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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第三六四話 もりもり

 ついこの間、何気なく思いついたそれは、『死んだらそこでおしまい』っていう比較的月並みな考えから転がり、発展した突飛な発想でしかなかった。

 しかし、いざそれについて考え始めたなら、それは存外に的を射ているように思われ。

 仲間たちに打ち明けてみたところ、あれよあれよと話は膨らみ今に至る。

 それこそ数日前までは、私たちが『化け物』と仮に呼んでいる謎の存在になど、出来れば近づきたくないと。本気でそう思っていたのに。

 今の私は、それと真逆の決意を固めてしまったのだから、何ともおかしな話である。


 状況証拠を皆で並べてみた結果、どうやら『化け物』とは即ち、私の骸である可能性が浮上してきたのだ。

 正しい意味での骸、というのとは恐らく違うのだろうけれど。さりとてそのように喩えるには相応しい存在なのだと考えられる。

 言い方を替えるなら、『かつて私だったもの』とでも言うべきか。

 彼女らはコンティニューする前に所持していた、私の力と思い出を保持しており、今もきっと世界の何処かで眠っているのだろう。

 それが何体居るのかも、何処に居るのかもわからないけれど。

 それでも。私は、彼女らの力と思い出を、引き継いでいきたいって。そう思ったんだ。


 そんな私の決意を、どうやら鏡花水月の仲間たちは支持してくれるようで。

 珍しく仮面を外して決意表明なんかを行えば、それを茶化しながらも力強い返事を返してくれた。


「ミコトが望むのなら、私はどんなことにだって協力する。ミコトは大切な仲間で、友だちだから」

「無論、ココロも協力は惜しみませんよ! 御意のままに、です!」

「どうやら楽しくなりそうだな。強敵との邂逅はむしろ私の望むところだ。まぁ、化け物と戦えるのはミコトとその都度のメンバーということになるのだろうが、露払いくらいは任せてくれ!」

「ミコトさんが、さらなるスキルを得る旅……ふふ。ふふふふふ。そうと分かっていて私が同行しない道理はありませんよね? 寧ろ、拒まれても勝手に付いていきます!」

「みんな……ありがとう。それと、変なことに巻き込んじゃってごめんね。せめて、みんなを危険に晒さないように私ももっと強くなるから!」


 優しくて頼もしい仲間たちとの確かな絆を実感しながら、次に皆の方へ向く私。

 思えば話し合いの過程で浮上した考察の内容に、私が怯えを懐いたことで話の腰を折ってしまっていた。

 だから私は、皆へ向けてヘコっと頭を下げる。


「話を中断させてごめんなさい。どうぞ、続けてもらって」

 と、私が話し合いの再開を促せば、そこへ大きなため息が一つ聞こえてくるではないか。

 視線を向けてみれば、それはリリによるものだった。

 彼女は私にジト目を向けたかと思えば、続いて自らのPTメンバーたちへ短く「で、どうするの?」と問い掛ける。

 主語のないそれは、しかし流石はともに修羅場を越えてきた仲間たちと言うべきか。問われた三人はリリの意図を正しく察し、各々の考えを述べたのである。


「私は勿論、ミコト様に協力するよ!」

「私も、異論はありません。むしろこちらから天使様へお力添えを申し出たいほどです!」

「まぁ、そうだね。良いんじゃない? 興味あるし」

「……そう。なら、決まりね」


 そう言ってリリはすっと立ち上がり、私へ向けて宣言した。

 それは、何ともトントン拍子な内容であり。


「要するに、今回現れたあんたの『骸』も、倒しに行くってことでしょ? 聞いてのとおり、私たちも協力してあげるわ」

「リリ……みんな……! い、いいの? 多分、メチャクチャ強敵だよ?」

「む。まぁ、あれよ。貸し一つよ! あんたの能力は反則級に便利だから、それで報いてくれればいいわ」

「! わかった。じゃぁとりあえず、蒼穹の地平用PTストレージフォルダを開設しておこう。他のことに関しては要相談ってことで」


 という、今回リリにキャラクター操作を使用したことにより出現した、恐らくは蒼穹の地平と旅をした周回の私……の『骸』。

 これに対し、今までは様子見の経過観察を続けており、触らず、自然消滅するのならそれで良しっていう方針をとってきたわけだが。化け物を倒し、力と思い出を引き継ぐと決めた今となっては話が異なってくる。

 つまりは、たとえリリたちの協力が得られなかったとしても、戦いに行く。と、そんな決意を固めていたわけだ。

 しかし、それを察しよく理解してくれた蒼穹の地平メンバーは、わざわざ話題に上げるまでもなく簡単に話をまとめ、協力を約束してくれたのである。

 本当に、話が早いとはこういうことを言うのだろう。


 成り行きを見守ってくれていた他の面々も、何だかほっこりした顔をしている。

 一時は張り詰めた会議室の空気も、今は何だか弛緩して感じられた。


 しかし。

 そこへ一石を投じたのは、おずおずと手を上げたチーナさんであった。

 それに気づいたイクシスさんが、早速発言を促せば。彼女はおっかなびっくりこう言ったのだ。


「あの……その化け物、いえ『骸』ですか。それって、これまでの話を鑑みると……とんでもない力を持っていることになりませんか?」

「ん。あー……そっか。それってつまり、ミコトが蒼穹の地平メンバーと旅をして、すくすく育って力をつけたその状態を保持してる可能性があるってことだもんね」

「つまり、ミコトちゃんの成れの果て……なるほど。確かにそれは『化け物』と呼ぶに相応しいかもな」


 などと、チーナさんの意見をレッカとイクシスさんが汲み取れば、確かにその予測は正しいもののように思われ、そしてこれまで想定していた以上に危険な相手である可能性の浮上に、皆へ緊張が走った。


「それってつまり、ミコト様と同等のスキルどころか、それよりも余程強力なスキルを所持している可能性が高いってこと……ですよね?」

「そ、そう言えば仮面の化け物も、マスタリースキルで言えば私なんて足元にも及ばない様なレベルだったっけね……」

「で、でもそのお力は、天使様が引き継がれたのですよね?」

「そういうことになるんだけど、いかんせん私あんまり接近戦やらないから、錆びついたまんま未だ使いこなせてない状態かも……」

「つまりあれかな? 引き継いだ力も、体に馴染ませないと役に立たない、みたいな?」

「その力が使いこなせたとしても、相手は私たち蒼穹の地平と一緒に旅をしたバカ仮面の成れの果て。今の私たちで束になって掛かったところで、勝てるかは随分怪しいわね……」

「リリエラちゃんが珍しく弱気なこと言ってる! 私も同意見だけど!!」


 普段は自信家のリリが、勝率を危うんだ。

 その事実が、場に重たい空気を再度齎す。

 要するに、今の私たちが『骸』へ突っ込んでいったところで、返り討ちに遭う可能性が非常に高いと、そういうことだ。

 しかも厄介なことに、私と同じくきっと転移系のスキルだって使えるだろうから、一度戦闘になれば逃げることは出来ない。だって、地の果てへだって追いかけてくるから。

 やっと和んだと思った空気はまたも神妙さを孕み、皆の表情は再び強張ってしまった。

 倒すと決めた相手が、とんでもない奴だった。今の私たちではきっと力が足りず、下手に手を出せば取り返しのつかない事になりかねないと。

 なんとも難儀な状況に陥ったものだが、さてどうしたものか。


 と、皆が難しい表情を浮かべ始めたところへ、またもわっしょいと一石を投げ込む者があった。

 サラステラさんである。


「なら、修行すれば良いぱわ! 今勝てないなら、明日勝てる自分になる。それだけのことぱわ!」

「お、サラ。たまには良いことを言うじゃないか」

「ヒヒッ、そうね。私たちはそうやって魔王すら打倒するに至ったのだもの」


 ここに来て、レジェンズの有り難いお言葉が弱気になりかけた私達の背を、バシンと叩いてくれた。

 実際に魔王討伐という偉業を成し遂げた彼女たちの言だ。説得力しかない。

 それはまぁ、冷静に考えたなら、相手は長年修業を続けて死んだのだろう、私の骸である。

 ちょっとやそっと修行して立ち向かったところで、埋められぬ差があるのは間違いないことで。

 死ぬ気で頑張ればなんとかなる、というような次元の話ではないのだろう。


 だとしても。

 他にどうすることも出来ないのなら、やれることをやるしか無いじゃないか。

 無理だと決めつけて足を止めてしまう行為は、もしかしたらほんの僅かに存在していたかも知れない可能性を、自ら手放してしまう事と同義なのだ。

 そんなのは理想論に過ぎないのかも知れない。端から私たちの手の中に、可能性なんてものは存在していないのかも知れない。

 それでも、為せば成る。為さねば成らぬ何事も、である。


「無理ゲーか……いいね。攻略のし甲斐があるってものだよ」

「? 何よ、それもゲームとやらの一種なの?」


 半ば強がってのつぶやきは、変に察しの良いリリに拾われてしまった。

 だが、確かにゲーム用語でこそあるけれど、彼女の思うようなジャンルの類を指す言葉ではないのだ。


「や、えっと。無理ゲーっていうのはゲームの種類ってわけじゃなくて。どうしたって誰もクリア出来ない、難しすぎて誰もが匙を投げるようなゲームを表す言葉だよ」

「なるほど。言えてるかも知れないわね」

「あれ、でもミコト様はその『むりげー』に好んで挑まれていたって聞きましたよ?」

「そう言えばそんな話もしていたな」

「え、あー。それはまぁゲームだからね。色々と無茶な攻略も出来たし……って。ああ、そうか。現実だからこそ、出来ることもあるんだ」


 そう。ゲームとは決められたルールの上で行うから難しいのであって、そんな不自由の中でさえも、猛者たちはまさかと思うような手段やテクニックを駆使して無理ゲーを打破してきた。そうした攻略動画がネット上には幾らでも上がっていたんだ。

 斯くいう私も、投稿していた側なのだけれどね。

 ゲーム上ですら、抜け穴を探してクリアするような場合が多々あった。

 なら、自由度が圧倒的に高いこの現実なら、それこそ無理ゲーをクリアする方法なんて幾らでもあるんじゃないだろうか?

 そう考えると、何だか……。


「なんか、楽しくなってきた……!」

「あ。ミコトが変なこと考えてるときのやつ」

「仮面の下ではこんなお顔をされていたんですねぇ」

「むぅ。ミコトがやると、どんな顔でも画になるな」

「流石私の嫁です。これは、思いがけず簡単に攻略できてしまうかも知れませんね」


 などと、あれこれ考えてる私の傍で適当なことを言い合う鏡花水月の面々。

 リリたちはその様子を、何とも言えない訝しむような、呆れるような、それでいて期待するような。不思議な表情で眺めるのだった。

 それとは別に意見を述べたのはオレ姉である。


「こりゃ私もうかうかしてらんないね。急いでミコトに最強武器をこしらえてやらなくちゃ……それはそうと、例の『綻びの腕輪』だったか? それならミコトを急成長させられるんじゃないのかい? 錆びついてる力ってのもちゃんと研ぎ直してやれば、その『骸』ってのともいい勝負が出来るように思うんだが……違うのかい?」


 私と異なり、オレ姉のあまりに正攻法且つ有力な意見に、誰もが沈黙を余儀なくされた。

 すると、皆の反応を見て、もしかして的外れなことを言ってしまっただろうかと、少しばかり所在なさげにするオレ姉。

 それを察し、オルカが言葉を繋いだ。


「そうだった。ミコトは装備がなければただの虚弱体質」

「ですが、装備が強ければ能力もその分上がる、特異体質でもあります」

「なら、ミコトに強い装備を盛りに盛れば……」

「お。そう言えばミコトちゃんには、私のコレクションから一つ何か譲るという約束をしていたんだったな。よし、面白そうだから特別に良い品を譲ってやるとしよう!」

「それなら私が、仮面の化け物から引き継いだっていう力を磨いてやるパワ!」

「ヒヒッ、何だか楽しくなりそうね。おばあちゃんも追加で、ミコトちゃんに技を教えたくなってきたわ」

「それなら連携訓練も兼ねて、腕輪育成には私たちが同行するわよ」

「えっと、あれ? それ私過労死しない? 大丈夫?」


 オレ姉の発案から、どうやらとんでもない流れが生まれてしまったらしい。

 当のオレ姉は我関せずと私から目を逸らし、盛り上がった皆は今度こそ勢いに乗って意見を交わし合った。

 斯くして唐突に会議はその内容を大きく変更し、『ミコトもりもり計画』と銘打った過密スケジュール作成が開始されたのである。

 それを課される私の声は、その大部分が軽んじられ、流され。

 あれよあれよと地獄の修行メニューが組まれていく。

 特に、サラステラさんによるトレーニングとか、本気で遠慮したいのだけれど。

 残念ながら、骸と向き合うことを決めた私に、拒否権の類は存在しないのである。


 明日にも訪れるであろう地獄の日々を憂い、ぼんやりと虚空を眺めた私の目には、開きっぱなしのマップウィンドウが映った。

 そこに表示される、件の特殊アイコン。骸の場所を知らせるそれからは、今は不思議と恐さを感じなかった。

 私は、『私』のためにこれから死ぬほど頑張るのだ。だからどうか楽しみに待っていてほしい。


 きっと、ちゃんと受け継ぐから。

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