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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第三四〇話 祝福

 クラウが剣を振るう。

 肉体には着実に疲労が蓄積し、心は摩耗し。

 感情任せに振り下ろした聖剣が描く弧には乱れすら見て取れた。同時に放たれる聖光も荒々しく、無駄が多い。

 もはや彼女が本来発揮できる力の内、何割が十全に機能しているかという程度の雑な一振りだ。


 だというのに。

 次の瞬間、目の前に迫る花巨人たちの群れが……一斉に消し飛んだのである。


「な……っ?!」


 他の誰かが横から攻撃を仕掛けたわけでもなく。はたまた花巨人が自滅したというわけでもない。

 それは間違いなく彼女の手により成された、しかし思いがけないような成果だった。

 クラウは不思議と体から湧き出る力に、握る聖剣の軽さに、目を見開き驚いていた。

 しかしそれは同時に、デメリットをも招く。


 花巨人を考えなしに屠ればどうなるか。彼女はこの場の誰より先に、それをその身で体験したのだ。

 否応なしに体は反応し、考えるより先に盾を構えていた。背後にいる傷ついた戦士たちを守るために。

 さりとて今の一撃で屠れてしまった花巨人の数は、驚くべきことに五体にも及び、それだけの爆発が襲い掛かってくると考えれば無傷では済むはずもない。

 しっかりとした防御スキルを発動するだけの暇もなく、案の定既に爆風の波は目前にまで迫ってきていた。ほんの刹那の出来事である。


 クラウは歯を食いしばり、せめて傷つくのは自分だけであるようにと出の早い防御範囲を拡張するスキルを使用した。名を【拡護】という。

 途端彼女を中心に、見えざる壁が出現。そこに触れたあまねく攻撃は、全てクラウの持つ盾に当たったものとして判定された。

 結果、彼女には凄まじいダメージが集中する。

 少なくとも普段のクラウであったなら、決して耐え切れるようなものではなかったはずだが。


 しかし蓋を開けてみればどうだ。

 ビリビリと、手が痺れるような感覚はあった。それだけ盾越しに受けた衝撃が大きかったのだから当然のことだ。

 けれど、たったそれだけでもあった。

 撒き起こった爆炎と土煙のさなかにあって、クラウはともすれば驚きに棒立ちを晒しそうなほど、ただ困惑を強いられていた。


「無傷……だと?!」


 彼女は自らの身体を確かめ、背後に庇った者らも……巻き起こった土煙でよく見えないが、どうやら問題無さそうだと認める。

 故にこそ驚いた。そして同時に眉をひそめた。

 一体、何が起こっているのだと。自分の身に、一体何が起こったのだと。


 だが、そんな驚きも束の間。

 突如、分厚く立ち上る爆煙の壁を真っ白に染め上げる強烈な光が、戦場の全てを刺すように照らしたのだ。

 その異変に、クラウはぞわりと悪寒を覚えた。背筋に冷水を浴びせられたような、強烈な予感。

 またも反射的に、彼女は背後の彼らを庇うようにして盾を構えた。煙を白く染めた光、その光源へ向けて。

 とてつもない衝撃がやってくるという、そんな確信めいた予感に突き動かされたのだ。


 そして。


 たっぷり一〇秒ほどが経過したが、何もなかった。

 いや、異変自体は確実に起きていたのだ。

 白の光は未だ健在で、眩しく辺り一帯を照らし、対象的に黒いインクでも垂らしたかのように影の色は濃い。

 だが、それだけとも言える。

 あまりに不可解な状況に、クラウは情報を求めた。盾を構えたまま彼女は恐る恐るマップを確認し、通話へ耳を澄ませてみる。

 するとどうしたことだろう。マップ上に生じた変化は、彼女を余計混乱させるものであった。

 次々に、花巨人たちの反応が消失しているのだ。

 一方で通話先からは。


『この光は何?! ミコト、無事?!』

『光源は勇者様方が交戦なさっている地点のようです!』

『ミコト様! 返事をしてください! ミコト様!!』

『ってか何だろうこれ、力が漲ってくるんだけど』


 という皆の慌てたような声が聞こえてきた。

 辺りの様子は未だに立ち込める煙のせいでろくに見えず、マップでは花巨人たちの反応が次々に消え、通話からはミコトの……延いては母親である勇者イクシスや、サラステラ、リリエリリエラらの安否が不明であること。

 そして、自分以外にも力が漲ってくる感覚を覚えている者があることなど。

 精査に難儀しそうな事柄が、唐突に幾つも浮上していることが分かった。


「一体、何が起きていると言うんだ……母上たちは無事なのか? くそ、とりあえずこの煙が邪魔だな」


 言うなり、クラウは剣を横に一薙ぎ。

 すると剣圧だけで、もうもうと立ち上った分厚い爆炎を散らしてしまったではないか。

 やはり普段よりずっと大きな力を出せると、確証を覚えながら彼女は早速周囲へぐるりと視線を巡らせてみた。

 結果、クラウは大きく目を剥くこととなる。


 一応、予想はあったのだ。

 漲る力の出どころは不明なれど、あの閃光は明らかにアルラウネとイクシスたちの戦闘により生じた何かであり、何らかの決着を予感させるものだった。

 そして次々に消える花巨人の反応。

 これらの事柄から、もしかして厄災級アルラウネは討たれたのではないかと。

 だから、彼のモンスターに使役されている花巨人たちも、それに連なり次々に倒れていっているんじゃないかと。

 それがクラウの予想だった。


 ところが爆炎を払い散らし、実際戦場を見渡してみれば、どうしたことだろうか。

 まるで思いがけない光景がそこにあったのである。


「ど、どうなっているんだ、これは……!?」


 そこには、劣勢を極めていた戦士たちが息を吹き返し、次々に花巨人を屠っていく姿があった。

 逆に花巨人たちには明らかな弱体化の様子が見て取れ、厄介な頭の花もしおれ、枯れかけてすらいる。

 形勢逆転。正しくその一言に尽きるような、そんな有様が目の前の戦場には広がっていたのだ。


 すると不意に、クラウの背後より声がかかった。

 彼女が必死に護り戦った、傷を負った戦士たちである。

 つい先程まで、心身ともにボロボロで、自ら立ち上がる気力すら無かった彼ら。

 しかし今はどうだ。その瞳に確かな強い意志を宿し、クラウへ懇願するのだ。


「散々護って貰っておいてなんだが、あんた回復薬を持っちゃいないだろうか? スキルでも良い、今すぐ傷を治癒したいんだ!」

「力が、体の、心の底から湧いてくるみたいだ! こうしちゃいられない、俺たちも戦いたいんだよ!」

「だから頼む、もし薬が余ってるのなら分けてくれ! 必ず礼はするから!!」


 その言を聞いて、一つの考えが浮かぶクラウ。

 自身に生じた、このどこからともなく湧き上がる力はもしかして、この戦場にある人々皆に等しく起きたものだったのではないかと。

 だとするなら、彼らが今感じているであろう力の漲る感覚も、湧き上がるような高揚感も、クラウにとっては共感できるものであった。

 だからこそ彼女は一つ頷き、腰に下げたポーチから取り出すふりをして、ストレージより回復薬をたっぷり手元へ呼び出した。

 そうして彼らにそれを託したのだ。


「これを使ってくれ。余った分は、他で倒れている同胞にでも分けてやると良い」

「! こ、こんなにどこから……いや、恩に着る!」

「ありがてぇ、これでまた戦える!!」

「しこたま痛めつけてくれた分、しっかり返さねぇとな!!」


 そう言って彼らは早速回復薬を使用し、大雑把に傷を癒やすと、勇んでそこら辺の花巨人へ向かって突撃していったのである。

 回復薬と言っても、部位欠損級の大怪我を癒せるほどの品を与えたわけでもなし、精々折れた骨がくっついたり、ぱっくり開いた傷が塞がった程度だ。本来なら絶対安静の状態だろうに、一体あの溌剌さはどうしたものか。

 甚だ疑問には感じつつも、クラウとて呆けているわけには行かない。

 彼女は彼女で今己がやるべきことへ思いを馳せ、思考を巡らせ、そして直ちに行動に移った。

 状況は移ろおうとも、一先ず花巨人の殲滅に注力する。

 幸い幾らかの余裕は出来たため、情報も逐次集めながら臨機応変に動くことを念頭に、彼女もまた漲る力で弱った花巨人たちを蹴散らしに掛かったのである。



 ★



 死ぬかと思った。

 というか走馬灯が見えた。

 それでも、私はまだしぶとく生きているらしい。

 何が起きたのかは、正直良く分かっていない。とりあえず把握できてるのは、イクシスさんとサラステラさんの過剰とも思えるような必殺技を隔離障壁内に撃ち込んだら、あまりの威力に障壁が内側から崩壊しかけて、どうにかそれを抑え込もうと踏ん張っているところに……。


 厄災級アルラウネが、とうとう爆発したんだ。

 本当ならそれを許す間もなく消し飛ばす気で、イクシスさんたちはあんな強力な攻撃を打ち込んだのだろうけれど、結果として奴は最後の一踏ん張りを見せてしまった。

 過剰にも思えたイクシスさんたちの攻撃にほんの一瞬だけ抗い、その隙に見事自らを起爆し、そして。


 ええと、そして……?


「……あれ、なんで────隔離障壁が無事なの……?」

「パワァ、眩しくて何も見えんパワァ!」

「いやだが、この湧き上がる力は……まさか!?」


 そう。アルラウネの大爆発に伴い発生したあまりに強烈な光は、辺り一帯を白光にて塗り潰してしまうほどだった。

 そんな爆発を抑え込んだ隔離障壁から遠からぬ場所にいる私たちは、そのあまりの光量に視界を覆われてしまったわけだ。障壁は光を遮ってはくれないらしい。

 っていうか、今イクシスさんとサラステラさんの声がした。どうやら二人は無事なようだ。

 未だ白一色に塗りつぶされた世界の中、私が内心で小さく安堵していると。


『とりあえずこの眩しいのをなんとかしなさいよ。っていうか私の目ダメになってるんじゃないのコレ?!』

『一応光魔法で目は保護しておいたから、失明なんてことにはなってないと思うけど』


 リリも健在なようで何より。未だキャラクター操作による融合は継続中なのである。

 しかし眩しすぎるというのは正に目に毒だ。一先ず隔離障壁は変わらず維持したまま、私は目の前に光魔法で大きな壁を生み出した。高さにして五メートル。幅は長めに二〇メートルほど確保してある。過度な光をシャットアウトしてくれる、光除けの魔法だ。野外でお昼寝するときなどに頭上へ展開しておくと快適なのだ。

 するとようやく視界も晴れ、壁よりこちら側の様子は当たり前に確認することが出来るようになった。

 改めてイクシスさんたちの姿を探し見つけてみれば、やはり五体満足の彼女らがそこにはあった。流石に厄災級と正面から殴り合っていたため、衣服には破れやほつれが所々見えるものの、目立って大きな怪我などは特に無いようで。


「イクシスさん、一体何が起きたの? イマイチ状況が掴めないんだけど……アルラウネが爆発して、流石に詰んだと思ったんだけど」

「おお、ミコトちゃん! そちらも無事だったか。流石の私も障壁を砕かれてかなり焦ったのだがな……今は持ち直している」

「?! あ、あの状態から障壁を修復して爆発を抑え込んだ……ってこと!?」

「いやいや、いくら先輩でも流石に不可能パワ。だけど、不可能を可能にするのが勇者パワ!」

「?? ええと、つまり……??」


 いまいち要領を得ないサラステラさんの言に私が首を傾げていると、そこへ通話のコールが脳内で鳴った。状況の切迫に伴い、いつの間にかリンクが切れてしまっていたらしい。

 離れた皆の目にもこの光は見えただろうし、マップじゃ正確な情報までは掴めない。ゆえに私たちの安否が気掛かりなのだろう。

 急ぎ無事であることを彼女らに伝えるべく、私は早速コールに応えようとした。

 が、丁度その時だった。


「パワ! 先輩あれ!」

「ああ、やはりそうか……!!」


 そう言ってイクシスさんたちが、空の一点を注視していることに気づいたのは。

 何事だろうかと、つられるようにそちらへ視線を向けてみると。


 そこには、歪な長杖に腰掛け、空をふよふよと浮遊している魔女の姿があったのだ。

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