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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第三六〇話 新たな化け物

 私が意識を手放している一〇日の間に見つかったという、『化け物』を示す新たな特殊アイコン。

 マップウィンドウにそれが現れたというのならば、同じタイミングでアルバムの中に、身に覚えのない記録が紛れ込んだ可能性が高いということでもある。

 そのような指摘を受け、私は皆に手伝ってもらいつつその、身に覚えのない新たな写真をアルバムの中より見つけ出すことに成功したのだった。

 発見者はクオさんだったが、彼女自身それを見るなり不思議そうに首を傾げていた。

 何せそこに写っていたのは、見覚えのない装備を身に纏い、蒼穹の地平の面々と楽しげにしている私の姿だったのだから。

 それは私にも、蒼穹の地平何れのメンバーに於いてもまるで記憶に無いワンシーンを切り取った、鮮明な写真だった。


「まさか、本当にこんなものがあるなんてね……」

「他の世界線、でしたか。そこでは天使様が我々蒼穹の一員だったのですね」

「ぐぬぬ、写真の中の私が羨ましいです……!」

「なんだか不思議な感じだね」


 と、それぞれに感想を述べる蒼穹の地平メンバーたち。

 当の私からしても、やっぱり件の写真に写っている自分には、私であって私でないような、そんな不思議な感覚を覚えた。

 他方で鏡花水月の面々は、些か面白くなさそうにしていた。隣に座るオルカなんかは、ぎゅっと私の手を握ってくる。

 なので、「心配しなくても、私の居場所はここだよ」と告げれば、彼女は安心したように小さく微笑んでくれた。

 そうして写真を眺めながら一頻り皆で意見を交わした後、いよいよ話題は本題へ。

 即ち、アイコンの調査及び化け物への対処についての話に移ったのだった。

 改めてイクシスさんから、化け物に関する情報が挙げられる。


「アイコンの示す先に出現するであろう『化け物』に関して、現状判っていることはそう多くない。先ず、それはミコトちゃんにしか倒すことが出来ないこと。直接共闘できるのは基本的にその、謎の写真に写っている者だけであろうこと。化け物を倒すとミコトちゃんが不思議なパワーアップを果たすこと。それらのことから、恐らくミコトちゃんに関しての謎を紐解く鍵を握っているのであろうこと」

「……その化け物というのは、何か実害をもたらす存在なのでしょうか?」


 と、聖女さんが手を上げてそのように質問を投げた。

 対し、ふむと考えたイクシスさんはこちらへ視線を寄越してくる。

 なのでこれには私が返答することに。


「前回は、これって言う実害は確認できなかったかな。少なくとも出現させるまでは」

「その口ぶりだと、その化け物とやらはまだ出現していないみたいじゃない」

「そうだね……確か仮面の化け物の時は、アイコンの示してた場所に私とソフィアさんにしか見えない、仮面の欠片が散らばってたんだよ。で、私がそれに触れた途端……」

「その仮面の化け物というのが現れたのですね……!」


 アグネムちゃんの言葉を頷いて肯定すれば、クオさんがならばと意見を述べる。


「ということは、ミコトがその欠片に触れず、そもそも現場に近づきさえしなければ無害なままってことかな?」

「それは……未検証だから断言は出来ないけど、その可能性はあるね」


 私の答えに、聖女さんが次の問いを投げてきた。


「その『化け物』の強さというのは、事前の話で相当のものだと聞いているのですが。もう少し詳しく教えていただけますか?」

「前回戦った仮面の化け物は、私とほぼ同じスキルと、私が当時はまだ使えなかったテレポートなんかを使ってたよ。それにとんでもない剣の使い手だった」

「て、天使様と同様のスキル!? それは……確かに恐ろしい相手ですね」

「要は、実戦でガチのバカ仮面とやり合うようなもの、ということよね」

「…………!」


 リリの言葉に顔を青くしたのはアグネムちゃんだ。聖女さんやクオさんも深刻そうな顔をしている。

 そんな仲間たちの顔を一瞥すると、リリは静かに口を開いた。


「それで……あんたは私たち蒼穹の地平に、その化け物退治を手伝ってほしいって。そういうことよね?」

「……うん。出来れば手伝ってほしい。勿論無理にとは言わないし、言えないけど」


 リリのズバリとした問い掛けに、私は密かに心苦しさを覚えていた。

 リリやアグネムちゃんには以前、いつか力をつけた暁には、ということで既に協力要請を出していたことではあったのだが、思いがけず早いタイミングでアイコンを出現させてしまった。

 そしてこのアイコンは、未検証であるためいつ消えてなくなるとも、或いは何らかの災いを招かないとも限らず。

 何より私に関する貴重な情報を握っている可能性が高い。

 それ故、出来ることなら今回も対峙し、倒したいというのが本音ではある。

 のだが、いかんせん今回の化け物も私と同じようなスキルを多数所持している可能性が濃厚であり、決して油断のならない相手であることは疑う余地もないだろう。

 自画自賛にはなってしまうのだけれど、私がもしその気になれば、相手の不意をついて心臓を一突き……なんて芸当はそう難しいことでもないのだ。

 テレポートもあり、空間魔法もあるのだから、やってやれないことなんて無いわけで。


 もし今回の化け物もそれらのスキルを使いこなすのだとしたら、いつ誰が即死の憂き目に遭っても何ら不思議ではない。間違いなく、非常に危険な手合となるだろう。

 そんな奴を相手に、何が何でも力を貸してくれ! だなんて、流石に言えるはずもなかった。

 そして、リリたちもそれ程に危険な存在が相手だと理解しているからこそ、安請け合いなど出来ず。

 暫し、重たい沈黙が場を支配したのである。


 するとここで、レッカがポロッと意見を言う。


「どうしても倒さなくちゃいけないモンスターってわけでもないのなら、それこそ今回は放置してどうなるかっていう検証に当ててみるのはどうなの? それでもし危ないようなら、そのときこそ改めて協力して当たれば良くない?」

「! 確かに……それはそうかも」


 その意見に、私はなるほどと納得を覚えた。

 実際アイコンを放置していたらどうなるのか、という点は気になっていたところでもあるし、何より今回の化け物出現はうっかり私がリリにキャラクター操作を使用してしまったことが招いた、謂わばハプニングのようなものである。

 そんなうっかりの後始末をするために協力をねだるなんて、それは心苦しくて当たり前だ。

 だから、レッカの言う通り今回は様子見を決め込み、もしもアイコンがそのまま消えてしまうのであれば、それはそれで良いようにも思った。

 貴重な情報やヒントを手放すようで、惜しい気持ちもあるにはあるのだけれど、安全は何より優先されるべきなのだから。

 まぁ、より凶暴になった化け物が出現して、暴れ始める……なんて可能性が無いわけではないため、そこだけはとても恐ろしいのだけれど。

 しかし仮にそうなってしまったなら、その時こそ頭を下げて蒼穹の地平に協力を頼み込む他ないだろう。

 それでもし協力を断られてしまうようであれば、私が命懸けになったとしても単独で討伐するしか無いわけだが。それも已む無しか。腹をくくる他ない。


 なんて、私が一人で考えをまとめに掛かっていると。

 不意に誰かの大きなため息の音が耳についた。

 音の方へ振り向いてみれば、リリがこちらへジト目を向けているところだった。

 妙に考えを見透かされている気がして私がたじろいでいると、彼女は投げやりげにこう言うのだ。


「まぁ、蒼穹の地平としてどうするにせよ、私個人としては以前に約束しているからね。今更それを反故にするような真似なんてしないわよ。様子見っていうんなら、それはそれで構わないけどね」

「あ、そうですよ。私もちゃんとお手伝いしますからね! いざという時はお声掛け下さい!」

「リリ、アグネムちゃん……!」


 どうやら、最低でも彼女ら二人の協力は得られると分かり、正直ホッとした思いだ。

 すると私の手を握っていたオルカが、またぎゅっと力を込めて言う。


「勿論、私たちも協力は惜しまない!」

「ですです! 普通にしていたら見えない化け物も、【マルチプレイ】を用いれば対処できることは分かっているんですから、必要とあらば是非お力添えさせてください!」

「まぁ、マルチプレイ状態では奴に決定打を与えられないという欠点もあるのだがな……それでも何かの足しにはなるかも知れない」

「マルチプレイ……はぁ……はぁ……」

「ありがとう、みんなのことも勿論頼りにしてるよ!」


 頼もしい仲間たちの声に、私は少しだけ考えを改める。

 どう転んだとしても、私が一人で踏ん張らなくちゃならない状況、だなんていうのはきっと訪れないだろう。

 だって、こんなにも頼りになる人たちが私にはついているのだから。

 するとイクシスさんたちも。


「前回は私の技で仮面の化け物を一時足止めすることが出来たのだよな。なら、今回も役に立つかも知れない」

「パワーがあれば何でも出来る! ぱわ!」

「ヒヒッ、その点おばあちゃんはきっと役に立つわね。バフでミコトちゃんたちをいっぱい強化しちゃうんだから」


 という頼もしい言葉をくれた。

 特にレラおばあちゃんは間違いなく大きな戦力だ。

 何せ彼女の力は化け物にではなく、私たちに働くのだ。化け物に対しては術を掛けられないとしても、当然私たちへの補助ならば幾らでも可能であり、それはきっと大きな助けになることだろう。


 そのように皆から心強い声を掛けられ、もし化け物が勝手に暴れだすような事態になったとしても、きっと何とかなるだろうという安心感を得ることが出来た。本当に有り難いことだ。

 しかしともあれ、である。


「ありがとうみんな。だけど今回の化け物に関しては、以前戦った仮面の化け物を超える力を持ってることが予想できるし、先ずは放置しておいてアイコンが消失するのかを確認してみようと思う」

「む。戦わないぱわ?」

「その必要性と、十分な準備があれば戦うけど、今はその何れもが心許ないからね……化け物との戦いって、言ってしまえば私個人の事情にみんなを巻き込んでるだけだから、スルーできるのならそれに越したことはないのかな、とも思うんだ。準備の方も、本来はもっと力を蓄えてから臨むつもりだったしね」


 私は、私がここにいる理由を知りたい。

 へんてこなジョブやスキルを持っているのも不思議だし、この世界がこんなにもゲームっぽいのだって解せない謎だ。

 不可解に思えることは、本当に幾らだってあって。化け物は何やら、大事なヒントを握っているように思える。

 だから、出来ればちゃんと対処したいし、正直蒼穹の地平の力も借りたいと思っているのだけれど。

 しかしそれでは結局、私の事情に皆を付き合わせて、危険に巻き込んでしまうわけである。

 いくら約束をしたとは言え、戦いともなれば命懸けになるのだし。故に彼女らをそこへ無理くり巻き込みたくはないのだ。

 特に今回は、もし仮説が正しいとするなら、リリたち蒼穹の地平と一緒に旅をした別世界の私が化け物のベースとなっているのだろう。そんなの、絶対強いに決まっているじゃないか。

 下手をしたら、本気で誰かが命を落としてしまうかも知れないし、それはもしかすると私かも知れない。


 命あっての物種。死んだらそこでおしまいだ。

 だから、今回は先ず安全に様子見をしようと……。


 …………?


 ……いや……死んだら、おしまい? 本当にそうなのかな……?

 私は死んだからこそ、ここに居るっていうのに……?


「まぁ、そこはあんたの判断に任せるわよ。ただ、必要と感じたなら遠慮なんかするんじゃないわよ! これだけのメンツが揃って、厄災級すら倒した私たちなんだし、そんなよく分からないモンスター一匹に遅れなんて取るはず無いんだから」

「そうですとも! 何なら慎重派のクリスちゃんもクオちゃんも、このアグネムが説得を……って、あれ? ミコト様、どうかなさいました……?」

「……………………」

「? ミコト様?」

「…………え、あぁ、ごめん! 聞いてなかった!」


 アグネムちゃんの声に、私は思考の中から引き戻され、やらかしに気づき慌ててヘコヘコと謝罪する。

 なんだかリリが妙に赤い顔をしているけれど、もしかして私大事なセリフ聞き逃した?

 途端に申し訳ない気持ちに苛まれる私。リリには後でフォローを入れておかねば、しばらく口をきいてくれないかも知れない。やばいやばい。

 頭に浮かんだ考え事を一旦隅っこに追いやり、今は話し合いに集中である。

 イクシスさんに目配せをすれば、程なくして結論は定まった。


 即ち、特殊アイコンに関してはしばらく様子見を行うこと。

 そしてイクシス邸に集まったこのメンツに関しては、一旦解散することも併せて決定したのである。


 その後も細々とした話し合いはもうしばらく続き、ゆっくりと夜は更けていったのだった。

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