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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第三四六話 得体の知れない力

 四本の舞姫は、飛翔の効果により私の意のままに宙を舞った。

 さながらファン◯ル……いや、ファ◯グが如き変則的な軌道を描いてアルラウネへと迫り、勢いそのままに奴の体内へ飛び込んだ舞姫たち。

 実体が無いとは正しくそのとおりで、体内へ潜る際にはこれと言った手応えも抵抗もなく、実にすんなりしたものだった。

 舞姫らの柄尻には、即席なれど丈夫なワイヤーをしっかりセットしてある。クラフトスキルにより専用金具を生成して、ちょっとやそっとのことじゃ外れないようにしているため、断ち切られでもしない限りはうっかりポロッと取れちゃうこともないだろう。


 舞姫を奴に刺したことで、私の握るワイヤーがアルラウネとの間に接続された。となればいよいよ、実験開始である。

 私は一つ呼吸を整え、意識を一層集中させる。そして。


「それじゃ、早速……【吸収】発動!」


 皆が皆、各々目の前の敵とバチバチにやり合っている最中、私は一際異色な戦いを静かに開始したのである。


 私の意識に呼応し、スキルシミュレーターの見せた予想図通り舞姫たちは早速アルラウネの体内より何らかのエネルギーを吸い上げ始めた。

 するとアルラウネの意識がこちらに向きかける。流石に何かしらの違和感を感じたらしい。

 が、これみよがしに隙を突くイクシスさんによって、その動きは半ば強制的に断ち切られたのだった。

 私は少しだけ背筋に冷たさを覚えながらも、意識を舞姫と、そこに繋がるワイヤーへと向け直す。


 するとすぐに、妙な感触を覚えたのである。

 舞姫自体も、それに付随するワイヤーも、装備品の一部であるならばそれは【完全装着】の効果により私の一部として扱われるものだ。

 故にこそ、爪の先、或いは髪を伝い何かが這い上がってくるような、微かなれど得体の知れない不気味な感覚を私は覚え、少しだけ恐怖した。

 その怖さはなんだろう、ストローで得体の知れない飲み物を吸い上げているような感覚に近いかも知れない。いや、飲めるのかすら不明な分、こちらのほうが余程怖いか。

 果たして私の体は、これを正常に消化できるように出来ているのだろうか? みたいな、普通に生きてる分には感じる必要のない恐怖を味わっている気分だ。

 しかし、今更止める気もなく。

 可能であればこのワイヤーを通す過程で、吸い上げているそれの加工ができれば理想的だったのだけれど、流石に付け焼き刃の術でそこまで実現するのは困難だった。

 なれば一度手元まで吸い上げてから手を加える他ないだろう。


 時間にして僅か一秒そこらか。存外吸い上げはスムーズであり、長いワイヤーをたどって『それ』は勿体ぶるでもなしに私の元へと到達したのである。

 四本のワイヤーを恐る恐る握りしめ、汗ばむ私の左手より、それはとうとう流れ込んできたのだ。

 瞬間、感じた印象は「あ、これやばいやつ」だった。


 漠然と何らかの『エネルギー』であると捉えていたそれは、しかし私の想像を絶していた。

 握ったワイヤーより流れ込んできたそれに、私は己ならざる他者の存在を強烈に感じたのだ。

 そして、理屈も抜きに理解した。

 これは『生命力』とでも言うべき何かなのだと。

 それこそHPともMPとも魔力ともつかない、もっと根源的なエネルギーのようにも感じられたそれではあったけれど、その中には雑味と言うか、思いがけない要素が多分に含まれていたのである。

 例えば感情や記憶。アルラウネの持つ悍ましいほどの敵意もそこには含まれ、それに触れただけで脳みそをぶん殴られたような衝撃と戦慄を覚えた。

 更には己とは異なる、他者の持つ独特の雰囲気、考え方、パーソナリティ。そう言ったものも併せて感じられた。

 とどのつまり、その『生命力』からは、私ではない何かが私の中に混ざり込もうとしているような、そんな気持ちの悪さを感じたのだ。

 予定ではコレを、私が利用可能なエネルギーに変換する工程へ移るはずだったが、考えが甘かった。とてもそれどころではない。


「っ!!」


 即座に、私はワイヤーを手放し、全神経を左手に向けた。

 ワイヤーを伝ってやって来たそれが、私の中に混ざり込むことを嫌ったのだ。

 とてつもない不快感。それに危機感。

 キャラクター操作の反動により随分鈍っていた頭が、まるで叩き起こされたかのように高速で回り始める。


 先ず行ったのは、私の中に混ざりかけている不純物の堰き止めだ。

 さながら、体内に侵入したバイキンへの対処を彷彿とさせるが、それで言うなら正にこれは私を殺しかねないバイキンだと。そんなふうにさえ思えた。

 私を私でなくする何か。そう思えるような不気味さがそこにはあったんだ。

 だから、なんとしても食い止めなくちゃならないと。そんな意志が強く働き、即座にその方法を紡ぎ出した。


 鍵は吸い出しを行った件の術、【吸収】。その応用にこそある。

 スキルシミュレーターをフル稼働させ、魔力のカタチをこれまでになく高速で流動させ、瞬く間にそれを探り当てた。

 即ち、生命力のコントロール方法だ。

 吸収から比較的近しい位置にある術だったからこそ、こうも素早く見つけられたのだろう。


 私はその術を駆使して体内に侵入した『生命力(仮)』を堰き止め、侵食され掛かった自身との境目には努めて丁寧に分離作業を施し、そして。


「排……出っ!!」


 左手をアルラウネへ向け、思い切り奴の生命力を叩き返してやったのである。

 かざした手の平に生じたのは、気配の塊。色があるわけでも、形があるわけでも、光っているわけでもなく。

 ただ何かがそこに溜まっているという確信だけがあり、私は己の中からそれが抜け出て、手の平に集まったことを確信した。

 故に、生命力のコントロールを用いてそれを弾丸のように放ったのだ。


 必死だった。こんなに必死になったのは何時以来だろうか。正に肝を冷やした。

 おいそれと手を出してはいけないものだと感じた。

 そして、それを無事排出できたことに凄まじい安堵と脱力を覚えてもいた。


 だから、撃ち出した生命力が如何な結果を齎したかなんて、気づかなかったんだ。

 イクシスさんの声が、通話先から聞こえてくるまでは。


『え……ミ、ミコトちゃん……今、何をしたんだ……?』

「……?」


 荒い呼吸を整えながら、私はその言葉に顔を上げ、そして見た。

 そこには相変わらず、実体のないアルラウネの巨体があり。

 しかし。

 その背の真ん中あたりに、ポッカリとした大穴が空いていたのだ。

 その穴は塞がるでもなく、そも再生の兆しすら見せぬままに向こうの夜空を覗かせ続けている。

 イクシスさんの放つ聖光は、確かにアルラウネへ痛痒を与え続けてはいたけれど。しかしその傷は都度修復され、奴を倒し切るには相応の時間がかかるものと。私もイクシスさんもレラおばあちゃんも、何なら当のアルラウネですら理解していたはずである。

 それがどうだ。

 その胸には、痛々しい大穴が口を空けており、もしあれが人であったなら即死は免れ得ないような重症を負っているではないか。


 途端、アルラウネが悶絶し始める。

 胸の穴を両手で押さえ、絶叫し始めたのである。

 が、これみよがしにイクシスさんは攻撃を浴びせかけ、容赦する気配すら見せない。鬼畜の所業とはこのことか。

 そんな様を、私は酷く疲弊して回らぬ頭、こころなしかぼんやりとした視界で捉え、首を傾げた。


「私が……なにかしたの?」


 その様に問うてみれば、今もノリノリで聖魔法による極太純白ビームをレラおばあちゃんと協力しながらアルラウネへ浴びせ続けるイクシスさんが、しかし困惑げな声音で言うのだ。


『むしろ何をしたのかは、私が訊きたいんだが?!』

「あ、舞姫呼び戻さないと」

『マイペースだな!』


 イクシスさんが何を言ってるのか、今の回らない頭じゃ上手く理解できないらしい。

 私は一先ずアルラウネの体内へ送り込んだままの舞姫四本を、それぞれ手元へと呼び戻した。

 すると、である。

 未だ胸を押さえて悶え苦しむ厄災級アルラウネだったが、しかし不意にその目がキッと、背後に居た私を捉え睨みつけたのである。

 イクシスさんによる攻撃も無視し、その目は恨みや怨念、執念めいた色で分厚く塗り潰されているようだった。

 言わずとも心眼のせいか分かってしまう。「お前だけは許さない」と。


 直後、奴から放たれるのは凄まじい魔法の集中砲火である。

 視界いっぱいに広がる死の予兆。しかしぼんやりした私の頭はそれを「花火みたいで綺麗だなぁ」だなんて捉える有様。


 それは、誰が声を発する間もない一瞬の出来事だった。

 厄災級の放った悍ましき魔法の弾幕は、一点めがけて執拗に叩き込まれ。

 尚もダメ押しとばかりにアルラウネは攻撃を繰り返したのである。

 遅れて、イクシスさんとレラおばあちゃんが叫んだ。


『『ミコトちゃんっ!!』』


 呼ばれたので、返事をする。


「え、なに?」

『『!?』』


 私が居たのは、二人の後方に当たる場所。

 移動手段はテレポートだ。無論、無傷である。


 すると、イクシスさんの切羽詰まった声に反応した通話向こうの面々が、一斉に大騒ぎ。

 通話上は一時騒然となったので、申し訳なく思いつつも今は目の前の戦況に集中するべく、一言断ってからそれをオフにしておいた。

 アルラウネは今も怒りが収まらぬのか、私の居た位置めがけて死体蹴りが如く魔法を浴びせかけ続けている。

 そんな奴を他所に、ぽかんと口を空けて驚いているのはレラおばあちゃんだ。イクシスさんは状況をすぐに呑み込んで、安堵とも呆れともつかない溜息を一つこぼすのみだったが。


『え、ど、どうしてそこに……ぁ、あらあらら?!』

『おばあちゃん、ミコトちゃんは転移系のスキル持ちなんだ。それで移動してきたんだよ』

『え、ええ……??』


 困惑するレラおばあちゃん。

 ともあれ、奴がヒステリックを起こし、こちらに背を向けている今は大チャンスである。


『詳しい説明は後だ。おばあちゃん、一気に決めに掛かるぞ!』

『! ええ、そうね!』


 そうして、イクシスさんたちはさらなる大技の準備に取り掛かったのだった。

 ぐ、ぐぎぎ……誤字報告、感謝です……。

 定休日を挟んだら過去最多……今から適用作業してきます! 本当にありがとう!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 話のテンポが面白すぎてずっと読み続けちゃいました… 毎回、強敵とのバトルでシリアスになるものの、ミコトの解決が斜め上で… シリアスが一気にギャグにw シリアスになりすぎずとても楽しいです …
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