表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

342/1718

第三四二話 さらなる異変

 隔離障壁に、またも罅が入った。

 苦い顔をしてそう告げるイクシスさんの言に、私は勿論、通話で彼女の声を聞いていたメンバー全員にも緊張が走る。

 この期に及んでまだ何かあるのかと、皆が身構えたその時である。


「あらあらら、やっぱりイクシスちゃんじゃない。お久しぶりねぇ」


 と、張り詰めた空気をたゆんたゆんにしてしまいそうな、のんびりとした声が頭上より降ってきたのである。

 見上げればそこには、いつの間にか近づいて来ていた魔女さん。

 イクシスさんたちの知り合いで、レラおばあちゃんというらしいその人。『祝福の魔女』だなんて二つ名があるらしいけど、詳細はよく知らない。

 そんな彼女はふわりとイクシスさんの傍らに着地すると、右手で長杖を突き、左手は後ろに回して腰に添え。ザ・おばあちゃん! というようなポーズでニッコリ微笑んだのである。

 なんと言うか、服装にそぐわずゆるいオーラを放つ人だ。


「レラおばあちゃん! 有り難い、来てくれたのだな!」

「ヒヒッ。イクシスちゃんが困ってるなら、おばあちゃんはどこへだって駆けつけちゃうわよ」

「何年経っても、おばあちゃんにだけは頭が上がらないな」

「あらあら、そんなことないわよ。イクシスちゃんだってとっても立派になったわ。最初に出会った頃なんて、それはもうとってもお転婆さんで」

「は、恥ずかしいから、その話は止してくれ! それよりもだな、今はっ」

「ところでイクシスちゃん、この可愛らしい子はどなた?」

「相変わらずマイペースだな!」


 イクシスさんがあたふたしている。頭が上がらないというのは、どうやら本当のようだ。

 そしてそのレラおばあちゃんは、ひょいと私に視線をやると可愛らしく小首をかしげてみせる。

 イクシスさんは隔離障壁の方を気にしつつも、困り顔で私のことを簡単に紹介してくれた。


「この娘はミコトちゃんだ。うちの娘とPTを組んでて、私の友人であり良き協力者でもある」

「あ、どうもはじめまして。ミコトです。新米冒険者です」

「そう、ミコトちゃんっていうのね。おばあちゃんはレラハトラっていうのよ。みんなからはレラおばあちゃんって呼ばれてるわ。ミコトちゃんもぜひそう呼んでちょうだいね? 親しみを込める感じで、あ、敬語なんかもいらないわ」

「あ、うん。レラおばあちゃん」

「素直で良い子! おばあちゃん気に入っちゃった!」


 ニッコリと嬉しそうに微笑むレラおばあちゃん。和んでる場合じゃないのに、和んじゃうんですけど!

 と、そんなレラおばあちゃんが不意にひょんな事を問うてくる。


「ところでミコトちゃん」

「な、なに?」

「あなた……人間?」

「え」


 そう言ってまた首を傾げてみせるレラおばあちゃん。

 私はその不思議な質問に、何故か言葉が詰まってしまった。


「えっと……それはどういう……?」

「ヒヒッ、ごめんなさいね。おばあちゃんったらおかしなことを聞いちゃったわね」


 その様に笑って問を取り下げたおばあちゃん。

 心眼に映るその心からは、特に裏があるでもなく、純粋で素朴なただの疑問から出た問い掛けであったことが伺えたけれど、よもや初対面の人に人間かと問われるなんて。

 ……そう言えば、イクシスさんにも以前似たようなことを言われた気がしないでもないけど。

 仮面のせいなのか何なのか、私ってそんなにぱっと見人外に見えたりするんだろうか?

 まぁ顔を隠しているのだから、仮面の下からひょっこりモンスターの顔が現れたとしても、初対面の人にとっては決して無いとも言い切れない話、ということなのかも知れないが。

 だからって、あなたは人間ですかと問われるのは、如何にも不思議な気分ではあるのだけれど。

 それこそ、とっさに返事が出来ないくらいには。


「話の途中で悪いのだが、二人とも警戒してくれ。隔離障壁の罅が広がっている。このままではそうもたずして、中から出てくるぞ!」

「出てくるって、まさか?!」

「ああ。おそらく……厄災級アルラウネだ」


 イクシスさんの返しに、少しだけ驚いた様子を見せるレラおばあちゃん。

 しかしようやっとその表情には真剣味も加わり。


「やっぱり、厄災級なのね」

「ああ、間違いない。なにせ明らかに普通のモンスターが持ち得る力の範疇を超えているからな」

「ダンジョンまで出現させたりね」

「ダンジョン?」


 そう首をかしげるレラおばあちゃんには、手短にこれまでの経緯を語って聞かせた。

 すると彼女は酷く申し訳無さそうに眉尻を下げる。


「あらあらら、おばあちゃんったら大分出遅れてしまったようね。イクシスちゃんもみんなも、さぞ大変だったでしょう」

「いや、気にしないでくれ。こうして駆けつけてくれただけでも、とても心強い……というか、先程はレラおばあちゃんのバフに救われたんだ」

「そうだね。後一瞬バフが遅かったら、隔離障壁は破られてただろうし、そうしたら私はイクシスさんを連れて逃げてたもん。結果大惨事は免れなかったと思う」

「そうなの? イクシスちゃんを連れて逃げるだなんて、ミコトちゃんは足が速いのねぇ」


 天然なのか、レラおばあちゃんの食いつく場所はちょくちょく予想外の所で、説明のテンポが乱されがちだ。

 それでもイクシスさんの軌道修正により、どうにかレラおばあちゃんも現状を概ね把握できたようで。


「つまり、障壁の中から厄災級のアルラウネが出てこようとしてるってことね?」

「ああ。内側から障壁を殴りつけられているような、凄まじい圧力を感じる」

「レラおばあちゃんのバフで強化されてるイクシスさんの隔離障壁が壊されかけるなんて……一体壁の中で何が起こってるんだ……?!」

「眩しくて何も見えないわねぇ」

「! いや、光が徐々に引いているようだ。やがて様子も見えてくるぞ」


 イクシスさんの言うとおり、ここに来てようやっと凶悪なほどの光量は勢いを衰えさせ、少しずつ真っ白だった遮光壁の向こうが顕になってきた。

 一層目を凝らしながら、光が収まるのも待ち遠しいと私たちがその様を眺めるさなか、ようやっと見えてきたのは未だ健在である私の隔離障壁と、その内側で確かに罅割れを起こしているイクシスさんの障壁。

 さながら雛が卵を内から割ろうとしているように、イクシスさんの障壁には少しずつ罅が広がっているようで。


「段々力が大きくなっているようだ。先程までの、爆発を封じ込めている手応えは鳴りを潜めたが、代わりに得体の知れない何かが暴れている感じがあるな」

「まるで障壁が卵みたいね。あの中で育っているのかしら?」

「ゲートを開いて直接攻撃してみる?」

「いや、逆にゲートを通って抜け出てくる恐れがある。それならばいっそ、今のうちに隔離障壁を解除し、一気に先制攻撃を叩き込んだほうがまだ良いだろうな」


 なんて具合に、アプローチの段取りを決めていた、その時だった。

 不意に通話向こうから、切迫した声が届いたのである。


『な、何パワ?! 花巨人がなんかおかしいパワ!』

『勝手に燃え始めましたよ!』

『心臓の辺りを中心に燃え広がっているようだな』

『心臓って言うと、種の位置ね。何よ、また変化しようっていうの!?』

『とにかく攻撃を仕掛けてみる』


 どうやら、弱っていたらしい花巨人たちに再び別の変化が見られたようだ。

 種が燃える、か。

 それはさながら、障壁を卵に見立てて変貌を遂げようとしている、アルラウネに呼応しているようではないか。

 私たちは不吉な予感を覚え、早急に行動を起こすのだった。



 ★



 ミコトたちが障壁へのアプローチを画策している頃、オルカは突如新たな変化を見せ始めた花巨人へ攻撃を仕掛けていた。

 彼女の愛用武器である黒苦無には二つの特殊な能力がある。

 一つは変形。もう一つが増殖だ。

 彼女は手元に一本苦無を生み出すなり、手っ取り早くそれを投擲してみた。

 鋭く投げられた苦無は、飛来するさなかに於いて空気抵抗を極限まですり減らした流体型のツルンとした槍へ変じ、夜の闇を引き裂いて突き進んだ。

 そうして狙い過たず、一四メートル先の花巨人。その心臓部を深く穿ったのである。オルカによる投擲スキルの補正があればこそ、枯れ掛けとは言え花巨人の分厚く厄介な繊維を裂いて突き刺さったわけだが。

 さりとて、オルカは未だ顔を覆う仮面の下で眉を顰めていた。手応えに違和感を感じたためだ。


「手応えが薄い……核を穿ったのに爆発もしない」

『なんだと……?!』

『殴ってみた感触も、何だか変です! こう、芯が抜けたような……』

『っていうかこの炎、本当に炎なの? 確かに燃えてるみたいだけど、焼けてる感じはしなくない?』

『言われてみると、そうですね。奴の体が火に強いだけかと思いましたが、それ以前に煙が上がっていないのはおかしい』

『あの火が特別な何かだということでしょうか』

『いいわ、試しに水をぶっかけてみる』


 通話越しにリリエリリエラの声がそのように述べた少しあと。

 オルカから見て数百メートル先に、派手な津波が花巨人数体を押し流すさまが見て取れた。

 遅れて派手な水音が彼女の耳にも届き、その無駄に豪快なやり口に小さく呆れるオルカ。

 案の定通話上では。


『リリエラ、それはぶっかけるどころの話ではありません』

『加減って言葉を何処に置いてきちゃったのリリエラちゃん!』

『いや、分かるぞ。キャラクター操作の影響で、感覚がバカになっているんだ。私にも経験がある』

『あの全能感は病みつきになりますからね。仕方のないことです』

『う、うるさいわね! ちょっと手元が狂っただけよ!』

「それより結果を教えて」

『う。ええと……確かに、水浸しになっても消える様子がないわね』

『そうなるとやっぱり、ただの火じゃないってことですか……』


 と、皆で即席の検証を行っていると。

 そんな彼女たちの目の前で、さらなる異変が起こったのである。


 ほんの一瞬、ボッと強く花巨人が燃え上がったかと思えば、その直後。

 ズルリと巨人の体から唐突に、炎だけが抜け出し宙に浮かんでみせたのである。

 それと同様の現象が、未だ核の無事な花巨人たち全てに等しく生じた。

 その異様な光景に、誰もが一時言葉を失ったのだった。

 誤字報告感謝です。しっかり適応させていただいております!

 ありがたやぁ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ