目指すは、魔術師スタイルの確立だ。夢が広がるね!



 ★



 翌日。休みを挟んだので疲れも抜け、今日は張り切って依頼を受けようと思い、三人揃って冒険者ギルドを訪れたのだけれど。


「お願いします。お願いします。今日は依頼は受けず、スキルの検証をしましょう!」

「…………」


 案の定、換装とストレージのレベルが上ったと知るや、プライドもへったくれもなしにヘコヘコ頭を下げ始めるソフィアさん。本当にやめて欲しいのだけど。

 ソフィアさんは見目麗しさと、そのクールな姿勢からかなり人気のある受付嬢だ。男性冒険者で、この人を狙っている人たちは少なくないはず。

 それが、キャラ崩壊をいとわずの低姿勢だ。相対的に私が悪目立ちしてしまうじゃないか。


「あーもー、分かりましたからやめてくださいよ。頭を下げないでください」

「そうですか。では訓練場へ行きましょう」

「え。ソフィアさんのお仕事は?」

「担当冒険者の実力を正確に把握するのは、受付嬢の務めですよ」

「他の受付嬢さんたちが、すごい目で見てますけど」

「モテる女は辛いですね。ミコトさんなら分かってくれるでしょう?」

「ああ言えばこう言う!」


 文字通りお話にならないので、私達は辟易としながら先頭を切って歩くソフィアさんに倣い、いつもの訓練場へやってきた。

 今日はここで、レベルアップしたスキルの確認だ。時間が余れば近場で狩りでもすればいいだろう。


「あ。そう言えばミコトさんの予定如何では、今日の午後にでも昇級試験が受けられますが、如何しますか?」

「そうなんですか。それなら、お願いしようかな」

「了解しました」


 どうやら狩りに行く時間は無さそうだ。

 予定も立ったところで、早速今判明しているだけの情報をソフィアさんに話す。

 ストレージは容量が増えたこと、換装はスロットが追加されたことがそれに当たる。

 ソフィアさんはなるほどと頷きを返し、そこからは思いつく限り『こういう機能が追加されたのでは?』という、いかにもそれっぽい考えを挙げては実験してみる、ということを繰り返した。


 その結果、先に判明したのはストレージの新機能だった。


「ス、スタックキター!!」

「ちょっとミコトさん、私のアドバンテージを侵略しないでくださいよ」

「ストレージ容量は倍になったけど、実質上限がなくなったかも」

「一体どれくらいまで入るんでしょうね?」


 そう。とうとう私のストレージちゃんは、アイテムをスタックすることを覚えたのである。

 つまり、同じ種類のアイテムをストレージ内に収納した場合、これまでは一つ一つを別個のアイテムとして取り扱ってきたため、やたらとストレージの空き枠を占領してしまっていたのだけれど、これからは『○○というアイテムを○○個この枠に入れてありますよ』という具合に、まとめて一枠で済ませることが出来るようになったわけだ。

 これにより、お金の管理も楽になった。

 これまでは、お金をストレージに入れると、銅貨なんかでも律儀に一枚ずつ一枠を占領してしまっていたのが、これからは手持ちの銅貨全てを収納しても、たった一枠に収めることが出来るのだから。

 まぁそれでも、金貨、銀貨、銅貨など、硬貨の種類分だけ枠を取ってしまいはするのだけれどね。


 ドロップ素材にしたってそうだ。

 検証の結果、どうやらアイテム名が同じであるなら、品質にバラつきがあろうとまとめることが出来るらしい。

 取り出しに関しても、任意のものを思い浮かべればきちんと取り出すことが出来る。正しく、飛躍的にストレージが使いやすくなったと言っていいだろう。実用性もさることながら、訓練効率の上昇にも期待が持てるというものだ。

 また、ストレージへの出し入れが可能な距離というのも、半径五メートル圏内から、一〇メートル圏内へと拡張されている。

 それと鑑定効果に関しては、残念ながら特に変化は認められなかった。

 どうやらスタック機能と、容量拡張に有効射程の延長が、此度のレベルアップに伴う恩恵の全部ということだろう。


「これなら、思い切り遠征しても荷物に困らないから、実質自由度が増したとも言えるね」

「ダンジョン攻略への足がかりになる」

「ストレージを埋められるよう、ココロも張り切っていっぱい狩りますよ!」

「あの、遠出の際は私もお供を……」

「ソフィアさんはお仕事の方を頑張ってください」


 がっくり肩を落とすソフィアさんだが、引き続き換装の方に追加機能がないかという検証を始めると、現金なことにまた張り切り始めた。

 あれこれと、こんな機能があったら便利だろうなー。っていう発想を次々に挙げていくソフィアさん。それを片っ端から試してみるわけなんだが、よくもまぁ思いつくものである。

 ともあれそのおかげもあり、程なくして一つの変化を見出すことが出来たのだが。


「あ、出来ましたよ! アイテムストレージから直接換装スロットへの装備登録……っていうか、編集ですね」

「ふむ。つまりアイテムストレージ内の装備品なら、自由に換装スロットへ移動できたり、逆に戻したり出来る、ということですか?」

「ですです」

「ソフィアは、理解が早くてすごい」

「ココロにはちょっと難しいです」


 PCやスマホを触ったことがないのだから、オルカやココロちゃんにはちょっと難しい仕組みかも知れないなと思う。

 何せ、イメージとしては装備品をファイル、スロットやストレージをフォルダに例えて、そこをやり取りしているようなものなんだもんな。実際操作してみないことには、なかなか把握しづらいのかも知れない。

 それで言うと、ソフィアさんはやっぱり賢い人だと思う。賢いのに、なんでこんなに残念なんだろう……。


「今、すごく失礼なことを考えていませんでしたか?」

「考えてましたね」

「おこです。謝罪を要求します」

「前向きに検討しておきます」

「むぅ……」


 そんな他愛ないやり取りを終え、大体一時間くらいだろうか。検証は無事に済んだと見ていいだろう。

 ソフィアさんは名残惜しそうに仕事に戻っていき、私個人はお昼まで暇になり、オルカやココロちゃんに関してはガッツリ時間が浮いてしまったことになる。


「結構早く済んじゃったね。私は午後から試験だから適当にスキル訓練でもやってるけど、二人はどうする?」

「私はミコトと一緒」

「それなら、不肖このココロが魔法についてのノウハウを提供したく思います!」

「お! それはすごく助かるよ!」

「是非、お願い」


 そんなこんなで、浮いた時間で私達は、ココロちゃん先生による魔法習得のコツに関する講義を受けたのだった。

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