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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第三五二話 後ろめたさ

 朝食も済み、【吸収】に関する話題も落ち着いたところで、私たちは場所を食堂から会議室へ移した。

 予め暖房の効いた部屋に入るなり、皆は早速それぞれ適当な席に腰を下ろす。

 思えば私は小会議室しか利用した覚えがないのだが、皆はどうやら違うようで。妙に慣れた空気感がそこには感じられ、私が寝ている間にここでなにか話し合ったのかな? という漠然とした勘ぐりが脳裏に浮かんだ。


 生活感の薄く、施設然とした空気の匂いにいささか背筋が伸びる思いを感じながら、私もまた並んだ長机に備えられた椅子の一つへ腰を落ち着ける。さり気なく右隣にはオルカが座った。

 そう言えば彼女は『ミコトの右腕』を自称していたけれど、思い返すと私の右隣に位置していることが多い。妙なこだわりを感じる。

 因みに左には、ココロちゃんがニコニコして座っている。年長者とは思えない、実にあどけないスマイルである。


 お尻の位置を微調整しながら、少しの物珍しさとともに部屋の中をきょろきょろ見回せば、部屋の最奥にホワイトボード代わりの魔道具がでんと鎮座している様が目についた。その名もまんまマジックボードというらしい。

 魔力に反応して色が変わる仕組みなので、指で何かを書いたり、専用のペン型魔道具を用いることも出来るとか。

 そう言えば妖精師匠たちも、おもちゃで魔法のキャンバス、なんて作ってたっけ。


 そんなマジックボードの前に立ったのはイクシスさん。彼女が司会進行を担ってくれるらしい。

 というかそもそも、なにゆえこんな堅苦しい場所へわざわざ移動してきたのか、という点を私はいまいちよく理解していなかった。

 ので、これから何が始まろうっていうのだろうかと、ソワソワしながら視線を右へ左へ。皆の表情を伺ったりしていると、程なくしてそれは始まったのである。

 ボード前に立つイクシスさんが、はじめに軽い挨拶を述べる。


「えー、それでは。ようやくミコトちゃんも戻ったということで、早速ではあるが先の厄災戦にまつわる諸々について、報告及び協議を行っていきたいと思う」


 そこから先ず始まったのは、改めて厄災級アルラウネとの戦闘を終えての現状、現地の様子だったりノドカーノや冒険者ギルド、その他諸々の動きに関しての情報等がつらつらと語られていった。

 私が既に聞いた内容も中にはあったけれど、初耳の情報も多く、特に私達が攻略した例のダンジョンが既に消失している、という知らせには思わず声が出てしまった。


「あの時のソフィアさんの判断は正しかったってことか」

「しかし結果、ミコトさんを一〇日も意識不明に追いやってしまいました……申し訳ありません」

「や、回収に行かなくてもどの道意識は戻らなかったと思うし、気にしないで。元はと言えば思いつきで変なことを始めた私が悪いんだし。それにもしアイテムを回収できていなかったらって考えると、そっちのほうが悲惨だったろうしね」


 しゅんとするソフィアさんをその様にフォローすれば、それは確かにそのとおりだと他からも声が上がった。

 便乗してイクシスさんまでもが、「確かに、モンスターの使うスキルを真似して成功させるだなんて、他じゃ聞いたこともない」と茶化してくる。

 その口ぶりから、一応私と似たようなことを考える人はいるんだなと、顔も名前も知らないその誰かさんに、そこはかとない親近感を覚えるのだった。


 その後も一通り、イクシスさんから幾つかの情報が齎され、厄災級の引き起こした被害の凄まじさというものを改めて重く受け止めることになった。

 が、そんな私とは異なり。

 厄災級というモンスター本来の脅威度をよく理解している面々の表情は、存外暗くもなく。

 それを示すように皆が、口を揃えて言うのだ。「厄災戦が起こったというのに、たったこの程度の被害で収まったなんて、とても信じられない」……と。


 どうやらこの話題も、私が寝ている間に繰り返し出たようで。

 皆しみじみとした感じで語るのだ。


「先ず情報収集だな。リアルタイムに戦場の様子を送り続けてくるカメラの存在は、非常に大きなアドバンテージを齎してくれた」

「それを言うならそもそも、現場への到着速度が異常でしたね」

「私達をかき集めた転移からしておかしいのよ」

「おかげで五〇階層級のダンジョンを四つも、あり得ない速度で制覇したからね」

「それがあればこそ、アルラウネの成長を妨げて、不完全な状態に停めることが出来た」

「もしもそれらがなかったらと思うと……今回の厄災級は魔王に匹敵していたかも知れないぱわ」

「ああ。それは十分に有り得た話だ」

「そうね、何せ成長と時間稼ぎに長けたモンスターだったようだものね」


 サラステラさんから出た、不吉な言葉。

 しかしそれはイクシスさんも、レラおばあちゃんでさえ肯定するところであり、そこから転じて『当たり前だった顛末』を想像し始める面々。

 口火を切ったのはイクシスさんだった。


「本来であったなら、恐らく今頃になってようやっと私が現場に到着し、大慌てで暴れていたはずだ」

「でしたら、既にアルラウネは相当の栄養を大地や立ち向かってくる者らより【吸収】して、力を蓄えていたに違いありません」

「私はまだ雪山に籠もっていたか、ようやく厄災級出現の噂を耳にして向かってる頃ぱわ」

「私たち蒼穹の地平にも、似たようなことが言えるでしょうね」

「おばあちゃんは現場でみんなにバフを掛けている頃かしら。でも一〇日も戦っているのではきっと、随分くたびれているに違いないわ」

「だがそうであるなら、母上と協力して奴を繭に引っ込ませるくらいのところまでは出来ているんじゃないだろうか?」

「だとしたら、ダンジョン攻略中ですか。それはそれで手こずっていそうです」


 つまり、厄災級討伐から一〇日も経過した現在。

 本来であれば今頃は、まだせっせとダンジョン攻略を行っている頃合いだろうと。それが皆の見立てであった。

 もしそうなっていたら、あのアルラウネは一体どれほど育っていたことか……そして、今の何倍の土地が死に、どれだけの村や町、都市などが被害に呑まれていたことだろう。もはや想像すらつかない。


「そう考えると確かに、被害はずいぶん小さく抑えられたって考えて、いいのかな……?」

「そうだぞ、ミコトちゃん。キミは胸を張って良いんだ」

「ぱわ。今回の戦い、もしミコトちゃんが居なかったら、今の想像話は間違いなく全て現実のものになってたぱわ!」


 二人の言葉に、皆が同意を示してくれる。

 全員口を揃えて、被害をここまで小さく抑え込めたのは、私の力があったからこそ出来たことだと。

 それは確かに、嬉しい言葉ではあった。

 けれどやはり、『もっと上手くやれたんじゃないか?』って思いは消えず、モヤモヤとした気持ちは結局私の中に残り続けたのである。

 さりとて、後ろめたさからそれは誰に打ち明けるでもなく、胸の内に留めたまま。話は次の議題へと転がっていった。


 そしてこの議題には、この場の誰もが目を輝かせる事になったのである。

 なぜなら、それというのが。


「さて、ではそろそろ皆のお待ちかね、戦利品分配の話に移ろうか!」


 そう。頑張ったその見返りが、いよいよ配られようというのだから。

 しかしここでの話し合いが、その内容を決定づけるものであるとも分かっていればこそ、皆の瞳には輝きとともにメラメラと火が灯っているようにも見える。

 冒険者たるもの、やはりこの瞬間に心躍らずには居られないのだ。


 けれど私の場合、幾つかの理由から皆ほど高揚を覚えはしなかった。

 件の後ろめたさもその一つだが、そも私は冒険者になってまだ半年ちょっと経ったばかりのペーペーであり、厄災級関連の品だなんていうのはどう考えても手に余る。

 あと、一〇日も眠りこけていた私と違い、その分だけ待たされていた皆とは、そもそもの温度差があった。

 というわけで、くわっと表情を変える周囲に気圧され、私は余り物でも頂戴できれば十分だな、程度の意気込みで臨むことに。


 しかし存外、これに関しての話は私の居ない内にある程度進んでいたらしく。

 アイテムの内容とその効果に関しては、この一〇日の間にガッツリ調査が進んでいたようだ。

 その上で、予め各々が希望する品を挙げ、被りがなければ実質予約が成っており、希望者が重なった品に関しても事前に話し合いが設けられていたそうな。やる気が違うのである。


 このことから、皆の注目は私へと向いた。

 唯一その事前打ち合わせに全欠席してしまっている私は、今この場でアイテム一つ一つを見て、欲しい物を挙げろと。そう指示されたのだ。


「遠慮はいらないぞ、ミコトちゃん。そもキミは装備の能力がステータスに直接影響するのだからな、欲しい物があればズバリ言うんだ!」

「え……いやいいよ、私は余り物で」


 イクシスさんの言葉に、私がその様に返すと。

 瞬間、部屋の中が水を打ったように静まり返ってしまった。

 誰もが、『何いってんのこいつ?』みたいな目でこっちを見てくる。

 それがあまりに居た堪れなかったので、急ぎ私は取り繕うように言葉を付け足した。


「あー……えっと。私は今回、自分の働きにあんまり満足出来てないっていうか……私がもっと上手くやれば、助けられた人も沢山いたんだって。そう考えちゃって……。だから私の分の戦利品は、ノドカーノに寄付してほしい……かな」


 ポロッと、さっき呑み込んだはずの本音が口をついて転がり出てしまった。

 けれどこれが、偽らざる思いでもあるため、引っ込める気にもならない。

 そんな私の言を受け、皆は一瞬言葉を失くしたように声を詰まらせた。


 実際、さっきみんなが言ってくれたとおり、私の力があればこそアルラウネの被害を小さく抑えることが出来た。私が居なければ今頃は大変な被害が出ており、しかも討伐には程遠い状況だった、というのは確かだろう。

 しかしそれなら、私がもっと上手くスキルを活用できていたならどうだろうか。或いは、もっと早く【吸収】に目をつけ、生命力(仮)のコントロールに成功していたなら。

 そうしたら、きっともっと多くの人を死なせずに乗り切れたはずなんだ。

 よく『大きな力には、大きな責任が伴う』だなんて言うけれど。

 私は今回、それを身を以て理解した。私の判断一つ、閃き一つ、行動一つによって、左右された命が沢山あったんだ。


 私が、取りこぼしてしまった命がある。私が下手くそなばっかりに死なせてしまった人たちがいる。

 それを思うと、あれが欲しい、これが欲しいだなんてとても言えやしなかった。


 私は吐き出すように、そうした内心を皆に吐露する。

 それはいっそ、懺悔のようですらあった。

 言ってみたところで、独りよがりにしかならないだろう。死んだ人が生き返るわけでもないのだし。

 それでも私の口は、堰を切ったようにポロポロと本音をこぼし続けたのである。

 我ながら、精神的に未熟だなと。そんな自嘲が最後に小さく浮かんでは消えた。


「そんなわけだから、私は今回何も受け取れない。アイテムはみんなで分けて」


 それだけ言うと、私は口を閉ざした。

 口を閉ざし、内心で悶え転がった。

 せっかくみんな重い話から切り替えて、ワクワクの報酬タイムだって盛り上がってたのに、その空気をこの上なくぶち壊してしまったのだ。

 大人げないどころの話じゃ済まない。完全に空気読めないヤツである。

 いっそ転移してどこかへ逃亡を図ろうかと考えてしまうくらいには、針の筵が如き居心地の悪さを覚えている私。

 言わぬが花、だっただろうか?

 だけどもし、何も言わずに戦利品を分け与えられたとしても、絶対納得なんて出来なかったし。かと言って理由も言わず受け取れないと突っ撥ねても角が立っただろう。

 スマートな対応でこそ無かったけれど、私なりに筋を通したのがこの結果である。ならば居心地の悪さくらい、寧ろ甘んじて受け入れねばなるまい。


 なんて、私が一人仮面の下で口を一文字に結んでいると。

 イクシスさんが自身の後頭部を撫でながら、小さな溜息とともに言うのだ。


「いや、それは困る。何せミコトちゃんには既に、アルラウネからドロップしたアイテムの割当が確定しているんだから。これをもし寄付しようものなら、それこそ国家規模の大騒ぎになるぞ」

「……………………は?」


 そのあんまりな内容に、閉ざしたはずの唇は、間抜けな音の脱走を許したのだった。

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