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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第三五四話 頭に花を咲かせましょう

 それはゴツゴツとして厳つい、到底乙女が身に着けるにはミスマッチと言わざるを得ないような分厚い腕輪だった。

 さりとてはめ込まれたその大きな宝石は、まるで見たこともないような特殊なカッティングの施されたジュエルのようで。不思議な煌めきを内包し、そこには見る者の目を引きつけてやまない、魔性とすら思えるような強烈な魅力が感じられた。

 しかしながら見た目からして随分と重そうな、金属製の腕輪である。一見したら雑な鉄塊のようにすら見えるそれには、しかしよくよく見れば洗練された造形美があり。如何にも奇妙な見ごたえが感じられた。

 色はぱっと見た限り白銀色をしているのだが、光の具合では緑を帯びて見えたりもする。謎宝石はそこに一枚載っかった花弁のような、蠱惑的な紅色をしていた。

 ただ美しいと言うよりも、趣深いと評するべき不思議なデザインの逸品であった。

 その名を『綻びの腕輪』。

 彼の厄災級アルラウネが残したという、とてつもなく希少なとんでもアイテムである。


 そしてそれを、イクシスさんは私へ向けて差し出し言うのだ。


「さぁミコトちゃん、受け取ってくれ。これはキミにこそ相応しい」


 それは、未熟で拙い私の働きを、それでも皆が評価してくれた、その証でもある。

 であれば、未だ複雑な思いこそあれ、私に拒むことなど出来ようはずもなく。

 おずおずと、躊躇いがちに差し出した手の上に、それはポンと優しく置かれたのである。


「綻びの腕輪……これが、厄災級のドロップアイテム……」


 受け取ったそれを、私がまじまじと感慨深く眺めていると、しかしじれったそうにリリが言う。


「見てないで、試しに着けてみなさいよ」

「え、あ、うん……っていうかイクシスさん、この腕輪の能力ってなんなの? 特殊能力とか付いてるんだよね?」

「すまないミコトちゃん。分からんのだ」

「え」

「私の鑑定でも不明だった。試しにと皆で装備してみたが、それでもうんともすんとも言わなくてな」

「えぇぇ……」


 その話を聞いただけで、私は何だかこの腕輪が途端に胡散臭いもののように思えて、じっと皆へ視線を向けてみる。

 ついっと目を逸らされてしまった。


「まさか、詳細不明だからただ単に余ったとか、そういうことじゃないよね……?」

「は、はは、何を言うんだミコトちゃん! 厄災級のドロップアイテムだぞ? そんなしょうもない理由でたらい回しにされるわけ無いじゃないか!」

「……ほぉ。その上それだけ重大なアイテムだから、誰も持ちたがらなかったと」

「心眼で読むのはずるいだろう!」

「カマをかけただけだよ」

「ぐぬぬ!!」


 えぇ……じゃぁさっきまでのくだりは何だったんだ。私の功績云々は?

 仮面の下で涙目になり、今一度皆を見回してみる。

 すると、そんな私の背にポンとオルカが手を添えた。


「大丈夫。確かにその腕輪は得体が知れないけど、ミコトの頑張りをみんなが認めているのは偽らざる事実」

「さらっと得体が知れないって言ったね……」

「それも事実」

「ぉぉ……」


 良くも悪くも裏表のない、オルカのストレートな言に毒気を抜かれ、私は今一度腕輪に視線を落とした。

 見れば見るほど妖しげに見えてくる、不思議な腕輪である。

 私はゴクリと生唾を飲み込むと、徐に装備を一つストレージにしまって、装備枠に空きを作った。

 そして、恐る恐る腕輪へ右手を通そうと近づけていく。


「……や、やっぱり恐いから左手にしておくか……」

「いいから早くしなさいってば!」

「わ、分かってるよ!」


 短気なリリに急かされ、私はいよいよ覚悟を決めて一思いに左手を輪の中へ通した。

 輪の大きさはぶかぶかで、私の手なんて両手同時に突っ込んでもまだ余裕があるくらいには大きい。

 が、そこはファンタジーな装備アイテムだ。腕を通した途端、輪の大きさはシュルリと変わり、私の手首にジャストフィットするサイズへ変じてみせたのである。ダンジョン産のアイテムなら、然程珍しいことでもない不思議機能である。

 だが、だというのに。

 何故だか、それを目の当たりにした他の面々からは驚きの感情が見て取れた。何ならそれを声に出した者すらあるほどだ。


「腕輪が、反応を示した!?」

「我々の時には起こらなかった現象だ……」

「つまり私達は、装備したつもりになっていただけってことですね」

「だから特殊能力も発動しなかったと」

「! ということは、今なら!」


 そんな具合に、あれよあれよと意見交換が始まり、そして私へと熱い視線が向けられた。

 視線だけで彼女らが言いたいことが分かる。試してみろとその目が語っているのだ。

 どんな特殊能力を秘めているのか、とても気になる。だから実際試して見せてくれと。


「屋内じゃ危険だと思うんだけど」

「む。それはそうだな……」

「というか先に、戦利品の分配を行うべきじゃないかな」


 私の提案に、イクシスさんをはじめとした皆も同意を示し。

 しかし余程腕輪の力が気になるのだろう。彼女らは随分と早足で話を進め始めたのである。

 机の上には手際よくPTストレージより取り出された戦利品の数々が丁寧に並べられており、壮観な眺めを作っている。やはり注目の品はダンジョンボスドロップやダンジョンクリア報酬だろう。どれを見ても強力そうな品ばかりである。

 他方で普通の宝箱産や、ドロップアイテムの類は一纏めにして、ワゴンセールが如く雑に積まれている辺り、注目度の差を如実に表して見えた。


「ではミコトちゃん、この中で他に欲しいアイテムはあるか?」

「や、十分なので。これ以上は貰い過ぎになっちゃうので」

「ご安心くださいミコト様、仮面の類はちゃんと確保してあります!」

「お、おぅ……」

「では、事前の話で各々予約を入れた品を取ってくれ。不要なものは寄付に回すからな、他に目ぼしいものがあれば各自で見繕うように」


 イクシスさんがその様に号令を出せば、早速皆がワラワラと席を立って、お目当ての品めがけ飛びついたのであった。

 流石に大人組はそこまでがっつきこそしないが、それでもしっかりと自分の分のアイテムを手に取っている。

 そうして物の一分足らず。皆の手元には何れも強力な品々が輝いており、その表情もまた一様に満足げであった。

 そして、そんな様子を眺めていた私の手元にも、何故か求めた覚えのないアイテムが。


 それは、随分とへんてこなカチューシャ……だろうか。

 兎にも角にも目を引くのは、その大きな花である。それはこの場の誰が見ても一目で分かる、花人形が頭に咲かせていたあの花を忠実に模した物であった。その根本にカチューシャがついており、頭に装着できるようになっている、と。

 要はコスプレグッズが如き、テンションのおかしなアクセサリーアイテムである。

 一体全体それが何故、私の目の前に置かれているのか……。


「あの……これは?」

「ミコトちゃんに、受け取ってもらおうと思ってな」


 そう言ったのは、イクシスさんである。

 皆も、ちらちらとこちらの様子を窺っているらしく。妙な視線がいやにこそばゆい。


「要らないんですけど。寄付に回してもらったほうが……」

「それは出来ない。何せダンジョンクリア報酬の一つだからな、取り扱いの難しい品なんだ」

「じゃぁ誰か他の人に」

「余ったんだ」

「……え?」

「誰もそんな花を頭に載せて戦いたくない。だから誰も欲しがらなかった。つまり余り物だ」

「…………」

「ミコトちゃん、言ったよな? 自分は余り物でいいと。だから、これ」


 ずいと、真顔で改めてそれを差し出してくるイクシスさん。

 大輪のその花は、そこいらのフライパンより一回りも二回りも大きく、非常に迫力あるサイズ感で威容を示しており、鮮やかなその色は目にも痛い。

 一言で言うと、クソダサい。


「要らないです」

「『ワガマママウントフラワー』という強力な装備アイテムだぞ? 特殊能力も凄いんだ」

「訊いてないです」

「自身を中心に特殊なフィールドを作ってだな。そのフィールド内の味方には強力なバフを。敵にはデバフと状態異常を付与するという、見た目にさえ目をつぶれば破格の性能を誇るアイテムなんだ!」

「その見た目がヤバいんですけど」

「ミコトちゃんは前にもウサミミを着けて燥いでいたじゃないか。それと同じようなものだと思えば」

「ウサミミをバカにしてんの?!」

「……ステータス補正値も非常に高いんだが」

「……………………」


 結局、根負けした私は無言でそれをストレージにしまうのだった。

 それと、ココロちゃんとアグネムちゃんがニッコニコで持ってきてくれた仮面の類も。

 私ってば、いつから仮面コレクターだと誤解されてたんだろう……まぁ、有り難いんだけどね。


 斯くして戦利品の分配は済み、私たちは各々新たな力を手にするに至ったのである。

 そして、話し合いは一時中断。

 皆でワラワラと会議室を出ると、そのままイクシス邸裏手の訓練場へ向かったのだった。

 目的は無論、私の左手にガッチリハマっているこの腕輪を精査すること。

 果たして、コレには一体どんな力を秘めているというのか。私も内心、穏やかでは居られなかった。

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