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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第三四八話 白い十字架

 スペースゲートを繋げた先。

 それは、奴の上半身が人間のそれと同じような形をしていればこそ安全な、背の真ん中辺り。

 勝負は一瞬だ。何せ空けたスペースゲートは動かすことが出来ないのだ。

 もしも奴が今、突然体の位置をずらそうものなら、呆気なく私の思惑は崩れ、グダグダになることだろう。

 だから一瞬で取り掛かり、直ちに作業を終えねばならなかった。


 スペースゲートを展開した瞬間、私は躊躇わずその内に左手を突っ込み、そしてその向こう側にある奴の体へ手を差し込んだのである。

 奴は実体のない、エネルギーの塊のようなもの。故に何ら抵抗らしい抵抗もなく、私の手はするりとアルラウネの体表を通過したのだ。そこにはさながら幽霊にでも触っているような、得も言われぬ不気味な感触があった。気のせいかも知れないけど。

 そうして直後、【吸収】による生命力の吸い上げを行った私。

 外付けのエネルギータンクとして用意したグローブ内に、吸い上げたそれを溜め込んでいくわけだが。

 想定よりエネルギーの濃度が高く、瞬く間に左手グローブは満タンになってしまった。


 慌てて右手と交代し、同じくエネルギーを吸い出し貯める。

 工程はものの一秒ちょっと。

 本当はこうして直接触れるなんてリスクは冒したくなかったのだけれど、ワイヤーが切られたのだから仕方がない。

 自らの手を覆うこのグローブの中には今、先ほど酷い目を見せられた謎エネルギーが詰まっているわけで。

 正直気が気ではない。心臓もバクバク言いっぱなしだ。もしも意図せずグローブが破裂でもしたなら、どんな悲惨な目に遭うか分かったものではないのだから、無理もないだろう。

 さりとて努めて冷静に、工程は素早く次へ。

 奴は力を吸われたことを敏感に察知し、ビクッとしてその場を退いた。さながら、背中を虫に刺された人間のような動きだった。

 しかしその頃には既に手を引っ込め、ゲートも閉じていた私。


「さて、問題はここからだ……」


 さながら手袋越しに劇薬にでも手を突っ込んでいるような心持ちの中、しかし奴が背に生やした歪な枝で、力を補充するその行動を直ちに阻止しなくてはならない。

 更にはイクシスさんたちに奴の意識が向かぬよう、注意を引きつける必要もあり。

 グローブ内に溜め込んだこの劇薬をどうこうする前に、私は先ずもう一手打っておくことにしたのだ。

 つい先程まで、ご機嫌に奴が魔法攻撃を集中させ続けていた、私の張った隔離障壁。その付近からアルラウネ目掛けて、遠隔で攻撃魔法をペチペチと放ってやれば、未だ怒りに目を曇らせた奴は簡単に挑発に乗り。

 枝からの吸収と並行して集中攻撃を再開し、ヒステリックに暴れ続けたのである。

 流石に吸収を止めさせることまでは叶わなかったが、しかしこれで奴の意識を縫い止めることには成功したはず。


 そんなアルラウネの様子を一瞥した私は、次にグローブへと意識を集中し、その内に奴から吸い上げた生命力(仮)の存在を確かに感じ取った。

 ここまでは一応予定通り。

 ゆえにこそ、大事なのはここからだ。

 先程、無我夢中で行使した生命力をコントロールするための術。あれを今一度用い、グローブ内のこの力を奴にぶつけて背中の枝を叩き折る。

 そうして奴のエネルギー吸収を止めさせるのだ。


 正直、さっき生命力をコントロールした時は必死で、結構記憶が怪しかったりする。ゲームで言うならレバガチャのまぐれ当たりにすら近い感じだ。

 さりとて自らの成したことには違いない。

 いくら必死だったとは言え、頭が真っ白になっていたわけでもないのだ。

 先程のそれは、私の体内に侵入しようとした生命力を体外へ排出し、一纏めにして発射した。という、そのくらいの認識はある。

 ならば先ずは、そのおさらいである。


「左手のグローブから、エネルギーを取り出し、一纏めに……」


 スキルシミュレーターを駆使して【生命力(仮)コントロール】の術を再度見つけ出し、それを慎重に行使する。

 今更だが、かなり繊細な魔力のカタチから成る、極めて特異な部類のスキルって印象を覚えた。ソフィアさんが大喜びしそうだ。

 私は左手を上向きに薄く開き、その手の上にグローブ内から生命力をそっと放出。

 それを一纏めにし、球体を形作るイメージで丁寧に操作した。

 想像を遥かに超える、繊細な作業だ。頬にも背中にも、じっとりと汗が伝って流れる。


 生命力と仮称するそれに色はなく、発光するでもなく、形が目に見えるわけでもない。さながら無色透明の気体が如き謎エネルギーだ。

 しかし私は確かに、その存在を左手の上に感じており、不慣れでこそあれ、操れているという確信もあった。

 今回は体内に取り込んだわけではないため、前のような強い不快感も特に無い。

 が、張り詰めた緊迫感はある。喩えるなら、気体状の火薬でも取り扱ってるような気分だ。

 瞬きも忘れるほどの集中。震える息を小さくこぼす。疲労から乱れそうな意識を辛うじて掻き集め、どうにかこうにか制御を成功させていく。

 そして私は、慎重に慎重にその左手を、アルラウネへ目掛けてかざしたのだった。


 しっかり狙う、という意識はない。不思議と、ぶつけたい場所とそこへ至る軌道をイメージできれば、その通りにコレは飛んでいってくれるような、そんな確信があったから。

 だから私は、こちらに向いている奴の背。その肩甲骨辺りにある枝の根元を見据え、そこへこの弾がまっすぐ飛来するようイメージしながら、小さくつぶやいたのである。


「……行って」


 直後。

 シュンッと、イメージ通りに生命力で作ったその弾が、私の左手からすごい勢いで離れていく感触を確かに覚えた。

 かと思えば視界の先で驚くべき、しかし予想通りでもある、あからさまな結果が生じたのである。

 即ち、奴が背に生やした二本の枝、その根本を生命力の弾は、なんとまとめて消し飛ばしたのである。

 破壊面はまるで削り取られでもしたかのような、胸に空いた大穴と似たようなものだった。

 そしてそれは同時に、奴へとてつもない激痛を齎したようで。

 背の枝は忽ち形を失い、宙空へ霧散し。そして奴は身を仰け反らせ、声にならぬ声にて悲鳴をあげた。


 すると、当然その様を見ていたイクシスさんたちから動揺の声がやってくる。


『な、なんだ?! どうした!? 何があった?? ミコトちゃんの仕業、なのか?!』

『あらら、気を引いておくって、こういうことだったの? おばあちゃんまたまたビックリだわ!』


 生命力の弾は目に見えず、そして魔法のように魔力の気配で感じ取ることも出来ない。

 そのためイクシスさんたちからはまるで脈絡なく、アルラウネの背枝がポッキリと勝手に折れたように見えたことだろう。

 けれどその原因を即座に私へ結びつけて考えたのは、枝の根元と胸の穴に似たような断面を認めたからだろうか。

 二人は酷く困惑しているようだけれど、しかし今はそんな場合でもない。


「それよりチャンスだよ! 技の準備はできたの?」

『! あ、ああ。今終わった所だ!』

『ええ、いつでも撃てるわよ』


 大技準備の進捗を問えば、返ってきたのは心強い返事だった。

 これで何時でも決着をつけられる。

 が、ふと私は右手のグローブに視線を落とした。

 そこには未だ、先程吸ったアルラウネの生命力が残っており。

 枝を折るのにこれくらいは必要なんじゃないかと、とっさに右手にも吸っておいたそれは、今となっては完全に余り物だ。

 しかしもし奴を仕留めた後でこれが使われぬまま残っていた場合、変なトラブルを招く原因になるのではないかという懸念が、ふと脳裏を過ぎったのである。

 ならば、これもちゃんとここで使い切っておくべきだろう。

 それから、四本の舞姫たちも忘れずに回収しなくては。

 というわけで。


「ごめん、撃つのは少しだけ待って。すぐ済むから」

『? な、何をするつもりなんだ……?』

「まぁ、ちょっとね」


 説明が面倒なので、適当な返事でお茶を濁し、早速私は右手のグローブへ意識を集めた。

 先程の弾は謂うなれば、初歩の初歩。生命力を駆使して放つ攻撃の中でも、非常に原始的なものの部類に入る気がする。

 そこで、次はもう一歩踏み込んだ攻撃技に活用してみようと、私はそう考えたのだ。

 しかしあれこれと試行錯誤している時間はないので、発想をダイレクトに実戦投入という、普段はやらないぶっつけ本番を試みることに。


 弾が出来たのなら、次はそれを炸裂させてみよう。それが今回の試みである。

 私は先程同様にグローブより生命力を取り出すと、それをさっきより手際よく弾の形に整え、そして発射体制に入る。

 右手の平を悶絶する厄災級アルラウネへ向け、強くイメージ。

 命中させたい場所と、そこへと至る軌道。更に今回は、命中時に弾が炸裂するようしっかりと念を込め。

 そして、放った。


 結果は……成功である。しかも、その成果は想像以上で。

 ヒットした場所は奴の左肩。予想では、腕を落とせたら御の字、程度に思っていたのだけれど。

 しかし蓋を開けてみればどうだ。

 奴の体は唐突に、左半分が大きく損傷し、左腕は疎か左胸や顔の半分までもが吹き飛んでしまったのである。

 もしも奴が生身だったら、それはそれはグロい画になっていたことは間違いない。


『は……?』

『え……??』


 状況の飲み込めないイクシスさんたちからは、ただただ困惑の声が聞こえてくる。

 それを聞き流しながら、私は密かに肝を冷やしていた。

 今の攻撃に、舞姫たちを巻き込んではいないかと心配だったのだ。何せ予想以上のダメージである。その余波が私の愛武器を傷つけていないとも知れなかったのだ。

 しかし幸いだったのは、予め奴の体内に未だ滞在している舞姫たちを、極力弾の命中箇所から遠ざけていたことか。

 舞姫たちが今あるのは、奴の下半身。即ち、大仰な大花の中である。

 舞姫は完全装着により、私の体の一部として扱われている。そのため、何かしらの損傷があればそれを感じ取るくらいは出来るのだ。流石に痛覚が通っているわけではないけれど、爪の先くらいの感覚はある。

 それ故舞姫らが無事なことは分かった。ならば急ぎ回収をしたいところだけれど、さりとて問題が一つ。

 どうやら、生命力を吸っている現状の舞姫はストレージにしまうことが出来ないようなのだ。

 収納を受け付けないこの感覚は、MNDによる抵抗を受けた時のそれにとても近く。

 そこから予想するに、アルラウネの生命力を宿している今の舞姫たちは、奴のMNDが影響してストレージへの収納行使を跳ね除けているものと考えられた。

 であるならば、舞姫は直接回収の後、そこに溜まった生命力を排出してやる必要があるだろう。


 幸い生命力の扱い方もちょっと分かってきた所だ。

 早速私はスペースゲートにて、宙に浮かんでいる奴の下方、スカートのように下向きに咲く大きな花の下に移動し、そして即座に四本の舞姫を手元へと呼び戻した。

 すると案の定、舞姫たちの中には吸収を施したせいで生命力が溜まっており、うっかり素手では触れない状態になっていたのである。


「むぅ、それなら……」


 私は宙に浮かべたままの舞姫を、触れること無くそのまま合体させた。いつもの風車型である。

 いつもと違うのは、それぞれの柄尻にワイヤーが取り付けてあったため、それが四本分びろんと垂れ下がっていて如何にも格好悪い。あと挙動が予想しにくく危なくもある。

 しかし触れもしないのでは、これを取り外すのにも一苦労だ。

 ということで、生命力コントロールにて先ずは、舞姫たちの中に溜まっているアルラウネの生命力を、四本それぞれの切っ先へと集中させた。ワイヤー部分に溜まっていたものも含め、全てだ。

 そうしたらワイヤーは、危険なエネルギーの抜けたただの金属紐である。早速それをちゃっちゃと取り外すと、仕上げの準備は整った。


「それじゃイクシスさん、レラおばあちゃん。合図を出すから、発射はその後でよろしくね!」

『まだなにかするつもりなのか!?』

『っていうかもう、ミコトちゃんだけで倒せちゃいそうじゃない?』

「それは過大評価だよ。それじゃ、ちょっと見ててね」


 言うなり、私は舞姫をギュルンと回転させ始める。

 途端、エゲツないほどの風切り音が切っ先より鳴り出した。さながら切り裂かれた空気の悲鳴みたいだ。

 そこから更に、である。

 生命力コントロールを慎重に駆使し、舞姫の切っ先から生命力を排出。切っ先の僅か先にて滞留させたそれは、回転の動きに連動して輪っか状の見えざる軌跡を描き始めたのだ。

 そうして生命力の輪を纏った舞姫を、私は「えいや」とほぼ真上に位置しているアルラウネめがけて放ったのである。


 すると。

 精々幾らかの斬撃ダメージでも入ればいいなと思ったそれは、またも私の予想に背き。

 あろうことか縦一文字に、アルラウネを真下から両断したのだった。


『…………』

『…………』

「…………あ……えっと。今です。やっちゃってください!」

『あ、はい』


 そしてそこに叩きつけられるのは、イクシスさんとレラおばあちゃんによる合体技。

 超強化されたイクシスさんの聖属性スキル【グランドクロス】であった。

 迸る極光は、巨大な十字を象るらしい。けど、それを間近に見上げる私にはただの眩しくて白い光でしか無く。

 っていうかまた目を焼かれてはたまらないと、私は早々に光魔法で自らの目の周りを保護しつつ、テレポートにてイクシスさんの背後にまで移動。

 まさかスキルを行使した当人が、その渦中に巻き込まれはしないだろうという打算あってのことだったが。



「あ、やばい。ちょっと気合い入れすぎた」

「あらあら、このままだと巻き込まれちゃうわ」

「なにしてんの?!」


 というわけで、二人を伴い更に転移。

 オルカたちのいる戦場にまで飛び、そして天を突かんと聳え立ったその巨大な白十字を、皆で遠目に眺めたのだった。

 なお、勿論舞姫は奴を引き裂いた直後に回収済みである。

 今日も誤字報告痛み入ります……!

 ほんと、何でコレを見落としたんだ!? って自分に蹴りの一つでも入れたくなるような書き損じが多くてですね……本当にあたしゃ情けないよ。よよよ……。

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