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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第三三七話 モンスターの心

「あ、スキル欄に追加されてる」


 アルラウネにスペースゲートを仕掛けながらも、イクシスさんの【隔離障壁】を新たに習得するという無茶な挑戦を見事成功させた私。

 早速ステータスウィンドウのスキル欄を確認してみると、そこには確かに隔離障壁の名前が追加されていたのだった。

 このことから、勇者のスキルと言えど妖精やハイエルフの術のように特殊なものではないのだということが分かる。

 スキル欄に名前が載っているということは、発動を念じるだけで何時でも何処でも何度でも、MPさえ足りていれば即時発動が可能ということでもある。

 特殊なスキルは念じるだけでなく、いちいち魔力調律が必要になるため、慣れないと大変なのだ。

 その点今回は苦労がなくて有り難い。

 そうして、私が小さく感慨に耽っていると、しかし状況はそんな猶予など許してはくれず。

 早速イクシスさんが次のフェイズを促してくる。


「よし、体よくミコトちゃんが隔離障壁を覚えてくれたので、次は奴をどう起爆させ、どう封じ込めるかについてだな」


 提示された議題は、とどのつまり厄災級アルラウネの仕留め方を問うものだった。

 まだ確証こそ無いものの、状況証拠的に、第三形態へ至った奴はとんでもない自爆技を持っている可能性が高いのだ。

 花巨人の持つ種がエゲツない爆弾であることや、第三形態となり、不利な状況下でわざわざ奴が私達の前に登場したことなどから、奴自身が巨大アルラウネにとっての種のような役割を持っているのではないか、と推察したわけである。


 もしもこの考えが正しいとしたら、恐らく花巨人などとは比較にもならない大爆発を引き起こすことだろう。

 イクシスさんと私の隔離障壁は、それを封じ込めるために用いる手筈なのだが。


「起爆ね……攻撃を加えれば爆発するのかしら?」

「自爆式とも考えられるぞ。こう、狙ったターゲットにガシッとしがみついて」


 サイ◯イマンか! ヤム◯ャしちゃうのか!

 っと、いけない。こんなこと言っても異世界で通じるわけがないのだ。

 喉まで出掛かったツッコミをどうにか飲み込み、冷静に考えてみる。

 確かにわざわざ私たちの前に現れたということは、そういう狙いがあった可能性は否定できないか。


「或いは、普通に戦闘もするつもりだったのかもね。死に際に油断させておいてドカン、みたいな狙いがあったのかも」

「そう言えばミコトちゃんは、モンスターの心も例の『狭く深い心眼』で読めたりするパワ?」

「! 言われてみたら確かに、試したことなかった」


 私の持つ【心眼】のスキルには、二つの使い方がある。

 一つは『広く浅い心眼』。文字通り、広い範囲に機能するけれど心を深く読み取ることは出来ない、他者の漠然とした意識を感知するモードだ。

 そしてもう一つが『狭く深い心眼』。対象を限定することで、ハッキリと心の声まで聞こえてしまうようなプライバシーガードクラッシャーである。

 それ故に、私が普段遣いしているのは『広く浅い』であり、『狭く深い』は滅多なことでは使わないようにしていた。

 だって心の声なんて、そう安々と聞くようなものではないだろう。自分がされて嫌なことは、他者に対し遠慮するべき行為なんだ。

 まぁそれでも、どうしても必要だと感じた時は使ったりするんだけどね。折角ある能力なのだし。


 そして今現在は正に、そんな『狭く深い』の出番なのかも知れない。

 ただ、モンスター相手っていうのは正直怖くもある。

 モンスターの心の声を聞くとか、ハッキリ言って趣味のいい話ではないだろう。

 何せ人とモンスターなんていうのは、顔を合わせれば殺し合うような関係だ。

 そんな相手の心の声を聞いて、どうしようって言うのか。

 今回は状況が特殊だから例外だとしても、そこいらのモンスター相手に試そうとはちょっと思えなかった。それが、今までモンスター相手に『狭く深い』を実行してこなかった理由なのだけれど。


「でももし無限の怨嗟とか聞こえてきたら、下手すると正気を失いかねないかも……」

「なるほど、無いとは言えない話か」

「奴は現状、それだけ追い詰められてもいるわけだしね」

「た、確かにそうぱわ……我ながら配慮が足りなかったパワ」


 そう言えばと、以前のことを思い出す。

 私はかつて、意思疎通の可能なモンスターと遭遇したことがあった。

 黒鬼や白九尾なんかがそうだ。特に黒鬼は言葉まで通じる、珍しいモンスターだった。

 力の強いモンスターの中にはああいう、人の言葉を操るものもいるらしいけれど、考えてみたら黒鬼を除いて今までそういう類の手合には遭遇したことがなかったっけ。

 だけど、厄災級ともなれば意思疎通が出来る可能性は決して低くないようにも思える。

 だとすると、『狭く深い』は思いの外良い試みかも……。


「うん……よし。やっぱり試してみることにする!」

「! だ、大丈夫なのか?」

「それは試してみないことには分かんないよ」

「あんたね……」

「脳筋パワ」

「違うから!」


 脳筋代表のような人に認定を貰っては、いよいよ私もそっち側になってしまうじゃないか。

 私はよからぬ称号をすかさず返上しつつ、話を元に戻した。


「それで具体的な段取りはどうする?」

「そうだな……先ずは情報が欲しい。奴の狙いが分かれば、対抗策の用意も出来るだろう」

「了解。それじゃ早速心眼の出番だね……!」

「む、無理しちゃダメパワ。精神攻撃は恐ろしいものパワ!」

『そういう事ならばミコト様、キャラクター操作を併用すると良いと思います! 融合時ならば精神も二人分ですから!』

「おお、なるほど!」


 私たちの話し合いは、この状況下ということもあり通話を介して仲間たちにも共有されている。

 そのため時々通話向こうより茶々を挟んでくる声もあるのだけれど。

 しかし今回は有用な意見をもらえた。流石ココロちゃんである。

 彼女は、それこそ鬼の一件で精神的にしんどい局面を、キャラクター操作により乗り切った経験があるのだ。その時のことを踏まえての意見なのだろう。

 ということで、私は傍らでさっきからMP回復薬をがぶ飲みし続けているリリに視線をやった。


「ふぅ、どうやらまた私の出番みたいね!」

「リリが一緒なら心強いよ」

「! あ、当たり前よ。私を誰だと思ってるの! 百剣千魔は伊達じゃないんだから!」

『リリエラちゃん、今はそれ関係ないと思うよ』

「うっさいわね!」


 アグネムちゃんのツッコミを一蹴し、鼻息も荒く準備万端の構えを見せるリリ。

 私は一つ頷きで返すと、イクシスさんに視線をやった。


「では二人とも、よろしく頼む!」


 イクシスさんの声を合図に、私は再びリリへキャラクター操作のスキルを行使。

 直後、私の意識は再度彼女の中で目覚めたのだった。


「よし、成功だね。それじゃ早速やるよ」

『ちょ、ちょっとドキドキするわね。モンスターとは言え他人の心を覗くだなんて』


 リリのツンデレは一種のコミュ障から来るものだ。しかし融合している現在、リリと私は精神からして同じ体の内に存在しているため、普段よりダイレクトに本音の部分が見えたりする。

 たとえ相手が厄災級アルラウネと言えど、普段他者との距離感を上手く測れない彼女としては、心眼で他者の心を覗くというこの機会に高揚とも緊張とも付かない気持ちを覚えているようだった。

 とは言え事前の話に出たとおり、モンスターの心だなんていうのは未知数な部分が多く、それに件の黒鬼とやり合った際に話に出た、人に向けての『攻撃衝動』ってものもあるらしい。

 下手を打てばもしかすると、その影響を受けてしまう恐れがある。気を引き締めて掛からねばなるまい。


「リリ、油断しないようにね」

『! わ、分かってるわよ! 集中、集中……』


 些か浮足立っている自覚があったのか、努めて気持ちを落ち着かせに掛かったリリ。

 それを認めるなり、私は上空で落下を繰り返しているアルラウネを改めて注視した。

 そしてゆっくりと、意識を集中していく。

 心眼の対象を、徐々に奴へ絞っていく。


 すると……。


『……ムカツク……コロス! アリエナイ! ナニコレ……コロス殺スコロス! バクハツ!! ……ユルサナイ……ゼッタイ……ナンデ! ワケガワカラナイ! ……コロス……オナカスイタ……ムカツク……!!』


 見えてきたのは、強烈で、しかし混沌としたアルラウネの思考と感情の嵐。

 そして何より、濃厚なドス黒い衝動だった。


「っ!!」

『ぐ、何よ、これっ!?』


 時間にしてほんの一秒か二秒か。

 私はすぐさま心眼を『広く浅い』に切り替え、大きく頭を振った。

 すると、心配したイクシスさんたちが声を掛けてくる。


「ミコトちゃん?!」

「だ、大丈夫パワ?!」

「う……ん、なんとか。気分は良くないけど」


 どうにか二人に問題ないことをアピールしながら、私は胸の内に感じるこのドロドロとした余韻に、またもあの時の一件を思い出していた。

 ココロちゃんの中で感じた、鬼。奴の放つ強烈な攻撃衝動、または破壊衝動。

 なるほどモンスターというのは、きっとそういったものに取り憑かれ暴れているのだろう。

 それを今一度思い知った気分だ。


 とは言え、今の一瞬で聞こえた声も確かにあった。

 具体的な狙いこそ見えなかったけれど、逆に『ハッキリとした段取りの不在』を確信出来たとも言える。

 そして大まかな狙いも見えた。

 なれば後は、いよいよ詰めに掛かるのみである。

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